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投稿日:2026年10月17日

SUS310S(JIS G 4304・G 4312)の発注——SUS310S-HR との違いと高温引張試験の要求

この記事のポイント(結論先出し)

SUS310S(クロム 24.00〜26.00%・ニッケル 19.00〜22.00%)は、JIS に二つの顔がある。ステンレス鋼の規格(板の JIS G 4304・G 4305、棒の JIS G 4303)では「SUS310S」、耐熱鋼の規格(板の JIS G 4312、棒の JIS G 4311)では「SUS310S-HR」と書く[1][2][3]。化学成分と常温の機械的性質の規定値は同じだが、耐熱鋼の規格では、注文者が高温引張試験を要求できると定めている[2][3]。どちらの規格も高温での強さの規定値は持たないので、高温で荷重を受ける部品なら、注文時に高温引張試験と合否の基準を取り決める。常温の引張強さ 520 N/mm² 以上という値を、高温での強さの根拠に使わない。

SUS310S は「ステンレス鋼」と「耐熱鋼」の両方の規格にある

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炉の内部部品、熱処理用の治具やトレー、排気系の部材などで、図面の材質欄に SUS310S と書かれていることがある。ステンレス協会は、JIS G 0203 の定義を引いて、ステンレス鋼(SUS)は耐食性を高める目的でクロムまたはクロムとニッケルを含ませた合金鋼、耐熱鋼(SUH)は高温の各種環境で耐酸化性・耐高温腐食性または高温強度を保つ合金鋼と説明している[4]。同じ解説は、クロムは高温での耐酸化性を高める元素でもあるので、ステンレス鋼は耐熱鋼でもあると言っても過言ではない、とし、JIS の耐熱鋼の規格に SUH だけでなく SUS の鋼種も入っていることを示している[4]。

SUS310S はその代表で、次の四つの規格に出てくる。

1. 冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯(JIS G 4305)・熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯(JIS G 4304)
記号は SUS310S。板であることを表すときは末尾に -CP や -HP を付ける[1][5]。

2. ステンレス鋼棒(JIS G 4303)
記号は SUS310S。棒であることを表すときは -B を付ける[6]。

3. 耐熱鋼板及び鋼帯(JIS G 4312)
記号は SUS310S-HR。板であることを表すときは -HP(熱間圧延鋼板)や -CP(冷間圧延鋼板)を付ける[2]。

4. 耐熱鋼棒及び線材(JIS G 4311)
記号は SUS310S-HR。熱間仕上棒鋼なら -B、冷間仕上棒鋼なら -CB、線材なら -WR を付ける[3]。

JIS G 4312 と G 4311 は、どちらも ISO 4955(Heat-resistant steels)を基に技術的内容を変更して作られている。附属書の対比表によれば、ISO 4955 は高温ガスと 550 ℃を上回る温度域での耐性が要求される耐熱鋼などを対象にしている[2][3]。ただしこれは国際規格の適用範囲の書き方で、JIS の本文に「何 ℃まで使える」という規定があるわけではない。使用温度の上限は、材料の規格からは決まらない。

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化学成分と常温の性質は、どちらの規格でも同じ

次の表は、耐熱鋼板の JIS G 4312 の表 3・表 7 から、SUS310S-HR と、比較によく出る鋼種を抜き出したものである[2]。ステンレス鋼板の JIS G 4304 でも、SUS310S の炭素 0.08% 以下、ケイ素 1.50% 以下、ニッケル 19.00〜22.00%、クロム 24.00〜26.00%、耐力 205 N/mm² 以上、引張強さ 520 N/mm² 以上、伸び 40% 以上、硬さ 187 HBW 以下は同じ値で規定されている[1]。

種類の記号(JIS G 4312) C Ni Cr 引張強さ N/mm² 伸び % 硬さ HBW
SUS304-HR 0.08 以下 8.00〜10.50 18.00〜20.00 520 以上 40 以上 187 以下
SUS309S-HR 0.08 以下 12.00〜15.00 22.00〜24.00 520 以上 40 以上 187 以下
SUS310S-HR 0.08 以下 19.00〜22.00 24.00〜26.00 520 以上 40 以上 187 以下
SUH310 0.25 以下 19.00〜22.00 24.00〜26.00 590 以上 35 以上 201 以下

機械的性質は固溶化熱処理状態の値で、耐力・引張強さ・伸びは厚さ 0.30 mm 以上の板に適用し、耐力(4 鋼種とも 205 N/mm² 以上)は注文者の指定がある場合に適用する[2]。硬さは HBW・HRBW(または HRBS)・HV のいずれかにより、どれを使うかは特に指定がなければ製造業者の選択になる[2]。ほかの元素、ほかの鋼種、棒の値はそれぞれの規格の表で確かめる。

表で目に付くのは SUH310 である。ニッケルとクロムの範囲は SUS310S-HR と同じだが、炭素の上限が 0.25% と高く、引張強さの下限も高い。ステンレス協会は、耐熱鋼は耐熱特性を高めるため炭素量が高く、高温強度の向上には炭素などの増量・添加が効く、と説明している[4]。図面が SUH310 なのに SUS310S で手配する、あるいはその逆は、名前が似ていても別の鋼種への置き換えになる。どちらにするかは設計が決め、注文書には決めたほうの記号を書く。

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耐熱鋼の規格で買うと、高温引張試験を要求できる

二つの規格の違いが出るのは試験の項目である。耐熱鋼板の JIS G 4312 は 10.3「その他の試験」で、注文者は高温引張試験を要求することができ、その場合の試験方法は JIS G 0567(鉄鋼材料及び耐熱合金の高温引張試験方法)によるとしている[2]。そして検査の箇条で、この試験を実施した場合は、受渡当事者間の協定によって合意した合否判定基準に適合しなければならない、と定めている[2]。耐熱鋼棒の JIS G 4311 にも同じ趣旨の規定がある[3]。

ここで押さえておきたいのは、規格には高温での規定値そのものは載っていない、という点である。ステンレス鋼板の JIS G 4304 の附属書の対比表は、ISO の規格が高温の 0.2% 耐力などを規定しているのに対し、JIS は市場で汎用的な要求事項を規定しているとして、高温の耐力を規定していない[1]。耐熱鋼板の JIS G 4312 の対比表も、ISO 4955 が高温の 0.2% 耐力などを規定している一方で、JIS は耐力・引張強さ・伸び・硬さについて製品規格として必要な内容を規定している、と整理している[2]。

つまり、耐熱鋼の規格で注文しても、何も書かなければ届くのは常温の試験結果だけである。高温で荷重を受ける部品なら、次の三つを注文時に決めておく必要がある。

1. 試験温度
部品が使われる温度に合わせて、設計が決める。

2. 何を測るか
高温での耐力、引張強さ、伸びのどれを見るか。

3. 合否の基準
規格に値がないので、設計が求める値を受渡当事者間で取り決める。

これは規格の要求ではなく、規格が用意している選択肢を使うための発注側の段取りである。高温での強さが問題にならない部品(荷重のかからない遮熱板など)まで一律に試験を求める必要はない。引張試験そのものの指定と受け入れ方は引張試験(JIS Z 2241)を発注・受入で指定するときで扱った。

どちらの規格で注文するかの決め方

化学成分と常温の性質が同じなら、どちらで買っても同じ材料が届くように見える。実務で差が出るのは次の三点である。

1. 高温引張試験を求めるか
求めるなら、試験の規定を持つ耐熱鋼の規格(板は JIS G 4312、棒は G 4311)で注文するほうが話が通りやすい。ステンレス鋼の規格で注文して高温試験を求める場合は、規格外の追加試験として別に取り決めることになる。

2. 形状と寸法の規定
耐熱鋼板の JIS G 4312 は、表面仕上げを No.1・No.2D・No.2B の 3 種類だけ規定し、それ以外は受渡当事者間の協定としている[2]。冷間圧延ステンレス鋼板の JIS G 4305 は No.2D・No.2B に加えて BA(光輝熱処理)と HL(ヘアライン)を規定し、No.4 などの研磨仕上げは製造業者の方法によるとしている[5]。外観の仕上げを指定したい部品では、使いたい仕上げがどちらの規格にあるかを先に見る。

3. 在庫と流通
どちらの規格品が手に入りやすいかは、形状と寸法、仕入先によって変わる。図面が規格番号まで指定していないなら、どちらで受けるかを仕入先と決め、注文書と成績書で一致させる。

どちらにしても、図面の材質欄が「SUS310S」だけで規格番号がないときは、どちらの規格で受けてよいかを設計に確かめておく。受入で成績書の規格番号が図面と違っていても、承認の経緯が残っていれば後から追える。

高温で使う部品で、発注前に確かめておくこと

材料の規格は、その温度で何年使えるかを保証しない。耐熱用途の部品で、発注側が設計に確かめておきたい点を挙げる。いずれも規格の要求ではなく、確認の提案である。

1. 使用温度と、その温度にいる時間
ステンレス協会の溶接の解説は、SUS304 に代表されるオーステナイト系では、550〜850 ℃の温度域でクロムが結晶粒界で炭化物を作り、耐食性が下がる場合があるとしている[7]。SUS310S は炭素の上限が 0.08% の鋼種だが[2]、使用中や溶接でこの温度域を通る部品が、冷えたあとに結露や薬液にさらされるなら、耐食性の確かめ方を設計と決めておく。規格の上では、粒界腐食試験による耐食性は、注文者の指定がある場合に受渡当事者間で協定する扱いである[6]。

2. 長時間の加熱による組織の変化
310S の熱疲労を扱った論文は、序論で先行研究を引き、クロムに富む σ 相と M23C6 炭化物が 500〜950 ℃の範囲で生成すると、ぜい化や耐食性の低下を招きうると紹介している[8]。同じ論文は、線径 2 mm の 310S の線材を 900 ℃で 1 分保持したあと空冷して室温で 1 分保持する熱サイクルを 100 回繰り返したところ、X 線回折では素材と同じく γ 相のピークだけが見られ、相変態は起きていなかったとし、延性の低下は主に亀裂の進展によるものと考察している[8]。組織の変化は温度と時間、使い方で変わるので、長時間高温で使う部品の寿命は、使用条件での実績や試験で確かめる。

3. 熱膨張と取付け
オーステナイト系は熱で伸びる量が大きい。炭素鋼の枠に長い SUS310S の部材を固定するなど、異なる材料と組み合わせる部品では、伸びの逃げを設計に確かめる。物理的性質の比べ方はSUS430 と SUS304 の違いで、ステンレスの値を含む材料定数の出典の選び方はヤング率などの材料定数の値の決め方で扱った。

より高温・高強度が要る場面ではニッケル基の合金が候補に上がる。その発注はインコネル(NCF600・NCF718)の発注にまとめた。

使ってはいけない置き換え:SUS304 で代用する

SUS310S は SUS304 より高価なので、「SUS304 でもよいか」と仕入先から聞かれることがある。表のとおり、クロムは 24.00〜26.00% と 18.00〜20.00%、ニッケルは 19.00〜22.00% と 8.00〜10.50% で、成分の範囲が重ならない[2]。ステンレス協会は耐酸化性の向上にクロムやケイ素の増量を挙げており[4]、耐熱用途で SUS310S が選ばれているのは、この成分の差を使うためである。

常温の引張強さ・伸び・硬さの規定値は同じなので、常温の成績書を見比べても差は分からない。耐熱用途の部品で SUS304 への置き換えを受けるのは、設計が使用温度と環境を確かめて図面を改めた場合だけにする。成分の違いはオーステナイトの安定度にも表れる。SUS304 と SUS310S の薄板を冷間圧延した研究では、SUS304 は圧延温度が低いほど多くの加工誘起マルテンサイトを生じたのに対し、SUS310S はどの圧延温度でもマルテンサイトを生じなかった[9]。磁性まで含めた話は同じ束のSUS304 は磁石につくかで扱う。

溶接部品で SUS310S を使うとき

ステンレス協会は、溶接材料を使う場合は基本的に母材と同じか近い組成のものを選ぶとし、溶接部にスケールが付くと不動態皮膜ができず耐食性が下がるので、溶接時のガスシールと、溶接後の変色部の除去を勧めている[7]。耐熱用途の溶接構造では、溶接材料も母材に合わせて高クロム・高ニッケルのものになる。図面と溶接の指示に溶接材料の規格と記号まで書いてもらい、仕入先が手持ちの材料で済ませないようにする。溶接方法・資格・検査の指定は溶接を含む部品の発注で指定することで扱った。

受け入れるときに確かめること

検査文書は、どちらの規格でも黙っていては付いてこない。JIS G 4312 と JIS G 4304 は、製造業者は注文者から報告の要求がある場合に検査文書を提出しなければならず、種類を特に指定しなければ検査証明書 3.1 になる、としている[2][1]。成績書が要るなら、注文時に求めておく。区分の違いはEN 10204 のミルシート区分にまとめた。成績書が届いたら次の順で見る。

1. 規格番号と種類の記号
耐熱鋼の規格で注文したなら SUS310S-HR、ステンレス鋼の規格なら SUS310S になっているか。JIS G 4312 は、合格した板に種類の記号、寸法、表面仕上げの記号、製造業者名、溶鋼番号などを表示するとしている[2]。現品の表示とも突き合わせる。

2. クロムとニッケル
クロム 24.00〜26.00%、ニッケル 19.00〜22.00% の範囲にあるか[2]。SUS304 や SUS309S との取り違えはここで分かる。

3. 炭素
0.08% 以下か。0.25% 以下なら SUH310 の範囲で、別の鋼種である[2]。

4. 高温引張試験の結果(求めた場合)
取り決めた試験温度と合否基準で判定されているか。

注文書の書き方の例

決まった様式があるわけではない。発注側として書いておきたい内容を一つの例にまとめる。

「材質:SUS310S-HR(JIS G 4312)、熱間圧延鋼板、厚さ 6.0 mm、表面仕上げ No.1。JIS G 4312 の 10.3 による高温引張試験を要求する(試験温度・測定項目・合否基準は別紙による)。検査証明書 3.1 を添付し、化学成分・常温の機械的性質・高温引張試験の結果を記載すること。他鋼種(SUS304・SUS309S・SUH310 を含む)および他規格への置き換えは事前承認を要する。」

よくある質問

SUS310S と SUS310S-HR は別の材料ですか

化学成分と常温の機械的性質の規定値は同じである[1][2]。違うのは、どの製品規格で受け渡すかで、耐熱鋼の規格(JIS G 4312・G 4311)では高温引張試験を要求できる規定がある[2][3]。高温での強さを確かめたい部品なら、耐熱鋼の規格で注文して試験を取り決める。

SUS310S は何 ℃まで使えますか

JIS の本文には使用温度の上限の規定がない。耐熱鋼の規格が基にした ISO 4955 は、550 ℃を上回る温度域での耐性が要求される鋼を対象にしているが[2]、何 ℃まで使えるかは部品の荷重・環境・寿命の要求で決まる。設計が使用条件で確かめ、必要なら高温引張試験の条件を注文書に書く。

常温の成績書しか付いてきませんでした

高温引張試験は注文者が要求したときに行う試験である[2]。要求していなければ、常温の試験結果だけが載るのが規格どおりの扱いになる。次の注文から、試験温度と合否基準を決めて要求する。

まとめ

SUS310S はステンレス鋼の規格(JIS G 4303・G 4304・G 4305)では SUS310S、耐熱鋼の規格(JIS G 4311・G 4312)では SUS310S-HR と書く。化学成分と常温の性質は同じだが、耐熱鋼の規格では注文者が高温引張試験を要求でき、合否は受渡当事者間で取り決める。どちらの規格にも高温での規定値はないので、高温で荷重を受ける部品は試験温度と合否基準を注文時に決める。SUH310 は炭素の上限が高い別の鋼種で、SUS304 への置き換えはクロムとニッケルの範囲が重ならないので、耐熱用途では設計が図面を改めた場合だけにする。成績書は注文時に求め、記号・クロムとニッケル・炭素の順に確かめる。

同じ束では、焼入れできるステンレスとして SUS420J2 と SUS410、ばね用の SUS301・SUS631 の発注も扱う。鋼種全体の選び方はステンレスの発注で指定することにある。

出典・参考資料

  1. JIS G 4304:2021 熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 3 月 22 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  2. JIS G 4312:2019 耐熱鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2019 年 3 月 20 日改正・2023 年 10 月 20 日確認)
  3. JIS G 4311:2026 耐熱鋼棒及び線材(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2019 年版と 2026 年 5 月 20 日の追補 1)
  4. ステンレスと耐熱鋼の違いについて(一般社団法人ステンレス協会)
  5. JIS G 4305:2021 冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 3 月 22 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  6. JIS G 4303:2021 ステンレス鋼棒(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 3 月 22 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  7. ステンレス溶接の施工方法とその後の手入れについて(一般社団法人ステンレス協会)
  8. Huang, Yen, Hung “A Study on Thermally Fatigued Phase Transformation and Bending Fracture Mechanisms of 310S Stainless Steel” Materials 18 巻 11 号(MDPI/2025 年)
  9. 住友秀彦・吉村博文・上田全紀「SUS304 ステンレス鋼薄板の塑性異方性に及ぼす熱延および冷延条件の影響」鉄と鋼 78 巻 2 号(日本鉄鋼協会/1992 年)

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