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ダクト部材の溶接段差が粉付着を生む理由

目次
はじめに:ダクト部材と溶接の現場課題
ダクト部材の内部に発生する溶接段差は、製造現場における粉塵や微粒子の付着課題を引き起こしやすい要因です。
特に、食品や医薬、精密機械など異物混入が致命的になる分野では、ダクト内面のクリーンさが求められます。
それにも関わらず、現場ではいまだ溶接部の段差が多く残されるのが実情です。
クラシックなアナログ手法が根強く残る一方で、時代は自動化・高品質志向に舵を切っています。
それにもかかわらず「この程度の段差は問題ない」との昭和的な感覚が蔓延したまま、根本的な解決が進みにくい背景もあります。
今回は私の20年以上の現場実体験をもとに、「なぜダクト部材の溶接段差が粉付着を生み、どのようなリスクがあるのか」を深掘りします。
溶接段差とは何か?その発生メカニズムに迫る
本来あるべきダクト溶接の仕上がり
ダクト分野では多くがステンレスやスチールなどの薄板を曲げ・接合し、空気や粉体、液体の通り道を構築します。
部材をつなぎ合わせる際、最も一般的なのが溶接による接合です。
理想的には、外観・内面とも一体化し「段差」のない連続的な表面が求められます。
現場で発生する溶接段差の理由
しかし実際には、次の原因で溶接部に段差が発生します。
– 溶接ビード(盛り上がり)や溶接後処理不足
– 曲げ・成形誤差による板と板の“段付き”
– 熟練度不足による溶接速度・熱量の偏り
– 工程短縮・コスト圧縮による仕上げ省略
また、日本の製造現場では「一気通貫の自動化」が進みにくい分、作業者ごとのばらつきも尚残っています。
この積み重ねが、内部に指先でも感じ取れる0.5mm~1mmほどの段差=“溶接段差”を生み出しているのです。
溶接段差が粉付着を生む科学的原理
気流の乱れと死角の生成
ダクト内は空気だけでなく時に粉体や微粒子が高速で搬送されます。
このとき、内面に段差が生じていると、流速の急変・渦流が発生しやすくなります。
粉末や微粒子は流体の「層流」中では搬送されやすいですが、乱流や“よどみ”が発生すると、次のような現象を引き起こします。
– 局所的な滞留エリアの形成
– 段差の手前や裏側で“デッドスペース”が誕生
– 粉粒子が壁際の段差部分で減速し、吸着力が増大
特に乾いた粉体や、静電気を帯びる微粒子の場合、溶接段差部分の「縁に」引き寄せられて付着しやすくなります。
静電気による集積のメカニズム
粉体がダクト内を流れる際、とくに絶縁体同士(樹脂粉や乾燥粉末など)の場合は、搬送時に静電気を帯びます。
この静電気が溶接段差部でリリースされにくくなるため、「パッチ状に粉塵がこびりつく」現象が発生します。
一度粉体が付着すると、その部分がさらに粒子を“呼び込む”ため、残留粉体の堆積となります。
ダクト表面の粗さ・酸化皮膜の影響
溶接段差部分は、しばしばグラインダーやサンダーで研削されず、表面が凸凹した酸化皮膜のまま放置されがちです。
この粗面が物理的な「引っ掛かり」を生み、粉体の付着促進につながります。
粉塵付着が現場にもたらすリスクと悪影響
製品汚染・歩留まり低下
粉体付着が続けばダクト内で異物混入リスクが高まります。
突然の大気流変化や振動で、堆積粉体がはがれて最終製品に混入・汚染の可能性が生まれます。
特に食品・医薬・半導体の現場では、この異物混入がラインストップや全量廃棄、製品リコールに発展する恐れがあります。
清掃の手間、メンテナンスコストの増大
段差による粉体付着が生まれると、それを定期的に除去しなくてはならず、ダクトの分解清掃工数が激増します。
また、分解・再組み立てのたびにガスケット交換や密閉性・気密性の再確認が必要になり、運用コストやダウンタイムが膨らむ要因となります。
センサー・アクチュエーターの誤作動
近年ダクト内部には粉量センサーや空気流量計、静電計など各種IoTセンサーが搭載されます。
段差部に粉塵が極端に付着すると、これらのセンサーが異常値を拾い、誤報や生産ライン全体の異常停止を引き起こしかねません。
昭和の慣習から抜け出せない現場の現実と課題
「溶接段差は仕方ない」という固定観念
昭和から今日まで続く製造業の慣習として、「溶接ビードは仕様の一部」「内面まで美観は求めない」といった暗黙の了解が残っています。
特にプラント配管、産業ダクトの分野ではこの発想が抜けず、「予算や納期の都合で内面研磨まではしない」とされやすい現実があります。
現場技能者の高齢化と技術伝承の壁
溶接作業は熟練技能が問われますが、現場の高齢化が進み、若手作業者には十分な教育・OJTが行き届きません。
結果として技術の標準化が進まず、「人による品質ばらつき」が温存されやすいのです。
自動化機器の導入ハードル
自動溶接やロボット溶接は高コストゆえ、「ロスが出ても人力が安い」との理由で旧来手法が維持されています。
また、一品一様のオーダーメイド案件が多い日本のダクト現場では、自動化ノウハウの蓄積が遅れがちです。
先進事例・変化の兆しと今後の打ち手
内面研磨・バリ取り自動化の流れ
一歩進んだ現場では、内面の段差やバリを除去する自動グラインダー、酸洗浄機の導入が始まっています。
AI・IoTを活用した表面粗さの画像判定、自動補正工法など、ラテラルな技術導入が徐々に進みつつあります。
設計段階からの段差ゼロ思考
近年は“段差ゼロダクト”を目指し、設計段階から
・極力継ぎ目の少ない管形状
・溶接部を外周側に限定するレイアウト
など、粉付着リスクを減らすための構造的アプローチへシフトしています。
バイヤー目線で求められる要求品質
部材調達や新規サプライヤー開拓では、内面段差ゼロの可視化(図面指示・写真証明)、表面粗さの管理データ提出などを盛り込む傾向が強まっています。
バイヤーが明確に「段差不許容」の根拠をサプライヤーに伝え、生産現場へのガイドラインとして落とし込むことが今後の標準になるでしょう。
サプライヤー・バイヤーそれぞれが持つべき視点
サプライヤー:価値創出型の品質アピールを
単なるコスト主導・納期厳守だけでなく、「将来的な運用コスト・歩留まり改善、コンタミリスク低減」といった付加価値を前面に押し出す提案が強みとなります。
段差を無くすことで「現場の粉清掃が年30%削減」や「不良ゼロ記録2年間継続」など、定量的実績を訴求しましょう。
バイヤー・購買担当:リスク低減への意識改革
調達時は発注コストだけでなく、「導入後の清掃・メンテナンス」「異物混入リスク」というTCO(トータルコストオブオーナーシップ)観点を加味した交渉・評価が求められます。
溶接段差が引き起こす潜在的トラブルの想定力を養うことがバイヤーの差別化軸となります。
まとめ:ラテラルな変革が粉付着ゼロ現場をつくる
ダクト部材の溶接段差は、製造現場にとって長く見過ごされてきた「潜在リスク因子」です。
科学的根拠と現場の実態を紐解くことで、その対策の必然性が明らかになってきました。
これからの製造業では、旧来の慣習を打破し、設計・製造・購買すべての立場が“段差ゼロ思考”を共有することが重要となります。
高品質かつクリーンな現場をともにつくるパートナーになるために、「なぜ?」から始める現場ラテラルシンキングへの転換が、今こそ求められているのです。
ダクト部材の溶接段差が粉付着を生む理由を正しく理解し、未来のものづくりへ一歩踏み出しましょう。
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