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潤滑油・グリースの指定——JIS の種類・ちょう度番号・ISO VG と食品機械用の区分

この記事のポイント(結論先出し)
潤滑油とグリースは、「○○社の△△」と銘柄で指定するか、JIS の種類と番号で性能を指定するかのどちらかで決める。グリースは JIS K 2220 が、用途別の種類・種別・ちょう度番号で「一般用グリース 1 種 2 号」のように呼ぶ形を定めている[1]。工業用潤滑油の粘度は JIS K 2001 の ISO 粘度グレード(ISO VG)で、40 ℃の動粘度の中心値の±10 % が範囲になる[2]。ただし、JIS K 2220 は ISO の分類を食品との接触のような特殊な用途への適性を示すのに使ってはならないと書いている[1]。食品機械用は、NSF の登録区分(H1・H2・H3)や ISO 21469 のように、別の要求として指定する[4]。
目次
「いつもの油」で発注すると、何が起きるか
設備の保全や組立の現場で使う潤滑油・グリースは、消耗品として購買に回ってくることが多い。「いつもの油を 20 L」「軸受用のグリースを 1 箱」という依頼で、過去の購入履歴を見て同じ品番を発注する。品番が廃番になったり、別の代理店から買うことになったりすると、カタログで「同等品」を探して切り替える。
このとき、何をもって同等とするかが決まっていないと、粘度は同じでも添加剤の構成が違う油や、硬さは同じでも増ちょう剤(油を半固体にする成分)の違うグリースが入ってくる。潤滑油は、多くの場合、原油から精製される基油(ベースオイル)に、目的に応じたさまざまな添加剤を溶かして調合される[5]。腐食防食学会誌の解説は、潤滑剤の役割として、摩擦の制御、摩耗の制御、温度の調整、腐食の抑制、汚れの除去、シールの形成、衝撃の緩和、力の伝達の 8 つを挙げている[5]。粘度や見た目が同じでも、こうした役割のどれかが弱くなっていることがある。
部品として仕入れる場合も同じである。軸受やギヤユニット、モーターなどにあらかじめ封入された潤滑剤、組立工程で塗布させるグリースは、図面や仕様書に書かなければ仕入先が選ぶ。この記事は、潤滑油とグリースを買う側・指定する側として、何を書き、何を確かめるかを整理する。軸受の封入グリースの指定は軸受を調達するときでも扱う。
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グリースは「種類・種別・ちょう度番号」で呼ぶ
JIS K 2220:2023 は、グリースを用途によって 7 種類(一般用、転がり軸受用、自動車用シャシー、自動車用ホイールベアリング、集中給油用、高荷重用、ギヤコンパウンド)に分け、さらに成分と性能による種別と、ちょう度番号で細分している[1]。製品の呼び方は、この種類・種別・ちょう度番号による(例:一般用グリース 1 種 2 号)[1]。
ちょう度は、規定の円すいがグリースに進入する深さで表す硬さの指標で、0.1 mm 単位の値を 10 倍した数で表す[1]。ちょう度番号は、混和ちょう度(グリース混和器で規定回数混ぜた後のちょう度)の範囲で決まる。
| ちょう度番号 | 混和ちょう度の範囲 |
|---|---|
| 1 号 | 310〜340 |
| 2 号 | 265〜295 |
| 3 号 | 220〜250 |
(JIS K 2220:2023 表 1 から一部を抜き出した。全体は規格を参照[1]。ちょう度の値が大きいほど柔らかく、番号が大きいほど硬い)
番号は 000 号から 6 号までの 9 段階で、規格は 000 号・5 号・6 号を用途が特殊なものとして品質性能と試験項目を規定していない[1]。種類ごとに、使えるちょう度番号と使用温度の範囲、荷重・水との接触・衝撃への適否の目安が表で示されている。たとえば転がり軸受用グリースは 1 種(汎用)・2 種(低温用)・3 種(広温度範囲用)に分かれている[1]。
発注書や図面に「JIS K 2220 転がり軸受用グリース 3 種 2 号」と書けば、種類と硬さ、それに対応する品質と試験の項目まで一度に決まる。「グリース 2 号」とだけ書くと、硬さしか決まらない。
容器の表示で、ロットと製造年月日を確かめる
JIS K 2220 は、容器の見やすい所に容易に消えない方法で、種類(用途別・種別・ちょう度番号)、正味質量、製造業者名またはその略号、製造年月日またはその略号、ロット番号を表示するよう定めている[1]。受入では、注文した種類と表示が一致しているか、製造年月日とロット番号が読めるかを確かめる。古い在庫を長く置かないために、何か月以内に製造されたものを納めるかを発注側で決めておく方法もある(規格が保管期間を決めているわけではない)。
潤滑油は「ISO VG」と種類で指定する
工業用潤滑油の粘度は、JIS K 2001 の ISO 粘度グレードで指定する。規格は ISO VG 2 から ISO VG 3200 まで 20 のグレードを定め、各グレードの許容される動粘度は 40 ℃における中心値の±10 % としている。たとえば ISO VG 32 は 28.8〜35.2 mm²/s、ISO VG 68 は 61.2〜74.8 mm²/s である[2]。表示は「ISO VG 46」のように略してよい[2]。
ただし、ISO VG が決めるのは 40 ℃での粘度の範囲だけである。油圧作動油・ギヤ油・軸受油・タービン油のように、用途によって求められる添加剤の性能は別にある。腐食防食学会誌の解説は、ある石油会社の製品だけでも工業用潤滑剤が用途ごとに多数のラインアップに分かれていることを示している[5]。発注するときは、粘度のグレードと、用途(油の種類)と、機械側の指定をそろえて書く。機械の取扱説明書に油の種類と粘度が指定されていれば、それが出発点になる。
銘柄で指定するか、性能で指定するか
ここからは、発注側の進め方の提案である。
銘柄で指定するのは、機械メーカーが銘柄を指定している場合、すでに使って問題のない実績がある場合、混ぜたくない場合である。銘柄で指定すれば、配合も含めて固定できる。ただし、製造者が配合を変えることや、廃番になることはありうる。代理店経由で買うなら、配合の変更や廃番の連絡をどう受けるかを決めておく。
性能で指定するのは、複数の製品から選ばせたい場合、海外の工場で現地調達させたい場合である。グリースなら JIS K 2220 の種類・種別・ちょう度番号、潤滑油なら ISO VG と油の種類と、必要な追加の性能(使用温度の範囲、耐水性、極圧性など)を書く。JIS K 2220 の附属書は、ISO の分類記号(例:ISO-L-XBEGB 00)で、運転の下限温度・上限温度、水との接触、極圧性、ちょう度を表す方法も規定している[1]。
樹脂や接着剤で「同等品」を承認するときと同じく、性能で指定した場合でも、承認したあとは銘柄を固定する組み合わせが使いやすい。考え方の詳細は樹脂のグレード指定と代替グレードの承認や接着剤・シーラントの仕様指定にある。
切り替えるときは、混ざることを前提に確かめる
グリースや油を別の製品に切り替えると、機械の中に古い潤滑剤が残った状態で新しいものが入る。増ちょう剤や基油の種類が違う製品どうしを混ぜてよいか、古いものを抜いてから入れる必要があるかは、製品によって違う。切り替えの前に両方の製造業者に確かめ、確かめた内容を記録する。ゴムのシールやパッキンと接する場合は、新しい潤滑剤がシール材を膨潤させないかも確かめる。O リングの材料の指定はO リング・ガスケットを発注するときで扱う。
食品機械用の潤滑剤は、別の要求として指定する
食品を扱う機械のうち、食品に触れるおそれがある箇所の潤滑剤は、一般の工業用とは別の要求で選ぶ。JIS K 2220 の附属書は、ISO によるグリースの分類について、食品との接触、放射線、高真空のような特殊な用途へのグリースの適性を示すのには使ってはならず、その場合は特殊なグリースに関する要求事項として指定すると書いている[1]。つまり、JIS の種類や ISO の分類記号を書いただけでは、食品機械に使えることにはならない。
実務でよく使われるのが、米国の第三者機関 NSF の登録区分である。NSF が公開している非食品化合物の登録一覧(White Book)では、潤滑剤の区分として、H1(偶発的に食品と接触するおそれがある箇所の潤滑剤)、H2(食品と接触しない箇所の潤滑剤)、H3(水溶性の油)が分けられ、ISO 21469(偶発的に製品と接触する潤滑剤)の区分も並んでいる[4]。日本機械学会誌の解説(2008 年)は、この仕組みが米国農務省が 1960 年に刊行した、食肉・卵などの処理場で使う洗剤や潤滑油などの冊子に由来し、1998 年の廃刊のあと 2001 年から NSF が引き継いだ経緯を説明している[3]。同じ解説は、当時の日本には食品工場用潤滑油の規制も規格もないと述べていた[3]。
食品機械や食品に触れる部品を調達するときは、次を書面にしておく(実務の提案)。
- どの箇所の潤滑剤に、どの区分(H1 など)または ISO 21469 の認証を求めるか。顧客(食品メーカー)が求める区分を確かめて転記する
- 機械や部品の仕入先が組立で塗布・封入する潤滑剤も対象に含めること
- 登録・認証の写しを出させ、登録の一覧で製品名と登録番号を照合すること
- 保全で補給・交換するときも同じ区分の製品を使うこと
食品に触れる部品の材料(器具・容器包装)について食品衛生法の制度がどう求めているかは、食品に触れる部品・容器・包材の調達で扱った。潤滑剤の区分は、その記事の材料の確認とは別に指定する。
受入と変更の管理
潤滑剤は、受入で中身の性能を測ることが少ない。そのぶん、書類で確かめることを決めておく。
1. 表示と注文の照合。容器の種類・番号・製造年月日・ロット番号を、注文と照合する(グリースは JIS K 2220 に表示事項がある[1])。
2. 試験成績書の項目。性能で指定した場合は、指定した規格の試験項目(グリースなら混和ちょう度・滴点など、油なら 40 ℃の動粘度など)の成績書をロットごとに、または定期的に出させる。何を毎回求め、何を初回だけにするかを決める。
3. 安全データシート。潤滑剤の多くは化学品として安全データシート(SDS)が出される。受け取った SDS の確かめ方は化学物質の自律的な管理と、仕入先から受け取る SDS で扱った。
4. 変更の連絡。銘柄で指定した場合でも、基油や添加剤の配合、製造する工場が変わることはある。変更があれば事前に知らせるよう、購買仕様書か取引基本契約に書く。部品の出荷時に防錆のために塗る油は、潤滑とは目的が違うので、防錆の指定と、錆が出たときの扱いで別に指定する。
よくある質問
「マルチパーパスグリース」と書いて発注してよいですか
製品の呼び名で、JIS の種類ではない。何に使うのかが分かるなら、JIS K 2220 の種類・種別・ちょう度番号で書き直す[1]。機械メーカーの指定があれば、それに合わせる。
ISO VG が同じなら、別の会社の油に替えてよいですか
粘度の範囲が同じというだけで、用途の油の種類や添加剤が同じとは限らない[2][5]。油の種類と機械側の指定を確かめ、切り替えの前に混ぜてよいかを製造業者に確かめる。
食品工場の機械を海外で作らせます。潤滑剤はどう指定しますか
食品に触れるおそれがある箇所に使う潤滑剤の区分(たとえば H1)を、顧客の要求に合わせて仕様書に書き、組立で使った潤滑剤の製品名と登録の証明を、出荷時の書類として出させる[4]。JIS や ISO の一般の分類記号だけでは、食品用途への適性は示せない[1]。
まとめ
潤滑油とグリースは、銘柄で固定するか、JIS の種類と番号で性能を指定するかを先に決める。グリースは JIS K 2220 の種類・種別・ちょう度番号で、潤滑油は ISO VG と油の種類と機械側の指定で書く。容器の表示で製造年月日とロット番号を確かめ、切り替えの前には混ぜてよいかとシール材への影響を製造業者に確かめる。食品機械では、一般の分類では適性を示せないので、H1 や ISO 21469 のような区分を別の要求として指定し、組立で使う潤滑剤まで含めて証明を出させる。
出典・参考資料
- JIS K 2220:2023 グリース(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2023 年 12 月 20 日改正)
- JIS K 2001:1993 工業用潤滑油-ISO 粘度分類(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1993 年 2 月 1 日改正・2021 年 10 月 20 日確認)
- 食品工場用潤滑油って何?(齋藤美也子/日本機械学会誌 第 111 巻第 1081 号/2008 年)
- White Book Nonfood Compounds Listing Directory(NSF International/2026 年 10 月 2 日閲覧)
- 潤滑油と腐食(1)潤滑剤の概要と腐食事例の原因調査(金森英夫/材料と環境 第 75 巻第 1 号/2026 年)
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