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EU森林破壊防止規則——2026年9月の品目改正とゴム・木材の調達

この記事のポイント(結論先出し)
EU の森林破壊防止規則(EUDR、Regulation (EU) 2023/1115)は、二度の延期を経て、大・中規模の事業者には 2026 年 12 月 30 日、零細・小規模の事業者には 2027 年 6 月 30 日から適用される[2][5]。牛・カカオ・コーヒー・油ヤシ・ゴム・大豆・木材の 7 品目と、その派生製品のうち附属書 I に載ったものが対象で、2020 年 12 月 31 日より後に森林破壊が起きた土地で生産されていないこと、生産国の法令に沿っていること、デュー・ディリジェンス宣言書が出されていることを満たさなければ、EU 市場に出すことも EU から輸出することもできない[1]。製造業に関係が深いのは天然ゴムと木材・紙である。2026 年 10 月時点で注意したいのは、2026 年 9 月 17 日に官報に載った委任規則で対象品目が改められたことである。ゴム製のベルト類(HS 4010)とその他の加硫ゴム製品(HS 4016)、牛の皮革、航空機と自動車の座席などが対象から外れ、使い捨ての梱包材や包装容器も明確に対象外とされた[3]。日本の会社の調達部門は、EU 向け製品と EU の顧客に納める部品について、対象品目に当たる材料を使っているかを HS コードで確かめ、当たる場合は原料の生産地の位置情報までたどれる記録を仕入先と作っておく必要がある[1]。
目次
何を求める規則か——3 つの条件と「2020 年 12 月 31 日」
規則第 3 条は、対象品目とその製品を EU 市場に出したり流通させたり輸出したりするには、次の 3 つを全て満たす必要があると定めている[1]。
1. 森林破壊がないこと(deforestation-free)
製品に含まれる、または製品を作るのに使った対象品目が、2020 年 12 月 31 日より後に森林破壊が起きていない土地で生産されたこと。木材を含む製品は、その木材が 2020 年 12 月 31 日より後に森林劣化を起こさずに伐採されたこと[1]。
2. 生産国の法令に沿っていること
生産国の関係法令に従って生産されたこと[1]。
3. デュー・ディリジェンス宣言書があること
事業者がデュー・ディリジェンスを行い、リスクがないか無視できる程度であると結論づけ、宣言書を情報システムに提出していること[1]。
宣言書を出す前提として、事業者は製品ごとに、製品の説明と数量、生産国、対象品目を生産した全ての区画の位置情報(ジオロケーション)と生産日または生産期間、供給を受けた事業者と供給した先の名称・住所・メールアドレス、森林破壊がないことと法令に沿っていることを示す情報を集め、5 年間保管する[1]。ここが日本の会社にとって最も手間のかかる部分になる。
適用日と、2025〜2026 年の改正
| 時期 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 2023 年 6 月 | 規則発効。当初の適用は 2024 年 12 月 30 日(零細・小規模は 2025 年 6 月 30 日) | [1] |
| 2024 年 12 月 | 1 回目の延期(Regulation (EU) 2024/3234)。2025 年 12 月 30 日(零細・小規模は 2026 年 6 月 30 日)へ | [6][9] |
| 2025 年 12 月 23 日 | 2 回目の延期と簡素化(Regulation (EU) 2025/2650)。適用は 2026 年 12 月 30 日(零細・小規模は 2027 年 6 月 30 日)。宣言書の提出は最初に EU 市場に出す事業者に限定 | [2][7] |
| 2026 年 5 月 4 日 | 欧州委員会が見直しの報告書を公表し、規定どおり 2026 年末から適用する方針を示す。ガイドライン・FAQ を更新し、対象品目を改める委任規則案を公開 | [8] |
| 2026 年 9 月 17 日 | 委任規則(EU)2026/2102 を官報に掲載(翌日発効)。対象品目の追加・削除・明確化 | [3] |
| 2026 年 12 月 30 日 | 大・中規模の事業者に適用開始 | [2][5] |
| 2027 年 6 月 30 日 | 零細・小規模の事業者に適用開始(旧木材規則の対象品目を扱う零細・小規模は 2026 年 12 月 30 日) | [2][5] |
| 2027 年 12 月 30 日 | 2026/2102 で追加された品目(インスタントコーヒー、一部のパーム油派生品、冷凍の牛タン)に適用 | [3][5] |
2025/2650 は、欧州委員会に 2026 年 4 月 30 日までに簡素化の見直し報告を求めていた[2]。ジェトロによれば、欧州委員会は 2026 年 5 月 4 日にこの報告書を公表し、規定どおり 2026 年末から適用を始める方針を示した[8]。2026 年 10 月 1 日に欧州委員会の EUDR のページを確認した時点でも、適用日は上の表のとおりである[5]。これ以上の延期を前提にする根拠は、確認できた範囲では見当たらない。
製造業に関係する品目——2026 年 9 月の委任規則で何が変わったか
対象は品目の名前ではなく、附属書 I に載った HS コード(関税分類)で決まる[1]。製造業で関係が深いのはゴムと木材・紙である。当初の附属書 I には、天然ゴム(4001)、配合ゴム(4005)、ゴムの板・シート・ストリップ(4008)、コンベヤ・伝動用ベルト(4010)、新品のタイヤ(4011)、チューブ(4013)、手袋などの衣類(4015)、その他の加硫ゴム製品(4016)、硬質ゴム(4017)が入っていた[1]。4016 には、工業用のゴム部品の多くが分類される。
2026 年 9 月 17 日に官報に載った委任規則(EU)2026/2102 は、これを次のように改めた[3]。
ゴム
コンベヤ・伝動用ベルト(4010)と、その他の加硫ゴム製品(4016)を削除。天然ゴムの含有量が少なく、森林破壊への寄与が限られ、義務を課すのは均衡を欠く、という理由である。再生タイヤの項(4012)は新品のトレッドに限定した。天然ゴム(4001)、配合ゴム、板・シート、新品タイヤなどは残っている[3]。
牛・皮革
牛の原皮・なめした皮・革(4101、4104、4107)を削除[3]。
座席
木材の使用量が限られるとして、航空機の座席(9401 10 00)と自動車の座席(9401 20 00)を除き、木製の座席とその部分に限定した[3]。
梱包材・包装容器
他の製品を支え・保護し・運ぶためだけに使われ、その製品と一緒に提示される使い捨ての梱包材と包装容器、および繰り返し使用に明らかに適した梱包材・容器でそうした用途に使われているものは、その用途に使われた時点から対象外であることを明確にした。木製パレットなどの項(4415)や紙・板紙の項(48)に、この除外が書き込まれた[3]。梱包材を単独の製品として EU 市場に出す場合は対象になる[3]。
そのほか
中古品、廃棄物、製品サンプル、成分や品質を調べるための試験品なども対象外とした[3]。
ゴム部品を EU に出していた会社の負担は、この改正でかなり軽くなった。ただし、削除されたのは特定の HS コードであり、ゴムの板やシート、新品のタイヤ、配合ゴムなどは残っている。自社の部品がどの HS コードで通関しているかを、通関の書類で確かめるのが先である。改正の経緯について、ジェトロは 2026 年 5 月の段階の案として、牛の生皮や加工牛皮、更生タイヤなどの派生製品のほか、製品サンプル、特定の包装材、中古品、廃棄物などを対象から除外すると紹介していた[8]。成立した委任規則では、上のとおりゴムのベルト類や加硫ゴム製品、航空機・自動車の座席も削除されている[3]。
包装材の規制は EUDR とは別に、EU の包装・包装廃棄物規則でも動いている。こちらはEU 包装・包装廃棄物規則(PPWR)と輸出品の包装材の記事で扱う。
日本の会社は誰の立場になるのか
2025/2650 の改正で、デュー・ディリジェンスを行い宣言書を出す義務は、対象品目を最初に EU 市場に出す事業者(または EU から輸出する事業者)に限られた。その下流で、すでに宣言書のある製品を使って別の対象製品を作る「下流事業者」や、流通する「取引事業者」は宣言書を出す必要がなく、最初の下流事業者が宣言書の参照番号を集めて保管する[2][7]。
日本から EU の顧客に部品や製品を輸出する場合、EU 市場に最初に出すのは通常、EU 側の輸入者である。日本の会社自身が宣言書を出すわけではないが、輸入者はデュー・ディリジェンスのために、位置情報を含む第 9 条の情報を集めなければならない[1]。その情報の依頼は日本の納入元に来る。ジェトロは、EU 域内に製造拠点を持つ日系企業が域外から対象品目を原材料として直接輸入し、域内で加工・販売する場合、その欧州子会社は引き続き最初に市場に出す事業者としての義務を負うと指摘している[6]。
国のリスク区分——日本・中国・タイ・ベトナムは「低リスク」
規則は国を低リスク・標準リスク・高リスクの 3 段階に分ける[1]。2025 年 5 月の実施規則(EU)2025/1093 は、日本、中国、タイ、ベトナム、米国、EU 加盟国などを低リスク、ベラルーシ、北朝鮮、ミャンマー、ロシアを高リスクとし、それ以外の国は標準リスクとしている[4]。天然ゴムやパーム油の主要な生産国であるインドネシアとマレーシアは、低リスクの一覧にも高リスクの一覧にも載っていないので、標準リスクになる[4]。
低リスク国で生産されたことを確かめられれば、事業者はリスク評価とリスク軽減の手続き(第 10 条・第 11 条)を省いた簡素なデュー・ディリジェンスでよい。ただし、規則を回避する経路や、出どころ不明・標準リスク国・高リスク国のものが混ざるリスクを評価したうえでの話であり、当局から求められれば混入のリスクが無視できることを示す書類を出す必要がある[1]。また、位置情報を含む第 9 条の情報の収集は簡素化されない[1]。日本で加工した製品でも、原料のゴムがインドネシア産なら、評価の対象は原料の生産国である。
発注側が今から変えること(提案)
以下は規則の要求そのものではなく、EU の顧客から依頼が来たときに答えられるようにするための調達実務の提案である。
1. EU 向けの品目を HS コードで仕分ける
EU 向け製品と EU の顧客への納入品について、通関上の HS コードを一覧にし、2026/2102 適用後の附属書 I に当たるかを確かめる[3]。当たらないもの(例えば 4016 に分類されるゴム部品)は、そう判断した根拠と日付を記録しておく。
2. 当たる品目は、原料の生産地まで仕入先と遡る
天然ゴムや木材、紙・パルプを使う品目について、仕入先に原料の生産国、生産者または集荷業者、ロットごとの生産時期を聞く。位置情報は生産の区画単位で必要になる[1]。天然ゴムは多くの小規模農家から集荷されるので、仕入先も一度では答えられない。早めに頼み、どこまで遡れるかを確かめておく。
3. 混ぜない仕組みを確かめる
出どころの違う原料を混ぜて使うと、位置情報を特定できなくなる。仕入先の工程で、原料のロットが分けて管理されているか、出どころ不明のものが混ざる余地がないかを確かめる。
4. 契約と仕様に書く
該当する品目の購入仕様書や個別契約に、EUDR の情報(生産国・位置情報・生産時期・供給者)を求めに応じて期限内に出すことを書いておく。購入仕様書の書き方は購買仕様書の書き方、契約の構成は基本取引契約書とはの記事にある。
5. 同じ取引先への調査をまとめる
ゴムや紙の仕入先には、人権や強制労働の確認でも同じ相手に話を聞くことになる。EU の強制労働製品禁止規則も 2027 年 12 月から適用される。調査票を別々に送るより、一度の依頼でまとめたほうが仕入先の負担が少ない。
よくある質問
EU に輸出していなければ関係ないか
EU の顧客が日本から部品や材料を輸入しているなら、その顧客が最初に EU 市場に出す事業者になり、情報の依頼は日本に来る[1][2]。日本国内の取引先に納めた部品が、その取引先の製品に組み込まれて EU に輸出される場合も、上流の情報を求められうる。
製品を梱包する段ボールや木製パレットは対象か
他の製品を支え・保護し・運ぶためだけに使われ、その製品と一緒に提示される使い捨ての梱包材と包装容器は対象外であることが、2026/2102 で明確にされた。繰り返し使う容器も、その用途に使われた時点からは対象外である[3]。梱包材そのものを製品として EU に販売する場合は対象になる[3]。
低リスク国の日本で作った製品なら何もしなくてよいか
評価の対象は製品を作った国ではなく、対象品目を生産した国である[1]。日本で加工した製品でも、原料の天然ゴムや木材が標準リスクの国で生産されていれば、簡素なデュー・ディリジェンスは使えない。
まとめ
EUDR は 2026 年 12 月 30 日から大・中規模の事業者に適用され、対象品目が 2020 年 12 月 31 日より後に森林破壊のない土地で生産されたことを、生産区画の位置情報まで含めて示す必要がある。2026 年 9 月の委任規則で、ゴムのベルト類と加硫ゴム製品、皮革、航空機・自動車の座席が外れ、使い捨ての梱包材が対象外と明確にされた。調達部門は、EU 向けの品目を HS コードで仕分け、残った品目について原料の生産地と生産時期を仕入先と遡り、混ぜない仕組みと情報提供の約束を確かめておくとよい。
出典・参考資料
- Regulation (EU) 2023/1115 on deforestation-free products(EUDR)(欧州議会・EU 理事会/2023 年 5 月 31 日)
- Regulation (EU) 2025/2650 amending Regulation (EU) 2023/1115 as regards certain obligations of operators and traders(欧州議会・EU 理事会/2025 年 12 月 19 日、EU 官報 2025 年 12 月 23 日)
- Commission Delegated Regulation (EU) 2026/2102 as regards the list of relevant commodities and relevant products(欧州委員会/2026 年 7 月 13 日、EU 官報 2026 年 9 月 17 日)
- Commission Implementing Regulation (EU) 2025/1093 on the list of countries that present a low or high risk(欧州委員会/2025 年 5 月 22 日)
- Regulation on Deforestation-free Products(欧州委員会/2026 年 10 月 1 日閲覧)
- EU人権・環境政策の転換点(1)延期相次ぐ規制簡素化のポイント(日本貿易振興機構(ジェトロ)地域・分析レポート/2026 年 6 月 12 日)
- EU、森林破壊デューディリジェンス規則の大幅簡素化と再度の適用延期で合意(日本貿易振興機構(ジェトロ)ビジネス短信/2025 年 12 月 9 日)
- 欧州委、2026年末の森林破壊防止デューディリジェンス規則の適用に向け、新措置を発表(日本貿易振興機構(ジェトロ)ビジネス短信/2026 年 5 月 7 日)
- Regulation (EU) 2024/3234 amending Regulation (EU) 2023/1115 as regards provisions relating to the date of application(欧州議会・EU 理事会/2024 年 12 月 19 日、EU 官報 2024 年 12 月 23 日)
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