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不具合が発生しても“当事者不在”で会議が進む構造

目次
はじめに~「当事者不在会議」の実態~
製造業の現場では、生産ラインのトラブルや不良発生時に、緊急で会議が招集されることが多くあります。
しかし、その場に「実際に不具合を発生させた当事者」や「直接現場に立ち、手を動かしている人材」が不在のまま、会議が進行する場面は珍しくありません。
この“当事者不在”の会議構造こそ、昭和時代から抜け出せない日本の製造業現場に根強く残る課題のひとつです。
なぜこのような状況が生まれ、どんな弊害があるのか。
そして真の問題解決のために、現場はどう生まれ変わるべきかを、調達購買・生産管理・品質管理・工場管理職を経験した筆者が徹底的に掘り下げます。
なぜ“当事者不在”の会議は生まれるのか?
昭和的ヒエラルキーと「伝言ゲーム」
日本の製造業は、長く縦割り型組織とヒエラルキー(階層構造)で動いてきました。
実際の不具合現場で手を動かすのは現場オペレーターやラインリーダーですが、不具合報告・原因究明・対策案の立案は、組織階層ごとに“加工”されていきます。
つまり、現場の状況は現場リーダー→係長→課長→部長…と伝わるうちに、重要な情報が摩耗し「伝言ゲーム」状態になるのです。
その結果、会議の場には「現象を間接的に聞き知っただけ」の管理職やスタッフ部門しか集まらず、真の当事者は蚊帳の外に置かれます。
現場軽視・現場主義からの逸脱
本来「現場主義」が大切なはずの製造業ですが、高度成長期からの人材配置や“年功序列的発想”が根強く残り、熟練作業者やリアルな現場担当者が会議に呼ばれることが稀です。
時間コストや人件費を気にしてなのか、あるいは「現場は現場、会議は管理職の仕事」と思い込んでいるのか、現場の生の声や肌感覚が反映されにくい組織風土となっています。
“事なかれ主義”と責任回避の文化
日本の大手メーカーの多くでは、「責任所在の曖昧さ」がしばしば問題となります。
会議参加者が当事者でないことで、「責任は現場」「調整は生産管理」「品質管理は判断だけ」といった「たらい回し」が起こり、物事が迅速に決まらない、責任の所在が明確にならないといった弊害を生みます。
“当事者不在”会議が生む問題点
問題の本質が見えなくなる
間接的な情報だけで議論されるため、現場の実情や具体的なトラブル発生状況がぼやけてしまいます。
「この現象はなぜ起きたのか?」の根本的問いに、誰も当事者目線で答えられず、「推測」「憶測」が積み重なるため、的外れな対策となってしまうケースが多発します。
有効な対策が打てない
現場感覚のないまま会議で決まった改善策は、現場で実行する段階になると「工数が現実的でない」「技術的に不可能」「逆に効率低下」といった問題が噴出することがあります。
誰も“本当の現場”を知らないままの合意形成であるがゆえに、PDCAが形骸化し、同じトラブルの再発を防げません。
組織の活力とコミュニケーション低下
現場にとっては「自分たちの意見・事情が全く反映されていない」と感じるため、モチベーションが下がります。
また、現場スタッフと事務系・管理系各部門の間に無用な“壁”ができてしまい、風通しの悪い職場環境となってしまいます。
問題解決どころか、組織自体の活力まで損なわれるのです。
海外メーカーとの危機感の違い
世界の工場といわれた中国・台湾メーカー、ドイツ・アメリカをはじめとする欧米メーカーには、「トラブル発生=即現場」「現場最優先」のカルチャーが浸透しています。
原因究明は現場担当者を巻き込むのが当たり前であり、全員が当事者意識を持って議論します。
トップ自らが現場に足を運び、実力ある現場リーダーが会議を主導するケースも珍しくありません。
日本企業が「会議のための会議」で日々を浪費している間に、グローバル競争力において大きなリードを許しているのが実情です。
では、どうすれば“当事者不在”の構造から脱却できるのか?
現場を「主役」に据える会議設計
不具合やトラブルが発生した際は、必ず該当現場の「当事者」「作業者」「事象を直接見聞きした人」が議論の輪に加わるべきです。
現場スタッフの「実体験」と「肌感覚」に基づく意見を最優先し、管理職はサポート役やファシリテーターに徹することで、問題の本質と対策がリアルに可視化されます。
「現場100回」の精神を、もっと現代流に機能させなければなりません。
L字型組織・“横串連携”の重要性
従来の縦割・階層型組織から、現場~スタッフ部門~マネジメントまでが、フラットに横断的に協議する“L字型”や“プロジェクト型”の会議体に再編成するのが有効です。
必要な時に必要な人を素早く召集し、情報の伝達ロスや組織の「壁」を取り払うことがポイントです。
現場へのリスペクトと報酬評価
現場で直接問題解決にあたる人材への「報いる仕組み」「ハイライトする文化」も重要です。
たとえば、現場会議での発言が評価に直結する制度や、現場スタッフがリーダーシップを発揮できる場を定期的に設けるなどです。
これにより現場スキルとマネジメントの間にある“見えない壁”が融解し、現場主体の問題解決力が大幅に向上します。
デジタルツール活用による“見える化”
IoT・AI・動画記録・チャットツールなど、デジタルテクノロジーの活用で「現場の今」「現場目線の声」をリアルタイムで経営層まで届けることができます。
現場作業者からのコメントや実際の映像も巻き込んで、オンライン会議・ハイブリッドミーティングを設計するなど、物理的な“壁”をなくす動きが進みつつあります。
調達・購買、外部サプライヤーと“当事者不在”問題
サプライヤーサイドが知るべき「本音」
部品調達や外部工程委託をしている場合でも、日本の工場の会議体制は「現場の作業者(サプライヤー)不在」で協議することが多く、無用なミスコミュニケーションを引き起こします。
サプライヤー側の現場責任者・技術者が早い段階から協議に参加できれば、「供給困難の理由」「現場での工夫」「技術的限界」など、真実に基づくクリティカルな判断が下せます。
バイヤー側が重視する視点
バイヤー、調達担当者は“現場実力主義”や“情報の即時性”を重視しつつ、コストだけでなく納期リスク・品質安定性まで確実にコントロールしたいのが本音です。
そのため「サプライヤー現場の“生の情報”をどうキャッチするか」に必死なのです。
現場が会議に不在でトラブル報告も「間接的」であれば、本質的な原因究明や再発防止の提案など、サプライヤーとしてのバリューが伝わらなくなります。
双方向コミュニケーションで信頼を構築
ベストな関係を築くためには、サプライヤー側も「当事者が直接説明・提案できる体制」「現場技術者の声を積極的に届ける文化」を持つべきです。
バイヤー担当者が直接現場を訪問したり、ウェブ会議で現場の担当者が説明を行うなど、“現場と現場を繋ぐ”仕組みを構築することが、真のパートナーシップに繋がります。
最後に~今こそ「当事者主義」への転換を~
“当事者不在”という会議構造は、日本の製造業における旧態依然とした“弊害”であり、世界との競争で見過ごせないリスクです。
本当の意味での「現場主義」「真因究明」「再発防止」の実現には、「会議体そのもの」と「組織文化」を根本から変革する必要があります。
昭和から続く“伝言ゲーム”型会議に終止符を打ち、現場・サプライヤー・バイヤーそれぞれが「当事者」として積極的に議論する。
その先にこそ、日本製造業の復権・持続的発展の新たな地平線が広がっているのです。
現場を主役にし、技術と組織を強くする第一歩を、いま“あなたの工場”から始めていきましょう。
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