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顧客の無断設計変更で検査規格がすり替わるリスク

目次
はじめに:顧客設計変更による検査規格すり替えの現実
製造業に従事されている方や、将来バイヤーを目指す方、あるいはサプライヤーとしてバイヤーの思考を理解したい方にとって、「設計変更」と「検査規格」は避けて通れない重大なテーマです。
特に昨今の製造業界では、顧客からの設計変更連絡が事後的・口頭・曖昧になされることも多く、それに付随して検査規格(品質保証や受入基準)が知らない間にすり替わるリスクが高まっています。
この現象は、デジタル化が進んだ令和の時代になっても、未だ昭和的なアナログ慣習が根強く残る日本製造業ならではの「現場ならではの落とし穴」とも言えます。
本記事では、20年以上現場に身を置いた管理職経験者の視点から、この問題の背景や発生要因、現場で起こりがちな実例、バイヤー・サプライヤー双方の心理、そして具体的なリスク対策までを徹底解説します。
設計変更による検査規格のすり替わりとは?
現場で起こる「すり替わり」現象
設計変更が入るとき、必ずしも正式な図面や仕様書による通知がなされるとは限りません。
現場では、設計担当や調達担当、さらには営業担当から「今回はこれでお願いします」といった口頭指示や曖昧なメモ、修正テープが貼られた「暫定図面」などが持ち込まれるケースが日常茶飯事です。
すると、もともと要求していた品質規格(検査基準や工程管理ルール、外観検査の合否基準等)が、気付かないうちに「今回だけ緩く」「とりあえず現物優先で」といった形ですり替わってしまうことがあります。
なぜすり替わるのか?
この「すり替わり」は、主に以下の4つの要因で発生します。
1つ目は、情報伝達の非形式化(口頭・メール・非公式文書)。
2つ目は、設計変更時の基準明文化・履歴管理が甘い文化。
3つ目は、現場の強烈な納期意識による「多少の妥協」。
4つ目は、顧客(発注者)側とサプライヤー(供給者)側のコミュニケーション・ギャップです。
設計変更に現場が「柔軟」に応じてしまうことが、実は重大な品質リスクとなりうるのです。
アナログ慣習と現場の現実:なぜリスクが温存されるのか
昭和から抜け出せない業界土壌
日本の製造業、とくに中小企業や一部大手サプライヤーの現場では、「長年の信頼関係」「昔ながらのやり方」「現場感覚による調整」が根強く残っています。
例えば、ベテラン工場長や現場リーダーが「お得意先のいつもの依頼だから大丈夫」と判断すれば、仕様変更の文書化や検査規格の再定義が行われないまま、即日現場に実装されてしまうこともあります。
この土壌自体が大きなリスク要因です。
潤滑油としての“あいまい力”と、その落とし穴
日本の製造業は「あうんの呼吸」「とりあえずものづくり」の精神で難局を乗り越えてきた歴史があります。
ですが、現代ではその曖昧さこそが品質事故や法的トラブル、顧客信頼低下に直結します。
特にバイヤー側の設計部門から現場、そして調達へという複数部門間のコミュニケーションが発展途上の場合、「どこまでが正式な検査規格なのか」みんなが分からなくなるのです。
現場で起こった「すり替わり」事例
事例1:自動車部品の許容差 “勝手に緩和”
ある自動車部品サプライヤーの現場では、顧客メーカーから急な設計変更依頼がありました。
現品対応を優先するあまり、元々±0.1mmだった寸法公差を「このロットだけ±0.2mmでOK」とバイヤー担当が口頭で伝達。
ところが、後日品質監査時に「こんな大きな公差緩和はありえない」と顧客品質部門が反発。
結果、作った数千個の部品が全数NGの烙印を押され、億単位の損失を被る事例が起こりました。
事例2:電装品の検査方法 曖昧指示で摩擦
電装品のサプライヤーでは、顧客が設計変更に伴い「簡易検査でOKです」と指示。
しかし、実際には「ロット毎のAQL(合格品質水準)は旧基準で遵守」と品質保証規程に記載が残ったままでした。
工場現場は新しい基準で少ないサンプル検査で出荷。
後日クレームとなり、「なぜ検査方法を勝手に変えた!」と顧客品質部門から指摘を受けることになりました。
“すり替わり”が引き起こす本当のリスク
“誰も幸せにならないリスク”とは?
設計変更時の検査規格すり替わりは、短期的には「納期遵守」や「柔軟なものづくり」を達成するかもしれません。
しかし長期的には下記の重大リスクをはらみます。
-重大品質事故の発生(リコールや訴訟リスク)
-顧客信頼の喪失、商流からの排除
-サプライヤーとバイヤー間の摩擦・対立
-現場の士気低下、隠ぺい体質の助長
-このリスクは「顧客都合の柔軟対応」と「暗黙の現場ノリ」が引き起こす、“誰も得をしない”質の悪いリスクです。
バイヤーとサプライヤー、それぞれの思惑を“可視化”せよ
バイヤーが考えていること
-納期遵守を最重視している
-良かれと思って「現場に寄り添う設計変更」を選択
-だが本音では「品質NGの場合はサプライヤーが責任を持ってほしい」
-現場対応を“暗黙のスキル”と誤認している場合が多い
サプライヤーの本音
-顧客ファーストだから「何でも言う通り」にしたい
-品質より納期優先になる空気
-万が一のトラブル時、顧客都合の設計変更にもかかわらず下請け責任を問われやすい理不尽さ
-現場には「うまくやるしかない」と諦めの想いも
この認識ギャップが、設計変更時のすり替わり問題の根底にあります。
検査規格すり替えの“芽”を摘む具体的対策
1. 変更点の“書面化”と“履歴管理”の徹底
どんなに小さな設計変更でも、必ず根拠文書・設計図・仕様書に「正式に反映」する。
設計変更連絡書、改訂履歴一覧表といったドキュメント管理の徹底が重要です。
全ての顧客指示を「エビデンスとして残す」ことが、後々のトラブル回避に繋がります。
2. 三者認識擦り合わせ会議を定例化
営業・設計・品質保証・生産現場の“四位一体”で、設計変更時には必ず認識合わせのミーティングや現場レビューを実施しましょう。
特に検査規格(品質受入基準や合否基準)は「何が変わるのか」「どこは変わっていないのか」を明確にすることが鉄則です。
3. “運用現場”視点のチェックリスト整備
変更受入時の流れ・検査基準確認手順・必要な書類管理リストなど、工場現場の実態に即したチェックリストやToDoリストを準備しましょう。
「現場に判断丸投げ」しない仕組みが不可欠です。
4. デジタル化/工程管理システムの活用
設計図や工程指示・検査記録のシステム化、リアルタイムの変更履歴追跡、電子承認ワークフローの運用など、昭和的な「紙と口頭」からの決別が時代要請です。
特にサプライヤーの立場からも、「データに基づく対等なやり取り」はリスク回避の切り札になります。
まとめ:旧来思考から、リスクマネジメント型現場へ転換を
設計変更時、検査規格が知らないうちにすり替わるリスクは、現場の努力や経験だけでは根絶できません。
顧客・サプライヤーの役割、部門ごとの意図や事情、それぞれの心理を可視化し、公式文書・デジタル運用による透明性確保が何より大切です。
納期や現場調整の“柔軟力”と品質保証・トレーサビリティ重視の“見える化力”の、両輪で現代のものづくり現場を進化させていくことが、これからの製造業の生存戦略となります。
時代や設備は変わっても、「人」の判断と文化が根底を作ります。
これをきっかけに、バイヤー・サプライヤー双方が改めて“変わらない品質へのこだわり”を共有し合える現場づくりを目指してみてください。
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