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投稿日:2026年10月17日

SUS420J2(JIS G 4303・G 4304・G 4313)の発注——棒と板で違う焼入焼戻しの硬さと刃物での指定

この記事のポイント(結論先出し)

SUS420J2(炭素 0.26〜0.40%・クロム 12.00〜14.00%)は焼入焼戻しで硬くできるステンレスだが、「焼入焼戻し(Q)」の規格値は形によってまったく違う。棒の JIS G 4303 の Q は引張強さ 740 N/mm² 以上・硬さ 217 HBW 以上で、熱処理条件の例は 600〜750 ℃の焼戻しである[1]。板の JIS G 4304・G 4305 では Q は注文者が指定したときだけ行い、硬さは 40 HRC 以上、焼戻しの例は 150〜400 ℃になっている[2][3]。刃物や摩耗部品の硬さを期待して「SUS420J2 丸棒 Q」と注文すると、狙いと違う硬さの材料が規格どおりに届く。部品の硬さは図面と熱処理の発注に、試験方法と測る位置を付けて書く。

SUS420J2 は「どの形で、どの状態で買うか」まで書いて注文する

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ハサミやカッターの刃、ポンプのシャフト、バルブの部品などで、図面の材質欄に SUS420J2 と書かれていることがある。ステンレス協会の記号の解説では、SUS420J2 は旧 JIS の SUS53 にあたり、末尾の J2 は日本独自鋼種を表し、対応する外国規格は AISI420、欧州の 1.4028 とされている[4]。JIS では次の規格に出てくる。

1. ステンレス鋼棒(JIS G 4303)
丸鋼・角鋼・六角鋼・平鋼。棒であることを表すときは末尾に -B を付ける[1]。

2. 熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯(JIS G 4304)・冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯(JIS G 4305)
板と帯[2][3]。

3. ばね用ステンレス鋼帯(JIS G 4313)
薄板ばね・ぜんまいばね向けの帯で、記号は SUS420J2-CSP[5]。

化学成分はどれも炭素 0.26〜0.40%、クロム 12.00〜14.00% で同じ範囲である[1][2][5]。違うのは、熱処理の状態ごとに規格が何を保証しているかである。焼なましの棒を買って削り、あとで焼き入れる部品と、焼入焼戻し済みの板を打ち抜いて使う部品では、注文書に書くことが変わる。焼入れできるステンレスでも、より硬い SUS440C と、析出硬化系の SUS630 はSUS440C・SUS630 の熱処理と硬さの指定で扱った。

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棒と板で、焼入焼戻しの中身が違う

次の表は、各規格の熱処理の状態ごとの規定値と、附属書(参考)にある熱処理条件の例を並べたものである[1][2][3][5]。

規格・状態 規定されている値 熱処理条件の例(附属書・参考)
棒 JIS G 4303・焼なまし(A) 硬さ 235 HBW 以下 800〜900 ℃徐冷または約 750 ℃空冷
棒 JIS G 4303・焼入焼戻し(Q) 耐力 540 以上・引張強さ 740 以上(N/mm²)・伸び 12% 以上・絞り 40% 以上・シャルピー衝撃値 29 J/cm² 以上・硬さ 217 HBW 以上 焼入れ 920〜980 ℃油冷、焼戻し 600〜750 ℃急冷
板 JIS G 4304・G 4305・焼なまし 耐力 225 以上・引張強さ 540 以上(N/mm²)・伸び 18% 以上・硬さ 235 HBW 以下 約 750 ℃急冷または 800〜900 ℃徐冷
板 JIS G 4304・G 4305・焼入焼戻し(Q) 硬さ 40 HRC 以上 焼入れ 980〜1,040 ℃急冷、焼戻し 150〜400 ℃空冷
ばね用鋼帯 JIS G 4313・焼なまし(O) 硬さ 247 HV 以下 約 750 ℃急冷または 800〜900 ℃徐冷

棒の Q の値は JIS G 4303 の表 11、焼なましの硬さは表 12、熱処理条件の例は附属書 JA の表 JA.4 による。棒の Q の値は径・対辺距離または厚さ 75 mm 以下に適用し、耐力は注文者の指定がある場合に適用する。絞りは平鋼には適用せず、シャルピー衝撃値は U ノッチ(ノッチ深さ 2 mm)の標準試験片が採れる寸法の棒に適用する。また、約 750 ℃で焼なましを行った棒の硬さは、受渡当事者間で協定してもよいとされている[1]。板の値は JIS G 4304 の表 12・表 13 と附属書 JA で、JIS G 4305 も同じ値である[2][3]。ほかの尺度(HV など)の値や、ほかの項目は規格の表で確かめる。

棒の Q は焼戻しの例が 600〜750 ℃と高く、規定値も引張強さ・伸び・絞り・衝撃値という「強さと粘り」の項目が中心で、硬さは下限 217 HBW である[1]。板の Q は焼戻しの例が 150〜400 ℃と低く、規定値は 40 HRC 以上という硬さだけである[2]。同じ「SUS420J2 の Q」でも、棒は機械部品として粘りを持たせた状態、板は硬さを出した状態を想定した規定になっている。

板の Q は、注文者が指定したときだけ

JIS G 4305 は、特に注文者の指定がなければマルテンサイト系の熱処理は焼なましとし、SUS420J2 と SUS440A は特に注文者の指定がある場合に焼入焼戻しを行ってもよく、その場合は Q の記号を表示する、としている[3]。JIS G 4304 も同じである[2]。何も書かずに板を注文すれば、焼なましの板が届く。焼入焼戻し済みの板が要るなら、注文書に Q を書き、現品の表示に Q があるかを受入で見る。

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削ってから焼き入れる部品は、部品の硬さを図面に書く

SUS420J2 の部品は、焼なましの材料を削ってから熱処理で硬くする流れが多い。ここで注意したいのは、材料の規格が部品の硬さを約束しないことである。JIS G 4303 と JIS G 4305 は、どちらも製造業者からの出荷後に製品に熱処理を行った場合の機械的性質は規定していない、と注記している[1][3]。JIS G 4303 は、焼なましの棒は通常、焼入焼戻し状態の機械試験を行わないが、注文者の要求があれば、別の供試材に焼入焼戻しを行った場合の機械的性質と規定値を受渡当事者間で協定してもよい、としている[1]。

つまり、焼なましの SUS420J2 丸棒を買い、削った部品を熱処理業者で焼き入れた場合、部品の硬さを保証するのは、図面の硬さの指示と熱処理の発注だけである。図面に「HRC 50〜55」のように範囲で書き、試験方法と測る位置も付ける。硬さを図面でどう書くかは熱処理を図面で指定するで、試験方法の指定は硬さの指定と試験方法で扱った。

焼入温度は「高いほど硬い」とは限らない

新潟県工業技術総合研究所は、直径 19 mm の SUS420J2 を 900〜1,150 ℃の各温度に 25 分保持して空冷で焼き入れ、180 ℃で 2 時間の低温焼戻しを行った試験の結果を公開している[6]。焼入後・焼入焼戻後とも、この試験では焼入温度 1,050 ℃のときに最高硬さになり、1,050 ℃を超えると硬さが下がった[6]。資料は、900〜1,050 ℃では焼入温度が高いほど球状炭化物が減り、その分マルテンサイト中の炭素が増えて焼入れ硬さが高くなる一方、温度が高くなると一部が残留オーステナイトになるためと説明している[6]。

これは空冷・低温焼戻しという一つの条件での試験で、JIS の附属書の例(板は 980〜1,040 ℃急冷)とも条件が違う。資料の温度をそのまま図面に書く根拠にはしない。読み取れるのは、温度を上げれば硬くなると思って指示すると、狙った硬さにならないことがある、という点である。図面には結果(硬さの範囲)を書き、熱処理の条件は熱処理をする側に任せ、記録として残してもらうほうが受入で判断しやすい。

ばね用鋼帯の JIS G 4313 は、参考として SUS420J2-CSP の焼入焼戻し条件と硬さの概略値を示している。焼入温度 900 ℃・焼戻し 300〜400 ℃で 410〜460 HV、焼入温度 1,050 ℃・焼戻し 300〜400 ℃で 510〜570 HV という並びである[5]。概略値であって規定値ではないが、焼入温度で硬さの到達範囲が変わることは、この表からも分かる。帯の SUS420J2-CSP を含むばね用ステンレスの話は、同じ束のばね用ステンレス SUS301・SUS631 の指定で扱う。

使ってはいけない所:溶接と、焼入れ後の溶接補修

ステンレス協会は、SUS410 に代表されるマルテンサイト系ステンレスは、溶接の加熱でオーステナイトが生成し、冷えるときに延性・靭性の低いマルテンサイトになるため、溶接熱影響部が著しく硬化し、一般的には溶接に適していないとしている。溶接する場合は、適切な予熱とパス間温度の管理が必要になる[7]。SUS420J2 は SUS410 より炭素が多いマルテンサイト系である[1]。

SUS420J2 の部品に溶接の工程が入っている図面や、焼入れ後の部品を肉盛りで補修したいという相談が来たら、そのまま進めずに設計に問い合わせる。硬くなった熱影響部が割れの起点になれば、刃物でも機械部品でも使用中の破損につながる。溶接を含む部品の指定全体は溶接を含む部品の発注で指定することで扱った。

耐食性は SUS304 と同じではない

SUS420J2 はクロム 12.00〜14.00% のステンレスで[1]、SUS304(クロム 18.00〜20.00%・ニッケル 8.00〜10.50%)とは成分の範囲が大きく違う[1]。JIS G 4303 は、粒界腐食試験による耐食性を、特に注文者の指定がある場合に試験方法を協定して確かめるとしているだけで[1]、耐食性の一律の規定値はない。水がかかる刃物や、洗浄される部品で SUS420J2 を使うなら、錆の許容と確かめ方(塩水噴霧試験など)を用途に合わせて別に決める。表面の処理で耐食性を整える話はステンレスの不動態化処理の指定にまとめた。

また、マルテンサイト系は強磁性である。ステンレス協会は、マルテンサイト系・フェライト系の鋼種を強磁性材料としている[8]。磁石につくのは材料違いではなく、この鋼種の性質である。オーステナイト系の磁性の話は同じ束のSUS304 は磁石につくかで扱う。

発注書と図面に書くこと

1. 規格番号と形
棒なら JIS G 4303、板なら JIS G 4304 か G 4305、ばね用の帯なら JIS G 4313。上の表のとおり、Q の中身が規格で違う。

2. 受け取るときの熱処理の状態
棒なら焼なまし(A)か焼入焼戻し(Q)か[1]。板で Q が要るなら、注文者の指定として書く[3]。

3. 部品の熱処理を誰が行うか
削ってから焼き入れるなら、材料の規格の機械的性質は部品に掛からない[1]。部品の硬さの範囲・試験方法・測る位置を図面に書き、熱処理の記録(温度・保持時間・冷却方法・焼戻し条件)をロットごとに残してもらう。

4. 検査文書の種類
JIS G 4303 と JIS G 4305 は、注文者から報告の要求がある場合に検査文書を提出しなければならないとし、種類を特に指定しなければ検査証明書 3.1 になる[1][3]。要るなら注文時に求めておく。区分の違いはEN 10204 のミルシート区分にまとめた。

例えば「材質:SUS420J2-B(JIS G 4303)A、丸鋼 φ20。部品は図面の指示により焼入焼戻しを行い、硬さ HRC 50〜55(ロックウェル C スケール、図示の位置)とする。熱処理条件の記録と硬さの測定記録を提出すること。材料の検査証明書 3.1 を添付すること。他鋼種への置き換えは事前承認を要する。」のように書く。数値は設計が決めた値に置き換える。

受け入れるときに確かめること

材料の受入では、成績書の炭素とクロムが 0.26〜0.40%、12.00〜14.00% の範囲にあるかを見る[1]。炭素の範囲が違う SUS420J1(0.16〜0.25%)との取り違えはここで分かる[2]。熱処理の状態の記号が注文どおりか、板で Q を頼んだなら現品と成績書に Q があるかも見る。

部品の受入では、図面に書いた方法と位置で硬さを測った記録を出してもらい、熱処理の記録と突き合わせる。硬さが規格の Q の値を満たしていても、それが図面の要求を満たしているとは限らない。見るのは図面の値である。

よくある質問

SUS420J2 の丸棒を Q で買えば、刃物の硬さになりますか

棒の JIS G 4303 の Q は、引張強さ 740 N/mm² 以上・硬さ 217 HBW 以上といった値で、熱処理条件の例も 600〜750 ℃の焼戻しである[1]。刃物のような高い硬さは前提にしていない。硬さが要る部品は、図面に部品の硬さを書き、部品の段階で焼入焼戻しを行う。

板を注文したら焼なましの状態で届きました

JIS G 4305 は、注文者の指定がなければマルテンサイト系の板は焼なましになるとしている[3]。焼入焼戻し済みが要るなら、注文書に Q を指定する。そのときの規定値は 40 HRC 以上である[3]。

熱処理の温度を図面に書いたほうが確実ではありませんか

温度を書いても、冷却方法や保持時間で結果は変わる。焼入温度が 1,050 ℃を超えると硬さが下がった試験例もある[6]。図面には硬さの範囲と測り方を書き、温度などの条件は記録として出してもらうほうが、受入で判断しやすい。

まとめ

SUS420J2 は炭素 0.26〜0.40%・クロム 12.00〜14.00% の焼入れできるステンレスで、棒(JIS G 4303)・板(G 4304・G 4305)・ばね用鋼帯(G 4313)の規格がある。焼入焼戻し(Q)の規定は形で違い、棒は引張強さ 740 N/mm² 以上・217 HBW 以上の粘りのある状態、板は注文者が指定したときだけ行う 40 HRC 以上の状態である。削ってから焼き入れる部品では、材料の規格は部品の硬さを約束しないので、図面に硬さの範囲・試験方法・測る位置を書き、熱処理の記録を残してもらう。溶接には向かず、耐食性は SUS304 と同じではない。成績書は注文時に求め、炭素・クロムと熱処理の状態の記号を確かめる。

同じ束では、炭素の少ないマルテンサイト系の SUS410、耐熱用途の SUS310S の発注も扱う。

出典・参考資料

  1. JIS G 4303:2021 ステンレス鋼棒(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 3 月 22 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  2. JIS G 4304:2021 熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 3 月 22 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  3. JIS G 4305:2021 冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 3 月 22 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  4. JIS 鋼種番号と SUS316L や SUS430F など鋼種記号の後ろについたアルファベットの意味(一般社団法人ステンレス協会)
  5. JIS G 4313:2011 ばね用ステンレス鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2011 年 2 月 21 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  6. 技術トピックス SUS420J2 の焼入れ温度と硬さ・金属組織(新潟県工業技術総合研究所/平成 26 年 8 月)
  7. ステンレス溶接の施工方法とその後の手入れについて(一般社団法人ステンレス協会)
  8. ステンレスの導電率、透磁率、熱膨張率などの物理的性質について(一般社団法人ステンレス協会)

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