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ヤング率(縦弾性係数)の値の決め方——鉄・ステンレス・アルミの出典、温度による違い

この記事のポイント(結論先出し)
ヤング率(縦弾性係数)は材料ごとに一つの決まった数字ではない。圧力容器の JIS B 8265 は、設計温度における典型的な値として、炭素鋼(C≦0.3 %)を 20 ℃ で 203 GPa、300 ℃ で 184 GPa、18Cr-8Ni 系のステンレス鋼を 20 ℃ で 195 GPa としている[1]。一方、コイルばねの JIS B 2704-1 は、ばね用ステンレス鋼線(SUS304 など)に 186 GPa を使うとしている[2]。同じ鋼種名でも、出典と温度で値が変わる。しかも SS400 の JIS G 3101 のような材料規格には縦弾性係数の規定がなく、ミルシートでは確かめられない[5]。設計や解析を外に出すとき、材料を置き換えるときは、どの出典の、何 ℃ の値を使うかを仕様書に書いて、仕入先とそろえる。
目次
「鉄のヤング率は 206」で済ませると、何がずれるか
ヤング率は、材料に力を加えたときの変形のしやすさを表す指標で、引張試験で弾性域の応力とひずみの関係を取り、直線で近似したときの傾きとして求める[4]。部品のたわみやばね定数、固有振動数の計算に入る値なので、設計の計算書にも、外注した構造解析の条件書にも必ず出てくる。「鉄は 206 GPa」「鉄は 200 GPa」「アルミは 70 GPa」のように、覚えやすい数字で済ませていることが多い。
困るのは、その数字が、社内の計算書と仕入先の計算書と解析の外注先とで別々のことである。たわみの計算値が数 % 違うだけなら問題にならないことも多いが、限界に近い設計で、片方が 206、片方が 195 を使っていれば、合否の判断が割れる。高温で使う部品で常温の値を使えば、たわみは計算より大きく出る。材料を置き換えるときに、強さだけを見てヤング率を見なければ、剛性が足りなくなる。
この記事は、ヤング率などの材料定数を設計と発注で使うときに、値をどこから取り、何を仕入先とそろえるかを書く。材料定数の物理的な意味の解説はしない。鋼材の重さの計算に使う密度は鋼材の重量計算で扱った。
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値は出典で決まる——JIS B 8265 と JIS B 2704-1 の表
日本の規格で、材料ごと・温度ごとの縦弾性係数を表にしているものの一つが、圧力容器の構造の JIS B 8265 である。規格は、設計温度における材料の諸特性の典型的な数値として、縦弾性係数を附属書 D の表 D.1 に、線膨張係数を表 D.2 に示している[1]。表 D.1 は −195 ℃ から 800 ℃ までの温度ごとに、炭素鋼、低合金鋼のグループ、ステンレス鋼のグループ、アルミニウム合金、銅合金、チタン、ニッケル合金の値を並べている[1]。
もう一つは、コイルばねの基本計算方法の JIS B 2704-1 である。規格は、ねじりばねの設計に用いる縦弾性係数 E を、材料によって適切な値を用いなければならないとしたうえで、主な材料の値を表 4 に、圧縮ばね・引張ばねに使う横弾性係数 G を表 3 に示している[2]。二つの表から、よく使う材料の値を並べると次のようになる。
| 材料(出典での区分) | 20 ℃(GPa) | 200 ℃(GPa) | 300 ℃(GPa) | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| 炭素鋼 C≦0.3 % | 203 | 193 | 184 | JIS B 8265 表 D.1 |
| 18Cr-8Ni 系など(材料グループ G) | 195 | 182 | 176 | JIS B 8265 表 D.1 |
| アルミニウム合金(1050・3003・6061・6063 など) | 69 | 60 | — | JIS B 8265 表 D.1 |
| チタン 1 種・2 種・3 種など | 107 | 97 | 88 | JIS B 8265 表 D.1 |
| ばね鋼鋼材・硬鋼線・ピアノ線・オイルテンパー線 | 206(温度の記載なし) | — | — | JIS B 2704-1 表 4 |
| ばね用ステンレス鋼線(SUS302・SUS304・SUS304N1・SUS316) | 186(温度の記載なし) | — | — | JIS B 2704-1 表 4 |
JIS B 8265:2024 の表 D.1 は単位 1 000 N/mm2(=GPa)、JIS B 2704-1:2026 の表 4 は N/mm2 で、ここでは GPa にそろえた[1][2]。「—」は表に値がないもの。表 D.1 のアルミニウム合金の欄は 250 ℃ までで、300 ℃ の値は載っていない。ほかの材料と温度は規格の表を見る。
同じ SUS304 でも 195 と 186
表を並べると、18Cr-8Ni 系のステンレス鋼の値は、JIS B 8265 では 20 ℃ で 195 GPa、JIS B 2704-1 のばね用ステンレス鋼線では 186 GPa である[1][2]。どちらも JIS で、どちらが誤りというものではない。前者は圧力容器の材料の設計温度における典型値、後者はばね用ステンレス鋼線でばねを計算するときの値で、出典が対象にしている品物が違う。炭素鋼でも、圧力容器の表の 203 GPa と、ばね鋼・ピアノ線の 206 GPa が並ぶ。
ここから言えるのは、ヤング率の値は「材料名」ではなく「どの出典の、どの区分の値か」で決めるということである。ばねなら JIS B 2704-1 の表、圧力容器なら JIS B 8265 の表のように、作る品物の規格に表があればそれを使い、計算書に出典を書く。表がない品物では、どの出典を使うかを設計の決めごととして文書にしておく。
表は成分の系統で分けている
JIS B 8265 の表 D.1 は、炭素鋼を炭素量 0.3 % 以下と超えるもので分け、低合金鋼を成分の系統(C-0.5Mo、2.25Cr-1Mo など)のグループ A〜E に、ステンレス鋼を 12Cr・13Cr・17Cr などのグループ F、18Cr-8Ni・16Cr-12Ni-2Mo などのグループ G、17Cr-4Ni-4Cu のグループ H に分けている[1]。鋼の強さの区分(引張強さの水準)で値を分けてはいない。20 ℃ の値を見ると、グループ A が 200 GPa、グループ D が 211 GPa で、炭素鋼の 203 GPa との差は数 % にとどまる[1]。
購買の場面でこれが効くのは、たわみが大きいという問題に対して「強い鋼に替える」という提案が出たときである。同じ形・同じ荷重なら、部品のたわみはヤング率に反比例する。表の上では、炭素鋼から低合金鋼に替えてもヤング率はほとんど変わらないので、強さの余裕は増えても、たわみはほとんど減らない。たわみを減らすなら、形(断面)を変えるか、ヤング率の大きい材料を選ぶ話になる。逆に、鋼からアルミニウム合金に替えると、20 ℃ の典型値で 203 GPa が 69 GPa になり、同じ形ならたわみはおよそ 3 倍になる[1]。材料の置き換えの進め方は同等材の指定と承認に、アルミの質別の指定はアルミは合金番号と質別で指定するに書いた。
温度で下がる——常温の値を高温で使わない
表 D.1 を温度の方向に読むと、ヤング率は温度が上がるにつれて下がる。炭素鋼(C≦0.3 %)は 20 ℃ で 203 GPa、300 ℃ で 184 GPa、500 ℃ で 150 GPa である[1]。300 ℃ で 1 割近く、500 ℃ で 2 割以上下がる。チタン 1〜3 種は 20 ℃ の 107 GPa が 300 ℃ で 88 GPa に、アルミニウム合金(6061 など)は 20 ℃ の 69 GPa が 200 ℃ で 60 GPa になる[1]。逆に低温側では上がり、炭素鋼は −195 ℃ で 216 GPa である[1]。
高温で使う部品の設計値を常温の値で計算すると、たわみの計算が実際より小さく出る。設計の条件書や解析の依頼書には、ヤング率を「何 ℃ の値か」とセットで書く。使用温度に幅があるなら、どの温度で評価するかも決める。熱膨張の計算に使う線膨張係数も、JIS B 8265 では表 D.2 に温度ごとの値がある[1]。ヤング率と線膨張係数は同じ出典・同じ温度の考え方でそろえておく。
ミルシートでは確かめられない——材料規格にはヤング率の規定がない
材料を買うときに受け取るミルシート(検査証明書)は、その材料規格が求める化学成分や機械的性質を確かめる書類である。たとえば一般構造用圧延鋼材の JIS G 3101 は、機械的性質として降伏点または耐力、引張強さ、伸びなどを定めているが、本文に縦弾性係数の規定はない[5]。ヤング率は、材料規格で保証され、ミルシートに書かれてくる値ではない。
したがって、設計で使うヤング率は、出典の典型値を使う、または必要なら実測する、のどちらかになる。どちらにするかは設計の判断だが、購買の側では、仕入先に「この材料のヤング率を保証してほしい」と頼んでも、材料規格にない項目なので、通常の検査証明書では答えが返ってこないことを知っておく。実測が要るなら、試験方法と試験片と温度を指定して、試験として依頼する。引張試験の依頼の仕方は引張試験(JIS Z 2241)の指定で扱う。
測るなら、方法と測定機で値が変わる
ヤング率を実測するときは、測り方を指定する。金属材料の高温ヤング率の試験方法を定めた JIS Z 2280 は、試験方法を、試験片の共振周波数や超音波の伝わる速さから求める動的ヤング率(横共振法・縦共振法・超音波パルス法)と、静的な荷重による弾性域の応力とひずみの関係から求める静的ヤング率(ひずみゲージ法・押当て式変位計法)に分けている[3]。静的な方法では、引張荷重を各温度の 0.2 % 耐力の 50 % 以下とし、同じ試験片で 5 回繰り返して、最大値と最小値を除いた 3 回の平均を値とする[3]。報告書には、試験方法と試験条件、試験片の形状と寸法、繰返し回数、試験温度、3 回の値と平均値を書く[3]。
また JIS Z 2280 は、高温ヤング率を、試験片の室温における寸法とかさ密度を用いて計算すると定めている[3]。どの方法で、どの寸法と密度を使って計算した値かが、報告書から読めることが大事である。
測定機の選び方でも値の確かさが変わる。静岡県工業技術研究所の研究成果事例は、高張力鋼板 SPFC980 の引張試験で、ビデオ式伸び計とひずみゲージの 2 種類でひずみを測って比べ、ビデオ式伸び計ではノイズが大きく直線性が乏しく、測定間隔が長いためにひずみの増加に測定が追い付かなかったこと、測定間隔の短いひずみゲージでヤング率を測定できたことを報告している[4]。引張試験の荷重-伸びの線から「ついでに」ヤング率を出してもらうと、測定機によっては、強度の試験としては問題なくてもヤング率としては使えない値になりうる。ヤング率が目的なら、ひずみの測り方まで依頼書に書く。
仕入先・外注先と何をそろえるか
ヤング率が関わる取引は、主に次の三つである。どれも、発注時に一行書いておくだけで後の食い違いが減る。
1. 設計・解析を外に出すとき
構造解析や強度計算を外注するときは、使うヤング率(とポアソン比・密度・線膨張係数)を、出典と温度とともに条件書に書く。外注先の標準の材料データベースの値を使うなら、その値を報告書に明記してもらう。
2. ばね・弾性部品を買うとき
ばねは、ばね定数の計算にヤング率(ねじりばね)や横弾性係数(圧縮・引張ばね)が直接入る。JIS B 2704-1 の値で計算するのか、仕入先の材料の値で計算するのかをそろえる[2]。ばねの仕様書の書き方はばねの発注で仕様書に書くことにある。
3. 材料を置き換えるとき
海外の仕入先から別規格の材料を提案されたら、強さだけでなく、ヤング率が設計で使った値と同じ系統かを確かめる。系統が違えば、たわみと振動の計算をやり直す。
よくある質問
設計書に「E=206 GPa」とだけある。正しいか
出典が書かれていなければ、正しいかどうかを判断できない。JIS B 2704-1 では、ばね鋼鋼材・硬鋼線・ピアノ線・オイルテンパー線の値が 206 GPa である[2]。一方、JIS B 8265 では炭素鋼(C≦0.3 %)の 20 ℃ の値が 203 GPa である[1]。どちらの規格の値を、何 ℃ として使ったのかを、計算書に書き足してもらう。
ステンレスに替えれば、鋼と同じ剛性になるか
同じではない。JIS B 8265 の 20 ℃ の典型値で、炭素鋼(C≦0.3 %)が 203 GPa、18Cr-8Ni 系のグループ G が 195 GPa で、ステンレスのほうが少し小さい[1]。差は 4 % ほどなので、多くの部品では問題にならないが、たわみが限界に近い設計では計算し直す。
ミルシートにヤング率を書いてもらえるか
材料規格に規定のない項目なので、通常のミルシートには書かれない[5]。どうしても実測値が要るなら、試験として依頼する。高温(室温を超える温度)で使う部品なら、高温ヤング率の試験方法である JIS Z 2280 の方法と試験温度を指定できる[3]。常温の値が要るなら、静的に測るか動的に測るか、ひずみを何で測るか(ひずみゲージか伸び計か)、試験片と報告の項目を、依頼書で個別に指定する[4]。
解析ソフトに入っている値を使ってよいか
使ってよいが、その値の出典と温度を確かめて報告書に書く。社内の別の計算書と値が違うなら、どちらかにそろえる。値そのものより、関係者が同じ値を使っていることのほうが、合否の判断が割れないために効く。
まとめ
ヤング率は、材料名だけでは一つに決まらない。JIS B 8265 は炭素鋼(C≦0.3 %)に 20 ℃ で 203 GPa、300 ℃ で 184 GPa を、JIS B 2704-1 はばね用ステンレス鋼線に 186 GPa を示しており、出典と温度で値が変わる[1][2]。表は成分の系統で値を分けていて、強い鋼に替えてもヤング率はほとんど変わらない。材料規格にはヤング率の規定がなく、ミルシートでは確かめられない[5]。実測するなら、高温で使う部品は JIS Z 2280 のように方法・温度・報告の項目を指定し、常温でも測り方を個別に決めて、ひずみの測り方まで決める[3][4]。設計・解析の外注、ばねの購入、材料の置き換えでは、どの出典の何 ℃ の値を使うかを仕様書に書いてそろえる。
寸法の測り方を仕入先とそろえる話はピンゲージと限界ゲージの指定に、硬さの換算は硬さの換算(HRC・HV・HB)にある。破断力の表の読み方はワイヤロープ(JIS G 3525)の種類と指定、最小引張強さと疲労の強さの違いはローラチェーン(JIS B 1801)の選び方で扱った。
出典・参考資料
- JIS B 8265:2024 圧力容器の構造-一般事項(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2024 年 5 月 25 日改正)
- JIS B 2704-1:2026 コイルばね-第1部:基本計算方法(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2026 年 8 月 20 日改正)
- JIS Z 2280:1993 金属材料の高温ヤング率試験方法(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/1993 年 2 月 1 日制定・2023 年 10 月 20 日確認)
- 金属材料のヤング率測定手法の検討-ヤング率の測定に適した測定機器の選定-(令和 6 年度 研究成果事例)(静岡県工業技術研究所 沼津工業技術支援センター)
- JIS G 3101:2024 一般構造用圧延鋼材(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2024 年 2 月 20 日改正)
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