- お役立ち記事
- 鉄道車両部品の防火基準を調達で確かめる——国内の燃焼性区分と EN 45545
鉄道車両部品の防火基準を調達で確かめる——国内の燃焼性区分と EN 45545

この記事のポイント(結論先出し)
鉄道車両の内装や座席に使う部品を調達するときは、まずその部品が車両のどの部位に使われ、どの燃焼性の区分(不燃性・極難燃性・難燃性)を求められているかを、鉄道事業者や車両メーカーの仕様書で確かめる。国内では「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」第 83 条と、その解釈基準が材料の難燃化を中心とした対策を示しており[3]、区分は B5 判の試験片を 45° に傾けてアルコールで燃やす試験の結果で決まる[1]。欧州向けの車両では EN 45545 が使われ、着火性・延焼性・発熱性・発煙性・ガス毒性の 5 項目を複数の試験で評価する[3]。国内の区分を持っている材料でも、欧州の要求を満たすとは限らない。
目次
「難燃材を使ってください」では、何も決まっていない
鉄道車両の部品を受注した車両メーカーや、その下で内装材・座席・電線・樹脂部品を納める仕入先から、「この部品は難燃材で」と頼まれることがある。この一言では、どの試験で、どの区分を満たせばよいのかが決まっていない。一般の電気製品でよく使う UL94 の燃焼性の等級(UL94/V-0 の解説)とも、試験のやり方がまったく違う。
鉄道車両の材料は、国内向けなら省令と解釈基準に沿った区分、欧州向けなら EN 45545 の要求というように、どこを走る車両かで物差しが変わる。さらに、同じ車両の中でも、天井・内張・床・座席・電線で求められる区分が違う。調達する側が最初にやるべきことは、材料を探すことではなく、その部品に適用される要求を顧客の仕様書から特定することである。
この記事は、鉄道車両向けの部品を調達する側(車両メーカーへ納める部品の仕入先、その材料の購入先を含む)が、防火の要求をどう確かめ、仕入先に何を出させるかを整理する。鉄道分野の品質マネジメントの規格(ISO/TS 22163)が重視される背景はISO/TS 22163 が鉄道産業で重視される理由にある。
📄 実務で使うなら — 原価のつかみ方(全 5 章・無料サンプルあり)
国内の車両:省令第 83 条と解釈基準の区分
鉄道総合技術研究所と東京理科大学の研究者による 2024 年の論文は、国内では「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」の第 83 条とその解釈基準に、材料の難燃化を中心とした対策が示されていると説明している。材料の難燃性は、小型の試験片を使った試験(B5 判の試験片を使う「45° 法」と、コーンカロリーメータ試験)の結果でレベル分けされ、材料の用途や車両の部位ごとに使える材料のレベルが決められている[3]。
運輸安全委員会が 2016 年に公表した東海道新幹線の列車火災事故の調査報告書は、参考として省令第 83 条(旅客車の車体は、予想される火災の発生及び延焼を防ぐことができる構造及び材質でなければならない)と、解釈基準の「鉄道車両用材料の燃焼性規格」と試験方法を抜粋して載せている[1]。そこに書かれた試験の条件は次のとおりである(報告書の時点の内容。現在の解釈基準は所管官庁の資料で確かめる)。
| 項目 | 解釈基準の試験方法Ⅰ(報告書の抜粋) |
|---|---|
| 試験片 | B5 判(182 mm × 257 mm)を 45° に傾けて保持 |
| 火源 | 純エチルアルコール 0.5 cc を燃料容器に入れて着火し、燃え尽きるまで放置 |
| 火源の位置 | 燃料容器の底の中心を、試験片の下面中心の垂直下方 25.4 mm に置く |
| 試験室の条件 | 温度 15〜30 ℃、湿度 60〜75 %、空気の流動がない状態 |
| 吸湿性の材料の前処理 | 所定寸法に仕上げ、通気性のある室内で直射日光を避け、床面から 1 m 以上離して 5 日以上置く |
| 観察 | 燃焼中は着火・着炎・煙・火勢、燃焼後は残炎・残じん・炭化・変形 |
| 区分 | 不燃性・極難燃性・難燃性。異常発炎するものは区分を 1 段下げる |
報告書に抜粋された表では、たとえば不燃性は燃焼中に着火・着炎がなく煙が僅少で、燃焼後の炭化が 100 mm 以下の変色、変形が 100 mm 以下の表面的変形とされている。難燃性は着火・着炎があっても炎が試験片の上端を超えず、残炎・残じんがないものとされている[1]。発注側が覚えておくべきなのは、この区分が材料をこの形の試験片にして測った結果だということである。同じ材料でも、厚さや表面の処理が変われば結果は変わりうる。
部位ごとの区分は、鉄道事業者の実施基準で決まる
どの部位にどの区分の材料を使うかは、鉄道事業者が技術基準に基づいて定める実施基準で決まる。前出の報告書は、事故を起こした車両の事業者の実施基準から、新幹線旅客車の火災対策の表を抜粋している。そこでは、客室の天井・内張・断熱材及び防音材が不燃性、床の上敷物が難燃性、床上敷物の下の詰め物が極難燃性、座席の表地と詰め物が難燃性、日よけが難燃性とされ、天井にはさらに、放射熱に対する耐燃焼性と、耐溶融滴下性(アルコール燃焼後の材料表面が平滑性を保っていること)も求められている[1]。
これは一事業者の一車種の例で、他の事業者や車種で同じとは限らない。日本ゴム協会誌の解説も、部位ごとの要求区分の表を例として示している[4]。部品を調達する側は、例の表で判断せず、納入先の仕様書に書かれた区分を確かめる。
座席の JIS も、燃焼性は事業者の仕様に委ねている
旅客用の腰掛(座席)には JIS E 7104 があるが、燃焼性の値は自ら決めていない。腰掛に使う非金属材料の耐燃焼性は、鉄道事業者が仕様書などで要求する性能(例として難燃性・不燃性)を満足しなければならない、と書いている[2]。座席の形状や寸法とその許容差も、受渡当事者間で交換する図面で協定するとしている[2]。座席の表地・詰め物・樹脂部品を仕入れるときは、JIS の番号ではなく、事業者の仕様書のどの条項に適合させるのかを発注書に書く。
🛠 発注の管理なら — 発注書の作成から送付、進捗の確認までをひとつの画面で行える Newji one(製造業の見積・発注クラウド/サービス資料は無料)
欧州の車両:EN 45545 は評価の項目が多い
前出の 2024 年の論文によると、欧州には鉄道車両の火災防護の規格として EN 45545 があり、材料に求める性能を着火性・延焼性・発熱性・発煙性・ガス毒性の 5 項目に分け、一つの材料に複数の試験を行って燃焼性を総合的に評価している。材料の小型試験だけでなく、実大の腰掛の燃焼試験や構体部材の加熱試験のような大規模な試験を含むことも特徴とされている[3]。論文の参考文献では、材料と部品の燃焼挙動の要求事項を定める部が EN 45545-2(2020 年版)として挙げられている[3]。
日本機械学会の講演論文(2015 年)は、日本の車両メーカーが欧州市場に入るときの承認の手続きを防火を例に説明し、材料特性・車両設計・安全システムへの要求が EN 45545 シリーズや相互運用性の技術仕様(TSI)に定められていること、検証と設計文書の整合のために独立した検査機関を初期の段階から関与させる必要があることを挙げている[5]。
国内の区分と並べると、違いは次の点にある。
- 評価の項目:国内の 45° 法は燃え方の観察で区分するが、EN 45545 は発煙やガスの毒性まで含む 5 項目を評価する[3]
- 試験の数:EN 45545 は一つの材料に複数の試験を行う[3]。国内で「不燃性」の材料が、欧州の要求の試験を一つも受けていないことは普通にある
- 確認の仕組み:欧州では第三者の検査機関が関与する[5]。試験成績書をどの試験所で取ったかが問われうる
したがって、国内向けで実績のある材料を欧州向けの車両にそのまま使えるとは考えない。欧州向けの案件では、顧客(車両メーカー)から、部品ごとに当てはまる EN 45545-2 の要求と、受け入れる試験報告書の条件を書面でもらう。
調達で確かめること
ここからは、鉄道車両向けの部品を調達する側の進め方の提案である。規格や基準が定めている手順ではない。
1. 部位と区分を特定する。部品が車両のどこに使われるか(天井、内張、床、座席、電線、機器の筐体など)と、適用される区分・要求を、顧客の仕様書の条項番号とともに発注書か購買仕様書に書く。顧客の仕様書が手元にないときは、取り寄せてから材料を選ぶ。
2. 試験成績書の中身を照合する。仕入先から燃焼性の試験成績書を出させ、試験方法(国内の解釈基準の方法か、EN 45545-2 の要求に対応する試験か)、試験片の材料名・グレード・厚さ・色、試験の日付と試験機関を確かめる。成績書の材料と、実際に納める部品の材料・厚さが一致していなければ、成績書は使えない。天井材のように、不燃性の区分に加えて放射熱に対する耐燃焼性や耐溶融滴下性まで求められる部位では、その確認の結果も成績書に載っているかを見る。区分の欄だけでは足りない。
3. 材料の変更を承認制にする。樹脂やゴムのグレード、難燃剤の配合、表面の塗装、接着剤が変わると、燃焼性の結果は変わりうる。仕入先が材料の購入先や配合を変えるときは事前に知らせ、承認を得ることを購買仕様書に書く。樹脂の代替グレードを承認するときの考え方は樹脂のグレード指定と代替グレードの承認、ゴム部品の配合変更の扱いはゴム部品の材質と硬さの指定で扱う。
4. 組み合わせで変わるものに注意する。表地と詰め物、パネルと塗装、基材と接着剤のように、材料を重ねて使う部品は、単体の材料の区分だけでは判断できないことがある。どの状態の試験片で区分を取ったのかを、成績書で確かめる。接着剤やシーラントを使う部品の指定は接着剤・シーラントの仕様指定にある。
5. 電線・電気部品は別の要求を確かめる。日本ゴム協会誌の解説は、省令の火災対策の柱として、車両用電線の発火防止、アークや熱を発生するおそれのある機器への保護装置、旅客車の車体の構造・材質、早期消火の装置を挙げ、部位の例の表では電線被覆や電気絶縁材料にも難燃性が求められている[4]。電線を含むハーネスの指定はワイヤーハーネスの発注で指定すること、電気部品の認定の確かめ方はUL 認定部品の確かめ方で扱う。
よくある質問
UL94 で V-0 の樹脂なら、鉄道車両にも使えますか
UL94 の等級と、鉄道車両の燃焼性の区分は、試験のやり方が別である。国内の区分は 45° 法などの結果で決まり[1][3]、欧州の EN 45545 は 5 項目を複数の試験で評価する[3]。V-0 であることは参考にはなるが、それだけで適合とはいえない。顧客の仕様が求める試験の成績書をそろえる。
座席を海外の工場で作らせたいのですが、何を渡せばよいですか
形状・寸法と許容差の図面に加えて、事業者の仕様書のうち材料の燃焼性に関わる条項を渡す。JIS E 7104 は燃焼性を事業者の仕様に委ねているので[2]、JIS の番号だけを渡しても燃焼性の要求は伝わらない。海外の工場が使う表地・ウレタンなどの材料について、要求する試験の成績書を量産前に出させる。
国内向けの車両で使っている材料を、欧州向けにも使えますか
そのままでは判断できない。評価の項目と試験の数が違うためである[3]。欧州向けの要求に対応する試験の結果がない材料は、試験を受けさせるか、結果のある材料に替える。どの試験報告書を受け入れるかは、第三者の検査機関の関与も含めて顧客と決める[5]。
まとめ
鉄道車両の部品の防火は、「難燃材で」の一言では決まらない。国内向けなら、省令第 83 条と解釈基準の区分(不燃性・極難燃性・難燃性)のうち、事業者の実施基準や仕様書がその部位に求めるものを確かめる。区分は B5 判の試験片を 45° に傾けてアルコールで燃やす試験などの結果で決まり、材料の厚さや組み合わせで結果は変わりうる。欧州向けなら EN 45545 の 5 項目の評価が加わり、国内の区分の材料がそのまま通るとは限らない。発注側は、部位と要求の条項、試験成績書の照合、材料変更の承認を、発注書と購買仕様書に書いておく。
出典・参考資料
- 鉄道事故調査報告書 RA2016-5 Ⅱ 東海旅客鉄道株式会社 東海道新幹線 新横浜駅~小田原駅間 列車火災事故(運輸安全委員会/2016 年 6 月 30 日。巻末の参考に省令第 83 条と解釈基準の抜粋)
- JIS E 7104:2015 鉄道車両-旅客用腰掛(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2015 年 1 月 20 日改正・2024 年 10 月 25 日確認)
- 鉄道車両用腰掛燃焼性状に関する研究——小規模材料燃焼試験結果を用いた発熱速度予測モデルの構築(高野純一・松山賢/日本火災学会論文集 第 74 巻第 3 号/2024 年)
- 難燃性高分子材料(Ⅴ)自動車用材料,鉄道車両用材料,建築材料,その他と難燃化技術(西澤仁/日本ゴム協会誌 第 87 巻第 2 号/2014 年)
- Japanese Rolling Stock Vehicles in Europe? Process of Approval, Example Fire Safety(日本機械学会 鉄道技術連合シンポジウム講演論文集/2015 年。抄録を閲覧)
要求の決まった部品を、条件をそろえて生産先に伝える
newji の OEM/ODM 生産では、金属・樹脂・電子部品を対象に、品質要求と数量・納期・コストから国内外のサプライヤーネットワークの中で生産先を選定します。海外の生産先との技術仕様のすり合わせを日本語で取りまとめ、試作品で寸法・外観・機能を確かめてから量産に進めます。設計そのものはお受けしていませんが、材料選定など設計段階の技術的な助言はご相談いただけます。
この記事の理解を深める
無料ホワイトペーパーをプレゼント
製造業の現場で使える実務資料(PDF)を無料でお届けします。"こんな資料が届きます" ↓ 下のボタンからどうぞ。
FREE DOCUMENT — サービス資料(PDF・無料)
見積依頼から比較まで、
ひとつの画面にまとめる方法
Newji one は、製造業の調達・受発注に特化したクラウド/AIエージェント。見積依頼・発注書作成・進捗管理・承認をひとつの画面に集約し、AIが比較と異常検知を担当。最後の「GO」だけ人が押す仕組みです。
▶ 見積依頼から比較までをひとつの画面にまとめる方法を、資料で見る(PDF・無料)
- 見積〜発注〜納期を一元管理。催促・転記のムダをゼロに
- AIが相見積もり比較と異常検知。あなたは判断だけに集中
- 取引先は「招待」で完全無料。自社コストだけで取引先ごとデジタル化
※ 取引先から招待された企業様は完全無料でご利用いただけます
見積・発注クラウド Newji one
受発注が増えるほど、入力・確認・催促が重くなる。
受発注管理を“仕組み化“して、ミスと工数を削減しませんか。
見積・発注・納期まで一元管理できます。
