投稿日:2025年6月27日

品質問題の再発を防ぐ根本原因特定と全体最適による仕組みづくり

はじめに:なぜ今、製造業で「根本原因」と「全体最適」が問われているのか

製造業の現場では、品質問題の再発が深刻な課題となっています。

不良品やクレームが発生するたびに、現場は応急処置や対症療法に追われがちです。

しかし、多くの組織で「また同じことが起きてしまった」「なぜ繰り返されるのかが分からない」という嘆きが後を絶ちません。

それは、本質的な根本原因の特定ができておらず、さらに仕組みそのものが全体最適になっていないことに起因しています。

この記事では、「根本原因特定」の重要性と、「全体最適」による仕組みづくりという視点から、再発防止のための実践的アプローチを解説します。

昭和時代から続くアナログな手法に頼り続けることで生じるリスク、またデジタル化・自動化といった新たな時代潮流をどう現場に落とし込むかも踏まえ、製造業の未来を切り拓くための考え方を共有します。

品質問題の再発がもたらす本当のリスク

表面的な対処で“その場しのぎ”がまかり通る現場

現場で品質異常やクレームが発生した際、その場しのぎの対処で済ませてしまうことはありませんか。

例えば、不良品が流出した場合、「チェック工程を増やした」「作業者への周知徹底を行った」などの再発防止策がよく挙げられます。

しかし、これはあくまで表面的な処置です。

本当にやるべきなのは、「なぜ起きたのか」「工程や仕組み自体にそもそもどんな問題があったのか」という、根本部分にまで踏み込むことです。

品質問題は企業の信頼を損ない、業界全体にも影響を与える

品質問題が再発すると、自社だけでなくサプライチェーン全体に影響が広がります。

取引先への納期遅延やコスト増。

リコールによる社会的信用の失墜。

業界の評判自体も悪化し、新規受注や優秀な人材確保にも影響が及びかねません。

これは「仕組みの脆弱さ」が顕在化したとも言えます。

根本原因を追究できない日本の製造現場──その背景と落とし穴

属人的なノウハウと“場当たり主義”から脱却する必要性

昭和から続く風土の多くの現場では、熟練工の知恵や現場判断に依存する属人的な運用が根強く残っています。

ベテラン作業者の「感覚」や「がんばり」で乗り切れる現場も多いですが、これだけでは真の再発防止は実現できません。

誰もが同じように再現できる「仕組み」としての対応が必要です。

「なぜなぜ分析」も形骸化しがち

現場には「なぜなぜ分析があります!」「5回の“なぜ”を繰り返しています!」という声がよく聞かれます。

しかし、実態は「本音で議論できていない」「先入観や思い込みで結論が誘導される」「人のせい、手順通りやっていないせいで片付けられる」ことが多いのです。

根本原因を特定できないまま手順書の修正や作業者教育に終始すると、いつか同じ問題が再燃します。

根本原因の“本質”へ辿りつくためのアプローチとは

現象を多面的・本質的に捉えるラテラルシンキングを取り入れる

「根本原因にたどり着く」とは、“問題の本質”を見抜くことに他なりません。

現象の表層だけをなぞるのではなく、本質を探るためにはラテラルシンキング(水平思考)が欠かせません。

例えば、同じ不良でも「設計」「設備」「材料」「工程」「作業者」「管理」の各視点から現象を分解し、思い込みに囚われず多角的に考えることが有効です。

「5WHY」だけでなく、「3つのM(Man, Machine, Material)」+「Method, Measurement, Mother Nature」も総点検

有名な「5WHY(なぜを5回繰り返す)」だけで止まらず、更に「人(Man)」「機械(Machine)」「材料(Material)」に加えて「方法(Method)」「測定・検査(Measurement)」「環境(Mother Nature)」の6Mで仕分けします。

設備系不良が発生した場合にも、元を辿れば「作業者の知識」「材料の品質」「測定の見落とし」「季節変動による調整不足」など、技術的+人間的要素がない交ぜになって本来の要因を形作っていることが多いのです。

全体最適の視点──「部分最適」から「全体最適」へ

“対処療法”は一時しのぎ、未来を切り拓くための全体設計へ

一つの工程や一部門(例:生産、検査、保全)で部分的な対応策ばかり打っていては、全社レベル・全工程レベルでまた他の矛盾や負荷が生まれかねません。

全体最適とは、「全社・全サプライチェーンで真に価値ある仕組みを創る」設計思考です。

これこそが品質問題の再発防止の鍵となります。

工場の“壁”、部門の“サイロ化”を壊す

設計と製造、製造と購買、検査と営業など、部署間の連携不足が根本的な問題に発展しやすいのが日本の工場の現実です。

例えば、設計変更の情報が現場に正しく伝わっていなかった。

調達で原材料仕様が変更されたが、製造の現場が認知していなかった。

こうした“サイロ(縦割り)”を壊し、「現場間コミュニケーション」「内外のサプライヤー連携」を促進する仕組みこそ、全体最適の起点です。

デジタル化、自働化時代における仕組みづくりのポイント

デジタル化や自動化の潮流のなか、データ収集・分析が容易になりました。

IoTセンサーやMES(製造実行システム)、BIツールによる可視化で、異常兆候や潜在的な問題の“見える化”が進んでいます。

しかし、ツールを導入しただけ、データがあるだけでは再発防止にはなりません。

「データを根拠にどう改善の種を見つけるか」「人とデジタル技術を一体運用できるか」が、昭和的な勘や経験頼みから抜け出す分岐点です。

実践例:「部品供給の品質不良」問題を全社でどう再発防止したか

事象

とある電子部品工場にて、組立工程で使用する外部サプライヤーからの部品に、不良品の混入が多発しクレームが発生。

品質保証部門は「入荷検査を強化」「仕入先への文書指導」を行ったものの、半年後にまた同じクレームが発生します。

現場でのラテラルシンキングによる根本原因追究

1. サプライヤー工程の現地監査・棚卸
2. 部品仕様書と実際の納入商品との比較
3. サプライヤーの教育体制、QC工程表の見直し
4. 社内受入れ検査基準の客観性評価
5. 輸送・保管環境(温湿度・振動)の実地確認

表層的には「仕入先の品質管理が甘かった」だけで片付けられる案件ですが、実際には
– 購買部門が予算・納期優先で新規サプライヤー開拓を急いでいた
– 品質保証部(検査部門)はサプライヤーの工程変化の情報を掴んでいなかった
– 設計部門が部品のスペックを旧仕様のまま運用しており、微妙な仕様ミスマッチが起きていた

という全体最適視点での“ほころび”が絡んでいました。

全体最適へ──仕組みとしての再発防止策策定

– 開発・設計・購買・品質・生産の5部門による横断型再発防止委員会設置
– 毎月のサプライヤー工程監査と、サプライヤー主導の品質向上活動支援
– 製造現場でも直接“現物”を確認できる仕掛け導入(VR工程見学、図面/3Dデータ連携など)
– IoTを活用した異常監視・トレーサビリティ強化
– 異常発生時のエスカレーションルールを標準化し、再発確認会議を運用

この実例から分かることは、「どこか一部を直す」だけでなく、「複数部門を横断した仕組みそのものの見直し」「データや現物両面の活用」「サプライヤーも巻き込んだ現場参加型改善」を進めることが、真の全体最適に繋がるということです。

バイヤー、サプライヤー、それぞれに求められる視点と行動

バイヤーに求められる役割変革

コスト・納期重視の調達から、「品質・安全・安定供給」を確保するパートナーシップ型のバイヤー像が求められます。

また、サプライヤーを「価格コントロール対象」としてだけでなく、「共に品質と競争力を生み出す協働相手」と定義し直す必要があります。

実際、自社部門・サプライヤー間、さらには顧客まで巻き込んだ「共創型の改善活動」が定着している現場は、再発防止率も格段に高いです。

サプライヤーが知っておくべき、バイヤーの期待ポイント

サプライヤーは「とにかく品質目標を守る」だけでなく、「工程変更や異常時のリアルタイムな情報発信」「製造条件や不良傾向などデータ共有」「自社工場の現場力強化」など、進化する現場に積極的に関わることが求められています。

また、自社品質問題を隠すのではなく「素早い報告・対策」をとることでバイヤーからの信頼を高められます。

まとめ:品質問題の再発防止は、未来を創る“仕組みの再構築”

品質問題の再発防止は、「根本原因の特定」と「全体最適の仕組みづくり」を推進し、昭和から続く現場感覚と、デジタル時代のイノベーションを“かけあわせる”ことが不可欠です。

現場任せや属人的運用に頼ることなく、「部門をまたぐ横断型」「サプライヤー、バイヤー双方の共創」「データと実態を融合した分析・改善」というラテラルシンキングで、新たな製造業の地平線を切り拓きましょう。

自社の現場で、あるいは取引先サプライヤーとの関係構築で、ぜひ一歩踏み込んだ再発防止の取り組みを始めてみてください。

You cannot copy content of this page