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迷わずに状態方程式モデルを同定するための手順連続系伝達関数状態方程式システム同定伝達関数から状態方程式変換DCモータ事例

目次
はじめに:製造現場が直面する連続系システム同定の現実
ものづくりの現場では、DCモータをはじめとした制御対象の正確なモデル化が生産性向上や品質向上、自動化推進の鍵を握ります。
特に近年のデジタル化の流れの中で、従来の経験則やアナログ的な職人技から一歩先へと踏み出すためには、システムの数式モデル=状態方程式モデルを正しく同定し、制御に活かすことが重要です。
しかし、「状態方程式モデルってどうやって作るの?」「伝達関数と何が違うの?」と現場は混乱しがちです。
本記事では、連続系伝達関数と状態方程式モデルの違いから、現場での同定手順、そしてシステム同定から制御設計につなげる新しい地平線について、深堀りします。
特に、DCモータを題材に実践的なアプローチを詳解し、バイヤーやサプライヤー双方にとって有益な視点も交えています。
連続系伝達関数と状態方程式の違いを現場感覚で捉える
伝達関数とは何か?
連続系伝達関数とは、入力(たとえば電圧)と出力(たとえば回転数)との間の動的関係性を、ラプラス変換を使ってs領域(周波数領域)で記述したものです。
現場でよく使われる理由は、システムが定常状態になってからの振る舞いがわかりやすいからです。
例:
G(s) = K / (Ts + 1)
この式では、係数Kや時定数Tが「装置の応答性」の主要な指標になります。
状態方程式とは何か?
状態方程式モデルは、その名の通り「今どんな状態か」を変数(状態変数)で管理し、「次にどう動くか」を数式で定めたものです。
一般的に
dx/dt = Ax + Bu
y = Cx + Du
という連立一次方程式で表現されます。
このモデルは、途中の挙動や制御の組み込みがしやすく、今や自動化・品質保持のための高度なフィードバック制御設計には欠かせません。
実際の違いは現場でどう生きるか?
伝達関数モデルは、過渡応答・周波数特性解析で便利ですが、「途中の状態」や「多入力多出力(MIMO)」の扱いが苦手です。
一方、状態方程式モデルならば、PLCや産業用PC上でのリアルタイム制御や、IoT連携による高度なモニタリングにも直結しやすくなります。
つまり、「現場の改善」と「デジタル化推進」を両立させるには、状態方程式モデルへの理解と活用が不可欠となっています。
手順1:DCモータの伝達関数モデルの同定
データ取得と現状把握
まず、現場にあるDCモータの「入力」と「出力」を測定しましょう。
具体的には、入力電圧(V)と出力回転数(rpm)をオシロスコープやデータロガーなどを使い、実際の運転時データを収集します。
ポイントは手間を惜しまないこと。
アナログ時代の「勘と経験」に頼るのではなく、「再現性のあるデータ取得」にこだわりましょう。
伝達関数パラメータの推定
次に、取得したデータから伝達関数のパラメータを推定します。
たとえば、「ステップ入力」(急に定電圧を加える)の応答を記録し、立ち上がり時間や定常値から「K(増幅率)」と「T(時定数)」を以下の式で求めます。
– K = 定常回転数 / 入力電圧
– T = 63%応答時の経過時間(標準的な1次遅れモデルの場合)
複数のデータセットから平均値をとることで、ばらつきやノイズを排除できます。
現場での異常データや偶発的変動には目を配りつつ、論理的なパラメータ決定を意識しましょう。
手順2:伝達関数から状態方程式への変換
なぜ状態方程式へ変換するのか?
伝達関数の持つ限定的な情報(出力側に特化)から、すべての「状態変数」を明示してモーターの内部挙動まで見通せるように変換する必要があります。
これは、たとえば「回転子の慣性」「摩擦」「電磁遅れ」など、現場で見過ごしがちな影響も考慮できるメリットがあります。
さらに、近年浸透するIoT・AIによるデータ利活用時にも、状態空間表現が大前提になるからです。
連続系1次遅れ伝達関数の状態方程式への機械的変換法
たとえば、先ほどの
G(s) = K / (Ts + 1)
という伝達関数の場合の状態方程式変換手順は以下です。
1. 分母を左辺、分子を右辺として時定数Tごとに微分方程式に変換
2. 状態変数x(たとえば回転速度)として立式
Ts * dx/dt + x = Ku
3. dx/dt = -1/T * x + K/T * u
このように整理し、必要に応じて行列表記に落とし込みます。
A = -1/T, B = K/T, C = 1, D = 0
この手順は機械的ですが、現場で実物のイメージを持つこと(例:xを実際のロータ速度に対応させるなど)が大切です。
手順3:システム同定の実践例〜DCモータの場合
実践的な観測と同定
DCモータの実制御線図、たとえば
・入力:電圧
・内部状態:アンカー電流、回転数
・出力:回転数の実測値
とした場合、まず1次近似で単純なモデルを構築し、必要に応じて高次モデルへ発展させます。
現場のマシンに実際に設置されたエンコーダや電流センサーがあれば、より精緻な多変数モデルへの展開も容易です。
システム同定ツールの活用
制御分野の進展により、今やMatlabやPython(scipyなど)の同定ツールが普及しています。
こうしたデジタルツールを使えば、観測データを数値解析し、最適なパラメータ推定や適合度の評価も簡単です。
昭和的な「このくらいでよし」とした曖昧さを排し、「誰が手順通りやっても同じアウトプット」を保証できるのです。
モデルの現場評価とフィードバック
同定が完了したら、得られたモデルでモーターを制御する「試運転」を必ず行います。
実挙動との誤差分析を繰り返し、モデル自体をブラッシュアップする「PDCAサイクル」を現場レベルで回しましょう。
一度で完成させようとせず、あくまで現場起点のリアリティを意識することが大切です。
製造業バイヤー・サプライヤーがモデル同定を理解すべき理由
バイヤー側のメリット
モデルがしっかり同定できていると、装置選定や改善提案時の「納得感」が格段に上がります。
導入する制御機器や生産設備が期待どおりの性能を発揮するかどうかの判断も、伝達関数モデルや状態方程式モデルの理解が前提です。
また、ベンダーやサプライヤーとの「理論的な会話」によって、余計な誤解や無駄なコスト発生も削減できます。
サプライヤー側のメリット
サプライヤーも、相手(バイヤー)が何に困り、どんな根拠で仕様を求めているのかを数式モデルを通じて理解できます。
また、[現場]と[設計]の透過的な情報連携、さらにはトラブル発生時の再現・検証にも強みを発揮します。
昭和アナログからのブレイクスルー
多くの製造現場では、未だ「勘と経験の職人芸」が幅を利かせています。
しかし、デジタル化・AI活用・グローバル競争が激化する今こそ、システム同定による数式モデル化により、付加価値創出とリスク低減の双方を図る発想が求められています。
まとめ:迷わないシステム同定こそ現場力を未来へつなぐ
DCモータを例とした連続系伝達関数モデルから状態方程式モデルへの同定プロセスは、もはや制御専門家だけのものではありません。
実際に物理的データを取り、論理的にパラメータ同定を行い、その上で現場で動作確認・フィードバックを繰り返す。
このサイクルが、「昭和的な現場」から「未来志向のスマート工場」への橋渡しとなります。
また、バイヤー、サプライヤーの枠を超えたコラボレーションによって、サプライチェーン全体の競争力も高められます。
本稿が、理論と現場、アナログからデジタルへの進化を志すすべての製造業関係者にとって、新たな気づきと実部署での行動への第一歩となることを願っています。
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