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SUS430とSUS304の違い——磁性・耐食性・加工性とJIS G 4305の規格値、置き換えの判断

この記事のポイント(結論先出し)
SUS430 はクロム 16〜18% のフェライト系、SUS304 はクロム 18〜20%・ニッケル 8〜10.5% のオーステナイト系で、JIS(JIS G 4305 など)ではニッケルの扱いがいちばん大きな違いになる(SUS430 のニッケルは 0.60% 以下)[1][2]。ステンレス協会は、SUS430 に代表されるフェライト系は SUS304 より安価な反面、加工性・溶接性・耐食性が劣るとしている[3]。一方で、塩化物による応力腐食割れは主としてオーステナイト系に特有で、フェライト系の採用が対策の一つに挙げられている[4]。置き換えは使う環境・溶接・成形の 3 点に、磁性と熱膨張を加えて判断し、図面の材質を改めてから切り替える。SUS304 も冷間加工で磁性を帯びるので[5]、磁石では見分けられない。注文時に検査文書を求めておけば、受入ではミルシートのニッケルの値で取り違えを見分けられる。
目次
SUS430 と SUS304 の違いは、組織とニッケル
板金の筐体やカバー、厨房機器の部品では、図面の材質欄が SUS304 と SUS430 のどちらかになっていることが多い。どちらも同じ「ステンレス」で見た目もよく似ているが、JIS では分類そのものが違う。ステンレス鋼棒の JIS G 4303 は、64 種類の鋼種をオーステナイト系、オーステナイト・フェライト系、フェライト系、マルテンサイト系、析出硬化系の 5 つに分け、SUS304 をオーステナイト系、SUS430 をフェライト系に入れている[2]。冷間圧延の板と帯の JIS G 4305 も同じ分け方である[1]。
化学成分で見ると、違いはクロムとニッケルにある。JIS G 4305 の表で、SUS430 は炭素 0.12% 以下、クロム 16.00〜18.00% で、ニッケルの欄はなく、注記で 0.60% を超えてはならないとされている[1]。SUS304 は、JIS G 4303 の表で炭素 0.08% 以下、ニッケル 8.00〜10.50%、クロム 18.00〜20.00% である[2]。この 2 鋼種では、ニッケルを 8% 以上含むかどうかが、オーステナイト系とフェライト系の違いになって表れている。
鋼種全体の選び方(304L や 316 系の使い分け、形状ごとの規格の引き方)はステンレスの発注で指定することで扱った。棒材で快削の SUS303 と比べる話はSUS303 と SUS304 の棒材の選び方にまとめている。この記事は、SUS430 と SUS304 のどちらを使うか、置き換えの話が出たときに何を確かめるかに絞る。
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規格値と物性を並べると
次の表は、冷間圧延の板(JIS G 4305)の規格値と、ステンレス協会がまとめている物理的性質を並べたものである。機械的性質は、SUS430 は焼なまし状態、SUS304 は固溶化熱処理状態の規定値になる[1]。物理的性質は規格の要求ではなく、同協会がデータブックなどから示している代表の値である[5]。
| 項目 | SUS430(フェライト系) | SUS304(オーステナイト系) |
|---|---|---|
| クロム(Cr) | 16.00〜18.00% | 18.00〜20.00% |
| ニッケル(Ni) | 0.60% を超えてはならない | 8.00〜10.50% |
| 炭素(C) | 0.12% 以下 | 0.08% 以下 |
| 引張強さ(板・JIS G 4305) | 420 N/mm² 以上 | 520 N/mm² 以上 |
| 耐力(注文者の指定がある場合に適用) | 205 N/mm² 以上 | 205 N/mm² 以上 |
| 伸び | 22% 以上 | 40% 以上 |
| 密度(代表値) | 7.70 g/cm³ | 7.93 g/cm³ |
| 平均熱膨張係数 0〜100℃(代表値) | 10.4 × 10⁻⁶/℃ | 17.3 × 10⁻⁶/℃ |
| 熱伝導率 100℃(代表値) | 26.4 W/m・℃ | 16.3 W/m・℃ |
| 磁性 | 強磁性 | 加工していない状態では非磁性。加工で磁性を帯びる |
成分は JIS G 4305 の表 3・表 5、機械的性質は表 8・表 11 による[1]。SUS304 の成分は棒の JIS G 4303 の表でも同じ範囲である[2]。物性の 4 行はステンレス協会の物理的性質の表から採った[5]。熱間圧延の板の JIS G 4304 でも、SUS430 の引張強さ 420 N/mm² 以上・伸び 22% 以上・180° 曲げで内側半径が厚さの 1.0 倍という規定値は冷間圧延の板と同じで、基本質量も同じ 7.70 kg/(mm・m²) になっている[8]。ほかの元素や、棒(JIS G 4303)の機械的性質は、それぞれの規格の表で確かめる。
伸びの下限が 22% と 40% で大きく違い、引張強さの下限も SUS304 の方が高い。一方、SUS430 の板には 180° 曲げで内側半径を厚さの 1.0 倍とする曲げ性の規定があり、試験片の外側に割れを生じてはならないとされている[1]。曲げ加工の限界の考え方は板金の曲げ加工でできないことで扱った。
磁性:磁石では SUS304 と SUS430 を見分けられない
「SUS430 は磁石に付き、SUS304 は付かない」と覚えている人は多い。ステンレス協会も、マルテンサイト系・フェライト系は強磁性材料で、非磁性のオーステナイト系とは磁気的性質が異なるとしている[5]。ただし同じ資料は、SUS301・304 は加工によって磁性を持つようになり、SUS305・316 は加工に対しても非磁性の安定性がある、と続けている[5]。同協会の成形加工の解説も、SUS304 などのオーステナイト系では加工された部分でマルテンサイトが発生し、磁性を帯びてくると書いている[6]。
このため、曲げや絞りをした SUS304 の部品では、加工した部分が磁石に付くことがある。受入で磁石を当てて「付いたから SUS430 が混じった」と判定すると、正しい材料を不合格にしかねない。逆に、磁石に付かないことを部品の機能として求めるなら(センサーの近くに置く部品など)、SUS304 と書くだけでは足りず、加工後に磁性をどこまで許すかを仕様に書く必要がある。
同協会は、磁性と耐食性は直接の関係がなく、加工部に着磁性が生じても磁石になるわけではないので、鉄粉を引き付けて集めて錆びるということはない、ともしている[5]。磁石に付くことを耐食性が劣る印と読まないことも大切である。
耐食性:SUS430 が劣る場面と、そうでない場面
ステンレス協会は、低炭素・低窒素のフェライト系ステンレス鋼の解説の中で、フェライト系は SUS430 に代表されるように SUS304 に比べて安価である反面、加工性・溶接性・耐食性が劣っているという欠点がある、と説明している[3]。一般の水回りや屋外で、外観の錆が問題になる部品を SUS304 から SUS430 に替えるなら、まずこの点を前提にする。
孔食やすき間腐食の目安として、同協会は孔食指数 PI = Cr(%)+ 3.3 Mo(%)の式がよく使われるとしている[4]。SUS430 も SUS304 もモリブデンの規定がないので、この式ではクロムの範囲がそのまま指数になる。表のクロムの範囲(16〜18% と 18〜20%)から見ても、塩分のある環境で SUS430 が SUS304 より有利になる理由はない。ただしこの式はニッケルを含まない一つの目安で、環境ごとの判断は使用条件の試験や実績で行う。
一方で、腐食の形によっては関係が逆になる。同協会は応力腐食割れを、塩素イオンなどの腐食因子と引張応力の作用下で起こる、主としてオーステナイト系ステンレス鋼に特有の腐食割れとし、対策の一つに高ニッケル鋼やフェライト系ステンレス鋼の採用を挙げている[4]。温水や塩化物を含む液に触れ、溶接や加工で引張の残留応力が残る部品では、SUS304 の方が割れのおそれを抱えることになる。耐食性を「どちらが上か」の一言で決めず、どの腐食を心配しているのかを設計と確かめる。
加工と溶接:成形の種類で向き不向きが分かれる
ステンレス協会の成形加工の解説は、張り出し成形と曲げ加工の要素が強い加工にはオーステナイト系が優れ、絞り成形の要素が強い加工にはフェライト系が優れている、としている[6]。同じ解説は、SUS430 などのフェライト系を絞り成形したときに縦方向に割れる現象(絞り加工による材料の脆化が原因)と、加工した板の表面にうねり状の凹凸が現れるリジングを挙げ、リジングは完全になくすことはできないとしている[6]。外観が品質に入るプレス部品で SUS430 を使うなら、限度見本でリジングをどこまで許すかを決めておく。
溶接について、同協会の溶接の解説は、溶接方法と推奨適用板厚の表で、TIG 溶接は SUS304・SUS430 とも適用できるとする一方、MIG 溶接・サブマージアーク溶接・被覆アーク溶接は SUS304 の◎に対して SUS430 を△としている[7]。同じ解説は、炭素・窒素を下げてチタン・ニオブを加えた高純度フェライト系ステンレスの溶接について、溶接熱影響部で組織が粗大化すると低温靭性が大きく低下するため、入熱制限などの注意が必要だとも書いている[7]。SUS430 そのものについての記述ではないが、フェライト系の溶接で熱影響部の粗大化に気を付ける理由にはなる。また低炭素・低窒素のフェライト系の解説は、厚板(4 mm 以上)では靭性の劣化が問題になるとしている[3]。溶接構造を SUS430 で作るなら、溶接方法と入熱の条件を仕入先と先に決める。溶接の指定の全体は溶接を含む部品の発注で指定することで扱った。
熱膨張:異種の材料と組み合わせる部品で効く
ステンレス協会は、SUS304 は SUS430 に比べると大きな熱膨張係数をもつとしている[5]。表の値で 0〜100℃ の平均を比べると、SUS304 は 17.3、SUS430 は 10.4(× 10⁻⁶/℃)である[5]。長さ 1,000 mm の部材が 80℃ 温まると、単純計算で SUS304 は約 1.4 mm、SUS430 は約 0.8 mm 伸びる。
この差は、加熱される機器の外装や、炭素鋼の枠に取り付ける長尺の部材で効いてくる。SUS304 を SUS430 に替えると、熱で伸びる量が変わり、ボルト穴の逃げや目地の幅の設計前提が変わることがある。置き換えの相談を受けたら、温度が変わる部品かどうかも確かめる項目に入れる。
SUS304 を SUS430 に置き換えてよいかの判断
コストや納期の理由で、仕入先から「SUS430 にしたい」と提案されることがある。ここまでの資料から、発注側として確かめる点を並べると次のようになる。どれかに当たるなら、設計の判断を仰ぐ。
1. 使う環境
水がかかる、結露する、洗浄される、屋外に置かれる、塩分がある。外観の錆や孔食が問題になる部品では、SUS430 は耐食性で劣るという前提に立つ[3][4]。逆に、塩化物の環境で応力腐食割れが心配な部品なら、フェライト系が対策側に入る[4]。
2. 溶接
溶接構造か、溶接方法は何か、板厚はいくつか。MIG 溶接や被覆アーク溶接が前提なら、SUS430 は△の扱いになる[7]。
3. 成形
張り出しや曲げが主か、深絞りが主か。伸びの下限が 22% と 40% で違い[1]、成形の種類で向き不向きが分かれる[6]。外観面のリジングを許すか。
4. 磁性
磁性が機能に効く部品か。SUS430 は強磁性で、SUS304 も加工部は磁性を帯びる[5]。
5. 温度変化と組み合わせ
熱で伸びる量が変わって困る組み合わせがないか[5]。
了承するなら、図面の材質を改訂してから切り替える。図面が SUS304 のまま材料だけ変えると、受入でミルシートの鋼種が図面と合わなくなり、後から誰が承認したのかが追えなくなる。
発注書に書くこと
1. 鋼種記号と規格番号
形状で規格が変わる。冷間圧延の板なら JIS G 4305、熱間圧延の板なら JIS G 4304、棒なら JIS G 4303 である。板を記号で表す必要があれば、JIS G 4305 では末尾に -CP を付ける(例 SUS430-CP)[1]。
2. 熱処理の状態
JIS G 4305 は、特に注文者の指定がなければ、オーステナイト系の熱処理は固溶化熱処理、フェライト系は焼なましとしている[1]。通常は指定しなくてよいが、表の機械的性質はこの状態の値である。
3. 表面仕上げと寸法
No.2B・BA・HL などの仕上げと、厚さ・幅・長さ。仕上げの名称の幅は上で挙げた発注の記事で扱った。
4. 検査文書の種類
板の JIS G 4305 と棒の JIS G 4303 は、どちらも報告の箇条で、検査文書の提出を注文者の要求があるときの義務としている。要求したのに種類を書かなかった場合は検査証明書 3.1 になる[1][2]。黙っていれば成績書は付いてこないので、受入でミルシートを見るなら注文時に求めておく。区分の違いはEN 10204 のミルシート区分にまとめた。
5. 磁性・耐食性の要求(必要な部品だけ)
非磁性が機能に効くなら、加工後の磁性の許容をどう確かめるかを書く。これは規格の要求ではなく、発注側が上乗せする指定である。
受入で確かめること
注文時に検査文書を求めておけば、受入でいちばん効くのはニッケルの値である。SUS304 なら 8.00〜10.50%、SUS430 なら 0.60% 以下になっているはずである[1][2]。SUS304 で注文したのに成績書のニッケルが 1% を下回っていれば、鋼種の取り違えを疑う。クロムの値も、SUS430 は 16〜18%、SUS304 は 18〜20% と範囲が分かれている[1][2]。
現品と成績書の結び付きは表示で確かめる。JIS G 4305 は、板と帯に種類の記号、表面仕上げの記号、製造業者名またはその略号、溶鋼番号または検査番号などを表示するとしている[1]。磁石は補助にとどめる。前述のとおり、加工した SUS304 は磁石に付くことがあるので[5]、磁石だけで合否を決めない。
質量で受け入れる場合は、密度の違いにも気を付ける。JIS G 4305 の基本質量は SUS304 が 7.93、SUS430 が 7.70(kg/(mm・m²))で[1]、同じ寸法なら SUS430 の方が約 3% 軽く計算される。計算の手順は鋼材の重量の計算で扱った。
よくある質問
SUS430 は錆びないステンレスと考えてよいですか
クロムを 16〜18% 含むステンレスではあるが、ステンレス協会は SUS430 に代表されるフェライト系を、SUS304 より耐食性が劣るものとして説明している[3]。屋内の乾いた環境の部品と、水回り・屋外の部品とでは判断が変わる。どの環境で使うかを先に確かめる。
受入で磁石に付いた SUS304 の部品が見つかりました
曲げや絞りで加工した部分なら、SUS304 でも加工によって磁性を帯びることがある[5][6]。磁石だけで判定せず、ミルシートのニッケルの値と現品の表示で鋼種を確かめる。加工していない平らな部分まで強く付くなら、取り違えを疑って仕入先に問い合わせる。
SUS430 の代わりに SUS304 を使ってよいかと聞かれました
伸びと、孔食・すき間腐食への強さでは上の鋼種になる。ただし塩化物と引張応力による応力腐食割れは主としてオーステナイト系の問題で[4]、その心配がある部品では一律に上とは言えない。また、磁性が必要な部品(磁石で固定する部品など)では使えないことがあり、熱膨張も大きくなる[5]。単価も変わる。性能が上の鋼種への変更でも、図面の材質を改訂してから切り替える。
まとめ
SUS430 はクロム 16〜18%・ニッケル 0.60% 以下のフェライト系、SUS304 はクロム 18〜20%・ニッケル 8〜10.5% のオーステナイト系で、違いの中心はニッケルにある。SUS430 は安価な反面、加工性・溶接性・耐食性で SUS304 に劣るとされるが、塩化物による応力腐食割れではフェライト系が対策側に入る。成形は張り出し・曲げならオーステナイト系、絞りならフェライト系が向き、SUS430 の外観面ではリジングを避けきれない。置き換えは使う環境・溶接・成形の 3 点に磁性と熱膨張を加えて判断し、図面を改めてから切り替える。SUS304 も加工で磁性を帯びるので、受入は磁石ではなく、注文時に求めた検査文書のニッケルの値と表示で行う。
同じ束では、焼入れできるステンレスをSUS440C と SUS630 の熱処理と硬さの指定で、ステンレスの鋳物をSCS13 の発注で扱う。
出典・参考資料
- JIS G 4305:2021 冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 3 月 22 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
- JIS G 4303:2021 ステンレス鋼棒(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 3 月 22 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
- LowC、N フェライト系ステンレスの特長について(一般社団法人ステンレス協会)
- ステンレスの耐食性と腐食現象について(Q&A)(一般社団法人ステンレス協会)
- ステンレスの導電率、透磁率、熱膨張率などの物理的性質について(一般社団法人ステンレス協会)
- 成形加工での注意事項について(一般社団法人ステンレス協会)
- ステンレス溶接の施工方法とその後の手入れについて(一般社団法人ステンレス協会)
- JIS G 4304:2021 熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 3 月 22 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
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