NBRシートの特性を活かした製造・調達における品質向上のポイント

NBRシートとは何か？〜その基本特性と選定理由〜

NBRシートは、ニトリルゴム（Nitrile Butadiene Rubber）を主原料とした工業用シートで、製造業のさまざまな現場で広く用いられています。
NBRは耐油性・耐摩耗性・気密性に優れ、ガスケットやパッキン、振動吸収材、シール材など、多岐にわたる用途に対応できます。

私が工場長として現場を預かっていた時期、NBRシートの採用は「油に強い・切削加工しやすい・大量調達が比較的容易」という3点から決めることが常でした。
この素材を正しく理解し、適材適所で使いこなすことが、品質安定とコスト最適化を両立する第一歩となります。

1. 耐油性

NBRシート最大の強みは耐油性です。
潤滑油やグリース、軽油やガソリンなど石油系溶剤に長時間暴露されても、膨潤や劣化が少ない特性があります。

2. 気密性・絶縁性の高さ

気体や液体を通しにくい分子構造を持っているため、ガスケットやシール材として多用されます。
また、絶縁性も高く、配電盤周りの一次部材としても機能します。

3. 加工のしやすさとカスタマイズ性

厚みや硬度（ショアA）、粘着加工の有無、表面処理（打ち抜き・テープ貼りなど）を自由にカスタマイズできるのも、この素材ならではの利点です。

昭和型アナログ工場に根付く「NBRシート活用」の現実

高度経済成長期から使われているNBRシートは、オイルミストや粉塵が多く発生する昭和型重工業工場で今も現役です。
私自身、1990年代から現場に身を置き、完全な自動化工場や最新IT制御工場・データドリブン型工場でも、NBRシートが消えることはありませんでした。

NBRシートの現場導入で特に注視したいのが「ちょうどよい厚さ・ちょうどよい硬度・ちょうどよいロット管理」です。

現場の“生の声”が物語るポイント

1mm単位の厚み違い、1ショアの硬度違いが、製品の合否を分けます。
「油の種類」や「ガスケットの嵌合圧」に応じて、ベテランの職人が“たかが1枚、されど1枚”の感覚で材質選びをしています。
また「残材の使い回し」「小ロット再発注の煩雑さ」「アナログ帳票での材料管理」は、今も 人手と経験頼みの部分が色濃く残る現場課題です。

NBRシートの調達プロセスとサプライヤー選定の理想像

NBRシートの品質を引き上げるためには、仕様選定から納入までの調達ステップを科学的に設計することがカギです。
以下は、バイヤーやサプライヤー双方の立場から見た理想的な導入フローです。

1. エンド用途ごとの仕様明確化

・どんな薬品や油に曝露するのか
・どんな温度帯で使うのか
・圧縮やせん断、引張応力は？
この3点を、現場主導で定量化して仕様書を作成しましょう。
感覚頼みの「前回と同じもの」発注はリスクです。

2. サプライヤーの“現場視点”を重視する

NBRシートを丸投げ発注するのではなく、現場同行やリードタイム擦り合わせ、サンプルカットや試作投入、NG事例のフィードバックを重視しましょう。
こうすることで、安定品質と適正価格のバランスが保てます。

3. 品質保証とトレーサビリティ確保

LOT管理や性能試験成績書の添付、リスク時の即時代替体制の確認は、昭和型調達の弱点を補う現代型管理です。
NBRシートは同一品番表記でも性能ムラが出やすく、バイヤーの目利きが問われます。

現場でこそ活きる「品質向上のためのラテラルな工夫」

工場で実際に役立つNBRシート活用のポイントは、次の4つです。

1. 定期的な現品チェックと寸法ゲージの活用

現品入荷時、0.01mm単位で厚さ・硬度・表面状態をチェックし、不具合材の早期発見につなげます。
この“データ化の積み重ね”が、日々の品質向上を生み出します。

2. レガシーなアナログ管理との共存

伝票管理や棚卸し履歴をデジタル化しつつも、最後は現場担当者の「目」と「手」を信じてサンプル現物で合否判定するスタンスは大切です。

3. サプライヤーとの「現場AI」構築

現場担当者や設備オペレーターとサプライヤーが、現場レベルで「次はこんな改良を」「こういうミスが出る」と知見を共有します。
これこそ昭和アナログ工場に今でも根付く“現場AI（Artificial Intelligence＝愛）”です。
データと人情の共存が品質を最後に守ります。

4. 工場自動化との両立〜ローテクとハイテクの連携〜

NBRシートの下流作業（打ち抜き、接着、組立）は、全自動化が意外と難しい工程です。
「材料ごとに最適な自動機」を設計する目線と、「不測の事態は手作業で対応できる現場力」を両輪で高めることが、安定稼働のコツです。

これからのNBRシート調達に求められる視点

今後、工場の現場改善を進める上でNBRシートにまつわる調達・品質保証は「現場力×データ×サプライヤー連携」の三位一体で進化していきます。

1. グローバル調達の進展に合わせた多様化対応

海外サプライヤー拠点や多品種細分化が進む中、「安定調達」「品質保証」「原価計算」を精密に繋ぎ、最適解を探る仕事がより重要になります。
「同じJIS規格でも、ロット毎にバラツキないか？」といったきめ細かいチェックポイントを絶えずアップデートしましょう。

2. DX（デジタルトランスフォーメーション）活用

材料受入や進捗、異常発生のログデータをAI解析し、不良予知や品質安定の手掛かりとします。
現場の勘とデジタルデータを組み合わせる「ハイブリッド管理」が新時代の調達には欠かせません。

3. サステナビリティや環境規制対応

今後はRoHS指令やREACH規制など、環境負荷や人への安全性も大きく問われます。
「どのメーカーのNBRシートが規格を満たし続けるか」、現場チェックリストを丁寧に積み上げることが、長期の安定調達につながります。

まとめ：NBRシート現場活用の真髄

NBRシートの持つ「耐油性・加工性・気密性」は、現場の隅々で今も頼りになる能力です。
調達担当者、現場技術者、サプライヤーが一体となり、ラテラルな発想で「使い勝手と品質の両立」を目指してください。

昭和から現代、そして未来へ。
小さなNBRシート一枚の選び方・使い方ひとつで「工場品質」は大きく変わります。
現場の苦労や発見を、次の世代へ、製造業全体の力へと、皆さんでつないでいきましょう。