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袋ナット JIS B 1183 の指定——並形と小形、1 形・2 形・3 形、4T〜6T とステンレス

この記事のポイント(結論先出し)
袋ナットの規格は、六角ナットの JIS B 1181 ではなく、JIS B 1183(六角袋ナット)である[1][2]。JIS B 1183 は、二面幅の大きさで六角袋ナットと小形六角袋ナットに分け、それぞれを1 形(一体形・ねじの逃げ溝なし)・2 形(一体形・逃げ溝あり)・3 形(六角部とキャップ部を溶接)に分けている[1]。鋼の袋ナットの強度区分は 4T・5T・6T で、溶接性・耐食性・300 ℃以上の耐熱性・-50 ℃以下の耐寒性が要る用途には適用しないと書かれている[1]。ステンレスと銅合金の機械的性質は受渡当事者間の協定で、受渡し時の抜取検査も協定によるので、発注時に何で受け入れるかを決めておく必要がある[1]。発注書には、種類と形・規格番号・ねじの呼び・強度区分(又は材料)・表面処理を、規格の呼び方の並びで書く。
目次
「袋ナット M10」で手配すると、何が決まっていないか
袋ナット(キャップナット)は、ナットの片側が丸いキャップでふさがっていて、ボルトの先端を覆う形のナットである。ボルトの先が出ていると手や衣服が引っかかる場所、ねじ山を見せたくない外装、ねじ山にごみや水が付くのを避けたい場所で使われる。
現場では「袋ナット」「キャップナット」と呼び、品目マスタに「袋ナット M10 ユニクロ」のように登録されていることが多い。ところが袋ナットの JIS は、六角ナットの JIS B 1181 とは別の規格番号になっている。JIS B 1181(六角ナット)は、鋼製・ステンレス製・非鉄金属製の六角ナットを規定し、ISO 4032〜ISO 4036 と ISO 8673〜ISO 8675 によらない六角ナットを附属書 JA に、強度区分 4T〜10T のナットの機械的性質を附属書 JB に置いているが、袋ナットはその中に入っていない[2]。袋ナットを規定しているのは JIS B 1183(六角袋ナット)で、一般に用いる鋼製・ステンレス鋼製・銅合金製の六角袋ナットの特性を規定している[1]。
この規格で、同じ「M10 の袋ナット」にも次の選択肢がある[1]。
1. 種類(六角袋ナットか小形六角袋ナットか)
ねじの呼び径 d に対する二面幅 s の比が 1.45 以上を六角袋ナット(小形と区別するときは並形六角袋ナット)、1.45 未満を小形六角袋ナットとしている。呼び径 8 mm の小形は例外で、比が 1.45 以上になっている。二面幅が違えば、使うスパナも、周りの部品とのすきまも変わる。
2. 形状の区別(1 形・2 形・3 形)
1 形は六角部とキャップ部が一体形でねじの逃げ溝のないもの、2 形は一体形でねじの逃げ溝のあるもの、3 形は六角部とキャップ部を溶接したもの、とされている。
3. 材料と強度
鋼なら強度区分 4T・5T・6T、ステンレスと銅合金は機械的性質を受渡当事者間で決める。
4. 表面処理
規格は「ナットには、一般に表面処理を施さない」としている。
名前と呼び径だけで頼むと、二面幅も形も材料も仕入先の手持ちで決まる。3 形を頼んだつもりで 1 形が来る、あるいはその逆でも、外から見て分かるのはキャップ部の継ぎ目の有無くらいである。
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種類と形——二面幅と全高の違い
下の表は、JIS B 1183 の表 2 から、よく使う呼び径の二面幅 s と全高 m1(いずれも基準寸法)を抜き出したものである[1]。全高は並形と小形で同じだが、二面幅は小形のほうが小さい。
| ねじの呼び | 六角袋ナット(並形)二面幅 s | 小形六角袋ナット 二面幅 s | 全高 m1(並形・小形とも) |
|---|---|---|---|
| M8 | 13 mm | 12 mm | 15 mm |
| M10 | 17 mm | 14 mm | 18 mm |
| M12 | 19 mm | 17 mm | 22 mm |
| M16 | 24 mm | 22 mm | 28 mm |
規格の表 2 は M4〜M39 の並形と、M8〜M24 の小形を規定し、括弧を付けた呼び(M14・M18・M22 など)はなるべく用いないとしている[1]。並形と小形のどちらを使うかは、締付けに使う工具と、袋ナットの周りの空間で決まる。品目マスタに「袋ナット」とだけ書かれていると、並形と小形の区別がつかないので、既存品の実物の二面幅を測って登録し直すのが確実である。
1 形・2 形・3 形のどれを選ぶか
1 形と 2 形は六角部とキャップ部が一体で、違いはねじの奥にねじの逃げ溝があるかどうかである[1]。3 形は、六角部とキャップ部を別々に作って溶接したもので、規格は 3 形の鋼ナットについて「六角部とキャップ部とが強固に溶接されていなければならない」とし、表面状態ではキャップの溶接部の周辺に割れや著しいばりなどの欠陥があってはならないとしている[1]。3 形のキャップ部の材料は、鋼なら通常 JIS G 3141(冷間圧延鋼板)、ステンレスなら JIS G 4305、銅合金なら JIS H 3100 の板とされている[1]。
規格は 3 形の溶着の状態を調べる方法の一例として、万力などで固定した平先のボルトに 3 形のナットをはめ合わせ、キャップ部にき裂が発生するまでねじ込んだとき、溶着部周辺にはがれが生じてはならない、という方法を示している[1]。外観や気密を重視して 3 形を指定するときは、この確認をするかどうかを仕入先と合意しておく。どの形がよいかは用途と外観の要求で決まるので、設計者に形まで指定してもらう。
ボルトの突き出しと、ねじ部の長さ
袋ナットはキャップでふさがっているので、ボルトの先端が袋の内側に当たると、ナットの座面が相手に着く前にそれ以上回らなくなる。この状態ではいくら締めても部品は締め付けられず、締付けトルクの数字だけが上がる。
JIS B 1183 の表 2 には、全高のほかにナットのねじ部の長さなどの寸法が並び、ねじ部の長さ b2 は m3 の最小値以上とすると注に書かれている[1]。ボルトの呼び長さは、締め付ける部品の厚さ、座金の厚さ、ナットのねじ部の長さ、袋の内側の寸法を足し合わせて、先端が袋の内側に当たらず、かつ必要なねじ山がかかる長さに決める必要がある。これは図面の段階で設計者が決めることで、購買の側では、袋ナットの種類と形を変えるときに、ボルトの長さとの組合せが崩れないかを設計者に確かめる。
規格の注記として、ねじ部の面取りはその直径がねじの谷底よりもわずかに大きい程度とし、注文者の指定によって省略してもよいとされている[1]。座面側の面取りを省略する指定は特殊なので、図面に指示があれば発注書にも写す。
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植込みボルトのナット側に袋ナットを使うと、植え込んだあとの突き出し長さがそのまま袋の中に入る長さになる。植込みボルトの指定は同じシリーズの植込みボルト(スタッドボルト)JIS B 1173 の指定で扱った。
材料と強度——鋼の 4T・5T・6T と、ステンレス・銅合金
JIS B 1183 の鋼ナットの機械的性質は、表 3 の 4T・5T・6T である[1]。呼び保証荷重応力はそれぞれ 400・500・600 N/mm²、実保証荷重応力は 392・490・588 N/mm² で、硬さは最大がブリネル硬さ 302 HB・ロックウェル硬さ 30 HRC・ビッカース硬さ 302 HV とされている[1]。保証荷重試験は JIS B 1052-2 の保証荷重試験によるとされている[1]。JIS B 1052-2 は炭素鋼・合金鋼製ナットの機械的性質を規定する規格で、2025 年に改正されている[3]。
ここで注意したいのは、規格が「これらの強度区分は、溶接性、耐食性、300 ℃以上(快削鋼の場合は 250 ℃以上)の耐熱性及び-50 ℃以下の耐寒性が要求されるものには適用しない」と書いていることである[1]。屋外の雨がかかる場所や、熱を持つ設備の近くで鋼の袋ナットを使うなら、規格の強度区分だけで性能が保証されていると考えず、材料と表面処理を設計で決めてもらう。
また、六角ナットの JIS B 1181 の本体(ISO によるナット)は強度区分を「8」のような数字だけで表すが、袋ナットの JIS B 1183 は 4T・5T・6T と「T」の付く表し方で、これは JIS B 1181 の附属書 JB(強度区分 4T〜10T)と同じ系統である[1][2]。同じ組立の中で六角ナットと袋ナットを混ぜて使うときは、強度区分の表し方が違うことを前提に、ボルトとの組合せを確かめる。六角ナットの本体と附属書の違いは六角ボルト・六角ナット(JIS B 1180・B 1181)の規格で扱った。
ステンレス・銅合金の袋ナット
ステンレスナットと銅合金ナットの機械的性質は、受渡当事者間の協定による[1]。規格は、ステンレスナットには支障のない限り JIS B 1054-2 の機械的性質を参照するとし、その場合は材料もその規格によるのがよいとしている[1]。JIS B 1054-2 は、10 ℃〜35 ℃の環境温度範囲で試験したときの、オーステナイト系・マルテンサイト系・フェライト系の耐食ステンレス鋼製ナットの機械的性質を規定する規格である[4]。
材料は、ステンレスなら通常 JIS G 4303 又は JIS G 4315、銅合金なら通常 JIS H 3260 の C 2700 若しくは C 3501、又は JIS H 3250 の C 3601〜C 3604 とされている[1]。ステンレスの袋ナットを「SUS304」とだけ書いて頼むと、機械的性質の協定がないまま納まる。強度を求める用途なら、規格の呼び方の例どおり「A2-70」のように鋼種区分と強度区分で指定する。
ねじ・めっき・表面状態
ナットのねじは JIS B 0205-3 のメートル並目ねじ又は細目ねじで、公差域クラスは JIS B 0209-2 の 6H とされている[1]。めっきを施したねじも 6H の許容域内になければならず、溶融亜鉛めっきを施したときのねじは受渡当事者間の協定による[1]。
表面処理は一般に施さず、電気めっきの要求がある場合は JIS B 1044 を参照し、その他の表面処理は受渡当事者間の協定によるとされている[1]。JIS B 1183 の呼び方の例には「電気亜鉛めっき、最小皮膜厚さ 5 μm、光沢、黄金色のにじ色のクロメート処理」を「A2L」で表した例が出てくる[1]。ただし、いまの JIS B 1044(2024 年改正)では、この「A2L」のような記号は附属書 F(参考)に旧式の呼び方として残されているもので、本体は六価クロムを含まない電気めっき皮膜システムを、皮膜の種類・厚さ・後処理などをスラッシュで区切って表示する形になっている[5]。2010 年の袋ナットの規格に載っている例をそのまま写さず、いまの JIS B 1044 の表示で指定するかどうかを仕入先と決める。「ユニクロ」のような通称では、皮膜の厚さも六価クロムの有無も決まらない。
表面状態は、座面とキャップ部の表面粗さを JIS B 0601 の Rz 25 とし、使用上有害な割れ、きず、かえりなどの表面欠陥があってはならないとされている[1]。袋ナットは外から見える場所に使うことが多いので、外観の基準(きずの大きさ、見る距離など)を別に決めたいときは、規格の表面状態とは別に合意しておく。
発注書の書き方と受入
JIS B 1183 は、製品の呼び方を JIS B 1010 によるとし、次の例を示している[1]。
例 1(M16・強度区分 5T・電気亜鉛めっき A2L・3 形)
六角袋ナット 3 形-JIS B 1183-M16-5T-A2L
例 2(M8・オーステナイト系ステンレス鋼 A2-70・3 形)
六角袋ナット 3 形-JIS B 1183-M8-A2-70
例 3(M8・銅合金 C 2700・1 形)
六角袋ナット 1 形-JIS B 1183-M8-C 2700
小形を頼むときは、種類の名前を「小形六角袋ナット」として書く。製品そのものへの表示について規格は特に規定しないとしているので、受入で強度区分や材料を製品から読み取ることはできない[1]。包装の表示には、規格番号又は規格名称、種類、ねじの呼び、強度区分(鋼ナットの場合と、JIS B 1054-2 を適用したステンレスナットの場合)、材料(ステンレスと銅合金の場合)、指定事項、数量、製造業者名又はその略号が並ぶ[1]。受入はこの包装の表示と発注書の呼び方を突き合わせる。
受渡し時のロットに対する抜取検査について、JIS B 1183 は受渡当事者間の協定によるとしている[1]。植込みボルトの JIS B 1173 のように「指定がない限り JIS B 1091 による」という書き方ではないので、抜取りの方法と測る項目(二面幅、ねじのゲージ、外観など)を発注時に決めておかないと、受入の基準が空いたままになる。
よくある質問
袋ナットの締付けトルクはどう決めるか
袋ナットも、座面が相手に着いてからはボルトに軸力を与えるナットとして働くので、締付けトルクの考え方は通常のナットと同じである。ただし、先端が袋の内側に当たっていると、トルクだけが上がって軸力が出ない。トルクを決める前に、ボルトの長さが合っているかを確かめる。トルクの決め方はボルトの締付けトルクの決め方で扱った。
袋ナットで水や油の漏れを止められるか
JIS B 1183 には気密や液密の性能を保証する規定はない[1]。3 形はキャップ部を溶接しているが、規格が求めているのは溶接の強さと溶接部周辺の欠陥がないことである。漏れを止める目的なら、シール材やパッキンの使い方を含めて設計者に決めてもらう。
手で回す必要がある場所で袋ナットを使いたい
工具を使わずに締め緩めする場所には、蝶ナットのような別の形がある。手で回す前提の部品の使い分けは同じシリーズの蝶ボルト・蝶ナット(JIS B 1184・B 1185)の指定で扱った。
ほかの形のボルトの指定も知りたい
同じシリーズで、皿ボルト・皿ねじの指定と配管支持用 U ボルトの発注も扱っている。U ボルトに付けるナットを袋ナットにする場合も、脚のねじ部の長さが袋の内側に収まるかを確かめる必要がある。
まとめ
袋ナットの規格は JIS B 1183(六角袋ナット)で、六角ナットの JIS B 1181 には入っていない。二面幅で並形と小形に分かれ、形は 1 形(一体・逃げ溝なし)、2 形(一体・逃げ溝あり)、3 形(溶接)の三つである。鋼の強度区分は 4T・5T・6T で、溶接性・耐食性・高温・低温が要る用途には適用しない。ステンレスと銅合金の機械的性質は協定で、ステンレスは JIS B 1054-2 を参照するのがよいとされる。ねじは 6H でめっき後も 6H に入れ、電気めっきはいまの JIS B 1044 の表示で指定する。製品への表示はなく、受渡し時の抜取検査も協定なので、発注書には規格の呼び方の並びで種類・形・ねじの呼び・強度区分か材料・表面処理を書き、受入の方法も合わせて決めておく。
出典・参考資料
- JIS B 1183:2010 六角袋ナット(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2010 年 9 月 21 日改正・2025 年 6 月 20 日確認)
- JIS B 1181:2014 六角ナット(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2014 年 4 月 21 日改正・2019 年 10 月 21 日確認)
- JIS B 1052-2 締結用部品-炭素鋼及び合金鋼製締結用部品の機械的性質-第 2 部:強度区分を規定したナット(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2025 年 1 月 20 日改正)
- JIS B 1054-2:2013 耐食ステンレス鋼製締結用部品の機械的性質-第 2 部:ナット(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2013 年 5 月 20 日改正・2023 年 10 月 20 日確認)
- JIS B 1044:2024 締結用部品-電気めっき皮膜システム(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2024 年 2 月 20 日改正)
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