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投稿日:2026年10月16日

蝶ボルト・蝶ナット JIS B 1184・B 1185 の指定——種類、保証トルクの意味と使ってはいけない所

この記事のポイント(結論先出し)

蝶ボルトは JIS B 1184(ちょうボルト)、蝶ナットは JIS B 1185(ちょうナット)が規定している[1][2]。どちらも翼の形と作り方で種類を分け(ボルトは 1〜3 種、ナットは 1〜4 種)、機械的性質の代わりに「保証トルク」を決めている。保証トルクは、そのトルクを加えても破断・翼の著しい変形・結合部のゆるみがないことを確かめる試験の値で、締付け力(軸力)を保証する値ではない[1][2]。ねじの公差域クラスもボルト 8g・ナット 7H(小径を除く。M5 未満のボルトは 6g、M3 未満のナットは 6H)と、一般のボルト・ナット(6g・6H)より粗い[1][2]。手で締め緩めする前提の部品なので、締付け力の管理が要る締結、振動を受ける締結には向かない。発注書には種類・保証トルクの区分(A か B)・材料・表面処理を、規格の呼び方の並びで書く。

「蝶ナット M6」で手配すると、何が決まっていないか

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蝶ボルトと蝶ナットは、頭(翼部)に指でつまむための二枚の翼が付いたボルトとナットである。点検口のふた、治具の押さえ、調整のために何度も外す部品のように、工具を使わずに締め緩めしたい場所で使う。JIS では「ちょうボルト」「ちょうナット」とひらがなで書かれ、蝶ボルトは JIS B 1184、蝶ナットは JIS B 1185 が規定している[1][2]。

JIS B 1184 の適用範囲は「一般に用いる金属製のちょうボルト」で、頭部(翼部)と軸部とを溶接、かしめ、その他適切な方法によって強固に結合したもの、又は一体成形したものに適用するとしている[1]。JIS B 1185 の適用範囲も「一般に用いる金属製のちょうナット」である[2]。どちらも材料を一つに決めておらず、鋼・鋳鉄・ステンレス鋼・黄銅などのどれでもよい作りになっている。

このため「蝶ナット M6」とだけ頼むと、次のことが決まらない[1][2]。

1. 種類(翼の形と作り方)
翼端が半円形か角形か、板をプレスして作ったものか、ダイカストで作ったものか。翼の大きさも種類で違う。

2. 保証トルクの区分(A か B)
1 種・2 種には、材料によって二つの保証トルクの区分がある。

3. 材料
規格の材料の規定は「表 2 の保証トルクを満足するもの」だけで、鋼か鋳鉄か黄銅かは注文で決まる。

4. 表面処理
規格は一般に表面処理を施さないとし、必要なら注文者が指定するとしている。

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種類——翼の形と作り方

JIS B 1184 は、ちょうボルトの種類を頭部の形状と製造方法で 3 つに分けている[1]。1 種は翼端が半円形で製造方法は特に規定しない、2 種は翼端が角形、3 種は板のプレス加工によるもので翼端は規定しない。表の範囲は、1 種が M2〜M24、2 種が M3〜M20、3 種が M4〜M10 である[1]。

JIS B 1185 は、ちょうナットを 4 つの種類に分けている[2]。1 種は翼端が半円形、2 種は翼端が角形、3 種は板のプレス加工によるもので、ねじ部長さ ks によって高形と低形に区分する。4 種はダイカストによるもので、翼部のくぼみは付けなくてもよいとされている[2]。

どちらの規格も、大きい翼部を必要とする場合は一段上の頭部寸法を用いてもよいとしており、その場合は呼び方で種類の後に「(大形)」と付け加える[1][2]。手袋をしたまま回す、力を入れて回したい、といった理由で大きい翼が欲しいときは、この指定を使う。

保証トルクとは何か——締付け力の保証ではない

普通の六角ボルトや六角ナットは、JIS B 1051 や JIS B 1052-2 の強度区分(8.8 や 8 など)で機械的性質を指定する。ちょうボルトとちょうナットには強度区分がなく、代わりに「保証トルク」が決められている[1][2]。

JIS B 1184 は、ボルトに表 2 の保証トルクを加えたとき、その保証トルク以下で破断したり、頭部と軸部との結合部に緩み・き裂などが生じたり、翼部が著しく変形してはならないとしている[1]。試験は、ボルトに座金を入れてナットをねじ込み、ナットか翼部のどちらかを固定してもう一方にトルクを加える方法で、座金とナットの全面にスピンドル油を塗布すると決められている[1]。JIS B 1185 も同じ考え方で、ナットが保証トルク以下で破断したり翼部が著しく変形したりせず、保証トルクを加えた後にナットはボルトから指で取り外せなければならない、としている(最初の 1/2 回転はレンチで緩めてよい)[2]。

下の表は、両規格の表 2 から、よく使う M6・M8・M10 の保証トルクを並べたものである[1][2]。区分 A は通常、材料が炭素鋼・可鍛鋳鉄・ステンレス鋼などのもの、区分 B は鋳鉄・銅合金・亜鉛合金などのものに適用するとされている[1][2]。

保証トルク(N・m) M6 M8 M10
ボルト・ナット 1 種と 2 種・区分 A 5.39 12.7 25.5
ボルト・ナット 1 種と 2 種・区分 B 3.92 8.83 17.7
ボルト 3 種・ナット 3 種高形 3.92 8.83 17.7
ナット 3 種低形 1.96 4.41 8.83
ナット 4 種(ダイカスト) 3.92 8.83 17.7

保証トルクは「この値までトルクを加えても壊れない」ことを確かめる値で、「この値で締めると何 N の締付け力が出る」という値ではない。規格の試験も、締付け力を測るのではなく、破断・変形・ゆるみの有無を見る試験である[1][2]。同じ M8 でも、ナット 3 種低形の保証トルクは 1 種・2 種の区分 A の 3 分の 1 程度しかない。プレス品の低形を手で強く締めると、翼が曲がる可能性がある、ということになる。

締付け管理の方法に、手で回す締付けは入っていない

ねじの締付け管理の考え方を定めた JIS B 1083(ねじの締付け通則)は、代表的な締付け管理方法として、締付けトルクを指標にするトルク法、締付け回転角を指標にする回転角法、締付け回転角に対する締付けトルクのこう配を指標にするトルクこう配法の三つを挙げ、締付け力のばらつきの程度を締付け係数で示している(トルク法で 1.4〜3、参考値)[3]。どれも工具で指標を管理する方法で、指で翼を回して締める方法は入っていない。蝶ボルト・蝶ナットで締めた締結は、締付け力を管理する手段がないと考えたほうがよい。

ここから先は規格の要求ではなく実務の提案である。次のような場所では、蝶ボルト・蝶ナットを使ってよいか設計者に確かめる。

1. 締付け力が性能に関わる場所
ガスケットで漏れを止める、部品の位置ずれを摩擦で止める、といった締結は、締付け力が足りないと機能しない。

2. 振動や繰返しの荷重を受ける場所
締付け力が小さいと、振動でゆるみやすくなる。蝶ナットの規格に、ゆるみ止めの性能の規定はない[2]。

3. 外れると危険な場所
回転体のカバー、高所で落下するおそれのある部品などは、工具で締めて管理できる締結のほうが、点検で状態を確かめやすい。

締付けトルクで管理する場合の考え方はボルトの締付けトルクの決め方で扱った。

ねじの公差と表面処理

ちょうボルトのねじはメートル並目ねじで、公差域クラスは JIS B 0209-3 の 8g(M5 未満のねじは 6g)とされている[1]。ちょうナットのねじは同じく並目ねじで、公差域クラスは JIS B 0209-3 の 7H(M3 未満のねじは 6H)である[2]。JIS B 0209-3 は ISO 965-3 と一致する規格で、構造体用ねじの公差域クラスごとの寸法許容差を表で示している[4]。一般のボルト・ナットの 6g・6H に比べて、はめあいにゆとりのある側の公差になっている。どちらの規格も細目ねじは規定していない[1][2]。

ボルトに電気めっきを施したねじの最大許容寸法は 4h の最大許容寸法とし、溶融めっきを施したねじの精度は受渡当事者間の協定によるとされている[1]。表面処理は一般に施さず、めっきなどが必要な場合は注文者が指定し、電気めっきを施す場合は JIS B 1044 によるのがよいとされている[1][2]。JIS B 1044 は 2024 年に改正され、六価クロムを含まない電気めっき皮膜システムを、皮膜の種類・厚さ・後処理などで表示する形になっている[5]。屋外や水回りで使うなら、ステンレス製にするか、めっきの種類と厚さを指定する。

表面状態は、表面が滑らかで、使用上有害な割れ・きず・かえり・くぼみ・欠け・型ずれなどの欠陥がなく、めっきなどを施したものには膨れや素地露出などの欠陥があってはならないとされている[1][2]。翼は手で触れる部分なので、かえりやばりの有無は受入で目で確かめる項目になる。

発注書の書き方と受入

両規格とも、呼び方は JIS B 1010 によるとし、次のような例を示している[1][2]。

ちょうボルトの例(M6・呼び長さ 20 mm・1 種・保証トルクの区分 A)
ちょうボルト-1 種 JIS B 1184-M6×20-A

ちょうボルトの例(M10・呼び長さ 100 mm・3 種・区分 A・丸先・亜鉛めっき)
ちょうボルト-3 種 JIS B 1184-M10×100-A-丸先-亜鉛めっき

ちょうナットの例(M5・3 種の高形・鋼板・亜鉛めっき)
ちょうナット JIS B 1185-M5-3 種高形-鋼板-亜鉛めっき

ちょうナットの呼び方では、保証トルクの区分を指定する場合は 1 種・2 種のナットに A か B を付け、材料は一般名称でもよいとされている[2]。規格の例どおり「亜鉛めっき」とだけ書くと皮膜の厚さが決まらないので、必要なら厚さや耐食性の要求を足す。

製品の表示については、どちらの規格も特に規定しない[1][2]。包装の表示は、規格番号又は規格名称、種類、ねじの呼び(ボルトは呼び×呼び長さ)、材料、指定事項、数量、製造業者名又はその略号で、ちょうナットの 1 種・2 種はねじの呼びの後に保証トルクの区分(A か B)を表示する[1][2]。ボルトは、頭部と軸部の材料が異なる場合、頭部材料の後に括弧を付けて軸部材料を示す[1]。受入では包装の表示と発注書を突き合わせ、材料が想定どおりか(鋳物の翼と鋼の軸の組合せなど)を確かめる。

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保証トルクの試験を受入で行うかどうかは、規格に決めがない。重要な場所に使う場合は、試験成績を出してもらうか、自社で抜き取って試験するかを発注時に合意しておく。

よくある質問

蝶ナットにばね座金を足せばゆるみにくくなるか

JIS B 1185 には、座金と組み合わせたときのゆるみ止めの性能を決めた規定はない[2]。座金を足せばよいと決めつけず、ゆるみが問題になる場所なら、締結の方法そのものを設計者に見直してもらう。座金の考え方は平座金・ばね座金の選び方と指定で扱った。

蝶ボルトの代わりに、つまみ付きのねじを使ってよいか

ノブやつまみの付いたねじは JIS B 1184 の範囲外で、形も保証の仕方もメーカーごとに違う。図面で指定された形がないなら、保証トルクに相当する要求(何 N・m まで壊れないこと)を設計者に決めてもらい、仕入先の資料と照らす。

袋ナットや皿ボルトと組み合わせたい

外観を整えたい場所では袋ナット、頭を面から出したくない場所では皿ボルトを使うことが多い。同じシリーズの袋ナット JIS B 1183 の指定と皿ボルト・皿ねじの指定を参照してほしい。

植込みボルトや U ボルトに蝶ナットを使いたい

植込みボルトのナット側や、U ボルトのナットに蝶ナットを使うと、工具なしで外せるようになる。ただし締付け力を管理できないことは同じである。それぞれの指定は同じシリーズの植込みボルト(スタッドボルト)JIS B 1173 の指定と配管支持用 U ボルトの発注で扱った。

まとめ

蝶ボルトは JIS B 1184、蝶ナットは JIS B 1185 で、翼の形と作り方で種類が分かれる(ボルト 1〜3 種、ナット 1〜4 種、ナット 3 種は高形と低形)。強度区分はなく、破断・変形・ゆるみが起きないことを確かめる保証トルクが決められているが、これは締付け力の保証ではない。1 種・2 種は材料によって区分 A と B があり、プレスの低形は保証トルクが小さい。ねじはボルト 8g・ナット 7H(M5 未満のボルトは 6g、M3 未満のナットは 6H)と一般品より粗い公差で、並目だけである。JIS B 1083 の締付け管理方法に手で回す締付けは入っていないので、締付け力が要る締結・振動を受ける締結・外れると危険な締結に使ってよいかは設計者に確かめる。発注書には種類・区分・材料・表面処理を書き、受入は包装の表示で確かめる。

出典・参考資料

  1. JIS B 1184:2010 ちょうボルト(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2010 年 9 月 21 日改正・2025 年 6 月 20 日確認)
  2. JIS B 1185:2010 ちょうナット(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2010 年 9 月 21 日改正・2025 年 6 月 20 日確認)
  3. JIS B 1083:2008 ねじの締付け通則(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2008 年 3 月 20 日改正)
  4. JIS B 0209-3:2001 一般用メートルねじ-公差-第 3 部:構造体用ねじの寸法許容差(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2026 年 6 月 22 日確認)
  5. JIS B 1044:2024 締結用部品-電気めっき皮膜システム(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2024 年 2 月 20 日改正)

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