投稿日:2025年6月26日

FMEAとFTAを連結させた信頼性解析技法と逆ETAによるリスク予測の実践法

FMEAとFTAを連結させた信頼性解析技法の重要性

製造業の現場では、安定した品質と安全性を確保するためにさまざまなリスク解析技法が用いられています。
特に「FMEA(故障モード影響分析)」と「FTA(故障の木解析)」は、多くの業界で長年親しまれてきた手法です。
しかし、昭和の時代から使われ続けているこれらの手法も、DX時代の要請やグローバル競争の激化によって、より実践的かつ複合的な活用が求められています。

FMEAとFTAは本来、アプローチや分析の起点が異なるものの、現場でのリスク分析や不具合予防では両者の持つ強みを連結させて活用することで、単独では見落としていたリスクの「盲点」をカバーすることが可能になります。
この記事では、両手法の違いと融合メソッド、そして逆ETA(Event Tree Analysis)を掛け合わせた最先端の現場実践法について、豊富な現場経験からわかりやすく解説していきます。

なぜFMEAとFTAの連携が必要なのか

FMEAは「何が壊れるのか」「壊れたらどうなるのか」など、下流(結果)を重視した系統的な分析法です。
一方、FTAは「なぜ壊れたのか」「どの経路で問題が発生したのか」など、上流(原因)の論理を可視化するトップダウン型アプローチです。

日本の製造業、とりわけアナログな工場文化では、FMEAで抜け漏れを洗い出しながら、FTAで構造的因果関係を補完するというサイクルが上手に運用できていない現場も少なくありません。
DX・IoT化の流れで複雑化するリスク、部品点数やサプライチェーンの多重化、短納期・高品位化へのプレッシャーを考えると、片方だけの手法では網羅性や追尾力が不十分なのです。

特に調達購買、品質保証、生産管理など多職種・多工程が絡むプロジェクトでは、
– FMEAで広く「事象」を拾い
– FTAで根本要因を深堀り
– 両者を連結させてPDCAサイクルを迅速に回す

といった連携プロセスが求められる時代になりました。

FMEAとFTAを連結させる具体的手順

1. FMEAで高リスク項目を抽出

まずはFMEAで、製品や工程ごとに潜在的な故障モード(FM)や、その影響(E)を洗い出します。
このとき、各項目には「発生頻度」「影響度」「検出度」などの指標で、リスク優先数(RPN)を設定します。

ここで大切なのは、「定量的な裏付け」だけでなく、「類似故障の現場知見」「ヒヤリハット報告」なども積極的に掘り起こし、グラウンドデータとしてFMEAに反映していくことです。
これにより、高リスク項目を実務的観点から見逃さずに拾い上げられます。

2. FTAで根本原因を論理展開

FMEAで高リスクとされた項目について、FTAによる故障の木解析を実施します。
ここでは「AND/ORゲート」など論理回路的な分岐を用いて、トップイベント(例えば「製品Aの動作停止」など)が生じる全経路を洗い出します。

特に「隠れた共通要因」や「原因の多重化」に着目し、FTAで出てきた各下位要因が再度FMEAの工程へフィードバックされる構造を作るのがコツです。
両者の連携によって、あるリスクが別の工程や部品にも伝播する「連鎖性」まで捕捉できるので、見落としが劇的に減ります。

3. フィードバックループの設計

現場でありがちな「FMEAを書いて終わり」「FTAで紙上解決」とならないためにも、定期的に
– 新たな不具合発生時点でFTAを再度点検
– FTAから抽出された因子をFMEAリストへ速やかに加筆
– 定期的なレビュー会議で双方を突き合わせる

構造にしておくことが、持続的改善(カイゼン)風土の確立には不可欠です。

逆ETA(逆イベントツリー解析)によるリスク予測の最前線

これまでは「発生した事象から原因をさかのぼる」技法(借用FTA)が主流でしたが、近年は「ありえるリスクシナリオを網羅的に予測する」というラテラル思考ベースの逆ETAも注目されています。

ETA(Event Tree Analysis)は、事象の発生時にその後何が起こりうるか、分岐の連鎖を「未来方向」へ追う技術です。
逆にこれを応用し、「いま起点となるリスクやイベントが起きた場合、どのような波及経路が考えられるか」を想定し切ることで、

– 予測不能なサプライチェーンリスク
– AIやIoTが絡む未知の不具合シナリオ
– 多工程連動による隠れた品質事故

などにも柔軟かつ先回りして対応できるのが、逆ETAならではの強みです。

現場での逆ETA活用ポイント

具体的には、以下のステップで活用していきます。

1. 既存FMEA・FTAの成果物の「出口」や「系外リスク」を抽出
2. それぞれのリスクが引き起こす波及パターンを、プロジェクトメンバーでグループワーク的に列挙
3. 重要シナリオごとに工程観察・追加テストや、サプライヤーとの協調対策を準備
4. 新規発生した事象は必ず記録・逆ETAツリーへ反映

このプロセスを繰り返すことで、図面や仕様書だけからは見えなかった”運用リスク”や”サイレント障害”まで、定量・定性の両面からあぶり出すことができます。

昭和的アナログ現場へも浸透できるポイント

「FMEAやFTA、逆ETAと言われても、うちはまだ紙とエクセル中心だから…」という声をよく耳にします。
しかし、本質はツールの進化ではなく、「現場で集めたデータや知見を徹底的に横串し、見える化して議論する風土」にあります。

商流や工程が複雑なアナログ現場ほど

– 工場全体での横断FMEA
– サプライヤーとの合同FTAレビュー
– 工程長・作業者が加わる逆ETAワークショップ

といった、部門や年次、役職を超えた議論型実践が価値を生みます。

古き良き「記憶と勘」の現場知識も、こうした可視化のしくみにノイズとしてではなく”現場ならではのブラックスワン予測知”として活用することで、真のカイゼン・未然防止力が身につきます。

まとめ:脱・昭和のためのラテラルなリスク管理思考

FMEAやFTAは、もはや旧来手法と片付けてしまう余地はありません。
両者を現場横断型に連結し、逆ETAで波及リスクまで想像力を働かせる「ラテラルシンキング型リスク解析」が、次世代の製造業DX現場には必須となりつつあります。

現場経験者だからこそ、デジタルツールの力に頼りきらず、「人間の疑う力」「みんなで見立てる力」を徹底的に掘り起こしましょう。
その積み重ねが、生産性向上や重大不良ゼロ化へと実を結ぶ時代です。

調達購買、生産、品質、サプライヤー…すべての立場の方が明日から実践できる形で、FMEAとFTA、そして逆ETAを”連結”させた信頼性解析活動を始めることを強くおすすめします。

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