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経済安全保障推進法の特定重要物資と、調達先の把握

この記事のポイント(結論先出し)
2026 年 10 月時点で、経済安全保障推進法の「特定重要物資」は、内閣府のページの記載を数えると 16 物資が政令で指定されている(令和 4 年 12 月に 11、令和 6 年 2 月に 1、令和 7 年 12 月に 4)[1][6]。2026 年 9 月 18 日に施行された改正法で、特定重要物資の供給を受ける事業者を含む関係者に、安定供給確保のため相互に連携・協力する努力義務が設けられ、供給に支障が生ずるおそれがある場合に主務大臣が広く関係者へ資料・情報の提供などの協力を求められるようになった[2]。一方、国の支援を受けるための「供給確保計画」の作成と認定は、取り組みたい事業者が申請するものである[3]。買い手の購買部門がまずやることは、自社の部材のどれが特定重要物資やその原材料に当たるかを品目単位で把握し、上流の調達先まで聞いておくことである。
目次
特定重要物資とは何か
内閣府は、経済安全保障推進法の制度について、国民の生存に必要不可欠な、または広く国民生活・経済活動が依拠している重要な物資を特定重要物資として指定し、その安定供給確保に取り組む民間事業者等を支援することで、サプライチェーンの強靱化を図るものだと説明している[1]。
指定には四つの要件がある。国民の生存に必要不可欠または広く国民生活・経済活動が依拠していること、外部に過度に依存しまたは依存するおそれがあること、外部から行われる行為による供給途絶等の蓋然性が認められること、そして本制度による措置が特に必要と認められること、である[3]。外部への依存の程度を見るときの観点として、安定供給確保基本指針は、国内需要量に占める特定少数国・地域への依存の程度、国内生産の程度、最大輸入先国・地域からの輸入量の程度などを挙げている[4]。
| 指定の時期 | 指定された物資 | 数 |
|---|---|---|
| 令和 4 年 12 月 | 抗菌性物質製剤、肥料、永久磁石、工作機械・産業用ロボット、航空機の部品、半導体、蓄電池、クラウドプログラム、天然ガス、重要鉱物、船舶の部品 | 11 |
| 令和 6 年 2 月 | 先端電子部品(コンデンサー及びろ波器)。あわせて重要鉱物の鉱種にウランを追加 | 1 |
| 令和 7 年 12 月 | 人工呼吸器、無人航空機、人工衛星、ロケットの部品。あわせて船舶の部品に船体、先端電子部品に磁気センサーを追加 | 4 |
表は内閣府のページの記載をそのまま並べたものである[1]。物資ごとに所管の省が「安定供給確保を図るための取組方針」を策定・公表しており、内閣府はその一覧を 16 物資ぶん掲げている[6]。正確な範囲は施行令第 1 条で定められているので、品目が当たるかどうかを判断するときは条文と各省の取組方針で確かめる[1]。
製造業の購買から見ると、半導体、蓄電池、永久磁石、重要鉱物、先端電子部品、工作機械・産業用ロボットは、直接買う部材や設備、あるいは部材の原材料として身近にある。たとえば電動機を組み込む製品なら永久磁石とその原料の鉱物が、電子機器ならコンデンサーやろ波器、磁気センサーが関係しうる。
2026 年 9 月 18 日施行の改正で変わったこと
内閣府が 2026 年 9 月にまとめた改正の概要によると、経済安全保障推進法と株式会社国際協力銀行法の一部を改正する法律が施行され、重要な物資の安定的な供給の確保について二つの柱が加わった[2]。
一つは、重要な物資の供給に不可欠な役務への支援である。物資そのものの生産だけでなく、物資を使える状態にするための役務が外部に過度に依存している場合に、その物資を特定重要物資として指定・支援する仕組みが整った。概要は、光海底ケーブルの敷設や人工衛星の打上げを支援対象のイメージとして挙げている[2]。
もう一つが、安定供給確保に向けた努力義務と協力要請である。概要は、国、特定重要物資等の供給を行う事業者、特定重要物資の供給を受ける事業者その他の関係者は、安定供給確保のため相互に連携を図りながら協力するよう努めるものとすると書いている[2]。さらに、安定供給確保に支障が生ずるおそれがある場合、主務大臣は広く関係者に対し、状況を把握するために必要な協力(資料・情報の提供、状況の説明等)を求め、得られた情報を踏まえて供給確保計画の提出を促すことができる。認定された計画の実施が困難となるおそれがある場合にも、関係者に資料・情報の提供や協議などの協力を求められるようになった[2]。
概要が想定している場面は、原材料等の供給者の事業廃止、海外移転、事業の譲渡、経済的威圧である[2]。購買の言葉に直せば、仕入先の廃業や撤退、買収による供給の途絶である。
基本指針が買い手に期待していること
安定供給確保基本指針は 2026 年 9 月 11 日に一部変更され、この努力義務について具体例を書いている[4]。安定供給確保に影響を及ぼしうる事項について情報を得たときに関係者へ適時適切に共有すること、長期的な物資の供給安定性と事業の持続性を考慮した対応を検討すること、そして需給がひっ迫した場合に、特定重要物資等の供給を受ける事業者がその物資への依存を低減し、供給源を多様化することなどである[4]。
同じ指針は、供給確保計画の認定を受けた事業者が計画どおりに取り組むことが困難になるおそれがあり、その事業者から申出があって、所管大臣が安定供給確保のために特に必要と認めるときに、関係者へ求める協力の例を挙げている。その一つが、価格等の要因により特定重要物資等の調達が特定の国・地域や企業へ過度に集中することで、認定を受けた事業の実施が困難となりうる場合に、その物資の調達を行う事業者に対し、長期的な物資の供給安定性と事業の持続性を考慮した対応を検討するよう求める、というものである[4]。つまり、この協力要請が出るのは認定事業者の取組が行き詰まりかけた場面に限られ、調達先を一つに寄せること一般が制度上の検討対象になったわけではない。
指針は同時に、こうした働きかけを行う際には、自由かつ公正な経済活動との両立の観点を踏まえ、民間事業者等の過度な負担とならないよう留意するとしている[4]。努力義務であり、調達先を変えるよう命じる規定ではない。
国からの調査が来たとき
内閣府の制度概要は、所管大臣が物資の生産・輸入・販売や供給に不可欠な役務の提供の事業を行う者に対して、その状況について調査を実施できる(第 48 条第 1 項)としている[3]。基本指針は、この調査を行うときは、公的統計や業界団体の調査・ヒアリングを活用して事業者の過度な負担とならないよう対象範囲と内容を絞り込み、目的や位置付けを丁寧に説明して理解を得て協力を求めることを基本とし、企業の競争力の源泉に関わる情報が含まれうることを踏まえて必要な情報管理の措置を講じる、としている[4]。
購買部門に調達先の状況を問う調査が届いたとき、答えられる材料が手元にあるかどうかは、平時に何を把握しているかで決まる。次の節の作業は、その準備でもある。
購買部門がやること
以下は、上の制度の内容から導いた実務の提案である。
1. 品目マスタに「特定重要物資に関係するか」を持たせる
自社が買っている部材・設備のうち、特定重要物資そのもの、またはその原材料・部品に当たるものに印を付ける。物資の範囲は施行令と各省の取組方針で確かめる[1][6]。すべての品目を一度に調べる必要はない。購買額の大きい品目と、代わりが見つけにくい品目から始める。購買データの集計の仕方は購買データの集計で何を読むかで扱っている。
2. 直接の仕入先の「その先」を聞く
基本指針は、民間事業者等によるサプライチェーンの把握には一定の限界があることにも触れている[4]。実際、直接の仕入先の上流は、聞かなければ分からない。印を付けた品目について、原材料や主要部品の産地・製造国、製造拠点の数、代替の製造拠点の有無を、仕入先に聞く。回答は秘密保持の取り決めの下で受け取り、聞いた日付と回答者を記録する。
| 聞く項目 | 何に使うか |
|---|---|
| 主要な原材料・部品の製造国・地域 | 特定少数国・地域への依存の程度を見る(基本指針の観点) |
| 製造拠点の数と所在地 | 一拠点に止まったときの影響範囲を見積もる |
| 代替の材料・拠点に切り替える場合の期間 | 在庫と代替調達の準備量を決める |
| 事業の継続に関わる予定(撤退・移転・譲渡) | 改正法が想定する途絶の場面を早く知る |
| 供給確保計画の認定を受けているか | 仕入先の供給能力の強化の見通しを知る |
3. 「価格だけで一社に寄せる」判断を見直す
基本指針が調達の過度な集中に触れているのは、認定事業者の取組が困難になりうる場面での協力要請の例としてである[4]。制度上の要請が出る場面は限られるので、ここは制度とは別に、自社のリスク判断として見直す。印を付けた品目で、価格だけを理由に一社・一地域に寄せているものがあれば、複数の調達先を持つ費用と、途絶したときの損失を比べて判断し直す。調達先を分けるときの進め方と費用はチャイナプラスワン——調達先を分けるときの進め方と費用、新しい仕入先の審査は新規仕入先をどう審査するかで扱っている。
4. 仕入先の廃業・撤退の兆しを共有する流れを作る
改正法の努力義務は、関係者が情報を共有し合うことを想定している[2][4]。購買部門の中で、仕入先の廃業や撤退、買収の話を聞いたら誰に伝えるかを決めておく。兆候のつかみ方と代替の準備は仕入先の廃業・後継者不在で扱っている。
5. 公表されている認定計画を情報源として使う
内閣府によると、2026 年 9 月 11 日時点で 164 件の供給確保計画が認定され、最大助成額の合計は約 1.79 兆円である[1]。認定された計画の概要は物資ごとに各省のページで公表されている[6]。自社の仕入先やその上流の事業者が生産能力の増強や供給源の多様化の計画を持っているかは、ここから分かることがある。内閣府の分析資料は、物資ごとにサプライチェーン上の課題と取組の方向性を整理している[5]。たとえば半導体については、製造装置・原料のほか、それらのサプライチェーン上流にある部品・素材等について海外に大きく依存する物資が存在すると書いている[5]。汎用品の半導体の長期の確保の仕方は汎用・レガシー半導体の供給と、長期の確保の仕方で扱っている。
誤解されやすい点
「対象の物資を扱う会社は計画を国に出さなければならない」ではない。内閣府の制度概要は、民間事業者は特定重要物資等の安定供給確保のための取組に関する計画を作成し、所管大臣の認定を受けることが「可能」としている[3]。認定を受ければ助成や融資などの支援が受けられる[1]。改正法で、主務大臣が計画の提出を「促す」ことができるようになったが[2]、提出を義務付ける規定ではない。
「買い手には関係ない」でもない。改正で、供給を受ける事業者も相互の連携・協力の努力義務の対象として明記された[2]。義務の性格は努力義務だが、調査や協力要請を受けたときに答えられる準備はしておく。
「特定重要物資に当たらなければ安心」でもない。指定は、四つの要件を満たして特に必要と認められる物資に絞り込まれている[3]。指定されていない部材でも一社依存の危うさは同じなので、品目の把握は指定の有無と別に進める。
よくある質問
自社の購入品が特定重要物資に当たるか、どこで確かめればよいか
正確な範囲は施行令第 1 条に定められている[1]。物資ごとの取組方針が所管の省から公表されているので、品目の範囲と取組の内容はそこで確かめる[6]。判断に迷う場合は、内閣府のページに掲げられた所管省庁の担当課が窓口になる[1]。
買い手の側でも国の支援を受けられるか
支援は、供給確保計画の認定を受けた事業者の取組(生産基盤の整備、供給源の多様化、備蓄、技術開発、代替物資の開発など)が対象である[3]。自社が特定重要物資の供給に関わる取組をするなら、所管省庁に相談する。
仕入先に上流の情報を聞いても答えてもらえない
答えにくい情報が含まれることは、国の調査でも前提にされている[4]。秘密保持の取り決めを先に結び、何に使うかを説明し、答えられる範囲から聞く。すべてを一度に聞かず、品目を絞る。
改正前の記事に「対象業種は計画の提出が必要」と書いてあった
計画の作成と認定は事業者の申請によるもので[3]、2026 年 9 月の改正でも提出を「促す」ことができるようになったにとどまる[2]。古い説明は、施行後の資料で確かめ直してほしい。
まとめ
特定重要物資は 16 物資まで広がり[1][6]、2026 年 9 月 18 日の改正法の施行で、供給を受ける事業者も相互の連携・協力の努力義務の対象になった[2]。基本指針は、情報の共有、長期の供給安定性を考えた対応、依存の低減と供給源の多様化を例に挙げ、認定事業者の取組が困難になりうる場面では、価格等の要因で調達が過度に集中している事業者に検討を求めることもあるとしている[4]。購買部門がやることは、品目マスタで該当する部材に印を付け、仕入先の上流を聞き、一社・一地域に寄せている理由を見直し、廃業や撤退の兆しを共有する流れを作ることである。公表された取組方針と認定計画[5][6]は、そのための情報源になる。
出典・参考資料
- サプライチェーン強靱化の取組(重要物資の安定的な供給の確保に関する制度)(内閣府)
- 経済安全保障推進法等の改正概要(サプライチェーン強靱化)について(内閣府/2026 年 9 月)
- 経済安全保障推進法に基づく重要物資の安定的な供給の確保(サプライチェーン強靱化)に関する制度全般や技術流出防止について(内閣府/2026 年 9 月)
- 特定重要物資の安定的な供給の確保に関する基本指針(閣議決定/令和 4 年 9 月 30 日・令和 8 年 9 月 11 日一部変更)
- 経済安全保障推進法に基づく重要物資の安定的な供給の確保(サプライチェーン強靱化)に向けた各特定重要物資に関するサプライチェーンの分析と取組内容(内閣府 政策統括官(経済安全保障担当)付/2026 年 4 月)
- 安定供給確保取組方針、認定供給確保計画の概要及び供給事業所管省庁の問い合わせ先(内閣府)
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