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投稿日:2026年10月17日

シボ加工を金型に指定するとき——模様の識別・深さと抜き勾配・光沢の測り方と試作での承認

この記事のポイント(結論先出し)

シボは金型の表面に付けた模様を、射出成形で樹脂に写したものである。指定では、模様(見本と識別番号)、付ける範囲、深さ、光沢、側壁の扱いを決める。側壁にシボを付けるときは抜き勾配と深さをセットで決める。シボ加工会社の技術者の 1991 年の解説は、側壁へのシボは壁面の角度 1 度につき深さ 8〜10 µm を目安とし、そのうえで経験で補正する、としている[2]。勾配の足りない側壁に深いシボを付けると、離型のときに面が擦れてシボが壊れる(カジリ)[2]。シボの見え方は金型の鋼材と溶接補修[1][2]、成形の圧力と樹脂の種類[2]でも変わるので、図面の指定だけでなく試作品で承認する。光沢を数値で約束するなら、JIS Z 8741 が「巨視的にみて平滑な表面」を対象にしている[3]ことを踏まえ、測る角度と場所を決めた当事者間の値として扱う。シボでウェルドラインやヒケを目立たなくできても、強さは変わらない。

この記事は、工業製品の樹脂部品に付けるシボ(皮しぼ、梨地などの表面の模様)を、金型と成形品の発注でどう指定し、受け取るときに何を確かめるかをまとめたものである。家電や機器の筐体、自動車の内装部品などで使われる、金型の表面加工としてのシボを扱う。

シボは、金型の表面を加工して成形で写す

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金型のシボ加工を扱った解説(2011 年)によれば、エッチングによる金型の加工は皮革の模様の要求がほとんどだったことから、ほかの模様も含めて通称「皮シボ加工」または「シボ加工」と呼ばれるようになり、その模様を「シボ模様」または「シボ」と呼ぶようになった[1]。同じ解説は、金型の表面に質感を付ける方法として、機械彫刻、手彫り、放電加工、電解加工、精密鋳造、電気鋳造、溶射、樹脂型、エッチング、サンドブラストなどを挙げ、その中でもエッチングによるシボ加工が経済性・品質の安定性・加工性の面で特に優れているとしている[1]。

エッチングの工程は、金型の脱脂、シボを付けない部分の被覆(マスキング)、酸処理、耐酸性のパターン(レジスト)の形成、二次の被覆、エッチング、そして模様の仕様に応じた二次・三次のエッチングの繰り返し、最後に必要に応じたサンドブラストによる仕上げと防錆、検査、という流れである[1][2]。レジストのパターンは、印刷したシートを金型に押し当てて写す方法や、写真の方法で作られる[1]。つまり、同じ名前の模様でも、どのパターンの原版で、何回エッチングを重ね、どう仕上げたかで見え方が決まる。

シボ加工は金型の形を削る工程とは別の工程なので、金型を発注するときに、シボを付けるかどうか、どの模様をどこに付けるかを先に決めておかないと、金型の設計(抜き勾配や分割)と食い違う。金型の発注で決めること全般は射出成形の金型を発注するとき決めることで扱った。

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シボの指定で決めること

シボの指定に、JIS の決まった書き方はない。次の表は、発注側として決めておきたい項目を、関係する記述と並べたものである。表の「書き方の例」は実務の提案である。

決めること 書き方の例(提案) なぜ決めるか
模様 加工会社の模様の識別番号と、承認した見本板の番号 同じ名前でも原版と工程で見え方が変わる[1]
付ける範囲 図面で面を塗り分け、境界の位置と処理を示す 意匠面と側壁で付けられる深さが違う[2]
深さ 模様の標準の深さか、浅くするなら面ごとの値 側壁では勾配に応じて浅くする必要がある[2]
側壁の抜き勾配 シボを付ける側壁の勾配を図面に明記する 目安は 1 度につき 8〜10 µm(1991 年の解説)[2]
光沢 見本板との目視比較。数値にするなら Gs(60°) などの方法と測る場所 材料と成形条件で光沢が変わる[2]
金型の鋼材と補修 シボを付ける型の鋼材、溶接補修の有無と箇所を加工会社に伝える 鋼材と溶接・偏析でエッチングの仕上がりが変わる[1][2]

側壁のシボは、抜き勾配と深さをセットで決める

エッチングシボと転写性を論じたシボ加工会社の技術者の解説(1991 年)は、筐体のように単一のブロックの金型で作る製品では構造上どうしても側壁ができ、側壁ではシボの形が大きく制約を受けて、基本のデザインとはまったく異質な感じのシボになる、と書いている[2]。そして、側壁はシボ加工することで面の摩擦が増え、シボが壊れる現象(カジリ)を伴いやすくなること、成形生産では離型を妨げない範囲でシボ加工することが大前提で、理論上は樹脂の収縮の範囲内のシボ深さと許容できる側壁角の設計が求められることを挙げている[2]。

同じ解説は、一般的に側壁へのシボ加工は壁面角 1 度につきシボ深さ 8 µm から 10 µm を目安とし、その上に設計者の経験的なデータを積み重ねて補正してシボの設計が行われている、としている[2]。これは 1991 年のある加工会社の技術者による目安で、規格の値ではない。模様、樹脂、成形品の形で変わるので、使う模様について加工会社と成形の仕入先に確かめる。製品として最も目立つ部分に基本のデザインを付け、側壁では妥協する、という考え方も同じ解説に書かれている[2]。

使ってはいけない指定:勾配のない側壁に、意匠面と同じ深いシボ

外観のデザインだけで「全面シボ」と指定し、抜き勾配を検討しないまま金型を作ると、側壁のシボが離型のときに擦れて壊れ、成形品に擦り傷のような跡が出る[2]。勾配を後から増やすには金型の形を変える必要がある。シボを付ける側壁があるなら、その勾配と付けるシボの深さを、図面を出す段階で決める。勾配が取れない場所は、浅いシボにする、シボを付けない、などの判断を先にしておく。

金型の鋼材と溶接補修で、シボの仕上がりが変わる

1991 年の解説は、型の表面のシボの形を、レジストのパターンとエッチングによるマクロな形と、金型材質のエッチング性そのものによって表れるミクロな表面の粗さに分けて考え、後者は基本的に金属の結晶粒の大きさでおおむね決まる、としている[2]。そのうえで、汎用の SC 系の材料は結晶粒の粗さと不規則さが目立ってざらついた凹凸感になり、SCM 系は比較的均質な結晶粒で適当な表面粗さになること、SCM(改)・SNCM(改)・AISI 規格 P21 などは結晶粒が緻密で平滑なエッチング性を示すこと、SUS 系はマクロな形を表す多層エッチングや梨地・砂目のシボにはまったく適さないこと、などを挙げている[2]。

エッチングの段階で、偏析材や溶接処理材などの不均質な材料には配慮が必要だとも書かれている[2]。2011 年の解説も、エッチング加工では溶接や偏析の影響が問題として残ることに触れている[1]。発注側にとっての意味は 2 つある。1 つは、金型の鋼材を選ぶときに、シボを付ける型かどうかを判断の条件に入れること。もう 1 つは、シボを付けた後や付ける前に金型を溶接で補修すると、その部分だけ見え方が変わることがあるので、補修したら加工会社に知らせ、試作品で見え方を確かめることである。樹脂金型の鋼材の選び方は樹脂金型の鋼材の選び方で扱う。

同じ金型でも、成形条件と樹脂でシボの見え方が変わる

1991 年の解説は、エッチングとサンドブラストの型面をそれぞれ 4 種類用意し、ABS 樹脂と PP を射出の圧力を変えて成形して、表面粗さと光沢で転写のしかたを調べている[2]。低い圧力の射出成形では型面の形がほとんど反映されず、成形品として取り出せてもシボの質感は不合格といえる、という結果だった[2]。成形材料の光沢の質感は、メーカー・グレード・ロットで少しずつ差があるが、一般に ABS 樹脂、PP、充填材入り PP の順に光沢が高い関係があるとし、異なる材料や成形条件を組み合わせた製品では、少なくとも光沢の水準の転写性を合わせることまで配慮すべきだとしている[2]。

実務では、同じ模様の金型で、ABS の部品と PP の部品を並べて組み立てる製品で、隣り合う部品の見え方がそろわないことがある。シボの指定は金型の発注で終わらず、材料と成形条件を決めたうえで、実際の成形品どうしを並べて承認する必要がある。量産の途中で材料のグレードや成形条件を変えるときは、シボの見え方も変更の確認の対象にする。

光沢を数値で約束するときの注意

JIS Z 8741(鏡面光沢度-測定方法)は、鉱工業製品の巨視的にみて平滑な表面の鏡面光沢度を測定する方法を定めている[3]。測り方は 85 度、75 度、60 度、45 度、20 度の 5 つで、60 度(方法 3)の適用例にプラスチックが挙がっている。20 度は 60 度で測った光沢度が 70 を超える表面に、85 度は 60 度で測った光沢度が 10 以下の表面に使う、という区分もある[3]。測定値には、どの方法で測ったかを Gs(60°) のような記号で付けて表す[3]。

ここで、シボを付けた面は巨視的にみて平滑とは言いにくい。1991 年の解説は 60 度の光沢計で成形品の光沢を測っているが、粗いエッチング面では不規則な凹凸による乱反射で光の量が減ったのを機器が捉えたもので、転写がよくなったことを意味するわけではない、と注意している[2]。2011 年の解説も、シボを付けた成形品では測る場所によって鏡面光沢度の値が異なることがある、という加工会社の試験の結果に触れている[1]。シボ面の光沢の数値は、規格の対象の外で使う値として、測る方法(角度)、装置、測る場所と向きを当事者で決めた参考値にとどめ、合否は承認した見本板との目視比較を主にするのが無理のない方法である。光沢の局部的な低下は、JIS K 6900 ではつや消しはん点(matt spot)と呼ばれている[4]。外観基準書の欠点の名前に使える。

シボで欠点を隠すと、何が隠れて何が残るか

2011 年の解説は、エッチングによるシボ加工が金型表面の質感の技術として本格的に使われ始めた 1950 年代後半には、成形品の表面のウエルドライン、ヒケ、キズなどの技術上の問題点を消す補足的な手段などとして利用されたにすぎなかった、と書いている[1]。今でも、シボで傷やウェルドラインを目立ちにくくする効果は使われている[1]。

ただし、隠れるのは表面の跡で、ウェルドラインの強さは変わらない。外観の対策としてシボを選ぶのはよいが、力のかかる場所のウェルドラインは、シボの有無と関係なく位置と強さで確かめる。その決め方は成形品のヒケ・ウェルドラインの受入基準で扱う。

2 面目の金型や海外の工場で、同じシボを出すには

デジタルデータからシボを直接加工する技術を解説した研究(2013 年)は、従来の工法では成形の収縮によるシボの変化などに対して変形の見込み量を入れることや、指定した模様を指定した位置に作ること、模様を拡大・縮小することを職人の手作業で行っているため、積極的にシボを制御するのは難しい、と書いている[5]。そのうえで、シボの凹凸を画像として持ち、金型の CAD モデルに貼り付けたデジタルモデルから、切削やレーザ加工で金型にシボを付けるシステムを紹介している[5]。2011 年の解説も、2000 年以降は幾何学模様やヘアラインなど、従来は三次曲面に加工が難しかったシボを付けることが多くなったとしている[1]。

発注側にとって大事なのは、どの方法で作ったシボかによって、別の金型で同じ見え方を再現する手段が違うという点である。量産の途中で金型を増やす、海外の工場で同じ部品を作る、といった計画があるなら、最初の金型の段階で、模様の原版やデータが誰の手元にどう残るのか、2 面目をどう合わせるのかを確かめておく。承認した見本板を、発注側と仕入先の双方で持つことも決めておく。

発注書・図面に書くこと

1. 模様の識別と見本
模様の識別番号と、承認した見本板(双方が保管)。

2. 付ける範囲
面の塗り分けと境界。シボを付けない面も明示する。

3. 深さと抜き勾配
シボを付ける側壁の勾配と、面ごとの深さの考え方。

4. 光沢の決め方
見本板との目視比較の条件。数値にするなら測る方法・装置・場所。

5. 承認の方法
試作の成形品で、決めた材料と成形条件で作ったものを見本板と並べて承認する。

6. 変更の連絡
金型の溶接補修、シボの再加工、材料のグレード、成形条件、生産場所を変えるときは事前に知らせ、見え方を確かめること。

受け入れるときに確かめること

初回は、承認した見本板と成形品を、決めた条件で並べて見る。側壁にシボの擦れや壊れた跡がないか、シボを付けない面との境界が図面どおりかを見る。多数個取りの金型なら、キャビティごとに見え方がそろっているかを見る。量産に入ってからは、金型の摩耗や汚れでシボの見え方が変わることがあるので、見本板との比較を定期的に行い、変わったら仕入先に金型の状態を確かめてもらう。

よくある質問

シボの深さは図面に数値で書くべきですか

模様の標準の深さで足りる面は、模様の識別番号と見本板で指定すれば十分なことが多い。側壁のように勾配で深さが制約される面は、勾配と深さの考え方を書く。目安として、1991 年の解説は壁面の角度 1 度につき 8〜10 µm を挙げている[2]が、模様と樹脂で変わるので加工会社と確かめる。

光沢の数値を合否の基準にしてもよいですか

JIS Z 8741 は巨視的にみて平滑な表面を対象にしており[3]、シボ面では測る場所で値が変わることもある[1]。数値を使うなら、方法・装置・場所を決めた当事者間の参考値とし、合否は見本板との目視比較を主にする。

シボを付ければ、ウェルドラインの問題は解決しますか

見た目は目立ちにくくなるが[1]、強さは変わらない。力のかかる場所のウェルドラインは、位置と強さの確認で決める。

まとめ

シボは金型の表面に付けた模様を成形で写したもので、エッチングが代表的な工法である。指定では、模様の識別番号と見本板、付ける範囲、深さ、側壁の抜き勾配、光沢の決め方を決める。側壁のシボは勾配と深さをセットで決め、1991 年の解説の目安(角度 1 度につき深さ 8〜10 µm)を出発点に加工会社と確かめる。勾配のない側壁に深いシボを指定しない。金型の鋼材と溶接補修、成形の圧力と樹脂の種類でもシボの見え方が変わるので、承認は実際の成形品で行う。光沢の数値は JIS Z 8741 の対象が平滑な表面であることを踏まえて参考値にとどめる。シボで隠れるのは表面の跡だけで、ウェルドラインの強さは変わらない。

同じ束では、成形品のヒケ・ウェルドラインの受入基準、樹脂の着色とマスターバッチの指定、AS 樹脂と ABS/PC の選び方、変性 PPE の選び方も扱う。

出典・参考資料

  1. 渡邊豊彦「成形用金型へのシボ加工技術について」成形加工 23 巻 11 号(プラスチック成形加工学会/2011 年)
  2. 小池弘之「エッチングシボと転写性」成形加工 3 巻 8 号(プラスチック成形加工学会/1991 年)
  3. JIS Z 8741:1997 鏡面光沢度-測定方法(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1997 年 9 月 20 日改正・2021 年 10 月 20 日確認)
  4. JIS K 6900:1994 プラスチック-用語(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1994 年 1 月 1 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  5. 三浦憲二郎「デジタルデータからのシボ直接加工技術の現状と将来展望」成形加工 25 巻 12 号(プラスチック成形加工学会/2013 年)

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