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投稿日:2026年10月16日

二相ステンレス SUS329J4L の選び方——SUS316L との違い、耐孔食性と溶接の指定

この記事のポイント(結論先出し)

SUS329J4L は JIS でオーステナイト・フェライト系(二相ステンレス)に分類される鋼種で、クロム 24.00〜26.00%、ニッケル 5.50〜7.50%、モリブデン 2.50〜3.50%、窒素 0.08〜0.30% を含む[1]。SUS316L と比べるとクロムとモリブデン、窒素が多く、ニッケルが少ない。熱間圧延板の規格値は耐力 450 N/mm² 以上・引張強さ 620 N/mm² 以上で、SUS316L の 175・480 を大きく上回るが、耐力は注文者の指定がある場合に適用される[1]。塩化物の環境での孔食・すき間腐食・応力腐食割れに強い一方、σ 相の析出と 475℃ 脆性があるため、300℃ 以上での長時間の使用には向かない[3]。溶接では、溶接材料と入熱の範囲を指定してフェライト量を管理させる[4]。

SUS316L で錆びた、あるいは塩分を含む水を扱う設備で 316L より耐食性の高い材料が欲しい、という場面で二相ステンレスの SUS329J4L が候補に挙がる。この記事は、SUS329J4L を発注するときに SUS316L と何が違い、何を指定し、受入で何を確かめるかをまとめる。

SUS329J4L は JIS の「オーステナイト・フェライト系」

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熱間圧延ステンレス鋼板の JIS G 4304 は、ステンレス鋼をオーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系、オーステナイト・フェライト系、析出硬化系に分け、オーステナイト・フェライト系に SUS821L1、SUS323L、SUS329J1、SUS329J3L、SUS329J4L、SUS327L1 の 6 鋼種を入れている[1]。一般に二相ステンレスと呼ばれるのがこのグループである。

腐食防食学会の解説は、二相ステンレス鋼はフェライト(α)相の中に島状のオーステナイト(γ)相が混ざった組織で、SUS329J3L や SUS329J4L は SUS304 に比べて耐食性を高めるためにクロムを 25% 程度まで増やし、加工性を保つためにニッケルを 5% 程度まで減らしていると説明している[3]。同じ解説によると、SUS329J3L と SUS329J4L は 1991 年に開発されて JIS に規格化され、いまは標準的な二相ステンレスとして汎用的に使われている[3]。

鋼種記号の「J」は日本独自の鋼種、「L」は極低炭素を表す。ステンレス協会の解説は、鋼種記号の後ろのアルファベットの意味として、L は極低(Low)炭素、J1・J2 などは日本独自鋼種と示している[5]。

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SUS316L と規格の値で並べると

次の表は、熱間圧延板(JIS G 4304)の規格値と、学会の解説・JIS の質量計算に使われる密度を並べたものである。

項目 SUS329J4L(二相) SUS316L(オーステナイト系)
炭素(C) 0.030% 以下 0.030% 以下
クロム(Cr) 24.00〜26.00% 16.00〜18.00%
ニッケル(Ni) 5.50〜7.50% 12.00〜15.00%
モリブデン(Mo) 2.50〜3.50% 2.00〜3.00%
窒素(N) 0.08〜0.30% 規定なし
耐力(板) 450 N/mm² 以上(注文者の指定がある場合に適用) 175 N/mm² 以上(注文者の指定がある場合に適用)
引張強さ(板) 620 N/mm² 以上 480 N/mm² 以上
伸び(板) 18% 以上 40% 以上
硬さ(板) 302 HBW 以下(または 32 HRC 以下、320 HV 以下) 187 HBW 以下(または 90 HRBW 以下、200 HV 以下)
質量計算に使う密度 7.80 g/cm³ 7.98 g/cm³

成分と機械的性質は JIS G 4304 の表による[1]。密度は、機械構造用ステンレス鋼鋼管の JIS G 3446 が単位質量の算出式に使っている基本質量で、二相系が 7.80、SUS316L などが 7.98 である[6]。同じ寸法なら SUS329J4L のほうがわずかに軽い。強度が高いので、設計で板厚を下げられる場合もあるが、それは設計側の判断になる。

JIS G 4304 は、オーステナイト・フェライト系の固溶化熱処理状態の機械的性質を規定し、ただし耐力は注文者の指定がある場合に適用するとしている[1]。オーステナイト系の SUS316L も同じで、耐力は注文者の指定がある場合に適用される[1]。二相ステンレスを選ぶ理由が耐力の高さなら、発注書に耐力の適用を書いておかないと、規格上は受入の条件に入らない。硬さは表の HBW・HRC・HV のいずれかによるとされ、特に指定のない場合はどれを適用するかを製造業者が選ぶ[1]。

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耐食性は「塩化物の環境」で効く

ステンレス協会の解説は、ステンレスの磁性と耐食性は直接関係がないとしたうえで、SUS329J4L は SUS316 よりも耐食性が高いと例に挙げている[7]。二相ステンレスは磁石に付くが、それで耐食性が低いとは言えない。

同協会の別の解説は、孔食とすき間腐食は塩化物イオンなどを含む環境で起こり、対策の一つにクロムやモリブデンを多く添加した材料の選定があること、耐孔食性の指標として孔食指数 PI = Cr(%)+ 3.3 Mo(%)がよく使われることを示している[8]。同じ解説は、応力腐食割れを塩化物イオンなどの腐食因子と引張応力の作用下で起こる、主としてオーステナイト系に特有の割れとしている[8]。

腐食防食学会の解説は、窒素の効果も含めた式 PRE = Cr + 3.3 Mo + 16 N を挙げ、PRE の値は SUS329J3L がおよそ 34、SUS329J4L がおよそ 38 であるとしている[3]。同じ解説は、二相ステンレスの孔食発生電位やすき間腐食発生電位は SUS316 や SUS304 より広い温度範囲で貴で、塩化物環境でオーステナイト系より高い耐応力腐食割れ性を示すと整理している[3]。ただし、二相ステンレスでも濃厚な塩化物の環境では応力腐食割れの感受性を示す場合があるとも書いている[3]。

注意したいのは、二相ステンレスの耐孔食性は二つの相のうち PRE の低い相で決まる、という点である。同じ解説は、各相は元素の分配によって化学組成が違うため、全体の耐孔食性は PRE の低いほうの相で決まり、両相の比がおよそ 1:1 付近が最も耐食性が良いとされている、と説明している[3]。成分が規格に入っていても、熱処理や溶接で相の比率が崩れると耐食性は落ちる。

使われる場面として、同じ解説は海水熱交換器、海水ポンプ、海水淡水化装置、ケミカルタンカー、化学プラントやパルプ・製紙の装置を挙げている[3]。海水の環境でもすき間腐食は起こりうるので、すき間構造を避ける設計と組み合わせることが前提になる[3]。

高温では使いにくい:σ 相と 475℃ 脆性

SUS316L からの置き換えで見落としやすいのが、使用温度と加熱の履歴である。腐食防食学会の解説は、二相ステンレスは 950℃ 以下でシグマ(σ)相が析出し、500℃ 付近では 475℃ 脆性が生じるため、これらの温度域にさらすことは避けなければならないとしている[3]。σ 相が析出すると硬さが増して靭性が下がり、耐食性も影響を受ける[3]。

同じ解説は、600℃ を超える高温では α 相の強度が大きく下がるため高温強度はオーステナイト系より小さく、高温域では析出物などにより脆化するため 300℃ 以上の温度での長時間使用には耐えられないとしている[3]。溶接学会誌の解説も、二相ステンレスの特徴として、オーステナイト系より熱膨張係数が小さく熱伝導度が大きいこと、常温付近の強度とくに耐力が高く高温強度はオーステナイト系より低いこと、靭性・延性もオーステナイト系より低いこと、熱処理による組織変化が大きく耐食性などに影響することを挙げている[9]。

発注側が確かめることは二つある。一つは、部品の使用温度が長時間 300℃ を超えないか。もう一つは、加工の途中で仕入先が加熱処理を計画していないか。応力除去などの目的で加熱するなら、その温度が上の温度域に入らないかを仕入先に示させる。

溶接はフェライト量と入熱で管理する

二相ステンレスの溶接は、オーステナイト系と同じ感覚で頼むと品質が出ない。溶接学会論文集に 2025 年に掲載された論文は、溶接過程では冷却速度が大きいためにオーステナイトの析出が抑えられてフェライト量が極めて多くなり、靭性が下がるとともに、フェライト中に過飽和となった窒素が Cr 窒化物として析出して耐孔食性が著しく低下すると説明している[4]。そのため、溶接部のフェライト量がおよそ 50%(30〜70%)となるように制御することが重要で、溶接時にはオーステナイト生成元素であるニッケルを母材より 3〜4% 多く含む溶接材料を使うことが必須になる、としている[4]。

入熱の管理もこの論文の主題である。冷却速度が大きすぎるとフェライト量が多くなり、小さすぎると σ 相が析出して靭性が下がる。そこで推奨溶接入熱範囲が提案されていて、論文の表は SUS329J4L について 0.8〜2.5 kJ/mm を挙げている[4]。ただし論文は、この範囲は板厚 10 mm 程度の突合せ溶接にのみ適用されると記載されていて、それより厚い板の入熱範囲は示されていない、とも指摘している[4]。厚板では、上限の入熱を板厚に応じて決める必要があるというのが論文の提案である。

発注側が指定することをまとめる(当方の提案)。

  1. 溶接材料:二相ステンレス用の溶接材料を使うこと。銘柄と JIS 記号を溶接施工要領に書かせる
  2. 入熱の範囲:施工要領に入熱の範囲を書かせ、記録を残させる
  3. フェライト量:溶接部のフェライト量を測るか、測るならどの方法と範囲で合否とするか
  4. 耐食性の確認:重要な部品では、孔食試験などを施工法の確認として行うか

溶接の指定全体(施工要領・溶接士の資格・検査)は溶接を含む部品の発注で扱っている。

形状ごとの規格と、ミルシートで見る値

SUS329J4L は板だけの鋼種ではない。熱間圧延板 JIS G 4304 のほか、配管用ステンレス鋼鋼管の JIS G 3459 には SUS329J4LTP が、機械構造用ステンレス鋼鋼管の JIS G 3446 には SUS329J4LTKA が規定されている[1][2][6]。JIS G 3459 の SUS329J4LTP の規格値は、引張強さ 620 N/mm² 以上、耐力 450 N/mm² 以上である[2]。管で買う場合の規格の選び方はステンレス鋼管 JIS G 3459・G 3446 の違いで扱う。

熱処理について、JIS G 4304 は、特に注文者の指定がなければオーステナイト・フェライト系の熱処理は固溶化熱処理とするとし、附属書 JA(参考)で SUS329J4L の固溶化熱処理の例を 950〜1 100℃ 急冷としている[1]。腐食防食学会の解説は、この温度域では温度が高いほど α 相の比率が増すため、固溶化熱処理の温度で相の比率を調整できると説明している[3]。

JIS G 4304 の報告の箇条は、製造業者は注文者から報告の要求がある場合に検査文書を提出し、種類は注文時に特に指定がない場合、JIS G 0415 の検査証明書 3.1 によるとしている[1]。また、SUS329J3L と SUS329J4L に必要によって銅やタングステンを添加した場合は、その含有率を報告しなければならないとしている[1]。粒界腐食試験による耐食性は、注文者の指定がある場合に試験方法を協定して行う[1]。

受入でミルシートを見るときは、次の値を確かめる(当方の提案)。

  1. 鋼種記号と規格番号(SUS329J4L と SUS329J3L を取り違えていないか)
  2. クロム・モリブデン・窒素の値。PRE を自社で計算して記録しておくと、ロットの差が分かる
  3. 耐力の値(発注書で耐力の適用を指定した場合)
  4. 熱処理の種類と温度の記載
  5. 銅・タングステンを添加した場合はその含有率

鋼種全体の選び方と受入の一般的な見方はステンレスの発注で指定すること、組織による性質の違いはSUS430 と SUS304 の違いでも触れている。

SUS316L から置き換えるときの判断

置き換えを検討するときの見方を、表の値と出典の記述からまとめる(当方の提案)。

  1. 環境:塩化物を含む水や高い温度の環境で、SUS316L の孔食・すき間腐食・応力腐食割れが問題になっているか
  2. 温度:使用温度が長時間 300℃ を超えないか。超えるなら二相ステンレスは候補から外れる
  3. 加工:深い絞りや強い曲げがあるか。伸びの規格値は SUS316L の 40% に対して 18% で、成形の余裕は小さい
  4. 溶接:二相ステンレスの溶接に慣れた仕入先か。溶接材料と入熱の管理を施工要領として出せるか
  5. 入手性:板・管・棒のどの形状で、どの寸法が手に入るか。最小発注量と納期を見積の段階で確かめる

置き換えは図面の材料変更として扱い、試作で加工性と溶接部の性質を確かめてから量産に移す。異なる材料を同じものとして受け入れる判断の手順は、同等材の指定と承認と同じ考え方で進める。

同じ束では、ニッケル基の耐熱合金をインコネル(NCF600・NCF718)の発注で扱っている。

よくある質問

Q. SUS329J4L は磁石に付く。不良品ではないか。
A. 二相ステンレスはフェライト相を含むので、磁石に付くのが普通である。磁性と耐食性は直接関係がない。受入はミルシートの成分と表示で見る。

Q. SUS329J3L と SUS329J4L はどちらを選べばよいか。
A. JIS G 4304 の成分では、SUS329J4L のほうがクロム・ニッケル・窒素の範囲が高い。腐食防食学会の解説では PRE はおよそ 34 と 38 である。どちらが要るかは使用環境で決まるので、腐食試験のデータや使用実績を材料メーカーに確かめる。

Q. 高温の配管に使ってよいか。
A. 腐食防食学会の解説は、二相ステンレスは 300℃ 以上の温度での長時間使用には耐えられないとしている。高温で使う配管には向かない。

Q. 溶接部の耐食性が母材より悪かった。
A. 溶接部のフェライト量が多すぎて窒化物が析出した、あるいは入熱が大きすぎて σ 相が析出した可能性がある。溶接材料、入熱の記録、フェライト量を仕入先に確かめる。

まとめ

SUS329J4L は JIS のオーステナイト・フェライト系の鋼種で、SUS316L よりクロム・モリブデン・窒素が多く、ニッケルが少ない。板の規格値で耐力 450 N/mm² 以上と強度が高いが、耐力は注文者の指定がある場合に適用されるので、発注書に書く。塩化物の環境での孔食・すき間腐食・応力腐食割れに強い一方、σ 相と 475℃ 脆性のため 300℃ 以上での長時間使用には向かず、伸びも小さい。溶接は二相ステンレス用の溶接材料と入熱の範囲を指定し、フェライト量を管理させる。ミルシートは注文時に求め、クロム・モリブデン・窒素の値を確かめる。

出典・参考資料

  1. JIS G 4304:2021 熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 3 月 22 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  2. JIS G 3459:2021 配管用ステンレス鋼鋼管(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 4 月 20 日改正)
  3. 二相ステンレス鋼の特性(青木聡・酒井潤一/材料と環境 73 巻 3 号/2024 年)
  4. 二相ステンレス鋼の推奨溶接入熱範囲に関する新提案(井上裕滋・末次和広・志賀一夫・小脇健一/溶接学会論文集 43 巻 1 号/2025 年)
  5. JIS鋼種番号とSUS316LやSUS430Fなど鋼種記号の後ろについたアルファベットの意味(一般社団法人ステンレス協会)
  6. JIS G 3446:2022 機械構造用ステンレス鋼鋼管(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2022 年 5 月 20 日改正)
  7. ステンレスの導電率、透磁率、熱膨張率などの物理的性質について(一般社団法人ステンレス協会)
  8. ステンレスの耐食性と腐食現象について(Q&A)(一般社団法人ステンレス協会)
  9. 二相ステンレス鋼の溶接(福井太/溶接学会誌 50 巻 3 号/1981 年)

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