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寸切りボルト(全ねじボルト)の規格と発注——強度区分か材料か、転造と切削、長さ・端・めっき

この記事のポイント(結論先出し)
寸切りボルト(全ねじボルト・全ねじ棒)は、ねじ部品の中でも製品規格による寸法や表示の決まりに頼りにくい部品である。ボルトの機械的性質の規格 JIS B 1051 は全長にねじのある植込みボルトも対象に含め、規格化されていないおねじ部品にはできる限り類似の部品の規格値を当てるのがよいとしている[1]。発注書には、強度区分(または材料と確かめる機械的性質)・ねじの呼びとピッチ・ねじの公差域クラス・長さとその許容差・切断した端の処理・表面処理・組み合わせるナットを書く。ねじを転造で作るか切削で作るかで、ねじのない部分の太さや材料の扱いが変わることは、構造用のアンカーボルトの規格 JIS B 1220 の寸法表から読み取れる[3]。溶融亜鉛めっきを付けるなら、めっき後のねじとナットのはめあいを規格に沿って決めておく[1][3]。
目次
「寸切り M10×1000」で手配すると、何が決まっていないか
寸切りボルトは、丸棒の全長にねじを切った(または転造した)棒で、配管や機器の吊り、架台の固定、長さを現場で合わせたい締結などに使われる。購買の現場では「寸切り M10×1000」「全ねじボルト W3/8×1m」のように、ねじの呼びと長さだけで手配されることが多い。だが同じ M10 の寸切りでも、材料と強さ、ねじの精度、端の状態、めっきの種類が違えば別の部品になる。
頭付きのボルトなら、六角ボルトの JIS B 1180 の中に、ねじが頭の下まで切られた「全ねじ六角ボルト」が規定されており、部品等級と呼び長さの範囲も決まっている[7]。両端にねじのある棒としては、植込みボルトの JIS B 1173 と、構造物の柱脚に使う構造用両ねじアンカーボルトセットの JIS B 1220 がある[2][3]。この記事で読んだ範囲の締結用部品の JIS には、頭もねじのない部分も無い「寸切りボルト」という名前の製品規格は見当たらなかった。だからこそ、品物を決める項目を発注側が書き出す必要がある。
強度区分の考え方の全体はボルトの強度区分と規格の指定で、頭付きの六角ボルトの形状・寸法は六角ボルト・六角ナット(JIS B 1180・B 1181)の指定で扱った。この記事では、頭の無いねじ棒に固有の指定に絞る。同じく頭の無いおねじ部品でも、ねじ先で押し付けて使う止めねじは強さの表し方が違うので止めねじ(JIS B 1177)の種類と指定に分けた。頭付きで座ぐりに沈めて使うボルトは六角穴付きボルト(JIS B 1176)の指定で扱う。
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強さは「強度区分」で書くか「材料と試験」で書くか
JIS B 1051:2014 は、炭素鋼と合金鋼のボルト、小ねじ、植込みボルトの機械的・物理的性質を、10 ℃〜35 ℃の環境温度で試験したときについて規定している[1]。試験の適用を示す表の注には「全長 lt≧3.2d の全ねじの植込みボルト」が挙げられており、全長にねじのある棒もこの規格の試験の対象として扱われている[1]。そして規格は、多くの強度区分が規定されていても、すべての強度区分がすべてのおねじ部品に当てはまるわけではなく、強度区分の適用は引用する製品規格で決まるとしたうえで、規格化されていないおねじ部品には、できる限り類似のおねじ部品の規格値を適用するのがよいとしている[1]。
実務では、寸切りボルトの強さを二通りの書き方で指定することになる。
1. 強度区分で書く
「強度区分 4.8」「強度区分 8.8」のように JIS B 1051 の区分で書く。植込みボルトの規格 JIS B 1173 は、植込みボルトの機械的性質を JIS B 1051 の強度区分 4.8・8.8・9.8・10.9 としている[2]。強度区分で書けば、引張強さや耐力、試験の方法まで規格に沿って決まる。
2. 材料の記号と、確かめる機械的性質で書く
「SS400 の丸棒から製作」のように材料で書く場合、材料の規格が決めるのは素材の性質であって、ねじを付けた後の部品の強さではない。構造用両ねじアンカーボルトの規格も、ボルトの材料を建築構造用圧延棒鋼 SNR400B・SNR490B(JIS G 3138)や建築構造用ステンレス鋼材 SUS304A(JIS G 4321)と指定したうえで、ボルトとしての試験で降伏点、引張強さ、降伏比、伸び、シャルピー吸収エネルギーなどが規定値に適合することを求めている[3]。材料で書くなら、どの性質をどの試験で確かめるかまで書く。
二つを混ぜて「SS400・強度区分 8.8」のように書くと、材料の規格と強度区分の化学成分・熱処理の条件が両立するかが分からなくなる。JIS B 1051 は、強度区分 8.8 以上を焼入焼戻しした鋼材で作ることを含め、強度区分ごとに材料と熱処理、化学成分の限界と最低焼戻し温度を表にしている[1]。どちらで書くかを一つに決め、迷うときは設計部門に決めてもらう。
強度区分の表示は、全ねじでは端面になる
JIS B 1051 は、呼び径 5 mm 以上で強度区分 5.6・8.8・9.8・10.9・12.9/12.9 の植込みボルトに、製造業者識別記号と強度区分の表示記号(または代用表示記号)を施すことを求めている[1]。表示はねじのない円筒部に施し、円筒部に表示できない場合はナット側の端面に強度区分の表示記号を表示してよいとされている[1]。強度区分 4.8 は、この表示の対象に入っていない。全ねじの棒には円筒部が無いので、表示があるとすれば端面になる。長尺品を自社や加工先で切って使うときは、表示の付いた端が残るのか、切った後の部品をどう識別するのかを決めておく。
転造ねじと切削ねじで、何が変わるか
ねじの作り方は、材料を削ってねじ山を作る切削と、ダイスで押しつけて山を盛り上げる転造に分かれる。構造用両ねじアンカーボルトセットの規格 JIS B 1220 は、セットの種類をねじの加工方法とボルトの材料で区分し、転造ねじの ABR と切削ねじの ABM を分けている[3]。両ねじアンカーボルトは寸切りボルトとは用途も規格も別だが、加工方法の違いが寸法と材料の条件にどう表れるかは、この規格の表から具体的に読み取れる。
| 項目 | 転造ねじ(ABR400 用ボルトなど) | 切削ねじ(ABM400 用ボルトなど) |
|---|---|---|
| ねじのない部分(軸部)の径の基準寸法 | M24 で 21.85 mm、M16 で 14.54 mm[3] | M24 で 24.0 mm[3] |
| 炭素鋼製のねじの種類 | 並目ねじ[3] | 細目ねじ[3] |
| ねじの公差域クラス | 8g[3] | 8g[3] |
| 材料の追加条件(炭素鋼) | 材料規格の規定値[3] | 降伏比を 75% 以下とする[3] |
| 表面処理(炭素鋼) | 電気めっき又は溶融亜鉛めっき[3] | めっきを施す場合は電気めっき[3] |
転造ねじのボルトでは、ねじのない部分の径がねじの呼び径より細い。転造は材料を盛り上げて山を作るので、元の丸棒はねじの呼び径より細いものを使うことになり、それがねじのない部分にそのまま残る。全長にねじのある寸切りボルトでは表面に出ないが、端だけにねじを付けた両ねじの棒を手配するときは、ねじのない部分の太さが加工方法で変わる。強度計算や、ねじのない部分を支持面やはめあいに使う設計では、どちらの作り方の品物かを発注書に書いておく。
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表の切削ねじの「降伏比 75% 以下」は、この規格が両ねじアンカーボルトの用途で定めた条件で[3]、寸切りボルト一般の要件ではない。用途に応じて、どの機械的性質を確かめるかは設計部門と決める。
長さ・真直度・切断した端
長さの許容差は、書かなければ決まらない
製品規格のある棒は、長さとその許容差が表になっている。たとえば構造用両ねじアンカーボルトの転造ねじ M16 は、長さの最小が 400 mm で許容差が+10/0 mm、ねじ部長さの最小が 48 mm で許容差が+8/0 mm である[3]。植込みボルトの規格も、呼び長さごとに最小と最大を示している[2]。寸切りボルトにはこのような表が無いので、長さを指定するなら許容差も書く。1 m・2 m のような定尺品を買って社内で切るのか、指定の長さに切った品物を買うのかでも、書くべき許容差が変わる。
真直度の測り方は、植込みボルトの規格が参考になる
長い棒は曲がりが問題になる。植込みボルトの規格は、真直度を、定盤、ねじ測定用三針、ダイヤルゲージまたはこれに代わるものを配置し、ボルトを 1 回転したときの円筒外面の振れの 1/2 の値とする、と測り方を定めている[2]。寸切りボルトの真直度を受入で見るなら、値だけでなく、この例のように測り方まで仕入先と合わせておく。
切った端の面取りと、ばり
全ねじ六角ボルトの規格では、ねじ先は面取り先とされている(M4 以下はあら先でもよい)[7]。構造用両ねじアンカーボルトも、ねじ部の端面にはねじのはめあいを確保するために必要な量の面取り加工を施すとしている[3]。長尺から切った寸切りボルトの端は、切断のまま渡されると、ねじ山がつぶれたり、ばりでナットが入らなかったりする。発注書には、端を面取りするのか、ばり取りだけでよいのか、切断のままでよいのかを書く。構造用両ねじアンカーボルトの規格は外観についても、使用上有害なきず、かえり、ばりなどの表面欠陥があってはならないとしている[3]。
形状と寸法の公差の考え方は、締結用部品の公差の規格 JIS B 1021 も参考になる。この規格は、規定する公差はほかに規定がなければめっき前の締結用部品に適用するとし、標準化されていない締結用部品にもこの規格を用いることを推奨している[6]。
ねじの精度とめっき——ナットが入るかを先に決める
寸切りボルトのねじの公差域クラスは、書かなければ仕入先の標準で作られる。参考になる規格の値は割れている。植込みボルトのナット側のねじは公差域クラス 6g とし、電気めっきを施したねじの最大許容寸法は 4h の最大許容寸法とする、と定められ、めっきしたナット側のねじは 4h の通りねじリングゲージで検査する[2]。一方で構造用両ねじアンカーボルトのねじは 8g である[3]。どのクラスで作らせるかを書き、めっきをするならめっき後にどのゲージで判定するかまで決める。ねじの公差域クラスの読み方はねじの公差域クラス(6H/6g)の指定で扱った。
溶融亜鉛めっきは皮膜が厚く、普通のナットと組み合わせるとはまらなくなることがある。JIS B 1051 は、ねじの公差の規格として、めっき後に公差位置 H または G にねじ立てをしためねじと組み合わせる溶融亜鉛めっき付きおねじの許容限界寸法(JIS B 0209-4)を引用し、溶融亜鉛めっきを施すおねじ部品には締結用部品の溶融亜鉛めっきの規格 JIS B 1048 の材料に関する追加要求を適用するとしている[1]。構造用両ねじアンカーボルトの規格でも、溶融亜鉛めっきを施す場合はめっき前のねじの公差域クラスが 8g を確保できるようにし、めっきはナットのはめあいを考慮して JIS H 8641 の種類から指定している[3]。この規格は 2023 年の追補で、その指定を HDZ 35 から HDZT 49 に置き換えた[3]。古い図面や社内標準に残っている記号は、規格の改正で変わっていることがある。
電気めっきでは、強度区分によって水素ぜい化への対策が変わる。締結用部品の電気めっきの規格 JIS B 1044:2024 は、JIS B 1051 に適合する部品について、強度区分 10.9 未満は追加の工程検証もベーキングも不要、10.9 は製造業者の判断で追加の工程検証・製品試験かベーキングを行い、12.9/12.9 は工程検証・製品試験とあわせてベーキングを実施するとしている[5]。強度区分 4.8 の寸切りボルトと 10.9 の寸切りボルトでは、同じ「亜鉛めっき」でも発注書に書くべき条件が違う。めっきの指定全体はめっきの発注で指定することを参照してほしい。
組み合わせるナットと、規格が決めていないこと
ナットの強度区分の規格 JIS B 1052-2:2025 は、並高さナット(スタイル 1)と高ナット(スタイル 2)の強度区分の数字を、組み合わせて使えるおねじ部品の最大の強度区分の左側の数字と同じとし、強度区分 10 のナットは強度区分 10.9 までのボルトと組み合わせられる、と例を示している[4]。寸切りボルトの強度区分を上げたら、ナットの強度区分も合わせて見直す。低ナット(スタイル 0)の強度区分は最初の数字が「0」で、負荷能力が低く、過大な負荷でねじ山のせん断破壊が起きないような設計にはなっていないことを示している[4]。寸切りボルトにナットを 2 枚重ねて使う設計で低ナットを使う場合の考え方は、フランジナットとロックナットの選び方で扱う。
JIS B 1051 が規定しないことも押さえておく。規格は、溶接性、耐食性、耐せん断性、トルクと締付け力の性能、耐疲労性への要求は規定しない[1]。また、規格に適合するおねじ部品は −50 ℃〜+150 ℃の範囲で使うものとしている[1]。寸切りボルトを架台に溶接して使う、屋外で腐食環境にさらす、繰返し荷重を受ける吊りに使う、といった使い方では、強度区分とは別に条件を書く。締付けのトルクの決め方はボルトの締付けトルクの決め方で扱う。
発注書と受入で確かめること
寸切りボルトの発注書には、次の項目を並べると取り違えが少ない。
1. ねじの呼びとピッチ
メートル並目か細目かを書く。図面にインチ系の呼びが残っている場合は、メートルねじと取り違えないよう、ねじの規格名まで書く。
2. 強度区分(または材料と確かめる機械的性質)
前の節のとおり、どちらかに決める。
3. ねじの公差域クラスと、加工方法
転造か切削かを指定するか、仕入先に任せるのかを決める。
4. 長さ・許容差・端の処理
定尺か指定長か、長さの許容差、面取り・ばり取りの要否を書く。
5. 表面処理
めっきの種類と規格、溶融亜鉛めっきならナットの扱い、電気めっきなら強度区分に応じた水素ぜい化の対策を書く。
6. 組み合わせるナットと座金
ナットの強度区分とスタイル、表面処理をそろえる。座金の指定は平座金とばね座金の選び方と指定を参照してほしい。
受入では、発注書と納品書・包装の表示を突き合わせる。JIS B 1051 が植込みボルトに表示を求めるのは呼び径 5 mm 以上で強度区分 5.6・8.8・9.8・10.9・12.9/12.9 のものなので[1]、強度区分 4.8 などには表示の決まりが無い。表示が無いことだけで不適合とは言えないので、表示を求めるなら発注の時点で決めておく。植込みボルトの規格は、受渡検査を購入者から特に指定がない限り締結用部品の受入検査の規格 JIS B 1091 によるとしている[2]。寸切りボルトでも、抜取りの方法と、ねじゲージ・長さ・真直度のどれを見るかを受入の手順書に書いておく。めっき品は、ナットが手で入るかどうかを最初に見ると、ねじのはめあいの問題が早く見つかる。
よくある質問
「W3/8」の寸切りを M10 に置き換えてよいか
W3/8 はウィット系のねじの呼びで、メートル並目の M10 とはピッチも山の角度も違う別のねじである。置き換えるなら、相手側のめねじやナット、インサートまで含めて設計変更として扱う。
ステンレス鋼の寸切りボルトは何で強さを指定するか
ステンレス鋼製のおねじ部品の機械的性質は、炭素鋼・合金鋼とは別の規格(JIS B 1054-1)で定められている。構造用両ねじアンカーボルトの規格も、ステンレス鋼製は材料を SUS304A とし、別の規格の規定値に適合することを求めている[3]。鋼種区分と強度区分の記号は規格本文で確かめて指定する。
定尺品を社内で切って使っている
切った端の面取りやばり取りを誰がどう行うか、表示の付いた端が残るか、切った品物をどう識別するかを、社内の作業標準として決めておく。切断を外注するなら、その条件を発注書に書く。
まとめ
寸切りボルトは、頭もねじのない部分も無い棒で、六角ボルトのような製品規格の表に頼れない分、発注側が品物を決める項目を書き出す必要がある。強さは JIS B 1051 の強度区分で書くか、材料の記号と確かめる機械的性質で書くかを一つに決める。転造か切削かで、ねじのない部分の太さや材料の扱いが変わる。長さの許容差、真直度の測り方、切断した端の処理は書かなければ決まらない。めっきは、溶融亜鉛めっきならナットとのはめあい、電気めっきなら強度区分に応じた水素ぜい化の対策を条件に入れ、ナットの強度区分もボルトに合わせる。
出典・参考資料
- JIS B 1051:2014 炭素鋼及び合金鋼製締結用部品の機械的性質-強度区分を規定したボルト,小ねじ及び植込みボルト-並目ねじ及び細目ねじ(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2014 年 9 月 22 日改正・2024 年 10 月 21 日確認)
- JIS B 1173 植込みボルト(JIS 検索の閲覧資料・本体 2010 年版と追補 1)(日本産業標準調査会/2015 年 12 月 21 日改正・2025 年 6 月 20 日確認)
- JIS B 1220 構造用両ねじアンカーボルトセット(JIS 検索の閲覧資料・本体 2015 年版と追補 1)(日本産業標準調査会/2023 年 5 月 22 日改正)
- JIS B 1052-2:2025 締結用部品-炭素鋼及び合金鋼製締結用部品の機械的性質-第2部:強度区分を規定したナット(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2025 年 1 月 20 日改正)
- JIS B 1044:2024 締結用部品-電気めっき皮膜システム(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2024 年 2 月 20 日改正)
- JIS B 1021:2003 締結用部品の公差-第1部:ボルト,ねじ,植込みボルト及びナット-部品等級A,B及びC(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2003 年 3 月 20 日改正・2023 年 10 月 20 日確認)
- JIS B 1180:2014 六角ボルト(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2014 年 4 月 21 日改正・2019 年 10 月 21 日確認)
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