投稿日:2025年9月17日

日本製品輸入に伴う通関コスト削減と購買部門の実務対応

はじめに

日本製品の世界的な信頼性や品質は、グローバル市場で一貫して高く評価されています。
その一方で、日本製品の輸入には多くの企業が頭を悩ませる「通関コスト」、つまり関税や輸入付帯費用がつきまといます。
購買部門にとっては、「どうやってこのコストを抑えるか」「現場としてどのように対策できるのか」という課題が日々ついてまわります。
本記事では、20年以上製造業の最前線で調達・購買を担当し、工場長として決断してきた経験から、通関コスト削減の実践ポイントと、購買部門が現場目線で取り組むべき施策を徹底解説します。

日本製品輸入時に発生する主な通関コストの種類

関税

日本からの輸入品には原則として「関税」が課せられます。
これらは輸入対象品目や国・地域によって率が異なり、年による改訂も頻繁です。
単なる%の掛け算だけでなく、細かな商品分類(HSコード)によって左右されます。
設定のちょっとした違いだけで数%変動し、調達価格に直結します。

消費税・個別消費税

輸入時には付加価値税(日本でいう消費税)が課されます。
さらに、お酒やタバコなど一部の品目には個別消費税も加わります。
購買担当者はこれらも見落とせません。

輸入申告・通関手数料

通関業者への申告料や仲介料が必要です。
内容によっては、申告が複雑になりコストが嵩みがちです。
すこしでもこの手数料を下げるには、事前準備や通関プロセスの効率化が有効です。

検疫・検査費用

機械・食品・化学品などでは専門の検疫や検査が必須です。
提出書類の不備や追加検査で、コストだけでなく納期まで膨らむ事例も多々あります。

通関コスト削減のための基礎知識と最新動向

商品の正しい分類による関税率の見直し

製造業のサプライチェーンでは、「正しいHSコードに分類する」ことが絶対条件です。
少しの違いで、関税率が大きく異なります。
バイヤーや調達担当者には、意外とこの運用が形骸化しがちです。
昨今のデジタル化でも、まだ多くの現場で「去年はこれでやれたから大丈夫」という「昭和思考」で済まされてしまう場面が散見されます。
本当に合った最新の分類か、定期的な見直しが肝心です。

FTA/EPAの活用によるコスト削減

経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)の恩恵を最大限受けましょう。
日本は多くの国とEPA/FTAを結んでおり、条件を満たせば関税免除・減額が可能です。
ただし、証明書取得や管理が煩雑なので、システム化や専任者の設置で「業務を仕組み化」することが大切です。

通関前準備・書類の完全性の担保が急務

通関トラブルの多くは、「輸入書類の不備」「工場現場との連携不足」が原因です。
電子化が進んだ今こそ、データ一元管理やマスタ情報の統合が効果を発揮します。
また、パートナーの通関業者も「間違いを指摘してくれる」企業を優先的に選ぶことが、経費削減の王道と言えます。

購買部門が実践できる通関コスト削減策

1. 輸送・調達LOTの最適化

多くの現場では「できるだけ大口発注で送料単価を下げたい」となりがちですが、倉庫費用やキャッシュフローとのバランスが重要です。
通関業務上も「混載」や「納期分散」など運用次第でコストを抑えられるケースも多いです。
購買担当者は、サプライヤー側の物流現場と「どのサイズ・頻度が最適か」まで話し合えることが強みになります。

2. 通関業者・フォワーダーの選定見直し

長年の付き合いだけで通関業者を固定化し、「慣例」で発注していないでしょうか。
コストダウンの観点からは、定期的な見積もり比較と条件見直しが不可欠です。
「値段」より「トラブル発生時の対応力」「細やかなフォロー」の企業を優先で選びましょう。

3. 輸入フローの可視化と社内連携強化

調達〜通関〜現場受け入れまで「どこで誰が何をしているのか」、各担当者に業務プロセスを「見える化」することが、コスト管理の第一歩です。
実際に現場工程を知ることで、紙伝票や手入力などアナログな業務が残っていれば、デジタルツールによる効率化も検討しましょう。

4. 社内人材の通関・貿易知識レベルアップ

FXの活用、インボイスやパッキングリスト作成、輸送モード選択など、購買部門は納期や品質、価格だけでなく「貿易実務」の知識も求められます。
現場から見た「どうすればリアルなコストと時間を縮められるか」という視点で、OJTや社外セミナーの活用をお勧めします。

アナログ思考からの脱却――昭和型調達のリスク

製造業界は多くの部分で昭和期の「慣習的な調達」が色濃く残っています。
たとえば、「前年踏襲」「帳票は紙・FAX」「フォワーダーは付き合い最優先」などです。
こうした現場文化は、むしろ購買コストの”見えづらさ”を加速させます。
世界経済は激変しており、「いつもの取引先だから安心」という時代は終わっています。
これからは、透明性やスピード、柔軟なサプライチェーン構築こそが肝要です。
現場の若手や新任バイヤーが「なぜこの方法に固執しているのか」を上長と率直に話し合うこと、それ自体が新たなイノベーションの一歩となります。

購買担当者のための現場視点ラテラルシンキング

購買コスト削減=価格交渉力、と思われがちですが、特に日本製品の輸入現場では発想の転換が重要です。
たとえば、サプライヤー側から「この部材は○○国での現地調達でも同スペックが実現できる」と逆提案したり、「物流ルートを変えれば納期短縮+コスト減が叶う」といった選択肢を、自社内だけでなく外部パートナーとともに磨き上げることも考えましょう。
さらに、複数拠点間で在庫シェアリングを実現したり、パッケージ選定や海上/航空輸送組み合わせの最適化など、従来思考にとらわれない横断的な視点(ラテラルシンキング)がヒントになります。
現場で培った暗黙知を形式知へ、属人的なノウハウから組織的レベルアップへと昇華していくことが、時代を超える調達力となるはずです。

サプライヤー側から見た「バイヤーの考え方」

バイヤーがもっとも重視するのは「信頼」「品質」「納期厳守」そして「総合的なコスト削減」です。
通関業務や貿易書類の正確さ・納期感覚など、サプライヤー側が1歩先の対応をすることで取引がスムーズに進むケースが多いです。
また、積極的に最新の貿易制度や通関事情を学び、提案型サプライヤーを目指すことが差別化になります。
単純な「価格安さ」だけでなく、全体コストに寄与するトータルロジスティクス力や、法規制・通関面での知恵に価値を見いだすバイヤーが今後ますます増えていきます。

まとめ

日本製品輸入に伴う通関コストは、見えにくく複雑ですが、地道な「見直し」と「新たな発想(ラテラルシンキング)」で十分に抑えることができます。
購買部門が主導権を持ち、現場やサプライヤーと密な連携を図ることで、従来型の通関コスト削減に留まらない、事業全体に新しい価値をもたらす力が生まれます。
「昭和型調達」から一歩踏み出し、進化する時代の購買力を手に入れましょう。
この情報が、製造業現場で働く皆さま、バイヤー志望の方、そしてサプライヤーの皆さまの実務改善のヒントとなれば幸いです。

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