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需要変動が激しい消耗品を安定的に供給するための複数調達先の確保

目次
はじめに:複数調達先の確保が消耗品調達のカギ
製造業の現場では、あらゆる製品の「消耗品」――たとえば研磨材、手袋、工具部品、検査用具、油脂類などは、なくてはならない存在です。
特に生産現場では、こうした消耗品の需要が生産計画や突発的なトラブル、季節変動などによって大きく増減することが珍しくありません。
需要変動が激しいこれらの消耗品を安定的に供給することは、製造ラインを止めず、不良品や納期遅延といったリスクを未然に防ぐためにも極めて重要です。
本記事では、昭和的な「顔の見える仕入れ先」文化を根強く引き継ぐアナログな製造業界で、なぜいま複数調達先の確保がより一層求められているのか。
そして古い慣習にどう向き合いながら、安定供給を実現する調達購買の戦略や実践ノウハウを現場目線で解説します。
これからバイヤーを目指す方、またサプライヤーの立場からバイヤーの思考を理解したい方にも役立つ視点を意識し、最新動向と現実的な対応策を深掘りします。
なぜ消耗品調達は “単一” から “複数”へ?
需要変動の激化と、従来型調達の限界
近年、世界情勢の不安定化や国際物流の停滞、新興国の台頭、気候変動にともなう原材料の高騰や供給量の変動など、消耗品調達をめぐる環境は激しく変化しています。
たとえば、コロナ禍の際にはグローブや消毒液、マスクなどが世界的に供給不足に陥りました。
またグローバルに発注していた部品が突然入荷しない、国内の特定サプライヤーが災害で工場停止に追い込まれる、といった緊急事態も現実として多発しています。
一方、さまざまなコストダウン・生産効率化の流れのなかで、かつては「実績があり融通が利く」1社のサプライヤーに依存してきた企業も多いと思います。
しかし単一調達のリスクは、自社の生産活動や納期厳守へのダメージとなり、最終的にお客様や社会全体への信用喪失につながりかねません。
複数調達先確保はもはや常識
調達先を複数に分散する動きは、自動車、エレクトロニクス業界など広範囲に広がっています。
特にグローバルサプライチェーンを保有する上位メーカーでは、BCP(事業継続計画)の観点からも調達の多元化は避けて通れない課題です。
消耗品分野でも、原材料価格の乱高下や、納期の遅延、品質トラブル対応の「受け皿」として複数社との関係構築を進めることが求められます。
現場の“止まらない”を守るための複数調達先の確保は、いまや購買の常識であり、現場マネージャーや工場長の大きな使命とも言えます。
アナログ業界の根強い課題と複数調達導入の壁
「付き合い文化」と属人的調達の弊害
ところが消耗品分野、とりわけ中堅・中小企業や伝統的な“昭和型の商慣行”を守る業界では、いまだに「昔からの取引先だから」「困ったときに助けてくれる」「口約束で納品してもらえる」といった要素で取引先を決めている現場も多く見受けられます。
こうした“付き合い文化”は、1社依存や担当者の属人化を招きやすく、調達戦略の硬直化や価格競争力の低下を引き起こします。
加えて、“もしもの時”に体制転換ができない、情報収集が遅れる、トラブル時のリカバリーが難しい、といったリスクが常に付きまといます。
複数調達先確保の現実的なハードル
複数調達先の導入には、いくつかの障害も伴います。
・現場の切り替えコストや手間がかかる
・サプライヤー品質や供給安定性の基準がバラバラ
・検査や工程管理の標準化が必要
・商流や帳票類、発注・納受管理の煩雑化
そのため、どう進めればよいのか分からない、面倒に思って手を付けられない、といった心理的負担も大きくなりがちです。
現場で実践できる「複数調達先確保」戦略
1. サプライヤーの“見える化”から始める
まず着手したいのは、自社が現在どんな消耗品をどの仕入先からどの量・どの頻度で調達しているのかを可視化することです。
・仕入先リスト・取扱品目
・調達実績と使用傾向
・供給実績、品質トラブル履歴
・納品スピード・サービス内容
・万一時のレスポンス能力
これらのデータを現場の購買部門、現場担当者、品証部門などが連携して整理します。
エクセルレベルでも十分スタートできますし、最近はサプライヤーマネジメント専用のクラウドソフトも充実してきました。
2. “追加調達先”の設計と評価軸を明確にする
調達品目ごとに、既存仕入先の「バックアップ」が可能な代替サプライヤー候補をピックアップします。
その際重要なのは、価格だけでなく、以下の観点から評価する多元的な目線です。
・品質性能、検査体制
・供給リードタイムとキャパシティ
・緊急時対応力(短納期、現地対応など)
・コスト競争力
・物流網や拠点分布
・環境対応や法令対応
評価シートを作成し、候補サプライヤーとの面談や工場見学もおすすめです。
3. 消耗品サプライヤーとの「定期的な情報交換・訓練」
サプライヤーは黙っていても自社の事情をすべて理解しているわけではありません。
変更や新規追加があった場合、現場との調整やミニマムロットの可否、最短納期確認をきちんと相談する場を設けます。
また年1回の災害訓練、BCP訓練の一環として「ある消耗品が突然入手不能になった場合」のシナリオ訓練を、一緒に実施してみることも有効です。
4. 消耗品ごとの優先順位付けと分散比率
すべての品目を無差別に複数調達にするとコスト増や手順の複雑化だけが進みます。
現実には「非常時調達用」「納期優先」「価格交渉用」「品質検証目的」など、それぞれの目的で分散比率(例:A社60%、B社40%)を調整して設計します。
特に、定常的に消費する量が多いものや納期遅延=大トラブルにつながる品目には、サプライヤーの平常取引枠を確保しておくことが大切です。
5. デジタルツール活用でヒューマンエラー撲滅
発注や納品・在庫管理をできるだけデジタル化し、発注ミス・伝達ミスを防ぐ仕組みを導入します。
EDIやバーコード管理など簡易なIT活用から始め、将来的にはAIが選定・発注をサジェストする仕組みも現実になってきています。
システムは、すべてがハイスペックでなくても構いません。
現場目線でムリなく使える仕組みを選び、現場の不安・抵抗を最小限にすることが重要です。
バイヤーの視点、サプライヤーの視点――それぞれの本音と期待値
バイヤー(調達担当者)の本音
調達担当者は、「安定供給」と「コスト低減」の矛盾した命題を同時に求められることが多くあります。
現場で一番恐れるのは、やはり「いきなり供給が止まる」リスクです。
一方で、サプライヤーを増やすことで逆に管理負担やコスト増が起きる現実も悩みのタネです。
また、サプライヤー選定・追加の際は、上司や工場長、現場責任者の納得感を得るために、分かりやすくロジカルに説明できるデータや実績が欠かせません。
サプライヤー側の本音
新規サプライヤーや代替サプライヤーとして参入する際、「自社のできること・できないこと」を率直に開示してほしいという声が多いです。
ニーズの量や納期、要求品質が不明瞭だったり、突然の値下げ交渉や突発発注に困惑したりなど、現場でのトラブル防止には“事前のすり合わせ”が不可欠です。
バイヤーが“パートナー視点”で、長期的な関係構築や情報共有、共通課題への協力を重視してくれると、サプライヤー側も「この会社のためにがんばろう」と積極的な姿勢を見せてくれます。
まとめ:昭和的アナログから“次世代調達”への進化を目指して
需要変動が激しい消耗品の安定供給には、戦略的かつ現場に根付いた複数調達体制の構築がカギを握ります。
「昔からの取引先が一番安心」という考え方だけに頼る時代はすでに終わりつつあります。
これからの製造業バイヤーは、サプライヤーとのパートナーシップを深めつつ、非常時に強いサプライチェーンをデータに基づきデザインし、現場・経営層・サプライヤーを巻き込んで“脱・属人的調達”を志向する必要があります。
現場で培った知見と実行力、アナログな工夫とデジタルの相乗効果を活用し、消耗品調達という一見“地味”な分野こそ、製造業全体の強靭さを底上げする原動力となるのだと、私は現場・管理職両面の経験から確信しています。
ぜひこの機会に、自社の消耗品調達体制を見直し、新たな地平を切り拓く第一歩を踏み出してください。
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