投稿日:2025年6月11日

においの定量化と問題解決・商品開発への応用

はじめに~「におい」の定量化がもたらす製造現場の革命

製造業の現場において、「におい」は長らく“感覚”や“経験則”によって判断される領域でした。
しかし近年、食品・化学・自動車・電機など、さまざまな業界で「においの定量化」が求められるようになっています。
その背景には、品質管理の高度化はもとより、アナログからデジタルへの転換、消費者ニーズの多様化、グローバルサプライチェーンの変化など、時代の要請があります。

本記事では、においの定量化の最新動向、実践例、現場での課題解決や商品開発への応用について、自らの現場体験も交えて解説します。
バイヤーの視点とサプライヤーの立場、双方に有益な情報となることを目指します。

なぜ今、においの定量化が必要なのか?

従来の「におい」評価の課題

多くの工場において、「異臭がしないか」「製品本来の香りが出ているか」のチェックは、ベテランの作業員や技術者の“鼻”に頼るしかありませんでした。
しかし、このアナログな手法には以下のような課題があります。

– 個人差が大きく、数値化できない
– 熟練者が離職すると再現できなくなる
– 客観性に乏しく、クレーム対応やエビデンスとして弱い
– 海外拠点やサプライヤー間で評価基準が統一できない

これらは特に、食品工場、化学工場、自動車の内装材、生活用品など、「におい」による品質が求められる分野では大きなリスクとなります。

新たな国際要求と消費者ニーズ

グローバル化する現代、工場間、委託先間で“共通の品質指標”が不可欠です。
さらに、消費者は「安心・安全」「クリーン」「高級感」といったイメージを、無意識に“におい”で判断しています。

ISOなど国際標準化の動きもあり、匂気計・ガスクロマトグラフィー・電子ノーズなどによる「においの定量化」が、市場での競争力・信頼性構築の鍵になっています。

においの定量化を実現するテクノロジーと手法

主な測定技術

においを定量化する代表的な技術には、以下があります。

– 匂気計:嗅覚評価の標準化。空気中の匂い濃度を“臭気指数”で数値化
– ガスクロマトグラフィー(GC):におい成分を個別に分離・同定。微量成分も検出可能
– 電子ノーズ:多種類のセンサーを組み合わせ、パターン認識で判定。AI・機械学習との連携も進行中

これらにより、「人による感覚評価」と「機器による数値評価」を組み合わせるハイブリッド型の品質管理が進んでいます。

現場で実際に導入する際のポイント

現場でにおい定量化技術を導入する際には、次の観点が重要です。

– 測定のタイミング・場所:製造工程の中でどこに測定ポイントを設けるか
– 標準試料の設定:基準“におい”となるマスターを作り、ずれを数値で追跡
– データ蓄積・解析:日々の測定値を記録し、異常値やトレンドを分析する仕組みづくり
– 作業者教育:測定結果の意義や、感覚評価とのギャップを理解する研修

単なる機器導入にとどまらず、オペレーション全体のプロセス改善が求められています。

におい定量化による現場課題の解決事例

クレーム未然防止~食品工場での応用

ある食品工場では、包装前の冷凍食品の香りの“バラつき”が市場クレームに発展していました。
従来、担当者の五感による判定でしたが、匂気計の導入で数値管理をスタート。
データ集積により、「原材料のロット差」「工程温度の微妙な違い」が香りへ与える影響が判明。
工程ごとのワークインストラクション(WI)に反映し、クレームゼロを実現しました。

付加価値創出~自動車内装メーカーの挑戦

自動車の内装部品メーカーでは、乗車時の“新車の香り”の再現と、海外拠点間での品質均一化が課題でした。
ガスクロマトグラフィーとパネル評価(官能評価)の組み合わせで、独自の“新車臭プロファイル”を確立。
顧客要望に合わせた「匂いカスタマイズ」も可能となり、付加価値商品として世界展開に成功しました。

廃棄・再発防止~化学工場での事例

化学工場では、製品ロットごとに“異臭”発生が報告されていました。
電子ノーズでリアルタイム監視を行い、異常検知値が出た段階で工程をストップする運用に変更。
ムダな廃棄や再作業を大幅に削減し、作業員のストレス低減にもつながっています。

昭和的現場文化から抜け出すための実践ポイント

“ベテランの勘” VS “データドリブン経営”

製造業は未だに「職人技」や「経験値」が重視される業界。
一方で、若手技術者やグローバル拠点の増加、熟練者の大量退職時代を迎えており、「見えざるコツ」をデータ化して引き継ぐ仕組みが不可欠です。
“人の感覚”を尊重しつつ、「科学的根拠」を足すことで両者のギャップを埋めるアプローチが重要です。

現場への啓蒙と、管理職・経営層のサポート

におい定量化の導入は「現場に新しい手間を増やす」リスクもあります。
しかし「クレーム低減」「トレーサビリティ強化」「新商品・差別化の武器」などの狙いを現場と管理職が共有し、小さな成功事例を拡大していくことが定着につながります。
実際に、現場担当を巻き込んだワークショップや勉強会、失敗事例のオープン化は推進力となっています。

商品開発・バイヤー活動への応用~におい“見える化”の新ビジネス価値

より消費者視点の商品開発

– “美味しさ”“安心感”“上質感”など消費者インサイトの多くは「におい」を通じて訴求できます。
– バイヤーは「産地違い・製法違い」が生む微妙な“香り”をエビデンスとしてプレゼンでき、サプライヤーとの交渉や差別化材料に活用が可能です。

サプライヤー側の視点~“におい品質”による選ばれる時代

– 原材料、部材に「香り品質管理書」や「臭気プロファイル」を添付することで、バイヤーに信頼を与え、競争優位性が生まれます。
– 先進メーカーでは「においの履歴管理」「異臭検知時の迅速対応体制」をアピール材料としています。

今後の展望と、これからにおい定量化に取り組む方へ

AIやIoT技術の進化により、においセンサーによる「24時間モニタリング」「異常発生時の自動アラート」「現場教育コンテンツへの組み込み」など、現場オペレーションが加速度的に進化しています。
またESG(環境・社会・ガバナンス)への関心の高まりから、「臭気対策」「環境負荷の見える化」も重要です。
におい定量化は「コスト削減」「品質保証」だけではなく、「付加価値創出」「ブランド強化」のための武器です。

バイヤーの方は交渉や品質保証の材料、サプライヤーの方は差別化と信頼づくりの手段として、「におい」の“見える化”へ、一歩を踏み出してみてください。

まとめ

においの定量化は、昭和的アナログ現場文化を一歩先に進めるための切り札です。
バイヤーとサプライヤー、現場と経営層、全てに“新たな共通言語”を与えます。
品質を数字で語り、エビデンスで勝負できる現場へ。
そして、商品開発・新市場開拓における新たな価値創造の第一歩となるでしょう。

現場で長年培った経験と、最新技術の融合で、製造業の未来に新風を吹き込みましょう。

You cannot copy content of this page