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SPCD・SPCE(JIS G 3141)の選び方と発注——厚さ区分ごとの伸びと、めっき鋼板の対応記号

この記事のポイント(結論先出し)
SPCD(絞り用)と SPCE(深絞り用)は、どちらも JIS G 3141 の冷間圧延鋼板で、適用厚さは 0.15〜6.0 mm、引張強さはともに 270 N/mm² 以上である。違いは化学成分の上限と伸びの下限で、SPCE のほうが炭素・マンガン・りん・硫黄の上限が低く、同じ厚さで伸びが 2 ポイント高い[1]。厚さ 0.40 mm 未満では非時効性の SPCF・SPCG が規格に無いので、SPCE が JIS G 3141 で最も絞り向きの種類になる[1]。めっき鋼板にするとき、電気亜鉛めっきは SPCD・SPCE を原板に指定した SECD・SECE があるが[2]、溶融めっきの絞り用(SGCD1〜4・SGMCD1〜4)は 4 段階で、1 対 1 には対応しない[3][4]。
目次
SPCD と SPCE は「どちらを書くか」で何が変わるのか
プレスで絞る部品の図面には、材質欄に SPCD や SPCE と書かれていることが多い。JIS G 3141(冷間圧延鋼板及び鋼帯、2021 年改正)が定める 5 種類のうち、SPCD は絞り用、SPCE は深絞り用で、その上に非時効性の SPCF・SPCG、下に一般用の SPCC がある。SPCD と SPCE の適用厚さはどちらも 0.15〜6.0 mm である[1]。用途の欄は参考で、どこまでの絞りなら SPCD で足り、どこから SPCE が要るという線は規格に書かれていない。
規格で決まっているのは、化学成分の上限と、引張強さ・伸びの下限である。深絞り品の形・板厚・普通公差の決め方は深絞り品の発注で指定することで扱ったので、この記事は SPCD と SPCE の二つに絞って、注文書の記号、成績書の読み方、めっき鋼板にするときの記号の対応を整理する。
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化学成分と伸びの違い
JIS G 3141 の化学成分(溶鋼分析値)と、引張強さ・伸びの規定値を並べると次のようになる[1]。
| 項目 | SPCD(絞り用) | SPCE(深絞り用) | SPCF(参考) |
|---|---|---|---|
| C % | 0.10 以下 | 0.08 以下 | 0.06 以下 |
| Mn % | 0.50 以下 | 0.45 以下 | 0.45 以下 |
| P %/S % | 0.040 以下/0.035 以下 | 0.030 以下/0.030 以下 | 0.030 以下/0.030 以下 |
| 引張強さ N/mm² | 270 以上 | 270 以上 | 270 以上 |
| 伸び %(厚さ 0.60 以上 1.0 未満) | 38 以上 | 40 以上 | 42 以上 |
| 伸び %(厚さ 1.0 以上 1.6 未満) | 39 以上 | 41 以上 | 43 以上 |
| 伸び %(厚さ 1.6 以上 2.5 未満) | 40 以上 | 42 以上 | 44 以上 |
化学成分は JIS G 3141 の表 4、引張強さと伸びは表 5による[1]。ほかの厚さの区分の伸びは表 5 で確かめる。必要に応じて、表に記載していない合金元素を添加してもよい、とされている[1]。引張試験片は圧延方向に採取した JIS Z 2241 の 5 号試験片で、伸びの値はこの試験片での値である[1]。
表から読めることは、SPCE は SPCD より「成分が絞られ、伸びの下限が高い」ということだけで、絞れる深さそのものは規格の値から決まらない、ということである。深さの限界は金型・潤滑・しわ押さえで変わるので、SPCD で試打ちして割れやしわが出るかを見て、足りなければ SPCE、さらに SPCF へと上げていく決め方になる。
薄い板では SPCE が最上位になる
伸びの下限は、厚さが薄いほど低くなる。SPCD は厚さ 0.25 以上 0.30 mm 未満で 30% 以上、0.30 以上 0.40 mm 未満で 33% 以上、SPCE は同じ区分で 32% 以上、35% 以上である[1]。厚さ 0.10 以上 0.20 mm 未満の区分(SPCD・SPCE の適用は 0.15 mm から)は、SPCD が 25% 以上、SPCE が 27% 以上まで下がる[1]。同じ「SPCE」でも、厚さの区分が一つ違えば伸びの下限が 1〜3 ポイント変わる(薄い区分ほど差が大きい)ので、板厚を変更するときは種類だけでなく伸びの下限も見直す。
非時効性深絞り用の SPCF と SPCG の適用厚さは 0.40〜3.2 mm で、厚さ 0.40 mm 未満の伸びの欄は規定が無い(「-」)[1]。0.40 mm より薄い板を絞る部品では、JIS G 3141 の中で選べる最も絞り向きの種類は SPCE になる。逆に厚さ 3.2 mm を超える板も SPCF・SPCG の範囲外で、SPCD か SPCE から選ぶ[1]。SPCD・SPCE には非時効性の保証が無いので、在庫期間との関係は深絞り品の発注で指定することを読む。
調質区分と表面仕上げを記号で書く
JIS G 3141 の調質区分は、焼なましのまま(記号 A)、標準調質(S)と、硬質材の 81 硬質(8)・41 硬質(4)・21 硬質(2)・硬質(1)である。SPCD と SPCE に適用できるのは A と S だけで、硬質材は SPCC にしか適用しない。調質区分の指定がない場合は標準調質になる[1]。
表面仕上げはダル仕上げ(D)とブライト仕上げ(B)で、調質記号 A には適用しない[1]。標準調質でブライト仕上げを行ったものは、伸びの規定値が 2 下がる[1]ので、SPCE の S・B の伸びの下限は SPCD の S・D と同じになる。
表示の例として規格は「SPCC-S D」を挙げており、種類の記号・調質記号・表面仕上げ記号の順に書く[1]。SPCE なら「SPCE-S D」のように書く。記号の並びと、SPCC・SPHC・SECC を含む鋼板全般の指定は鋼板(SPCC・SPHC・SECC)の指定で扱った。
硬さは規定されていない
調質記号 A と S の鋼板は硬さを規定しない。受渡当事者間で協定する場合の参考値として、附属書 JB にロックウェル硬さ(焼なましのまま 57 HRB 以下、標準調質 65 HRB 以下)とビッカース硬さ(105 HV 以下、115 HV 以下)が載っている[1]。これは参考値で、SPCD と SPCE の区別もない。受入で硬さを測って合否を決めたいなら、協定して注文書に書く。
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めっき鋼板にするときの記号の対応
絞り部品をめっき鋼板で作るとき、冷延鋼板の記号をそのまま使うことはできない。めっきの種類ごとに別の規格と記号がある。
1. 電気亜鉛めっき鋼板(JIS G 3313)
冷延原板を使う種類として SECD(絞り用)と SECE(深絞り用)があり、使う原板の種類の記号がそれぞれ SPCD、SPCE と規格の表に書かれている。適用する表示厚さは 0.3〜3.2 mm で、調質区分は A と S である[2]。規格は、板とコイルは時効硬化によって降伏点又は耐力の上昇と伸びの低下が生じることがある、と注記している[2]。
2. 溶融亜鉛めっき鋼板(JIS G 3302)
絞り用は SGCD1(絞り用 1 種)から SGCD4(絞り用 4 種・非時効性)までの 4 段階で、炭素の上限は SGCD1 が 0.12%、SGCD2 が 0.10%、SGCD3 が 0.08%、SGCD4 が 0.06% である[3]。表示厚さの範囲は種類によって違い、SGCD1 は 0.30 mm から、SGCD3・SGCD4 は 0.60 mm から 2.3 mm までである[3]。
3. 溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板(JIS G 3323)
絞り用は SGMCD1〜SGMCD4 の 4 段階で、表示厚さは 0.40〜2.3 mm、SGMCD4 には製造後 6 か月間ストレッチャストレインを生じないことが求められている[4]。この系統の指定は同じ束のZAM など高耐食めっき鋼板の指定で扱う。
溶融めっきの絞り用は段階が 4 つで、冷延鋼板の SPCD・SPCE と記号が 1 対 1 で対応しているわけではない。炭素の上限だけを見れば SGCD2 と SPCD、SGCD3 と SPCE が同じ 0.10%・0.08% だが[1][3]、伸びの規定や厚さの範囲は別の規格の表で決まっている。「SPCE 相当の溶融めっき鋼板」と書かず、規格番号と記号を指定する。
寸法・形状の許容差と成績書
厚さの許容差は呼び厚さに当て、縁から 15 mm 以上内側に適用する。通常、幅 600 mm 以上で冷間圧延した材料には許容差 A(表 15)、幅 600 mm 未満のみがき帯鋼には許容差 B(表 16)が当てられる[1]。たとえば厚さ 1.00 以上 1.25 未満・幅 1000 以上 1250 未満なら ±0.08 mm(表 15)である[1]。平たん度は標準調質の材料に当てる規定で、焼なましのまま(A)の材料には調質圧延をしないために発生する腰折れや耳しわを有害な欠点としない、とされている[1]。外観が大事な絞り部品なら、A ではなく S を選ぶ理由になる。
機械試験の試験片は、冷間圧延するときの鋼帯ごとに 1 個で、鋼帯の質量が 3 000 kg 未満の場合は同一溶鋼・同一厚さ・同一圧延条件・同一熱処理条件ごとに 1 個とされている[1]。成績書の伸びは、そのロットから採った試験片の値である。検査文書はあらかじめ注文者の要求がある場合に提出され、特に指定がなければ検査証明書 3.1 になる[1]。
発注書に書くこと
JIS G 3141 は、注文時に確認することが望ましい事項として、鋼板か鋼帯かとみがき帯鋼の指定、種類の記号、調質記号、表面仕上げ記号、寸法と寸法の許容差を挙げている[1]。これに加えて、絞り部品では次を書く。
1. 種類の記号の変更を承認制にする
SPCE を SPCD に、SPCD を SPCC に替える提案は、成分と伸びの規定が下がる変更である。試打ちの結果を見て承認する。
2. 板厚の変更
板厚を変えると伸びの下限が変わる。厚さ 0.40 mm 未満と 3.2 mm 超では SPCF・SPCG が使えない[1]。
3. 検査文書の要求
例えば「材質:JIS G 3141 SPCE-S D、厚さ 1.2 mm(許容差 A)、幅 1219 × 長さ 2438。検査証明書 3.1 を添付し、化学成分と引張試験(引張強さ・伸び)を記載すること。SPCD・SPCC への変更は事前承認を要する。」のように書く。
受け入れるときに確かめること
成績書では、まず種類・調質・表面仕上げの記号が注文どおりかを見る。次に化学成分で、SPCE なら炭素 0.08% 以下、マンガン 0.45% 以下、りん・硫黄 0.030% 以下に入っているか[1]。伸びは、厚さの区分とブライト仕上げの減算を考えたうえで規定値を満たしているかを見る。現品の表示(種類の記号・調質記号・表面仕上げ記号・製造番号又は検査番号・寸法)と成績書を突き合わせる[1]。
よくある質問
SPCD と SPCE で、引張強さは違いますか
どちらも 270 N/mm² 以上で同じである[1]。違うのは成分の上限と伸びの下限である。強さを上げたいなら、自動車用の加工用冷延鋼板など別の規格を検討する。
電気亜鉛めっき鋼板で SPCE 相当を買いたいときは何と書けばよいですか
JIS G 3313 の SECE を指定する。SECE は原板に SPCE を使う種類として規格の表に書かれている[2]。溶融めっきの場合は SGCD1〜4(JIS G 3302)か SGMCD1〜4(JIS G 3323)の中から選ぶ。
まとめ
SPCD と SPCE は、どちらも JIS G 3141 の冷間圧延鋼板で、引張強さは同じ 270 N/mm² 以上、違いは成分の上限と伸びの下限(同じ厚さで SPCE が 2 ポイント高い)である。厚さ 0.40 mm 未満と 3.2 mm 超では SPCF・SPCG が使えず、SPCE が最も絞り向きの種類になる。調質は A か S、仕上げは D か B で、標準調質のブライト仕上げは伸びが 2 下がる。硬さは参考値しかない。めっき鋼板では、電気亜鉛めっきなら SECD・SECE、溶融めっきなら 4 段階の絞り用から選び、規格番号と記号で書く。
同じ束では、棒材の S20C・S25C と 快削鋼 SUM の指定も扱う。曲げの限界は板金の曲げ加工でできないことにある。
出典・参考資料
- JIS G 3141:2021 冷間圧延鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 4 月 20 日改正)
- JIS G 3313:2021 電気亜鉛めっき鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 2 月 22 日改正・2025 年 6 月 20 日確認)
- JIS G 3302:2022 溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2022 年 12 月 20 日改正)
- JIS G 3323:2022 溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2022 年 12 月 20 日改正)
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