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ワイヤーカット(ワイヤ放電加工)部品の発注——精度・面粗さ・変質層と加工できない形

この記事のポイント(結論先出し)
ワイヤーカット(ワイヤ放電加工)は、絶縁性の液の中で、導電性のワイヤ電極と工作物の間の放電で材料を除去し、柱状の形を作る加工である[1]。だから、導電性のない材料、底のある形、ワイヤ半径に放電ギャップを足した値より小さい内側の角の R は作れない[1][4]。精度と面粗さは、荒加工のあとに仕上げ代を何回に分けて削るか(セカンドカット)で大きく変わり、加工面には母材と性質の違う加工変質層が残る[3]。変質層の硬さは加工液や電源、工作物の熱処理で変わり、金型の刃先では早期摩耗や欠けの原因になる[5][6]。JIS B 6360 の精度試験は機械の受入用の試験で、部品の精度を保証するものではない[1]。発注では、図面の公差と面粗さに加えて、機能面の加工回数(または最終の面粗さ)と変質層の扱い、材料の熱処理の状態を書く。
目次
この記事の範囲
この記事は、ワイヤーカットで作る部品(プレス金型のパンチ・ダイ、治具の板、精密な外形部品など)を外部に発注するときに、図面と発注書に何を書き、受け取ったら何を確かめるかを扱う。加工機の購入や、加工条件の設定方法の話ではない。
同じ板から外形を抜く方法としてはレーザー切断もあり、その指定はレーザー切断品を発注するときで扱っている。ワイヤーカット後に残るバリや角の処理は図面のエッジ・バリ・面取り指示と、同じ束のバレル研磨の指定に送る。ただしバレル研磨は部品全体の角を丸めるので、パンチ・ダイの刃先のように鋭さが要る面には向かない(当方の注意)。変質層の扱いは、この記事の後半で決める。切り出した板を溶接やろう付けで組み立てる部品は、同じ束のTIG 溶接と MIG 溶接の違いと発注での指定とろう付けを指定するときで接合の側を扱っている。
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ワイヤーカットは何をする加工か
ワイヤ放電加工機の精度試験を定める JIS B 6360 は、放電加工機を「絶縁流体中で,二つの導電性電極(工具電極及び工作物電極)の間で,時間的に独立し,空間的にランダムに分布する放電によって除去加工を行う工作機械」と定義し、ワイヤ放電加工機を「工作物に,単純又は複雑な断面形状をもつ柱状形状を創成するためにワイヤ電極を使用した放電加工によって材料を除去する工作機械」と定義している[1]。工作物の形に合わせた電極を使う形彫り放電加工機とは、ここで区別されている[1]。図面や工程表で加工方法を記号で書くなら、JIS B 0122 の加工方法記号では放電加工は SPED である[2]。
溶接学会誌の解説は、ワイヤ放電加工をワイヤ電極を工具電極として糸のこぎりのように被加工物を切断する加工方法と説明し、焼入れ鋼や超硬合金のような高硬度で強靱な材料を微細・高精度に加工できるため金型加工に広く使われ、最近では医療関連や環境・エネルギー関連の部品にも多く用いられているとしている[3]。焼入れ後の硬い材料をそのまま形にできるのが、発注側から見た最大の利点である。
ワイヤーカットで作れない形
定義から、作れない形がいくつか決まる。見積の段階で仕入先から指摘される前に、図面で確かめておく。
1. 導電性のない材料
工作物も電極の一方として放電させる加工なので[1]、電気を通さない材料は加工できない。樹脂やセラミックスの部品を「ワイヤーカットで」と指定しても成り立たない。
2. 柱状でない形
ワイヤ放電加工が作るのは柱状の形である[1]。上から下までワイヤが通った状態で切るので(当方の補足)、底のある穴やポケット、途中で断面が変わる段付きの形は、形彫り放電加工や切削と組み合わせることになる。U 軸・V 軸でワイヤを傾けるテーパ加工はできる[3]。
3. 閉じた内側の形には、ワイヤを通す穴が要る
ダイの抜き穴のように周囲が閉じた形は、先にワイヤを通す穴をあけてから切る。前出の解説も、工作物のスタート穴にワイヤ電極を自動で挿入する装置について説明している[3]。スタート穴の位置と大きさが製品の機能に関わるなら、図面で指定するか、仕入先の提案を承認する。
4. 内側の角の最小 R
電気加工学会誌の解説は、最小のインコーナ半径(内側の角の丸み)は、ワイヤ電極径の半分に放電ギャップを加えたものだと説明している[4]。内側の角を R0 のように鋭く描いても、ワイヤーカットでは必ず丸みが残る。同じ解説は、板厚が厚くなるほど加工中のワイヤの振幅が大きくなるので、実際には表の値と異なることがあるとも書いている[4]。相手部品の角がぴったり入る必要があるなら、逃げを設けるか、角の R の上限を図面に書く。
ワイヤの太さには幅がある。前出の溶接学会誌の解説は、市場に流通しているワイヤの線径を φ0.03〜0.3 mm とし、φ0.03〜0.15 mm を微細精密加工用(板厚 40 mm 以下)、φ0.2・0.25 mm を一般加工用(板厚 250 mm 以下)、φ0.3 mm を高速加工用・ファーストカット専用(板厚 40 mm 以上)と分けている[3]。小さな内側の R を求めると細いワイヤになり、板厚が厚いと細いワイヤでは張力を高くできず、加工精度が悪くなったり加工速度が大きく落ちたりする、とも書いている[3]。内側の R・板厚・精度は互いに縛り合うので、図面の要求がその組合せで成り立つかを仕入先に確かめる。
精度と面粗さは「加工回数」で変わる
前出の溶接学会誌の解説は、ワイヤ放電加工の加工精度として、面粗さ、形状精度、真直精度、コーナー形状精度を挙げている[3]。そのうえで、これらを向上させる方法としてセカンドカット法を説明している。あらかじめ仕上げ代を残して一次加工(ファーストカット)を行い、残した仕上げ代を、仕上げの電気条件に切り替え、オフセット量と電気条件を徐々に小さくしながら 2 回以上削る方法で、何回までセカンドカットをするかは要求する精度と加工時間の兼ね合いで選ぶ[3]。
同じ解説は、加工面の粗さは放電痕の大きさで決まり、放電エネルギーの高いファーストカットでは 20 μmRz 程度、放電エネルギーの低いセカンドカットでは最良の仕上げで 0.5 μmRz 程度が得られるとしている[3]。これは加工機メーカーの技術者が書いた解説の値で、どの機械・どの材料でも出る値ではないが、同じ「ワイヤーカット」でも面粗さが 40 倍違いうることを示している。加工回数を決めずに見積を比べると、前提の違う価格を並べることになる。
| 精度の項目 | 悪くなる要因(解説による) | 発注で書くこと(当方の提案) |
|---|---|---|
| 面粗さ | 放電痕の大きさ。荒加工の条件では 20 μmRz 程度、仕上げで 0.5 μmRz 程度[3] | 機能面の面粗さを数値で書く。必要なら加工回数も |
| 形状精度 | 加工溝幅のばらつき、熱変形、工作物の内部応力の開放による位置ずれ[3] | 材料の熱処理・応力除去の状態を伝える。寸法公差は機能で決める |
| 真直精度(タイコ形状) | ワイヤの振動と、工作物中央部の加工粉の滞留による放電間隙の拡大で、断面がたる形になる[3] | 厚い板では、板厚方向の真直度や直角度を幾何公差で書く |
| コーナー形状精度 | 放電の反発力によるワイヤのたわみ、加工量の変化、振動。板厚が大きいほど悪化[3] | 角の R の上限・下限と、角部の形状公差を書く |
加工速度にも板厚が効く。解説は、板厚が薄いと小さな面積に放電が集中してワイヤが断線しやすく、厚いと加工液の供給が不十分になってやはり断線しやすいので、通常は 60 mm 前後の板厚で最高の加工速度が得られることが多いとしている[3]。薄板を何枚も重ねて一度に切る、厚い材料を切るといった仕入先の提案は、精度とのつり合いで判断する。
JIS B 6360 の精度試験は「機械」の試験
JIS B 6360 は、普通精度の汎用ワイヤ放電加工機の幾何精度・位置決め精度・工作精度・円運動精度の試験と許容値を決めた規格で、ISO 14137:2015 と一致している[1]。工作精度試験では、80×80 mm・厚さ 40 mm の鋼に、直径 0.2〜0.3 mm の黄銅ワイヤで、仕上げ面粗さ 2 μmRa 以下となる条件で穴を加工し、真円度 0.02 mm、穴の中心軸と基準面の直角度 0.01 mm、加工直径の一様性(太鼓量)0.03 mm を許容値としている[1]。
これは加工機を受け入れるときや点検するときに、決められた条件で機械の能力を確かめる試験である。仕入先が「JIS B 6360 に合格した機械で加工します」と言っても、それはあなたの部品の公差を満たすという意味ではない。部品の精度は図面の公差で指定し、測定結果で確かめる。
加工面に残る変質層
放電は液中での短時間のアーク放電で、その高温・高圧でできた放電痕が積み重なって加工面ができる。前出の溶接学会誌の解説は、加工面からわずかな深さの表面層が急熱・急冷と物理化学的な作用を受けて母材とは異なる性質を示すようになり、これを加工変質層と呼ぶこと、その厚みは電気条件で変わり、通常は加工面粗さと同程度から 2 倍の厚さになることを説明している[3]。
加工液と電源でも変わる。同じ解説によれば、直流電源の機械でイオン交換水を加工液にすると、電気分解(電解作用)で陽極側の工作物の金属が溶け出し、加工面の硬さの低下や腐食・さびが起きる。直流電源の加工面では電解変質層と熱変質層ができて約 30 μm の深さまで硬さが下がる例を示し、無電解(交流)電源では軟化を熱変質層分の約 5 μm に抑えられるとしている[3]。
精密工学会誌の研究は、冷間プレス金型に多く使われる合金工具鋼 SKD11 を水中と油中でワイヤ放電加工して加工面の硬さを調べ、硬さの変化が金型の切れ刃の異常摩耗やチッピングの原因になりやすいと述べている[5]。結果として、イオン交換水中では焼なまし材の表面は硬化するが、焼入れ焼戻し材はオーステナイトの生成で再び軟化すること、油中では加工液からの炭素の増加で両方とも再硬化すること、硬さ変化の大きさは放電エネルギーに左右され、エネルギーを小さくすると影響層を抑えられることを報告している[5]。超硬合金については、砥粒加工学会誌の研究が、放電加工後の表層に溶融再凝固層やマイクロクラックなどの加工変質層が生じて金型の寿命を下げるため、仕上げとして磨き作業が必要になること、変質層を切削すると仕上げ面粗さの悪化や工具摩耗の増加を招くことを報告している[6]。
発注側にとっての意味は、刃先や摺動面のような機能面では、ワイヤーカットのままでよいのか、変質層を取る仕上げが要るのかを決めておくことである。焼入れした工具鋼をワイヤーカットする部品では、焼戻しの温度も結果に関わる。SKD11 の熱処理とワイヤ放電加工の関係はSKD11・SKD61・SK85 の選び方で扱っている。
発注書・図面に書くこと
次の項目を書いておくと、見積の前提がそろい、受入で揉めにくい(当方の提案)。
1. 材料と熱処理の状態
材料記号に加えて、焼入れ・焼戻しを加工前にするのか後にするのか、硬さはいくつかを書く。形状精度は内部応力の開放でも悪くなるので[3]、素材の状態を仕入先が知っている必要がある。熱処理の指定は熱処理を図面で指定するで扱っている。
2. 機能面の面粗さ
図面に面粗さを数値で書く。面粗さの指定と測り方を仕入先と合わせる方法は表面粗さの指定と測定条件で扱っている。
3. 内側の角の R と、作れない形の確認
角の R の許容範囲を書き、スタート穴の位置に制約があれば書く。
4. 変質層とさびの扱い
機能面で変質層の除去や磨きが要るか、加工液や電源の指定があるか、加工後の防錆をどうするかを書く[3][5]。
5. 測定と記録
重要な寸法、角の形、板厚方向の真直度を、どの測定機でどこを測って記録するかを決める。
6. 公差の付け方
公差を書かない寸法の扱いは、図面の普通公差の指定による。普通公差の考え方は普通公差(JIS B 0405)の指定で扱っている。
よくある質問
Q. 図面の内側の角が R0 で描かれています。ワイヤーカットで作れますか。
作れない。最小のインコーナ半径はワイヤ径の半分に放電ギャップを加えたものになる[4]。機能上許される R の上限を設計側で決めて図面に書くか、相手部品側に逃げを設ける。
Q. 見積の金額が仕入先によって大きく違います。
加工回数の前提が違う可能性が高い。セカンドカットの回数は要求精度と加工時間の兼ね合いで選ぶので[3]、面粗さや角の精度を数値で書いていなければ、仕入先ごとに違う回数で見積もられる。見積依頼に機能面の面粗さと精度を明記し、加工回数の前提を回答させる。
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Q. 加工面が少しさびていました。不良ですか。
直流電源でイオン交換水を使う加工では、電解作用で腐食やさびが起きうる[3]。防錆の扱いを発注時に決めていなければ、受入で合否を判定する根拠がない。次回からは、防錆の方法と、さびの許容範囲を書く。
Q. 超硬合金の部品をワイヤーカットで頼めますか。
超硬合金は硬さが非常に高いため、加工には主に放電加工が使われている[6]。ただし加工後の表層に変質層やマイクロクラックが残り、仕上げとして磨きが必要になることがある[6]。磨きを含めるかどうかを見積の段階で決める。
まとめ
ワイヤーカットは導電性の工作物に柱状の形を作る放電加工で[1]、導電性のない材料、柱状でない形、ワイヤ半径と放電ギャップより小さい内側の R は作れない[1][4]。面粗さと精度は加工回数で変わり、加工面には変質層が残る[3]。変質層の硬さは加工液・電源・熱処理で変わり、金型の刃先の摩耗や欠け、寿命に関わる[5][6]。JIS B 6360 は機械の精度試験で、部品の保証ではない[1]。発注では、材料と熱処理の状態、機能面の面粗さ、角の R、変質層とさびの扱い、測定の方法を書く。
出典・参考資料
- JIS B 6360:2017 ワイヤ放電加工機-精度試験(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2017 年 7 月改正・2022 年 10 月確認)
- JIS B 0122:1978 加工方法記号(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1978 年 2 月改正・2023 年 10 月確認)
- ワイヤ放電加工機の最新技術紹介(佐藤清侍/溶接学会誌 79 巻 2 号/2010 年)
- 放電加工に使用する電極材料について(酒井洋三ほか/電気加工学会誌 38 巻 87 号/2004 年)
- ワイヤ放電加工面の硬さ変化(増井清徳・曽根匠・出水敬/精密工学会誌 57 巻 1 号/1991 年)
- 放電加工変質層を有する超硬表面の切削仕上げに関する研究(静弘生ほか/砥粒加工学会誌 59 巻 7 号/2015 年)
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