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溶接棒・溶接ワイヤの規格 JIS Z 3211・Z 3312——記号の読み方と母材との組合せ、調達での指定

この記事のポイント(結論先出し)
溶接棒・溶接ワイヤの JIS は、溶接方法と母材の材質ごとに分かれている。鋼の被覆アーク溶接棒は JIS Z 3211、マグ・ミグ溶接用ソリッドワイヤは JIS Z 3312、ティグ溶接用は JIS Z 3316、ステンレスは JIS Z 3321、アルミは JIS Z 3232 である[2][3][4][5][6]。記号は、溶着金属(溶接材料から溶接部に移った金属)の強さ・衝撃試験の条件・被覆剤やシールドガスの種類を並べたもので、「E4316」「YGW11」の数字は母材の記号ではない[2][3]。同じワイヤでもシールドガスが変われば区分が変わりうるので、ワイヤの記号とガスは組で指定する[3]。検査証明書は求めたときに出すもので、詳細は当事者間の協定による[7]。どこまでの試験結果を出させるかは JIS Z 3423 の試験スケジュールで指定でき、指定しなければスケジュール 1(製造業者の社内規格)になる[8]。
目次
この記事の範囲
この記事は、溶接を含む部品や製缶品を発注するとき、あるいは自社で溶接材料を買って支給するときに、溶接棒・溶接ワイヤを規格の記号でどう指定し、受け取ったら何を確かめるかを扱う。DIY 用の溶接棒の選び方や、資格試験の受験対策の話ではない。
溶接方法そのもの(ティグ・ミグ・マグの違い)は同じ束のTIG 溶接と MIG 溶接の違いと発注での指定で、溶接を含む部品の発注で決めること全体(施工要領・技能者・検査)は溶接を含む部品の発注で指定することで扱っている。母材を溶かさないろう付けのろう材はろう付けを指定するときに送る。
言葉をそろえておく。JIS Z 3001-7 は、溶接ワイヤを「溶接に使用するコイル状の長いソリッドワイヤ又はフラックス入りワイヤ」とし、電極として使用する場合と溶加材として使用する場合があるとしている[1]。ソリッドワイヤは中実の溶接ワイヤで、ミグ溶接・マグ溶接では消耗電極として、ティグ溶接などでは溶加ワイヤとして用いる[1]。フラックス入りワイヤは、フラックスを充てんして管状に成形した溶接ワイヤである[1]。
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どの JIS を見ればよいか
溶接材料の規格は、溶接方法と母材で分かれている。最初にどの規格の話かを決めないと、記号を読み違える。
| 規格 | 対象 | 記号の例 | 現行版 |
|---|---|---|---|
| JIS Z 3211[2] | 軟鋼・高張力鋼・低温用鋼の被覆アーク溶接棒 | E4303、E5516-N7 AP U L H5 | 2008 年改正(2023 年確認) |
| JIS Z 3312[3] | 軟鋼・490〜830 MPa 級高張力鋼・低温用鋼のマグ溶接・ミグ溶接用ソリッドワイヤ | YGW11、G 69 A 6 U M N2M3T | 2009 年改正(2023 年確認) |
| JIS Z 3316[4] | 同じ鋼種のティグ溶接用ソリッド溶加棒・ソリッドワイヤ | W49 A 4 12 | 2017 年改正(2022 年確認) |
| JIS Z 3321[5] | ティグ・ミグ・帯状電極肉盛溶接などに使うステンレス鋼の溶加棒・ソリッドワイヤ・鋼帯 | YS308、YS316L | 2021 年改正(2026 年確認) |
| JIS Z 3232[6] | ミグ・ティグ・酸素アセチレン溶接に使うアルミ・アルミ合金の溶加棒・溶接ワイヤ | A5356-WY、A4043-BY | 2009 年改正(2024 年確認) |
このほか、鋼のフラックス入りワイヤやステンレス鋼の被覆アーク溶接棒にも、それぞれ別の JIS がある。寸法・許容差・製品の状態・表示・包装は、溶接材料に共通の JIS Z 3200 がまとめて決めている[7]。調達文書に何を書くかの指針は JIS Z 3423 である[8]。
被覆アーク溶接棒(JIS Z 3211)の記号を読む
JIS Z 3211 は、溶接棒の種類を、溶着金属の引張強さ、被覆剤の種類、溶着金属の主要化学成分、溶接後熱処理の有無、所定の試験温度でのシャルピー吸収エネルギーの水準で区分している[2]。規格の呼び方の例を分解すると次のようになる[2]。
E4303-4.0-450
43:溶着金属の引張強さが 430 MPa 以上。03:被覆剤の種類がライムチタニヤ系。化学成分と溶接後熱処理の記号はなし(溶接のまま)。4.0 は棒径、450 は長さ。
E5516-N7 AP U L H5-5.0-400
55:引張強さ 550 MPa 以上。16:被覆剤が低水素系。-N7:溶着金属の主要化学成分。AP:溶接のまま、および 605±15 ℃・1 h の溶接後熱処理あり。U:シャルピー吸収エネルギー 47 J 以上。L:衝撃試験温度が -40 ℃ 以下(この例では -75 ℃)。H5:溶着金属の水素量が 5 mL/溶着金属 100 g 以下。
被覆剤の種類の 2 桁は、溶接姿勢と電流の種類も決めている。たとえば 03(ライムチタニヤ系)、13(高酸化チタン系)、19(イルミナイト系)は全姿勢(立向は上進のみ)で交流または直流(棒プラス・棒マイナス)、16(低水素系)は全姿勢(立向は上進のみ)で交流または直流棒プラス、20(酸化鉄系)は下向と水平すみ肉に限られる。表で立向下進(PG)を明記しているのは 48(低水素系)である[2]。発注側の図面が上向や立向の溶接を含むなら、使う溶接棒がその姿勢に対応する区分かどうかは確かめる値打ちがある。
水素量の記号(H5・H10・H15)と、L(-40 ℃ 以下)は「追加できる区分記号」で、包装には表示しなくてもよいとされている[2]。水素量で区分された溶接棒が要るなら、注文でその記号を明示する。また、被覆剤が低水素系または鉄粉低水素系の溶接棒は、包装に再乾燥の指示と再乾燥条件を表示しなければならず、製造業者は水素量の規定を満たすのに適した電流の種類と再乾燥条件の情報を提供しなければならない[2]。受入では、包装にその表示があるかを見る。
マグ・ミグ用ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)は、ガスと組で読む
JIS Z 3312 には記号の付け方が 2 通りある[3]。一つは、溶着金属の引張特性、溶接後熱処理の有無、衝撃試験温度、吸収エネルギーの水準、シールドガスの種類、ワイヤの化学成分を順に並べる方式(例:G 69 A 6 U M N2M3T)で、もう一つは従来から使われてきた YGW11〜YGW19 の種類で表す方式である[3]。
どちらの方式でも、シールドガスが区分に入っている点が要である。規格は、シールドガスの記号を C(JIS Z 3253 の C1=炭酸ガス)、M(JIS Z 3253 の M21 のうち、炭酸ガス 20〜25 % とアルゴンの混合ガス)、A(M13=酸素 1〜3 % とアルゴンの混合ガス)、G(上記以外で当事者間の協定によるもの)としている[3]。そのうえで、異なるシールドガスとの組合せで機械的性質の異なる種類に区分してもよいとしている[3]。ワイヤの記号だけ指定してガスを書かなければ、その区分の性質が出る前提が抜ける。
YGW 方式の種類から何本か抜き出すと、次のとおりである(引張強さ・耐力・衝撃試験は溶接のままで試験した溶着金属の値)[3]。
| 種類 | シールドガス | 引張強さ(MPa) | 衝撃試験温度・吸収エネルギー | 規格が試験板に指定する鋼材 |
|---|---|---|---|---|
| YGW11 | C(炭酸ガス) | 490〜670 | 0 ℃・47 J 以上 | SM490A〜C、SN490B・C |
| YGW14 | C(炭酸ガス) | 430〜600 | 0 ℃・27 J 以上 | SS400、SM400A〜C |
| YGW15 | M(M21 のうち炭酸ガス 20〜25 %+アルゴン) | 490〜670 | -20 ℃・47 J 以上 | SM490A〜C、SN490B・C |
| YGW18 | C(炭酸ガス) | 550〜740 | 0 ℃・70 J 以上 | SM520B・C |
右端の列は、規格が溶着金属の試験に使う試験板として指定している鋼材である[3]。どの母材にどのワイヤを使うかを規格が決めているわけではないが、そのワイヤがどの強さの鋼を想定して区分されているかの手がかりになる。実際の組合せは、母材の強さと衝撃試験の要求を見て、仕入先の溶接施工要領で決める(当方の提案)。溶接構造用鋼材の指定はSM490 を発注で指定するときで扱っている。
ティグ用・ステンレス用・アルミ用の記号
ティグ溶接用(JIS Z 3316)
例:W49 A 4 12-1.6-10。49 は溶着金属の引張強さ 490〜670 MPa、A は溶接のまま、4 は -40 ℃ で吸収エネルギー 27 J 以上、12 はワイヤの化学成分、1.6 は径、10 は質量を表す[4]。溶加棒は種類・径・長さで、ワイヤは種類・径・質量で呼ぶ[4]。
ステンレス鋼(JIS Z 3321)
記号は YS(溶加棒とソリッドワイヤ)または BS(鋼帯)に、化学成分の記号を続ける(例:YS308-3.2-1 000)[5]。化学成分の表と規定が異なる溶加棒には追加記号 Z を付ける(例:YSZ316)[5]。溶加棒は、端面、または端面と側面に規格の表 4 の彩色をするか、側面に種類の記号を表示する[5]。彩色する場合の端面の色は表 4 で決まっていて、たとえば YS308 は黄だが、YS312・YS316L・YS318・YS318L はどれも緑のように同じ色の種類もある[5]。彩色をせずに記号で表示する選び方もあるので[5]、受入では色だけで判断せず、記号か包装の表示で種類を確かめる。
アルミ・アルミ合金(JIS Z 3232)
化学成分の種類を A5356 のような記号 A(または ISO の Al 5356 のような記号 B)で表し、棒は BY、ワイヤは WY で区別する(例:A1070-BY-3.2、A1070-WY-1.2×5(kg))[6]。母材が A5052 のときに溶加材も A5052 になるとは限らず、溶加材の種類は別に決まっている。母材の合金番号と溶加材の合金番号を混同しない。
調達で指定すること:試験スケジュールと証明
溶接材料を自社で買う場合も、仕入先に「この溶接材料を使うこと」と指定する場合も、どの水準の試験結果を出させるかを決めておかないと、受け取る書類がまちまちになる。JIS Z 3423(溶接材料の調達指針)は、調達文書に含めるべき溶接材料の種類・ロットサイズ・試験スケジュールの選び方を規定している[8]。
| 試験スケジュール | 中身(JIS Z 3423 による) |
|---|---|
| 1 | 製造業者の社内規格による。文書で求めれば、JIS に適合するという記述と代表的特性の概要を出す。購入者が指定しないときはこれになる |
| 2 | 注文書の日付に先立つ 12 か月以内に製造した製品の 1 製造工程からの試験結果(その種類で JIS が規定するすべての試験) |
| 3 | 出荷する各ロットの化学分析だけ |
| 4 | 出荷する各ロットについて、規格の表 2 が求める試験(分析・引張・衝撃・健全性・拡散性水素など、材料と製品の組合せで決まる) |
| 5 | 出荷する各ロットについて、その種類で JIS が規定するすべての試験 |
| 6 | 購入者が求める試験(規定の熱処理後の試験など)。試験・手順・要求事項・報告する結果を購入者が指定する |
スケジュール 3〜6 では、ロットサイズを規格の区分の中から購入者が指定する[8]。たとえば被覆アーク溶接棒のロットには、製造業者の社内規格による量(C1)から、連続 24 時間以内に製造した単一の種類・寸法で 45 t を超えない量(C2)、単一のウエットミックス(混ぜ合わせた被覆剤)と単一ヒートの心線から作った単一の種類・寸法の量(C4)などの区分がある[8]。ロット単位で成績を出させるなら、そのロットが何を同じにしたものかも決めることになる。
適合の証明は、製造業者、中間供給者、第三者機関のいずれが行ってもよいが、製造業者か中間供給者が行う場合は JIS Q 1000 に基づく自己適合宣言書を裏付けとしなければならない[8]。商社経由で溶接材料を買うときは、誰の名前で証明が出てくるのかを確かめる。
検査証明書の扱いは JIS Z 3200 が決めていて、溶接材料の検査証明書が求められた場合、詳細は受渡当事者間の協定による[7]。JIS Z 3211 は検査証明書を JIS Z 3200 と JIS Z 3423 によるとし、衝撃試験の結果を報告する場合は平均値の算出に用いた 3 個の値と平均値を報告しなければならないとしている[2]。JIS Z 3312 も、化学成分を報告する場合は種類ごとに規定の成分を、衝撃試験の結果は平均値と 3 個の値を報告するとしている[3]。証明書を求めておけば、その書き方までは規格で決まる。
受入で確かめること
JIS Z 3200 は、包装に次の事項を表示するとしている。製造業者名・供給者名またはその略号、銘柄、該当規格の種類、寸法、バッチ・ヒート・製造番号または製造年月、本数または質量、安全衛生の警告文、電流の種類(適用する場合)、再乾燥の指示または情報の出所(適用する場合)である[7]。製品そのものにも、被覆アーク溶接棒は端面や側面の彩色かつかみ部近くの記号、ワイヤはスプールやコイルの記号・ラベル、溶加棒は記号・ラベル・彩色などで種類が識別できるようにする[7]。
受入では、注文した規格の種類と包装の表示が一致するか、ロットを特定できるバッチ・ヒート番号があるか、低水素系なら再乾燥の表示があるか、証明書を求めたならその番号と包装の番号が対応するかを見る(当方の提案)。ステンレスの溶加棒の端面の色は手がかりにはなるが、彩色は任意で色が重なる種類もあるので[5]、最後は記号か包装の表示で確かめる。
よくある質問
Q. 「YGW11 を使うこと」とだけ指定しました。足りますか。
YGW11 は炭酸ガス(C)で試験して区分された種類である[3]。仕入先がアルゴン混合ガスで使うと、区分の前提と違う組合せになる。ワイヤの種類とシールドガスを組で書く。ガスまで決める理由がなければ、ワイヤの種類は仕入先の溶接施工要領に任せ、要領書で確かめる形でもよい(当方の提案)。
Q. 溶接棒の記号の 43 や 49 は、母材の SS400 や SM490 と同じ意味ですか。
違う。JIS Z 3211 の 43・49 は溶着金属の引張強さの下限(430 MPa 以上、490 MPa 以上)を表す[2]。母材の記号とは別の規格の、別の物の値である。
Q. ミルシートのように、溶接材料にも毎回成績書を付けてもらえますか。
検査証明書は求めたときに出すもので、詳細は当事者間の協定による[7]。どの水準の試験結果を出すかは JIS Z 3423 の試験スケジュールで指定でき、指定しなければスケジュール 1 になる[8]。毎ロットの成績が要るなら、スケジュール 3〜5 のどれかとロットサイズを注文で指定する。母材の検査証明書の種類の考え方は引張試験を発注で指定するときでも触れている。
Q. 海外の仕入先が AWS の記号で溶接材料を出してきました。
JIS Z 3211・Z 3312・Z 3316 はいずれも ISO 規格を基に作られ、本体の記号のほかに ISO の別の方式(System A)を附属書に参考として載せている[2][3][4]。記号の方式が違えば読み方も違うので、相手の記号がどの規格のものかを先に確かめ、強さ・衝撃試験の条件・シールドガスの前提を突き合わせる。
まとめ
溶接棒・溶接ワイヤの JIS は、溶接方法と母材で分かれ、鋼の被覆アーク溶接棒は JIS Z 3211、マグ・ミグ用ソリッドワイヤは JIS Z 3312、ティグ用は JIS Z 3316、ステンレスは JIS Z 3321、アルミは JIS Z 3232 である[2][3][4][5][6]。記号は溶着金属の強さ・衝撃試験の条件・被覆剤やシールドガスの種類を表すので、ワイヤはガスと組で指定する[3]。検査証明書は求めたときに出すもので[7]、どの試験結果を出させるかは JIS Z 3423 の試験スケジュールとロットサイズで指定する[8]。受入では、包装の表示(種類・ロット・再乾燥の指示)と証明書を突き合わせる[7]。
出典・参考資料
- JIS Z 3001-7:2018 溶接用語-第 7 部:アーク溶接(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2018 年 2 月制定・2022 年 10 月確認)
- JIS Z 3211:2008 軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用被覆アーク溶接棒(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2008 年 12 月改正・2023 年 10 月確認)
- JIS Z 3312:2009 軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2009 年 2 月改正・2023 年 10 月確認)
- JIS Z 3316:2017 軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼のティグ溶接用ソリッド溶加棒及びソリッドワイヤ(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2017 年 4 月改正・2022 年 10 月確認)
- JIS Z 3321:2021 溶接用ステンレス鋼溶加棒,ソリッドワイヤ及び鋼帯(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2021 年 7 月改正・2026 年 6 月確認)
- JIS Z 3232:2009 アルミニウム及びアルミニウム合金の溶加棒及び溶接ワイヤ(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2009 年 7 月改正・2024 年 10 月確認)
- JIS Z 3200:2005 溶接材料-寸法,許容差,製品の状態,表示及び包装(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2005 年 3 月改正・2024 年 10 月確認)
- JIS Z 3423:2006 溶接材料の調達指針(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2006 年 7 月制定・2025 年 10 月確認)
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