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冷間圧造用炭素鋼 SWCH10R・SWRCH10R(JIS G 3507)——線と線材、R・A・K の違いと指定

この記事のポイント(結論先出し)
冷間圧造用炭素鋼は、線材が JIS G 3507-1(記号 SWRCH・2021 年改正)、線が JIS G 3507-2(記号 SWCH)の 2 部に分かれていて、線の記号は線材の記号の 3 文字目の R を取ったものである(線材 SWRCH10R → 線 SWCH10R)[1][2]。線材の規格は機械的性質を規定せず、化学成分・鋼質・きずの深さ・径の許容差を定める[1]。線の規格は工程(D 工程・DA 工程)ごとに引張強さと絞りを定める[2]。記号の末尾の R・A・K は脱酸の違い(リムド相当鋼・アルミキルド鋼・キルド鋼)で、表面きずの深さの上限はアルミキルド鋼とキルド鋼が 0.10 mm、リムド相当鋼が径 32 mm 以下で 0.20 mm と違う[1]。ねじや部品を買う側が図面に「SWCH10R」と書くなら、どの工程の線か、表面きずや球状化を特別に管理するかまで、ねじメーカーと決めておく。
目次
SWCH10R と SWRCH10R:線材と線で規格が違う
冷間圧造用炭素鋼の JIS は、JIS G 3507-1(第 1 部:線材)と JIS G 3507-2(第 2 部:線)の 2 部でできている[1]。第 1 部は「主として,冷間圧造用炭素鋼線の製造に用いられる」線材の規格で[1]、第 2 部は「ボルト,ナット,リベット,小ねじ,タッピンねじなどのねじ類及び各種部品を冷間圧造によって製造する場合に使用する」線の規格である[2]。
第 2 部は、線の種類の記号を「適用する線材 JIS G 3507-1 の種類の記号の 3 文字目の R を削除したもの」とし、例として線材 SWRCH6R に対して線 SWCH6R を挙げている[2]。つまり、検索でよく見る「SWCH10R」は線の記号で、その材料になる線材は SWRCH10R である。線の規格は、線の製造に用いる材料を JIS G 3507-1 に適合した線材とする、と定めている[2]。
分業の形も規格に書かれている。第 2 部の対比表は、日本では分業が進み、線材製造業者と線製造業者が分かれていて、使う熱処理は最終使用者がそれぞれの用途に応じて任意に選んでいる、と説明している[2]。ねじを買う会社から見ると、材料は「製鋼所の線材 → 伸線メーカーの線 → ねじメーカーの圧造」と二段の加工を経てくる。図面の材質欄の記号がどちらの段のものかを取り違えないことが、最初の確認になる。
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記号の末尾 R・A・K は何が違うのか
JIS G 3507-1 の線材は、リムド相当鋼 6 種類、アルミキルド鋼 11 種類、キルド鋼 21 種類の計 38 種類で、適用径は 50 mm 以下である[1]。記号の末尾の R がリムド相当鋼、A がアルミキルド鋼、K がキルド鋼を表す[1]。数字は炭素量の目安で、たとえば 10 の付く 3 鋼種はどれも炭素 0.08〜0.13% である[1]。
次の表は、表 2(化学成分)と 8.1(外観)から、炭素量の同じ 3 鋼種を並べたものである[1]。銅 0.30%・ニッケル 0.20% を超えてはならないという不純物の上限は、全種類に共通である[1]。
| 線材の記号(線の記号) | 区分 | Si % | P % / S % | Al % | 表面きずの深さ(本体) |
|---|---|---|---|---|---|
| SWRCH10R(SWCH10R) | リムド相当鋼 | 規定なし | 0.040 以下 / 0.040 以下 | 規定なし | 径 32 mm 以下で 0.20 mm 以下 |
| SWRCH10A(SWCH10A) | アルミキルド鋼 | 0.10 以下 | 0.030 以下 / 0.035 以下 | 0.02 以上 | 0.10 mm 以下 |
| SWRCH10K(SWCH10K) | キルド鋼 | 0.10〜0.35 | 0.030 以下 / 0.035 以下 | 規定なし | 0.10 mm 以下 |
表の 3 鋼種は炭素とマンガン(0.30〜0.60%)の範囲が同じで、違いは脱酸の方法と、それに伴うけい素・アルミニウム・りん・硫黄の規定、そして表面きずの深さの上限である[1]。リムド相当鋼は日本独自の鋼種として JIS に追加されたもので、対応する ISO 4954 には無い[1]。海外の仕入先に「SWCH10R」を伝えるときは、そのままでは通じないことがある前提で、成分と品質の要求を並べて伝える。同等材の承認の進め方は同等材の指定と承認で扱った。
リムド相当鋼では指定できない項目がある
規格は、オーステナイト結晶粒度と非金属介在物について、注文者はアルミキルド鋼及びキルド鋼について指定してもよい、としている[1]。リムド相当鋼にはこの指定の枠が無い。脱炭層深さも、注文者が指定できるのは SWRCH30K〜SWRCH50K の 10 鋼種で、径 15 mm 以下ならフェライト脱炭層 0.02 mm 以下・全脱炭層 0.15 mm 以下などの値が表 3 に示されている[1]。
ここから発注で押さえることは、介在物や結晶粒度、脱炭まで管理したい部品なら、そもそもその指定ができる鋼種を選ぶ必要がある、ということである。図面が「SWCH10R」のまま、高い品質管理の要求だけを仕様書に書いても、規格の上ではかみ合わない。
線材の規格は機械的性質を決めていない
JIS G 3507-1 には引張強さなどの機械的性質の規定が無い。附属書の対比表は、ISO 規格で規定している機械的性質は、出荷後に線材の後工程である伸線と熱処理によって変化するため JIS では削除した、と理由を書いている[1]。線材の段階で保証されるのは、化学成分、脱炭層深さ(指定したとき)、結晶粒度と介在物(指定したとき)、外観ときずの深さ、径の許容差である[1]。
径の許容差は、本体で径 15 mm 以下が ±0.3 mm(偏径差 0.4 mm 以下)、15 mm を超え 25 mm 以下が ±0.4 mm などで、特別に管理する必要がある場合は附属書 JA のクラス A(15 mm 以下で ±0.15 mm)やクラス B を協定で適用できる[1]。表面きずの深さも、アルミキルド鋼とキルド鋼で特別に管理する場合は、径 15 mm 以下で 0.05 mm 以下、15 mm を超え 25 mm 以下で 0.07 mm 以下のクラス A を協定で適用できる[1]。どれも協定しなければ適用されないので、要るなら注文時に書く。
線の規格:D 工程と DA 工程で強さが違う
JIS G 3507-2 は、線を D 工程か DA 工程で作るとしている。D 工程は線材を冷間加工で仕上げること、DA 工程は線材を冷間加工したあと焼鈍してさらに冷間加工で仕上げるか、線材を焼鈍したあと冷間加工で仕上げることである[2]。表示の項目にも製造工程の略号(D・DA)が入っている[2]。
機械的性質は工程で分かれる。SWCH10R と同じ群(SWCH6R・8R・10R・6A・8A・10A)では、D 工程の線は線径 5 mm を超えるもので引張強さ 340 N/mm² 以上、DA 工程の線は 290 N/mm² 以上・絞り 55% 以上で、参考の硬さはそれぞれ HRB 85 以下と 80 以下である[2]。DA 工程の表は、SWCH6R〜SWCH27K の種類で製品が熱処理されるものに用いる線は、協定によって引張強さの下限を表の値より低くできる、と備考に書いている[2]。
同じ「SWCH10R」でも、D と DA で届く線の強さと硬さが違う。圧造のしやすさに効くのはこちらなので、ねじメーカーが選ぶのが普通だが、買う側が材料の指定を持っている場合は工程まで書くか、ねじメーカーの選択に任せることを明記するかを決める。DA 工程の線では、注文者が球状化焼鈍を指定した場合に球状化組織の程度を協定する規定もある(SWCH30K〜SWCH50K は付図の No.1〜No.4)[2]。
線径の許容差は、すべてマイナス側である。線径 3 mm を超え 6 mm 以下で 0〜−0.030 mm、6 mm を超え 10 mm 以下で 0〜−0.036 mm[2]。表面きずの深さは、キルド鋼(アルミキルド鋼を含む)で線径 50 mm 以下 0.10 mm 以下である[2]。
冷間圧造の材料を、一般用の線材・鉄線で代えない
危ない置き換えの一つは、同じ低炭素鋼だからといって、軟鋼線材(JIS G 3505 の SWRM)や鉄線(JIS G 3532 の SWM)を冷間圧造の材料に流用することである。軟鋼線材の規格は、鉄線・亜鉛めっき鉄線などの製造に用いる線材の規格で、外観は「使用上有害な欠点があってはならない」と定めるだけで、きずの深さの数値の上限は無い[3]。冷間圧造用の線材が、アルミキルド鋼とキルド鋼で 0.10 mm という上限を持つのとは管理の考え方が違う[1]。材料を替える提案が来たら、成分の近さではなく、きずの管理まで含めて比べる。SWRM と SWRH の違いは硬鋼線材・軟鋼線材 SWRH・SWRM の指定で扱う。
熱処理で強度を上げるねじには、炭素鋼の SWCH のほかに、冷間圧造用ボロン鋼(JIS G 3508-1・線材 12 種類)と冷間圧造用合金鋼(JIS G 3509-1・線材 51 種類)の規格がある[4][5]。どの強度区分にどの材料を使うかは、ねじの規格と設計の側で決まる。強度区分の指定はボルトの強度区分と規格の指定で扱った。
検査文書は、線材と線で書き方が違う
線材の JIS G 3507-1 では、検査文書は注文者が要求したときに製造業者が出すもので、種類の指定が注文時に無ければ検査証明書 3.1(JIS G 0415)になる[1]。線の JIS G 3507-2(2005 年版)は、注文者の要求がある場合、検査文書の種類は JIS G 0415 の「2.3(受渡試験報告書)又は 3.1.B(検査証明書 3.1.B)」とする、と書いている[2]。線の規格は 2005 年の版のまま(2024 年 10 月 21 日確認)で、現行の JIS G 0415 の区分とは書き方が違う。どちらの規格も要求しないと出ない。鋼材の一般受渡し条件の JIS G 0404 も、製品規格で規定する以外の検査文書が必要な場合は、注文者が注文時に検査文書の種類を指示する、としている[6]。要るなら注文時に区分を示して求める。区分の読み方はEN 10204 のミルシート区分にまとめた。
ねじを買う側が材料の裏付けを残したいときは、規格がいう「注文者」はねじメーカーだという点に注意する。ねじの発注書に「使用した線材・線の検査文書の写しを提出すること」と書いておかなければ、買う側の手元には何も残らない。これは規格の要求ではなく、発注側の書き方の提案である。
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ねじ・部品の発注書と図面に書くこと
1. 材料の記号と規格
「SWCH10R(JIS G 3507-2)」のように、線の記号と規格番号を書く。線材の段階で管理したい項目があるなら「材料線材は JIS G 3507-1 SWRCH10A」のように線材も書く。
2. 脱酸の区分
R・A・K のどれでもよいのか、決めているのか。結晶粒度や介在物を指定したいならアルミキルド鋼かキルド鋼にする[1]。
3. 特別品質規定の要否
きずの深さのクラス A、径の許容差のクラス A・B を適用するか[1]。
4. 工程と球状化
D 工程か DA 工程か、球状化焼鈍を指定するか[2]。ねじメーカーに任せる場合はその旨を書く。
5. 検査文書
線材・線の検査文書の写しを、ねじのロットと結び付けて出してもらうか。
6. 材料の変更
他の規格・他の鋼種への置き換えは事前承認とする。
よくある質問
図面に SWCH10R とあり、仕入先から SWRCH10R のミルシートが来ました。合っていますか
線 SWCH10R の材料は線材 SWRCH10R なので[2]、線材の成績書としては筋が通る。ただし線材の規格は機械的性質を定めていないので[1]、線の引張強さ・絞りを確かめたいなら、線の成績書も求める。
SWCH10R と SWCH10A は、どちらを指定すべきですか
炭素とマンガンの範囲は同じで、違いは脱酸の方法、りん・硫黄の上限、表面きずの深さの上限、そして結晶粒度・介在物を指定できるかどうかである[1]。頭部の成形が厳しい形状や、きずの管理を厳しくしたい部品なら、ねじメーカーの圧造の条件と合わせて A か K を検討する。どちらにするかは、加工の条件を知るねじメーカーと設計が決める。
SWCH の線材は機械的性質を保証しないのに、なぜ強度区分のあるねじが作れるのですか
線材の機械的性質は伸線や熱処理で変わるため、JIS は線材の段階では規定していない[1]。線の段階では工程ごとに引張強さが規定され[2]、ねじの強度はねじの規格と製造工程(熱処理を含む)で作り込まれる。材料記号だけでは強度区分は決まらない。
まとめ
冷間圧造用炭素鋼は、線材 JIS G 3507-1(SWRCH)と線 JIS G 3507-2(SWCH)に分かれ、線の記号は線材の記号から R を取ったものである。線材の規格は機械的性質を規定せず、成分・鋼質・きずの深さ・径の許容差を定め、表面きずの深さの上限はアルミキルド鋼とキルド鋼が 0.10 mm、リムド相当鋼が 0.20 mm(径 32 mm 以下)である。結晶粒度・介在物を指定できるのはアルミキルド鋼とキルド鋼で、脱炭層を指定できるのは SWRCH30K 以上である。線の規格は D 工程と DA 工程で引張強さを分けて定める。特別品質規定は協定しないと適用されない。軟鋼線材や鉄線を冷間圧造の材料に流用しない。検査文書は線材・線とも要求しないと出ないので、ねじの発注書で写しを求める。
同じ束では、硬鋼線材・軟鋼線材 SWRH・SWRM、みがき棒鋼 SGD、SNCM439、ステンレスのもらい錆も扱う。
出典・参考資料
- JIS G 3507-1:2021 冷間圧造用炭素鋼-第 1 部:線材(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 4 月 20 日改正)
- JIS G 3507-2:2005 冷間圧造用炭素鋼-第 2 部:線(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2005 年 1 月 20 日制定・2024 年 10 月 21 日確認)
- JIS G 3505:2024 軟鋼線材(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2024 年 4 月 22 日改正)
- JIS G 3508-1:2021 冷間圧造用ボロン鋼-第 1 部:線材(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 4 月 20 日改正)
- JIS G 3509-1:2021 冷間圧造用合金鋼-第 1 部:線材(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 4 月 20 日改正)
- JIS G 0404:2023 鋼材の一般受渡し条件(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2023 年 12 月 20 日改正)
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