投稿日:2025年6月10日

設計ミスの未然防止と製品安全性・信頼性設計への応用

はじめに

製造業の現場では、「設計ミス」の未然防止が極めて重要なテーマとして認識されています。
一見すると単なる図面や仕様書の修正程度に思われがちですが、設計上の見落としは安定生産への障害になるばかりか、大きなリコールやブランド価値の毀損につながることもあります。
特に昭和の時代から根強く残る“現場勘”やアナログ的な設計フローだけに頼っている現場では、しばしば見逃されやすいリスクが潜んでいます。

本記事では、設計ミスの未然防止のための実践的な工夫や、製品の安全性・信頼性設計への応用方法を、現場目線で詳しく掘り下げていきます。
バイヤー、サプライヤーの立場を問わず、製造業に関わるすべての方々に有益となるヒントをお届けします。

設計ミスとは何か、なぜ起きるのか

設計ミスの定義

設計ミスとは、「設計中の誤り」に限らず、「見落とし」「仕様との齟齬(そご)」「想定外使用への脆弱性」「作業手順のあいまいさ」など、人間の思い込みや情報伝達ミスから生まれる広範な問題を含みます。
図面や仕様書に明確には現れない、『設計段階で仕込まれてしまう地雷』とも言える存在です。

昭和的な設計プロセスの課題

日本の多くのメーカーでは古くから、熟練者の経験やカン、固定化されたプロセスに頼る傾向が強く見られます。
「前回と同じなら問題ない」「図面どおりに製作すれば大丈夫」などの思い込みが原因となって、細かな設計ミスがスルーされ、現場で発覚したときには大きな手戻りやコスト増となって現れてしまいます。

現場目線で考える設計ミス発生の背景

現場では、次のような原因で設計ミスが発生しやすくなっています。

– 基本的な構想設計の詰めが甘い
– 製造プロセスや調達部品の特性理解不足
– 客先要望や社内仕様への理解が浅い
– 部門間コミュニケーションの壁による情報断絶
– 現場作業者の暗黙知が設計チームに伝わっていない

これらの原因を根本から解決することが、設計ミス撲滅の第一歩となります。

未然防止(設計時FMEA/DRBFM等)の具体策とは

FMEA/DRBFMの活用

FMEA(Failure Mode and Effect Analysis:故障モード影響解析)、DRBFM(Design Review Based on Failure Mode:故障モード起点の設計レビュー)は、多くの自動車業界や重工業、家電業界などで導入されています。

FMEAは手順通り実施しても形式だけ、という危険がありますが、現場のリアリティや”なぜ起こるのか”を徹底的に洗い出すことが本質です。
またDRBFMでは「何が変わったのか」「同じ点・異なる点はどこか」「リスクを抱えているのはどの部分か」を部門横断で議論することで、設計的な“盲点”を洗い出します。

ラテラルシンキングで未然防止の新たな視点を得る

多くの現場では“水平思考”が足りず、既存の延長線上にしか解決策を求めやすい傾向があります。
たとえば、
– 顧客の使い方を想定外の視点で捉える
– サプライチェーンでどの段階でリスクを埋め込んでしまうのか紐解く
– わざと極端な使用条件で破壊テストや模擬生産ラインを動かしてみる
– 過去事例だけでなく他業界の失敗事例を積極的に参照し横展開する

こうした“意図的な横方向の思考”によって、現場では見えにくいリスクの兆しを前倒しで拾い上げることができます。

工程設計との連携、及び現場ヒアリングの重要性

設計部門と製造部門が分断されている組織では、「机上の空論」設計になりがちです。
現場目線を意識し、例えば以下のような取り組みを実践することがポイントです。

– 設計担当者が一時的に生産ラインで作業体験を積む
– 工程設計担当者・ベテラン作業者を巻き込んだDR(デザイン・レビュー)を行う
– サプライヤーを招いて部品加工・納入のリアルな課題を率直に共有する

そうすることで、工程に潜む設計起因の問題や“作業しにくい点”が早期発見でき、未然防止につながります。

製品安全性・信頼性設計への応用

安全性設計の基本と拡張

安全性設計は単なる『ミスを減らすこと』以上の広い意味を持ちます。
例えば製品を使う現場・顧客の立場に立って、
– 誰が操作しても誤動作しにくい設計
– 万一故障しても二重・三重のフェールセーフが効く構造
– 誤組み立てや誤配線が物理的にできない設計

業界によっては“ヒューマンエラー前提”での設計思想を持つことが、結果としてユーザーの安全性、製品ブランドの信頼性向上につながります。

リスクアセスメントの実務的アプローチ

設計現場では「重大事故」「製品事故」を忌避するあまり、形式的なリスク評価・対策止まりになるケースも目立ちます。
しかし、ISOや各種安全規格を真に活用するには、次のような地道なプロセスが肝心です。

– 過去の事故・不具合データの棚卸しとパターン化
– 専門外のメンバーも巻き込んだ事例共有と“なぜなぜ分析”
– 出荷前に第三者視点での再評価・模擬使用

またサプライヤー主導でのリスク評価もますます求められる時代です。
バイヤーとの関係構築の一手として、自主的な信頼性設計、試験成績の透明化など、供給側の工夫も評価されやすくなっています。

昭和的アナログ文化とデジタル技術の融合

「紙と鉛筆」のノウハウをどう活かすか

多くの現場では、紙の図面、手作業のチェックシート、個人の経験談に頼った工程管理が根強く残っています。
これらを一掃するのではなく、
– 紙ツールで発覚した過去ミス・良かった事例をデジタル資産へ
– ベテランが残した手書きメモや裏技を若手が体系化しマニュアルに落とし込む
– 手作業の良さ(押印・現場サイン)は、電子承認と共存させる

このようにアナログの“身体知”とデジタルの再現性をバランスよく組み合わせることが、設計ミス未然防止の底上げに繋がります。

最新テクノロジーの”使いどき”を見極める

設計や製造において、AIによる異常検知システム、デジタルツイン、クラウド型BOM管理など新技術の活用が進みつつあります。
しかし、道具はあくまで“ヒトの気づき”の補助であり、現場の真実に近づくための手段です。

– 設計ツールや解析ソフトへの丸投げでなく、現場観察や実機試作との往復
– 品質データのビッグデータ解析×現場ヒアリングによる仮説検証
– 部署の壁を超えて設計レビューをオンライン化し、現場の声を拾い上げる

こうした人間力とテクノロジーの融合が、顧客と現場が本当に求める「使える設計」の実現に直結します。

まとめ:設計ミス未然防止は価値創造の本流へ

設計ミスの未然防止に取り組むことは、単なるコスト・リスク回避に留まらず、顧客信頼・ブランド価値の最大化、現場力の底上げ、業界全体のレベルアップに直結しています。

昭和的アナログ文化と最新テクノロジー、現場と設計現場、バイヤーとサプライヤー。
それぞれの「本音」と「現場感」を組み合わせ、ラテラルシンキングによって常識を超える視点で製品づくりに挑むこと。
それこそがこれからの製造業の成長エンジンとなる時代です。

設計者・調達担当者・生産現場リーダー・品質保証・サプライヤー。
すべてのものづくり現場に関わる方々が、一丸となって「設計ミス撲滅」と「安全・信頼性設計」に挑戦することで、新たな地平線が切り拓かれることでしょう。

読者の皆さまの現場でも、ぜひ今日から一歩踏み出し、設計の本質に向き合う活動を始めていただければ幸いです。

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