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相見積とは|取適法で変わった取り方の注意点と、比較できる依頼書の作り方

この記事のポイント(結論先出し)
相見積は「複数社から見積を取る」だけの作業ではない。2026 年 1 月 1 日に下請法が改正され、名称も取適法(中小受託取引適正化法)へ変わったことで、取り方そのものが法律の対象になった。多量発注を前提に単価を出させて少量しか発注しない、見積後に仕様が増えたのに金額を据え置く、コスト上昇の申し出に説明もせず従来価格を維持する——これらはいずれも買いたたきに当たり得る。相見積を「安い先を選ぶ手段」として運用している調達部門は、いま設計を見直す時期にある。
目次
相見積とは何か——「価格を比べる」ではなく「条件を揃える」作業
相見積(あいみつもり)とは、同じ仕様・同じ数量・同じ納期条件で複数のサプライヤーから見積を取り、内容を比較して発注先を決める調達手法を指す。「合い見積もり」と表記されることもあり、実務では「あいみつ」と略される。
誤解されやすいのは、相見積の目的が「最安値を見つけること」だと考えられている点である。価格だけを並べるなら、条件が揃っていなくても数字は出てしまう。しかし材質の指定が曖昧なまま、A 社は SS400、B 社は SPHC で見積っていれば、その差額は交渉材料ではなく単なる仕様違いにすぎない。表面処理の有無、検査成績書の要否、梱包仕様、最小発注数量(MOQ)——これらのどれかが揃っていなければ、比較表は成立していない。
つまり相見積の実務の大半は、見積を集めた後の比較ではなく、依頼する前に条件を揃える設計にある。当社が製造業の調達購買を代行する現場でも、見積が集まらない・比較できないという相談の原因は、ほぼ例外なく依頼書の側にある。仕様が確定していない段階で数量だけ書いて送れば、各社は自社の標準的な前提を置いて回答するため、返ってくる数字は最初から比較不能になる。
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2026 年 1 月、下請法は「取適法」になった
相見積の話に法律が絡むのは、発注側が優越的な立場を使って価格を決める場面があるからである。2025 年 5 月 16 日に改正法が成立・公布され、2026 年 1 月 1 日から施行された[1]。正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」で、通称は取適法(とりてきほう)である[2]。
呼び方も変わった。従来の「親事業者」「下請事業者」「下請代金」は、それぞれ「委託事業者」「中小受託事業者」「製造委託等代金」となる[2]。社内の発注書式や購買規程に旧用語が残っている場合は、この機会に確認しておきたい。
旧法と取適法の対比
| 項目 | 下請法(〜2025 年 12 月 31 日) | 取適法(2026 年 1 月 1 日〜) |
|---|---|---|
| 法律の通称 | 下請法 | 取適法 |
| 発注側の呼称 | 親事業者 | 委託事業者 |
| 受注側の呼称 | 下請事業者 | 中小受託事業者 |
| 代金の呼称 | 下請代金 | 製造委託等代金 |
| 適用基準 | 資本金基準のみ | 資本金基準に従業員基準を追加(製造委託等 300 人/役務提供委託等 100 人) |
| 価格決定の規制 | 買いたたき(著しく低い額) | 買いたたきに加え、協議に応じない一方的な代金決定を禁止 |
| 書面交付の方法 | 電磁的方法には相手の承諾が必要 | 承諾の有無にかかわらず電子メール等が可 |
| 支払手段 | 手形払いが可能 | 手形払いを禁止。電子記録債権等も、期日までに満額を得ることが困難なものは禁止 |
| 振込手数料 | 運用上の指導 | 中小受託事業者の負担を禁止 |
| 対象取引 | 製造委託等 | 特定運送委託を追加(発荷主から元請運送事業者への運送委託) |
| 対象物品 | 金型 | 金型以外の型等を追加 |
| 執行体制 | 公正取引委員会・中小企業庁 | 事業所管省庁にも指導・助言権限 |
調達実務にいちばん響くのは、価格決定の欄である。従来は「著しく低い額」という水準の話だったが、取適法では協議に応じないこと自体、必要な説明を行わないこと自体が禁止された[1]。相見積で集めた最安値を根拠に「他社はこの価格でやる」とだけ伝えて押し切る進め方は、この条文に正面から触れる。
買いたたきになる相見積の取り方
公正取引委員会は、買いたたきに該当するおそれのある具体例を示している。相見積の運用に直接関わるものを挙げる。
1. 多量発注を前提に単価を出させ、少量しか発注しない
「多量の発注をすることを前提として下請事業者に単価の見積りをさせ、その見積単価を少量の発注しかしない場合の単価として下請代金の額を定めること」は買いたたきに当たる[3]。年間 10,000 個で単価を引き出しておきながら、実際の発注は月 200 個ずつ、といった運用がこれに該当する。年間契約の内示を出すなら内示のとおりに、確定しないなら確定しない前提で見積を依頼する必要がある。
2. 見積後に発注内容が増えたのに金額を見直さない
「見積りをさせた段階より発注内容が増えたのにもかかわらず、下請代金の額の見直しをせず、当初の見積価格を定めること」も同様である[3]。図面の改訂、検査項目の追加、梱包仕様の変更——相見積の後に条件が動くことは珍しくないが、動いた分を金額に反映せずに当初の見積を使い続ければ違反になる。
3. コスト上昇の申し出に、説明もせず据え置く
2022 年 1 月 26 日の運用基準改正で、労務費・原材料費・エネルギーコストの上昇分を「明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置く」ことが買いたたきに当たり得ると明確化された[4]。さらに、値上げを求められたにもかかわらず「価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で下請事業者に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置く」ことも同じく問題とされている[4]。
この 3 点目は、相見積を毎年繰り返す運用と相性が悪い。「毎年相見積を取っているから価格は市場に照らして妥当だ」という説明は、個別の値上げ申し出に対する回答にはならない。相見積の実施と、協議への応答は別の義務として整理しておく必要がある。
発注書面は電子メールで出せるようになった
取適法では、書面交付義務について中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず、電子メールなどの電磁的方法による交付が可能になった[2]。従来は事前に相手の承諾を得る手続が必要だったため、承諾を取り損ねたまま電子データだけで発注していた企業にとっては、運用が整理しやすくなる改正である。
ただし「出せるようになった」ことと「出さなくてよい」ことは違う。発注時に書面(電磁的方法を含む)を直ちに交付する義務そのものは残る。相見積で発注先を決めた後、口頭やチャットで着手だけ依頼して書面が後追いになる進め方は、以前と同じく問題になる。
見積依頼書に何を書くか
条件を揃えるとは、具体的には見積依頼書(RFQ)に書く項目を決めることである。製造部品の調達で最低限そろえたい項目を挙げる。抜けやすいのは後半で、ここが各社の裁量に落ちると比較が崩れる。
品目を特定する情報
品名・品番、図面番号と改訂記号(Rev.)、材質と材料規格、寸法公差の指定、表面処理の種類と膜厚。図面を添付する場合も、改訂記号を本文に明記しておく。図面だけ送って改訂が食い違い、旧図で見積が返ってくる事故は珍しくない。
数量と時間の条件
初回数量、年間予定数量、発注の頻度、希望納期、初回納入希望日。前述のとおり、年間数量を前提に単価を出させて実際は少量しか発注しない運用は買いたたきに当たり得る[3]。予定である旨、確定でない旨は依頼書に書いておく。
品質と検査の条件
検査成績書(ミルシート・寸法検査成績書)の要否、抜き取り基準、初回品の承認方法(初品検査・限度見本)、不適合時の取り扱い。ここを書かずに見積を取ると、成績書を出す前提の会社と出さない前提の会社が同じ表に並ぶ。
受け渡しと支払の条件
納入場所、梱包仕様、輸送手段と費用の負担区分、支払条件と支払方法。取適法では手形払いが禁止され、振込手数料を中小受託事業者に負担させることも禁止された[2]。従来の支払条件をそのまま依頼書に載せている場合は、この機会に確認しておきたい。
回答の期限と様式
見積回答期限、見積有効期限、回答様式(自社フォーマットの指定があればその旨)、質問の窓口と締切。質問締切を設けないと、期限直前に仕様の確認が集中し、結果として全社の回答が遅れる。
これらを毎回ゼロから書くのではなく、品目カテゴリごとに雛形を持ち、案件ごとに変わる欄だけを埋める形にすると、依頼の質が担当者によってぶれなくなる。
相見積を断るとき、断られたとき
相見積を取れば、選ばれなかった会社が必ず出る。ここで連絡を省くと、次に声をかけたときに見積が返ってこなくなる。実務上のコストとして、断りの連絡は相見積の一部と考えたほうがよい。
断る側が伝えるべきことは多くない。今回は他社に決めた事実、可能な範囲での理由(価格・納期・仕様適合のどれか)、次の機会に依頼したい意向。金額の詳細や他社名を伝える必要はなく、むしろ他社の見積金額を開示することは、その会社との守秘の問題になる。
これは相手が国内か海外かを問わない。当社は中国のパートナー工場網でも見積を取りまとめているが、結果を返さないまま次に依頼すれば、優先度を下げられるか、読めないリスクを織り込んだ高めの数字が返ってくる。相見積の精度は、断り方の積み重ねで決まる。
相見積は何社から取るのが適切か
「何社が正解」という数字はない。社数を決めるのは、その品目の市場性と、こちらが負担できる工数である。
まず市場性。汎用品で供給元が多い品目なら、社数を増やすほど価格のばらつきが見えて相場がつかめる。一方、特殊な加工設備や認証が要る品目では、そもそも対応できる会社が数社しかない。無理に社数を揃えようとして、明らかに能力の合わない会社を入れても、辞退か極端に高い数字が返ってくるだけで、比較の役には立たない。
次に工数。相見積は依頼して終わりではない。質問への回答、条件変更の連絡、回収した見積の内容確認、不採用先への連絡——1 社増えるごとにこれらが増える。回収した見積を精査する時間が取れないなら、社数を増やしても判断の質は上がらない。
実務では、既存の取引先に加えて 1〜2 社の新規を混ぜる形が多い。既存だけでは相場が固定化し、新規だけでは実績が読めないためである。ただしこの「新規を混ぜる」ときにこそ、前述の依頼条件の揃え方が効いてくる。取引履歴のない相手は、こちらの暗黙の前提を知らないからである。
相見積の設計を見直す 4 つの視点
ここまでを踏まえ、いま自社の相見積を点検する視点を整理する。
視点 1:依頼条件が揃っているか
材質・寸法公差・表面処理・検査成績書の要否・梱包・納入場所・数量と発注頻度。このうち 1 つでも各社の裁量に委ねていれば、返ってきた金額は比較できない。
視点 2:発注数量の前提が実態と合っているか
見積依頼に書いた数量と、実際の発注数量が乖離していないか。乖離するなら、その旨を依頼段階で明示する。
視点 3:条件変更を金額に戻す経路があるか
仕様変更が起きたとき、誰が金額の見直しを起票するか。この経路が決まっていないと、変更だけが先に進んで金額が据え置かれる。
視点 4:協議の求めに応答する手順があるか
値上げの申し出を受けた窓口が、社内のどこへ回し、いつまでに書面で回答するか。取適法では応答しないこと自体が禁止される。
まとめ
相見積は、価格を下げるための手段ではなく、条件を揃えて比較可能にするための設計作業である。2026 年 1 月の取適法施行によって[5]、その設計は法律の要請とも重なった。多量発注を前提とした単価の引き出し、条件変更後の金額据え置き、協議への無応答——いずれも、これまで「交渉のうち」とされてきた進め方が明確に禁止されている。
相見積の回数を増やすより、1 回の相見積で条件が揃い、結果と理由が双方に返る運用を作るほうが、結果的に価格にも納期にも効く。
出典・参考資料
- 取適法・振興法(公正取引委員会)
- 2026年1月から「下請法」は「取適法」へ!(取適法リーフレット)(公正取引委員会)
- 下請法 知っておきたい豆情報 その12(公正取引委員会 中部事務所)
- 下請法 知っておきたい豆情報 その11(公正取引委員会 中部事務所)
- 中小受託取引適正化法(取適法)関係(公正取引委員会)
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