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無電解ニッケルめっき(JIS H 8645)の指定——りん含有率、等級と膜厚、熱処理と硬さ、密着

この記事のポイント(結論先出し)
無電解ニッケルめっき(JIS H 8645 無電解ニッケル-りんめっき)は、りんを 2〜15 % 含む皮膜を対象にしているが、りん含有率で種類を分けてはいない[1]。りん含有率を指定したいなら、呼び方の例にあるように「ニッケル(90 %)-りん(10 %)」と注文書に書き、分析の方法まで決める[1]。等級は最小厚さで 1〜7 級(3〜50 μm)に分かれる[1]。硬さの規定値はビッカース 500 以上・ヌープ 450 以上で、熱処理の有無は書かれておらず、600〜1000 HV にする熱処理条件は附属書 7(参考)にあるだけなので、熱処理して硬さを上げるか、上げるなら何 HV を求めるかを注文時に書く[1]。密着性向上の熱処理、めっき前の応力除去、めっき後の水素ぜい性除去は、どれも指定されたときに行うものとして書かれている[1]。
目次
この記事の範囲
無電解ニッケルめっき(無電解ニッケルメッキと書かれることも多い)は、電気を使わずに還元剤でニッケルを析出させる処理で、JIS では「無電解ニッケル-りんめっき」として JIS H 8645 が定めている。規格の注によれば、対象は次亜りん酸還元による自己触媒型のニッケル-りんめっきで、析出物はニッケルを主としてりん 2〜15 % を含むものである[1]。適用範囲は、鉄・銅・アルミニウムとそれらの合金の素地に、防食性・耐摩耗性などの目的で施した有効面のめっきである[1]。
めっきの発注書に書くべき基本の項目(素地材料、めっきの記号、有効面、外観、検査方法)と、電気亜鉛めっきとの共通点はめっきの発注で指定することで扱っている。この記事は、無電解ニッケル-りんめっきに固有のりん含有率・等級と膜厚・熱処理と硬さ・密着性を、発注と受入の目線でどう決めるかに絞る。皮膜の硬さを測る試験の条件の一般論は図面の硬さ指定に、表面処理の種類の選び方は表面処理の種類と図面の記号に送る。防食だけが目的で厚い亜鉛皮膜を付ける処理は、同じ束の溶融亜鉛めっき(JIS H 8641)の指定で扱う。
現行の JIS H 8645 は 1999 年の改正版で、2023 年 10 月 20 日に確認されている[1]。対応国際規格として ISO 4527:1987 を元にしつつ、国際規格にない項目を追加して作成された規格である[1]。海外の仕入先に出すと、ISO や ASTM の別の規格に沿った仕様書で返ってくることがあるが、その場合はこの記事の項目を相手の規格のどこに当たるかで確かめる。
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りん含有率は「種類」ではなく、注文書に書く値
JIS H 8645 の品質の規定では、めっき皮膜の化学成分はニッケル 83〜98 %、りん 2〜15 %、その他の成分 0〜2 % と、幅をもって決められているだけである[1]。溶融亜鉛めっきの規格が膜厚で記号を分けるように、りん含有率で記号を分ける作りにはなっていない。一方、規格の「めっきの呼び方」は、めっきの種類、素地金属、めっきの最小厚さまたは等級の順に表すとし、例として「鉄鋼素地上,無電解ニッケル-りんでニッケル(90%)-りん(10%),20μm(又は5級)のめっき」を挙げている[1]。りん含有率を決めたいときは、この呼び方にならって含有率を書けばよい。
りん含有率を書く意味は、硬さの出方が変わるからである。規格の附属書 7(参考)は、無電解ニッケル-りんめっきの硬さはりん含有率によって異なり、熱処理すると硬化を示すとして、りん含有率約 8 % と約 12 % の皮膜について、窒素雰囲気中で各温度に 1 時間保持した後の硬さを表にしている[1]。
| 熱処理温度(1 時間保持・窒素雰囲気中) | りん含有率 約 8 % | りん含有率 約 12 % |
|---|---|---|
| 熱処理しないもの | 540 HV | 580 HV |
| 200 ℃ | 550 HV | 650 HV |
| 300 ℃ | 780 HV | 810 HV |
| 400 ℃ | 900 HV | 970 HV |
| 500 ℃ | 770 HV | 880 HV |
| 600 ℃ | 640 HV | 780 HV |
数値は JIS H 8645 附属書 7(参考)表 1 による[1]。参考として示された一般的な熱処理条件であり、規格の要求値ではない。
この表から読めるのは、硬さが最も高くなるのは 400 ℃ 付近で、それより高い温度では下がっていくことである[1]。同じ附属書の表 2(大気中・りん含有率約 8 %)でも、400 ℃ では 5 分で 610 HV、20 分で 910 HV と保持時間で硬さが変わり、600 ℃ では 5 分の 820 HV から 100 分で 620 HV へ下がっている[1]。「熱処理して硬くする」とだけ書くと、温度も時間も仕入先任せになり、どの硬さが出るかが決まらない。
発注側が書くのは、次のどちらかである(当方の提案)。一つは、りん含有率の範囲と熱処理の条件(温度・時間・雰囲気)を指定する書き方。もう一つは、条件は仕入先に任せ、「熱処理後の皮膜硬さ ○○ HV 以上」と結果だけを指定し、試験方法を書く書き方である。後者のほうが仕入先の工程を縛らないが、素地にかかる温度が分からなくなるので、素地の性質が熱で変わる部品なら上限温度も添える。
等級は最小厚さで決まる
めっきの等級は、最小厚さによって 1〜7 級に分けられている[1]。素地金属は鉄・銅・アルミニウムとその合金のどれも同じ表で、参考として用途が添えられている[1]。
1 級:3 μm(参考の用途:はんだ付け)
2 級:5 μm(防食、はんだ付け)
3 級:10 μm(防食、耐磨耗)
4 級:15 μm(防食、耐磨耗)
5 級:20 μm(防食、耐磨耗)
6 級:30 μm(防食、耐磨耗)
7 級:50 μm(防食、耐磨耗)[1]
めっきの記号は JIS H 0404 による[1]。JIS H 0404 は、電気めっきを表す記号を Ep(または SPLE)、無電解めっきを表す記号を ELp(または SPLEL)とし、表示例に「Ep-Fe/ELp-Ni 15, ICr 20/」(鉄鋼素地に無電解ニッケルめっき 15 μm 以上、その上に工業用クロムめっき 20 μm 以上)を挙げている[2]。図面には等級か最小厚さのどちらかで書き、両方を書くなら食い違わないようにする。
付記事項には「めっきの最大厚さ」がある[1]。無電解めっきは寸法精度を求める部品にも使われるので、はめあい部や公差の厳しい面があるなら、最小厚さだけでなく最大厚さも書く。どの面を有効面とするかは、図面に示すか印を付けた実物見本を提出するとよいとされている[1]。
厚さの測り方を決める
厚さ試験は、JIS H 8501 に規定する顕微鏡断面試験方法、電解式試験方法、蛍光 X 線試験方法、β 線式試験方法、渦電流式試験方法、走査電子顕微鏡試験方法、質量方法のいずれかによる[1]。JIS H 8501 自体には磁力式試験方法も含まれているが[3]、JIS H 8645 の厚さ試験の列挙には入っていない[1]。ニッケル-りん皮膜の厚さを、鉄鋼素地上の亜鉛めっきと同じ感覚で磁力式の膜厚計で測った値を出されたら、どの方法かを確かめる。顕微鏡断面試験方法は製品を切る破壊試験なので、製品をそのまま試験片に使えない場合は代替試験片を使うことになる。代替試験片は、可能な限り部品と同じ材質の素地を使い、同じめっき条件で作らなくてはならない[1]。
硬さの規定と、試験の条件
めっきの硬さは、規定の試験を行ってビッカース硬さ 500 以上、ヌープ硬さ 450 以上とされ、試料のめっき厚さは 50 μm 以上とする備考が付いている[1]。この規定は熱処理の前か後かを限定していない[1]。硬さ試験は JIS Z 2251(ヌープ硬さ試験)に規定する方法で測定するとされている[1]。つまり、硬さの規定は、実際の部品の 10 μm や 20 μm の皮膜の上で測った値ではなく、50 μm 以上の厚さのめっきで測った値として決まっている。
ビッカース硬さ試験の規格(JIS Z 2244-1)は、電着皮膜や無電解皮膜などの金属皮膜にも適用できるとし、皮膜表面を垂直に測る場合は 0.030 mm 以上、断面を測る場合は 0.100 mm 以上の厚さの皮膜に適用するとしている[4]。薄い皮膜の部品で「製品の上で硬さを測って成績書に載せてほしい」と求めると、試験方法の前提を外れることがある。発注側が決めるのは、硬さをどの試料で確かめるか(部品か、同じ条件でめっきした厚めの試験片か)、どの試験方法・試験力で測るかである。成績書の硬さが、熱処理前の値か熱処理後の値かも書かせる。ビッカースとヌープの値を換算して判定しないことは、硬さ換算(HRC・HV・HB)の扱いで扱っている。
熱処理で硬さを上げる場合、素地への影響も考える。規格の附属書 4(密着性を向上させるための熱処理条件)では、アルミニウム合金の素地は非熱処理合金で 160±10 ℃、熱処理合金で 130±10 ℃ と、鉄鋼の 210±10 ℃ より低い温度が示されている[1]。硬さを上げるための 300〜400 ℃ の熱処理は、時効硬化させたアルミ合金や焼戻しした鋼の性質を変えるおそれがある(当方の注意)。素地側の材料と質別を仕入先に伝え、熱処理の温度が素地に許されるかを設計側で判断してから指定する。アルミの質別の扱いはアルミは合金番号と質別で指定するの記事で扱っている。
密着性:試験方法を書かないと合否が決まらない
めっきの密着性は、規定の試験を行い、めっきのはく離または膨れがあってはならないとされている[1]。試験方法は、JIS H 8504 に規定する曲げ試験方法、熱衝撃試験方法、やすり試験方法、または先端を直径 2 mm に研いだばね付きセンターポンチで約 5 mm 間隔にくぼみを付けて判定するポンチ試験のいずれかによる[1]。JIS H 8504 自体には、研削(やすり・と石)、へらしごき、押出し、エリクセン、ショットピーニング、バレル研磨、引きはがし(テープ・はんだ付け)、たがね打込、けい線などの試験方法が並んでいる[5]。どれを使うかで、合格する皮膜の範囲が変わる。発注書の基本事項に「検査方法(用いられる密着性試験方法など)」が入っているのはこのためである[1]。
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密着性の試験の前に熱処理をするかどうかも決める。規格は、注文者の要求のあるものについては、附属書 4 の熱処理を行った後にこの試験を行ってもよいとしている[1]。附属書 4 の条件は、鉄鋼 210±10 ℃、銅合金 190±10 ℃、アルミニウム合金は前記の温度で、いずれも 1〜1.5 時間、めっき厚さ 50 μm 以上のものはこれより長い時間で行う[1]。こちらは附属書の題名に「規定」と付いており、硬さの附属書 7(参考)と扱いが違う。
高強度の鋼では、応力除去と水素ぜい性除去を書く
鉄鋼製品や銅合金製品などに対してめっき前の応力除去が指定されている場合、その条件は受渡当事者間の協定によるとされ、附属書 8(参考)に条件の例がある[1]。めっき後の水素ぜい性除去も、指定されている場合の条件は協定により、附属書 9(参考)に例がある[1]。どちらも「指定されている場合」なので、注文書に書かなければ行われない前提で読む。
附属書 9(参考)の表は、素地の引張強さで条件を分けている[1]。
引張強さ 1 050 MPa まで
処理の条件は示されていない(表の該当欄は空欄)。
1 051〜1 450 MPa
190〜220 ℃ で 8 時間、めっき後の最大許容時間 8 時間。
1 451〜1 800 MPa
190〜220 ℃ で 18 時間、最大許容時間 4 時間。
1 800 MPa 超
190〜220 ℃ で 24 時間、最大許容時間 0 時間[1]。
本文の備考は、熱処理はめっき後少なくとも 4 時間以内に開始しなければならないとしている[1]。表面硬化鋼は 190〜220 ℃ で 2 時間以上の熱処理が望ましいとされ、めっき前の応力除去でも、表面硬化した部品は 130〜150 ℃ で 5 時間以上とする備考がある[1]。仕入先がこの条件を知っていても、部品の引張強さや表面硬化の有無を知らなければ選べない。素地の強度と熱処理の履歴を、図面か仕様書で渡す。焼入れ・浸炭した部品の指定は熱処理を図面で指定するで、素地の引張強さを確かめる試験は引張試験(JIS Z 2241)を発注で指定するで扱っている。
疲労強度を上げる目的でショットピーニングを指定する場合、その条件は協定により、ピーニング強度の指定がなければ附属書 1 の方法で設定する[1]。附属書 1(規定)は、特に指定がなければ、反りの高さを引張強さ 1 100 MPa より小さい鋼で 0.3 mm 以上、それより大きい鋼で 0.4 mm 以上としている[1]。
協定に任されている品質
JIS H 8645 には、試験方法だけを決めて、合否の値は受渡当事者間の協定に任せている項目が多い[1]。
1. 表面粗さ
値は協定による[1]。仕上げ面の粗さが機能に効く部品なら、めっき後の最終表面粗さを付記事項として書く[1]。
2. 多孔性
品質は協定による。鉄鋼素地ではフェロキシル試験・熱水試験・塩水噴霧試験などがあり、結果は単位面積あたりの細孔の数を記録し、仕様書で許容した数を超えているかを見る[1]。許容数を仕様書に書かなければ判定できない。
3. 耐食性
めっき後処理を行った後に試験し、JIS H 8502 のレイティングナンバで 9 以上でなければならないが、後処理、試験時間、外観変化は協定による[1]。塩水噴霧試験の条件の決め方は塩水噴霧試験を仕様に入れるとき決めることで扱っている。
4. 耐磨耗性
評価方法は協定による。試料のめっき厚さは 20 μm 以上とする[1]。
5. 下地めっき
密着性や拡散防止のために下地めっきを行う場合、種類と厚さは協定による[1]。
検査項目と試験方法の選択、試験片の数、検査の順序と対象箇所、試験片の代替使用も、すべて協定によるとされている[1]。試験片は同一部品のロットから JIS Z 9031 によって抜き取る[1]。
受入で確かめること
送り状または納品書には、めっきの記号、加工年月日、加工業者名、発注書や加工仕様書に記載されためっき品質の試験結果を表示するとされている[1]。逆に言えば、発注書に書かなかった品質は、試験結果として出てこない。りん含有率を指定したなら、附属書 3(規定)のどの分析方法(吸光光度分析法・中和滴定法・蛍光 X 線分析法)で測ったかも合わせて確かめる[1]。附属書 3 の分析方法は、白金板に約 0.1〜0.2 g(厚さ 20〜30 μm)のめっきを行った試料を溶かして測る手順になっており[1]、部品そのものから測るのではない点にも注意する。
素地については、素地材料が発注者から供給される場合、発注者は加工仕様書などに素地材料に関する情報を示さなくてはならず、最終仕上げに有害となる素地表面の欠陥は加工業者が目視で検査し、処理前に発注者に注意する、とされている[1]。支給品をめっきに出すときは、仕入先から素地の欠陥の連絡が来たときの扱いを決めておく。
よくある質問
Q. 「高りんタイプで」と口頭で頼んでいます。それで足りますか。
JIS H 8645 は、りん含有率で種類を分けておらず、皮膜の成分を 2〜15 % の幅で決めているだけである[1]。「高りん」が何 % なのかは規格の中に定義がない。呼び方の例にならって含有率を数値で書き[1]、分析方法と頻度を決める。
Q. 熱処理後の硬さを 900 HV 以上と書いてよいですか。
附属書 7 の表では、りん含有率約 8 % の皮膜で 400 ℃・1 時間の熱処理後に 900 HV という値が参考として出ている[1]。要求値として書くことはできるが、熱処理の温度が素地に許されるか、どの試料・試験方法で確かめるかを一緒に決める。熱処理で硬さを上げる必要がないなら、規格の規定値はビッカース 500 以上・ヌープ 450 以上である(熱処理の有無は限定されていない)[1]。
Q. 成績書の膜厚が、こちらで測った値と合いません。
まず、どの試験方法で測ったかを確かめる。JIS H 8645 は厚さ試験の方法を JIS H 8501 の中から 7 つ挙げているが[1]、方法によって測る場所と原理が違う[3]。有効面のどこを測ったか、最小厚さで判定しているかも突き合わせる。
まとめ
無電解ニッケル-りんめっき(JIS H 8645)は、りんを 2〜15 % 含む皮膜を対象とし、りん含有率で種類を分けていないので、含有率を決めたいなら呼び方の例のとおり数値で書く[1]。等級は最小厚さで 1〜7 級、記号は JIS H 0404 の ELp で表す[1][2]。硬さの規定値はビッカース 500 以上・ヌープ 450 以上(50 μm 以上の試料・熱処理の有無は限定されていない)で、熱処理で上げるときの条件は附属書 7(参考)なので、温度・時間か結果の硬さを注文書に書き、素地への影響を確かめる[1][4]。密着性は試験方法を書かなければ合否が決まらず[1][5]、応力除去と水素ぜい性除去は指定されたときに行うものなので、素地の引張強さとあわせて指定する[1]。
出典・参考資料
- JIS H 8645:1999 無電解ニッケル-りんめっき(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1999 年 8 月改正・2023 年 10 月確認)
- JIS H 0404:1988 電気めっきの記号による表示方法(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1988 年 3 月改正・2025 年 10 月確認)
- JIS H 8501:1999 めっきの厚さ試験方法(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1999 年 8 月改正・2023 年 10 月確認)
- JIS Z 2244-1:2024 ビッカース硬さ試験-第 1 部:試験方法(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2024 年 6 月改正)
- JIS H 8504:1999 めっきの密着性試験方法(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1999 年 8 月改正・2023 年 10 月確認)
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