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めっき工程の品質トラブルを防ぐ未然防止と改善ノウハウ

目次
はじめに:めっき工程が抱える品質トラブルの本質
めっき工程は、製造業において付加価値を高める重要なプロセスの一つです。
製品の耐食性や美観、機能性向上を担保するために、めっきの品質は常に高いレベルが求められます。
しかし、現場ではピンホール、ムラ、膨れ、密着不良などさまざまな品質トラブルが発生しがちです。
特に昭和から続くアナログな管理体制や属人的なノウハウ依存、設備の老朽化が根強く残る業界では、対症療法的な「場当たり現場対応」が日常茶飯事になりがちです。
本記事では、めっき工程の品質トラブルを根本から未然防止するための知恵と、再発防止も含めた改善ノウハウを現場目線で徹底解説します。
現場でよくあるめっき工程の品質トラブルとその特徴
ピンホール・ブリスター(膨れ)
ピンホールとは、めっき皮膜に微小な穴があいてしまう現象です。
この原因は、前処理工程での脱脂不足や表面不純物の残留によるものが大半です。
また、ブリスターも、基材表面の不完全な処理や洗浄工程の不備、めっき液中の有機物汚染などが主な要因となります。
密着不良・剥がれ
密着不良は、主に化学的または物理的な下地処理の不備が起因します。
さらに、めっき電流の条件不適合や、異種金属との組合せでも発生する場面が少なくありません。
めっきムラ(外観不良)
めっきの厚みムラや色ムラもよく見られるトラブルです。
電流密度の不均一や、治具からの導通不良、ワーク配置の不適切さに起因します。
なぜトラブルは繰り返されるのか?昭和型現場の「属人化と見逃し」
多くの工場では、ベテラン作業者の「経験や勘」に頼りきったオペレーションが残っています。
仕様や標準作業手順書(SOP)は存在するものの、状況によっての“現場なり”アレンジが蔓延しています。
また、設備保守やめっき液の管理、省力化への投資が遅れている工場が多いのも事実です。
前向きな原因分析と未然防止策のPDCAが徹底されていないまま、トラブルが発生してから都度現場で消火活動、という悪循環から抜け出せない理由です。
未然防止のために現場が今すぐできる要点
1. 徹底した「前処理」管理
めっきの品質の8割は、前処理で決まると言われます。
徹底した脱脂や酸洗い・中和・水洗。
この各ステップの手抜きが絶対に許されないことを全作業者に再教育し、「なぜこの工程が必要なのか?」を理屈で理解してもらうことが不可欠です。
また、前処理液の濃度・温度・使用期限、タンク管理など定量的な「見える化」も進めましょう。
旧来型の目検や感覚だけに頼らず、日々のチェックシート活用や異常時の記録徹底がカギです。
2. 設備・治具の標準化とメンテナンス強化
古い治具・ラック・バレルは、通電不良や溶着不良の元です。
定期的な新品交換計画や、治具寸法公差管理の基準化を行ってください。
また、めっき液の循環ポンプやアノード交換周期の管理、槽内ろ過装置のメンテナンスもルーチン化しましょう。
3. めっき液の定期分析・管理
槽液のpH、金属イオン濃度、有機物汚染のチェックなど、「科学的根拠」に基づく管理が今やスタンダードになっています。
外注の分析サービスも積極的に活用し、現場判断を数値で裏付けられる体制を整えるべきです。
4. 作業手順書の刷新と実作業のギャップ把握
作業標準は「作って満足」では意味がありません。
実際の現場作業を動画で記録し、手順書と突き合わせてギャップを明確化。
現場の“暗黙知”を“形式知”に変換し、教育ツールとしても活用することが重要です。
5. 品質トラブル発生時の再発防止手順を明文化
トラブルが発生した際は、直ちに現物・現場・現実(3現主義)を基に、真因を特定。
「なぜなぜ分析」やFMEA(故障モード影響解析)など、ロジカルな手法で再発防止案を策定しましょう。
対策の”やりっぱなし”防止に向けて、定着化までのフォローアップも欠かせません。
めっき工程改善の最新動向とデジタル技術の活用
昭和のアナログからの脱却:現場デジタル化の第一歩
IoTやAIの導入と聞くと尻込みする工場長も多いですが、クラウド型の簡易記録ツールやセンサー連携など“小さく始める”ことが大切です。
例えば、めっき液の温度やpHをリアルタイム監視し、異常値でアラートを上げるだけでも、未然防止に一歩前進します。
工程管理システム(MES)での見える化が加速中
中小企業でも手が届く廉価なMES(製造実行システム)を活用し、現場データを自動収集。
品質データとの紐付けで、“どの条件でどんなトラブルが多発しているか”の傾向分析も容易にできます。
現場で使える「未然防止・改善」実践ノウハウ
1. 異常の「入口」で止めるしくみづくり
例えば脱脂工程でワークが均一に処理されるよう、ワーク投入前に外観チェック。
一点でも不良ロットが検出されたら、ロットごと処理を止める「入口で止める」仕組みを徹底します。
これにより手戻りや顧客流出を最小限にできます。
2. バラツキの可視化と「標準偏差」による管理
「この工程は勘や慣れ」でやる工程こそ、データでバラツキを管理しましょう。
SPC(統計的工程管理)ツールや、Excel簡易グラフでも十分です。
めっき厚さや外観不良率など、数値のバラツキの現物把握から始めましょう。
3. ヒューマンエラーを徹底ゼロ化する仕掛け
色分け表示やポカヨケ(防止治具)の追加、「一人一作業」の原則徹底でミスの連鎖を断ち切ります。
また、短時間の朝礼で今日の作業手順や注意事項を全員で共有、コミュニケーションギャップを塞ぎます。
4. サプライヤー連携による情報共有と一体感の醸成
自社だけでなく、前後工程や外部サプライヤーとも品質データをリアルタイムで共有。
異常を検知したらサプライチェーン全体で即座に情報展開できる仕掛けを作ります。
「バイヤー」視点だけでなく、サプライヤーも主体となって改善提案し、全員で品質保証意識を高めることが極めて重要です。
バイヤー・サプライヤーの双方が知るべきこと
バイヤーは「安全な品質確保のために、どんな工夫・投資をしているか」を明文化した品質監査を推進することが求められます。
一方サプライヤーは、バイヤーの立場で「なぜここまでうるさい要求をするのか?」を理解した上で、自社でできるリスク低減策を積極提案する姿勢が必要です。
双方の利害が一致しないように見えて、実は「お客様第一・安心供給」という一点で利害は完璧に一致しています。
そのためにも、定期的な現場見学会やオンラインでの現場中継など、リアルな現場情報共有が信頼の礎となります。
まとめ:昭和的発想から抜け出す、未来志向の工程管理へ
めっき工程は、工程そのものが「見えにくい」ため、品質トラブルが現れた時には手遅れになるケースも多いです。
しかし、今回紹介したような「入口で止める」という発想や、デジタル技術の活用、現場の暗黙知の形式知化など、根拠に基づく合理的な改善が今の時代には不可欠です。
品質管理は一朝一夕に進歩しませんが、確実な一歩を各工程で踏み出すことで、昭和型アナログ現場でも着実な進化を遂げることが可能です。
“未然防止に徹する”という意識を、現場の一人ひとりが持ち続けることが、これからのめっき工程の品質レベル向上と企業の競争力強化に直結します。
自社のやり方を見直し、現場と管理部門・サプライヤーが一体となって「新しいプロセス管理像」を築き上げていきましょう。
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