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永久磁石の指定——JIS C 2502 の等級・着磁・測る温度と減磁の条件

この記事のポイント(結論先出し)
永久磁石は、材質を JIS C 2502 の名称で指定すると、最大エネルギー積と固有保磁力の最小値が一度に決まる。たとえばネオジム系の焼結磁石「REFeB 380/100」は、最大エネルギー積が 380 kJ/m³ 以上、固有保磁力が 1 000 kA/m 以上という意味である[1]。ただし、この値は室温で、飽和まで着磁した後に、決められた寸法の範囲の磁石で測った値で、小さい磁石では低く出ることがある[1]。寸法、検査の範囲と方法、出荷時に着磁するかどうかは、規格が受渡当事者間の合意に委ねているので、発注側が決めて書く[1]。温度で特性が大きく変わる材料なので、測る温度と使う温度も書いておく[2]。
目次
「ネオジム磁石 φ10×5」では、何が決まっていないか
モーター、センサー、保持具、吸着具などに使う永久磁石を、「ネオジム磁石 φ10×5、N 極を上面に」のような指定で発注することがある。この指定で決まっているのは、おおよその材料の系統と、形と、着磁の向きだけである。どの程度の強さの材料か、高い温度で使っても磁力を失わないか、表面に何の処理をするか、どうやって検査するかは決まっていない。
ネオジム磁石(ネオジム・鉄・ホウ素の化合物を主成分とする磁石)は、強い磁石として、ハードディスク、電動車の駆動用モーター、エアコンの圧縮機、電動パワーステアリングのモーターなど広い用途に使われている[4][5]。同じ「ネオジム磁石」でも、材料の等級によって磁力と温度への強さが大きく違う。この記事は、永久磁石を部品として買う側が、材料の等級、着磁、検査、表面処理、輸送をどう指定するかを整理する。モーターごと調達する場合の指定はモーターを調達するとき仕様書に書くことで扱う。
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材質は JIS C 2502 の名称で指定する
JIS C 2502:2019「永久磁石材料」は、硬質磁性材料(永久磁石)の基本的な磁気特性の最小値・公称値と寸法公差を定めた規格で、IEC 60404-8-1 を基にしている[1]。材料は、簡易名称と英数字のコード番号で識別する。簡易名称の斜線の前の数字は最大エネルギー積 (BH)max(単位 kJ/m³)、斜線の後の数字は固有保磁力 HcJ(単位 kA/m)の 10 分の 1 を表す[1]。最大エネルギー積は磁石が外へ取り出せるエネルギーの大きさの目安、固有保磁力は逆向きの磁界や熱に対して磁力を失いにくいかの目安と考えればよい。
ネオジム系(規格では希土類・鉄・ボロン系、REFeB)の焼結磁石は、表 13 に等級ごとの値が並んでいる。いくつか抜き出すと次のとおりである[1]。
| 簡易名称(コード番号) | 最大エネルギー積の最小値 | 残留磁束密度の最小値 | 固有保磁力の最小値 |
|---|---|---|---|
| REFeB 380/100(R7-1-16) | 380 kJ/m³ | 1 420 mT | 1 000 kA/m |
| REFeB 310/170(R7-1-18) | 310 kJ/m³ | 1 270 mT | 1 700 kA/m |
| REFeB 240/200(R7-1-10) | 240 kJ/m³ | 1 160 mT | 2 000 kA/m |
| REFeB 210/240(R7-1-9) | 210 kJ/m³ | 1 060 mT | 2 400 kA/m |
表を見ると、最大エネルギー積の大きい等級ほど固有保磁力の最小値が小さい傾向がある。強い磁力を取るか、熱や逆向きの磁界への強さを取るかの選択になる。同じ表の代表特性値として、残留磁束密度の温度係数は −0.12〜−0.09 %/℃、固有保磁力の温度係数は −0.70〜−0.45 %/℃(20〜100 ℃)、最高動作温度は 200 ℃と示されている[1]。温度が上がるほど磁力も保磁力も下がるので、使う温度が高い部品ほど、固有保磁力の大きい等級を選ぶ必要がある。規格は、補足の磁気特性(温度係数など)は目安で保証されるものではないとしている[1]。保証として扱えるのは表の最小値である。
仕入先のグレード名で受けるときは、JIS の値と対応させる
海外の磁石メーカーや商社からは、カタログ独自のグレード名で見積が来ることがある。そのまま発注すると、何を保証してもらったのかが曖昧になる。発注書には、そのグレード名が JIS C 2502 のどの等級に相当するか(または、最大エネルギー積・残留磁束密度・固有保磁力の最小値をいくつ保証するか)を書き、試験成績書でその値を確かめる。異なる規格の材料を同等として扱うときの考え方は同等材の指定と承認で扱った。
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規格の値が「そのまま」当てはまらない場合
JIS C 2502 の表の磁気特性値には条件がある。値は室温での最小値と公称値で、飽和状態まで着磁した後に測った値であり、磁化軸に沿って断面積が一定で、体積が 0.125〜200 cm³、3 方向とも 5 mm 以上の寸法の磁石にだけ有効とされている。製造方法の理由でこの寸法の条件を満たさない場合は、得られる値が小さくなる可能性があると書かれている[1]。異方性の材料(磁化しやすい向きがそろえてある材料)では、値は指定された一つの方向に沿ってだけ有効である[1]。
試験方法の JIS C 2501 も、試験片は長さ 5 mm 以上を基本としつつ、希土類磁石のように 5 mm 未満になる場合の注意を書き、ネオジム系焼結磁石の機械加工された表面は磁気特性が劣化しているので、厚さ 5 mm 未満や、体積に対して表面積の大きい試験片の評価は慎重に行う必要があると述べている[2]。
実務で言えば、厚さ数 mm の小さな磁石を、規格の表の値で受け入れようとすると、合わないことがある。小さな磁石を買うときは、材料の等級(規格の値)と、製品の形で保証する値(たとえば表面の磁束密度や、決めた治具での吸着力)を分けて書き、後者の測り方を仕入先と合意しておく(ここは発注側の進め方の提案で、規格の要求ではない)。
寸法・検査・着磁は、発注時に合意する
JIS C 2502 は、次の事項を受渡当事者間に委ねている[1]。
- 出荷時の磁化状態:規格の材料は、着磁した状態でも、着磁していない状態でも、磁気回路に組み込んだ状態でも出荷してよい
- 磁石の寸法:発注時に受渡当事者間で合意する必要がある
- 検査の範囲と検査の方法:受渡当事者間の協定による。適切な形状・寸法の磁石の最小磁気特性値の検査は JIS C 2501 による
つまり、規格の名称を書いただけでは、着磁して納めるのか、何をどれだけ検査するのかは決まらない。発注書か仕様書に、少なくとも次を書く。
着磁の有無と向き。着磁して納めるなら、磁化の方向(どの面が N 極か、径方向か軸方向か、多極か)を図で示す。組み込んでから着磁するなら無着磁で納めさせる。着磁した磁石は取り扱いが難しく、輸送の条件も変わる(後述)。
検査の項目と頻度。材料の磁気特性を、JIS C 2501 の方法でロットごとに試験片で測らせるのか、製品の表面磁束密度などを抜き取りで測らせるのか。JIS C 2501 は試験報告に、材料の種類と識別記号、試験片の形状と寸法、測定中の試験片の温度、周囲温度、減磁曲線、残留磁束密度、保磁力、最大エネルギー積、測定の推定不確かさ、測定器のトレーサビリティなどを記載するとしている[2]。成績書にこれらが書かれているかを確かめる。
寸法公差。ネオジム系焼結磁石の寸法公差について、JIS C 2502 は、チタン含有量 1 % 以下の焼結アルニコ磁石の寸法公差(表 20)と同様とするとしている[1]。表面処理をする場合は、処理前の寸法か処理後の寸法かも書く。
測る温度を決めないと、成績書と受入の値が合わない
ネオジム系の磁石は温度に敏感である。JIS C 2501 は推奨する周囲温度を 23 ℃±5 ℃としつつ、ネオジム系やフェライトのような温度に敏感な材料では、±5 ℃の範囲でも測定結果が大きく変わる可能性があると書いている。例として、固有保磁力 2 MA/m、温度係数 −0.50 %/℃の材料なら、18 ℃と 28 ℃の測定値の差は 0.1 MA/m になると見積もり、温度に敏感な材料は試験片の温度を 19〜27 ℃の間で±1 ℃に制御することを強く推奨している[2]。仕入先の成績書と自社の受入測定の値が合わないときは、まず測った温度をそろえる。
熱と逆磁界による減磁は、条件を書いて確かめる
着磁された磁石は、逆向きの磁界にさらされると磁束の一部を失う。磁界を取り除くと戻る分(可逆)と、戻らない分(不可逆)があり、JIS C 2502 は、許容する不可逆の減磁量(たとえば 5 %)を起こす減磁界の強さを HD5 のように表す考え方を示している[1]。モーターのように、使用中に高い温度と逆向きの磁界が同時にかかる用途では、カタログの室温の値だけで選ぶと、使ってから磁力が落ちる。
発注側が書くとよいのは、使う温度の上限と、そのとき許容する磁力の低下の程度である。その条件で減磁しないことの根拠(減磁曲線や、加熱して戻した後の測定結果)を仕入先に出させる。使う温度の上限は、表の最高動作温度(ネオジム系焼結磁石では代表値 200 ℃)を超えないことが前提になるが、実際の減磁は磁石の形と磁気回路でも変わるので、代表値だけで判断しない[1]。
表面処理と、材料の調達リスク
焼結磁石の製造は、原料を溶かして合金にし、微粉にして磁場の中で成形・焼結し、磁気特性を測ってから加工・表面処理・寸法検査・着磁を経て出荷される、と粉体工学の解説は説明している[4]。表面処理は製品の一部であり、図面か仕様書で、処理の種類、膜厚と測る位置、耐食性の確かめ方を指定する。めっきの指定の書き方はめっきを発注するとき、塩水噴霧試験の条件の決め方は塩水噴霧試験を受入・仕様に入れるときで扱う。
材料の面では、ネオジム系の磁石は希土類元素を含む。JIS C 2502 は、REFeB 合金の希土類としてネオジムのほか、ディスプロシウム・プラセオジムなどで一部を置き換えてよいとし、保磁力を上げるために要るディスプロシウムやテルビウムの量を減らす方法(焼結磁石の表面から拡散させる粒界拡散法)が使われることがあると書いている[1]。同じ等級でも、メーカーによって元素の使い方が違いうるということである。調達先や配合を変えるときは、事前に知らせて承認を得ることを購買仕様書に書く。重要な物資の調達先を上流までたどる考え方は経済安全保障推進法の特定重要物資と、調達先の把握で扱った。
着磁した磁石の輸送
着磁した磁石は、航空輸送で制限を受けることがある。米国連邦航空局(FAA)の案内は、米国の規則として、包装または磁石の表面から 4.5 m(15 フィート)の位置で測った磁界が 0.00525 ガウスを超えるものは航空機で運べないと説明している[3]。これは米国の規則の例で、国際航空輸送で何が求められるかは、使う航空会社や運送の取扱業者に確かめる。発注側としては、着磁して納めるか、無着磁で納めて自社で着磁するかを決めるときに、輸送の条件も一緒に考える。リチウム電池を含む部品の輸送の決まりはリチウム電池を含む部品の調達と輸送で扱う。
受け入れられないときの扱い
JIS C 2502 は、不採用の根拠として、低い磁気品質(表の最小値を下回る)、寸法と寸法公差を挙げ、外部または内部の機械的欠陥も、取り扱いや使用に有害なら不採用の理由になりうるとしている。購入者が供給者に不採用を通知するときは、必要に応じて不採用の現物を一緒に提出すると書いている[1]。焼結磁石は欠けやすいので、どの程度の欠けまでを許すかを限度見本で決め、不採用にした現物は返却して仕入先が再測定できるようにしておく。基準は発注時に決めておくもので、受け取ってから厳しくするものではない。受け入れたあとの返品とやり直しの決まりは受領拒否・返品・やり直しで整理している。
よくある質問
「N 極を上に」とだけ書いて着磁を頼んでもよいですか
着磁の向きは図で示す方が確実である。軸方向か径方向か、多極なら極数と位置まで決める。JIS C 2502 は出荷時の磁化状態を当事者の合意に委ねているので[1]、着磁して納めることと、その向きを発注書に書く。
仕入先の成績書の値と、自社で測った表面の磁束密度が合いません
成績書は材料の試験片で測った値のことが多く、製品の表面の磁束密度とは別の量である。比べるなら同じ量を同じ方法と温度で測る。ネオジム系は温度で値が動くので、測った温度をそろえることが先である[2]。
小さい磁石なのに、JIS の最小値を下回ると言われました
JIS C 2502 の値は、体積 0.125〜200 cm³ で 3 方向とも 5 mm 以上の磁石にだけ有効とされ、寸法の条件を満たさない場合は値が小さくなる可能性があると書かれている[1]。小さな磁石は、材料の等級とは別に、製品の形で保証する値と測り方を決めておく。
まとめ
永久磁石は、JIS C 2502 の名称で材料の等級を指定すると、最大エネルギー積と固有保磁力の最小値が決まる。ただしその値は、室温で、飽和まで着磁し、決められた寸法の範囲の磁石で測ったもので、小さい磁石や加工した面では低く出ることがある。寸法、検査の範囲と方法、出荷時の着磁は規格が当事者の合意に委ねているので、発注書に書く。温度で特性が大きく変わるため、測る温度と使う温度、許容する減磁の程度も書く。表面処理、配合や調達先の変更、着磁品の輸送の条件も、発注時に決めておく。
出典・参考資料
- JIS C 2502:2019 永久磁石材料(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2019 年 3 月 20 日改正・2023 年 6 月 20 日確認)
- JIS C 2501:2019 永久磁石試験方法(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2019 年 3 月 20 日改正・2023 年 6 月 20 日確認)
- PackSafe – Magnets(米国連邦航空局 FAA/2023 年 3 月 15 日更新)
- ネオジム磁石の市場動向と最新微粉化技術(佐藤正行/粉砕 No. 59/2016 年)
- No. 15 ネオジム(Neodymium)(竹田修/まてりあ 第 60 巻第 3 号/2021 年)
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