SEBS耐酸性ケーブルシースと海底通信ケーブル現地試験

はじめに：SEBS耐酸性ケーブルシースが果たす役割

現代社会のデジタルインフラを支える海底通信ケーブルは、海洋という過酷な環境下で長期にわたり安定的に機能し続けることが求められます。

そのため、これらのケーブルのシース、すなわち外被材料には厳しい耐環境性能が必要となります。

最近、SEBS（スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体）を用いた耐酸性ケーブルシースが注目されるようになってきました。

本記事では、SEBS耐酸性ケーブルシースの基本知識から、海底通信ケーブルでの現地試験の実際、そしてアナログな製造業現場での実際の導入課題まで、現場目線で徹底解説します。

製造業に勤める方、バイヤーを目指す方、またはサプライヤーの立場でバイヤーの思考を知りたい方に向けて、業界動向や今後の展望も深掘りします。

SEBS素材とは何か？製造業での実用性

そもそもSEBSとは？

SEBSは、熱可塑性エラストマーの一種です。

スチレン系ブロック共重合体として、ゴムのような柔軟性とプラスチックのような成形性を両立しています。

特に耐熱性、耐酸性、耐候性に優れているため、近年は従来の塩化ビニル（PVC）やポリエチレン（PE）などの素材に代わって多様なケーブルシースに利用され始めています。

なぜ今SEBSなのか？

昭和期から続いているアナログ的な慣習が色濃く残る日本の製造現場では、新素材の導入には抵抗感が残りやすいものです。

しかし、海洋酸性化や海水中の化学物質濃度の上昇など、海底通信ケーブルに求められる過酷な環境は年々厳しさを増しています。

そこで、SEBSが持つ高い耐酸性・耐加水分解性・耐UV性能が再評価されてきたのです。

また、PVCなどに比べて可塑剤を使わずに柔軟性を得られるため、コンプライアンスや環境対応が求められる令和の時代では、今後確実に“外せない選択肢”となるでしょう。

SEBSシースと従来材料の違い

従来のPVCやPEシースは、低コストかつ加工性に優れ、多くのケーブルで長年採用されてきました。

ただし、PVCは可塑剤の劣化によって硬化・割れを生じやすく、また海水や油などに対する耐性がやや劣ります。

PEは高い絶縁性を誇る一方、摩耗や切削に対して脆弱となる場合もあります。

一方、SEBSは…

– 酸や塩分、油分に対する高い耐性
– 柔軟性を持続
– 高温・低温下でも物理特性を維持
– ハロゲンフリー、環境負荷が低い

などの特長があり、長寿命かつ環境要求の厳しい現代の設置条件によりマッチしています。

海底通信ケーブルとSEBSシース：現場目線の実戦投入

海底ケーブルの過酷な環境

海底通信ケーブルは、文字通り深海の海底に何千キロにもわたって敷設されます。

潮流や塩分、魚介類による物理的な損傷、深海での高圧環境、そして地殻変動や海底ガスなど、様々なストレス要因が存在します。

特に近年、海洋環境が酸性化しつつあり、従来のシース材料では寿命の短縮や絶縁破壊が懸念されます。

SEBSシース採用時の現地試験とは

では、実際にSEBSを採用した際、どのような現地試験が実施されるのでしょうか。

主に行われているのは、

– 海中浸漬試験
– 酸性化した人工海水での長期耐久テスト
– 機械的摩耗・圧縮・衝撃テスト
– 高圧耐電圧試験
– 低温・高温繰り返しサイクル試験

といった工程です。

これらの試験は、「ラボレベル」だけではなく、実際の海底ケーブルルートに模した現場環境で実施され、その条件下で何年もかけて耐久性や変質挙動が観察されます。

ベンダーとしては膨大な期間とコストが掛かるものの、ここをクリアしなければ実海域での本格採用には至りません。

現場視点での課題と工夫

SEBSは新しい材料ゆえ、その特性を生かすには「従来のプロセスの見直し」が不可欠です。

例えば、

– 押出成形時の温度制御の最適化
– シース内部への気泡混入防止策
– 材料ロス削減、歩留まり向上のノウハウ蓄積
– シース-心線間の密着性向上技術（防水、防食性強化）

など、量産体制を組むには現場での小さな工夫が積み重ねられています。

また、SEBSは異種材料との密着や膨潤反応などにも注意が必要で、熟練のオペレーターによるハンドリングと、生産管理側の徹底したパラメータ監視が必須です。

昭和の「勘と経験と度胸（KKD）」だけに頼らず、IoT・AIを使った工程管理や品質センシングも今後ますます求められます。

バイヤーの視点：なぜSEBSケーブルシース導入を選ぶのか

コストだけでは測れない“真の価値”

調達現場においては、SEBSシースケーブル導入の意思決定は決して簡単ではありません。

導入初期には材料費・設備投資コストが従来材より高くつく可能性があります。

しかし、バイヤーが注目すべき点は、「トータルライフサイクルコスト（LCC）」の考え方です。

– 海底ケーブルの張替周期の長期化
– 環境規制（RoHS、REACHなど）への適合
– トラブルによる通信途絶→損害回避
– サステナブルなブランドづくり

これらの定量・定性メリットは、単なる材料単価の比較では見えてきません。

競争力のあるメーカー・サプライヤーになりたいなら、こういった視点での提案力強化が必須です。

サプライヤーとして訴求すべき点

バイヤーが本当に知りたいのは、単なる「スペック表」ではありません。

– 従来品と比べた具体的な実績データ
– 課題発生時のトラブル対応力（24時間サポート、現地対応可否など）
– 安定供給体制、バックアップ生産ラインの有無
– 省エネ、省人化、一括生産ノウハウ
– “経験ベース”のQ&Aや現場ノウハウ集

これらを、できれば「現場での使い心地」や「実際の導入事例」と絡めて示すことが、サプライヤーへの信頼感につながります。

現場力と提案型営業力の二輪駆動が、バイヤー側の意思決定スピードと納得感を大きく左右します。

今後の展望と製造業現場におけるラテラルシンキングの重要性

SEBS素材の進化がもたらす新たな可能性

今後、SEBSは従来用途（ケーブルシース、ホース、パッキン等）だけでなく、

– 耐酸性フィルム
– 水中ロボット用カバー
– 医療・食品機器分野

への応用も見込まれています。

また、SEBS複合材料（グラフェン複合など）やバイオベースSEBSといった「環境＋機能強化型」も研究開発が進んでいます。

業界全体としても、「いいものは一部の現場だけでなくサプライチェーン全体に展開していく」横型拡張思考（ラテラルシンキング）が今まさに求められています。

アナログ現場から脱却するには？

日本の製造業はまだまだ、「前例踏襲」「属人的ノウハウ」に頼る傾向があります。

ですが、

– 現場でさまざまなデータを取り、デジタルで「見える化」すること
-失敗談や“なぜ上手くいったか”といったベタな現場話を、若手や異分野にもオープンにすること
– サプライヤー・バイヤー・エンドユーザーが同じ現場で「本音デスカッション」をする機会を増やすこと

こういった地道な取り組みが、新しい材料の可能性、社会インフラ安全化の発想につながります。

まとめ

SEBS耐酸性ケーブルシースは今後の海底通信ケーブルにおける「ゲームチェンジャー」となる可能性を秘めています。

新素材の実用化には、現場での失敗や工夫、バイヤーの本音、アナログ業界ならではの課題に真摯に向き合う姿勢が不可欠です。

製造業のプロや現場目線の方々、サプライヤーの立場の方もぜひ積極的な情報発信と“現状打破”の精神で、新たな地平線にチャレンジしてください。

過酷な海洋環境に耐えうるシース材料の進化は、私たちの知らないところで、社会を根本から支えています。

そして、その進化の現場には、あなたの“挑戦”が不可欠なのです。