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投稿日:2026年10月17日

ばね用ステンレス SUS301-CSP・SUS631-CSP(JIS G 4313)の指定——調質記号と析出硬化処理

この記事のポイント(結論先出し)

薄板ばね・ぜんまいばねに使うステンレスの帯は JIS G 4313(ばね用ステンレス鋼帯)で、SUS301-CSP と SUS631-CSP が代表である[1]。強さは調質の記号(1/2H・3/4H・H・EH など)まで書いて初めて決まる。例えば SUS301-CSP の 1/2H は 310 HV 以上、H は 430 HV 以上で、曲げ性の規定は 1/2H と 3/4H にしかない[1]。同じ「SUS301 1/2H」でも冷間圧延板の JIS G 4305 では規定の項目と値が違うので、規格番号も書く[2]。SUS631-CSP は成形後の析出硬化処理で硬さが上がるが、規格の硬さは製造業者が試験片で確かめる場合の値で、ばねに成形してからの熱処理の結果は約束しない[1]。線材ではこの鋼種は SUS631J1 になる[3]。

ばね用ステンレスは、帯と線で規格が分かれる

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端子の接点ばね、板ばね、クリップ、ぜんまいなどの部品で、図面の材質欄に SUS301 や SUS631 と書かれていることがある。ばね用のステンレスは、JIS で形ごとに規格が分かれている。

1. ばね用ステンレス鋼帯(JIS G 4313)
主として薄板ばねとぜんまいばねに用いる帯の規格で、帯からせん断した切板にも適用する。種類は SUS301-CSP、SUS304-CSP(オーステナイト系)、SUS420J2-CSP(マルテンサイト系)、SUS631-CSP、SUS632J1-CSP(析出硬化系)の 5 種類である[1]。

2. ばね用ステンレス鋼線(JIS G 4314)
コイルばねなどに使う線の規格で、種類は SUS302、SUS304、SUS304N1、SUS316(オーステナイト系)と SUS631J1(析出硬化系)の 5 種類である[3]。

線の規格に SUS301 はなく、析出硬化系は SUS631 ではなく SUS631J1 である。附属書(参考)の成分で、SUS631J1 のニッケルは 7.00〜8.50%、帯の SUS631-CSP は 6.50〜7.75% と範囲が違う[3][1]。コイルばねの図面に「SUS631」と書かれていたら、線で手配するときにどの記号で受けるかを設計に確かめる。ピアノ線やばね鋼など炭素鋼系のばね材はピアノ線 SWP とばね鋼 SUP の選び方で、ばね自体の仕様書の書き方はばねの発注で仕様書に書くことで扱った。

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SUS301 は、冷間圧延で強さを出すオーステナイト系

JIS G 4313 の化学成分で、SUS301-CSP はニッケル 6.00〜8.00%、クロム 16.00〜18.00%、SUS304-CSP はニッケル 8.00〜10.50%、クロム 18.00〜20.00% である[1]。SUS301 は SUS304 よりニッケルが少ない。

JIS G 4313 は、帯を冷間圧延して製造するとし、調質の記号 H などは加工硬化をもたらす冷間圧延処理を示す、と注記している[1]。熱処理で硬くするのではなく、圧延の加工で硬くした状態を、記号で注文する仕組みである。ステンレス協会は、SUS301・SUS304 は加工によって磁性を持つようになるとしている[4]。SUS304 鋼の疲労を扱ったばね論文集の論文も、序論で、SUS304 鋼系のばね用ステンレス鋼では伸線加工によって加工誘起マルテンサイト変態を起こして加工硬化が大きくなり、強度を示すと同時に磁性を示すことが知られている、と書いている[5]。冷間圧延で強くしたばね材が磁石につくのは、この仕組みによるもので、材料違いの印ではない。磁性まで含めた話は同じ束のSUS304 は磁石につくかで扱う。

調質の記号で、硬さと曲げ性の規定が決まる

次の表は、JIS G 4313 の表 5 から、SUS301-CSP と SUS631-CSP の調質ごとの硬さと曲げ性を抜き出したものである[1]。曲げ性は 90° V 曲げの内側半径である。

種類の記号 調質の記号 硬さ HV 曲げ性(90° V 曲げの内側半径) 析出硬化処理後の硬さ HV(試験片)
SUS301-CSP 1/2H 310 以上 厚さの 2 倍以下 —
SUS301-CSP 3/4H 370 以上 厚さの 2.5 倍以下 —
SUS301-CSP H 430 以上 規定なし —
SUS301-CSP EH 490 以上 規定なし —
SUS631-CSP O(固溶化熱処理) 200 以下 厚さの 0.5 倍以下 TH1050 で 345 以上・RH950 で 392 以上
SUS631-CSP 1/2H 350 以上 厚さの 1.5 倍以下 CH で 380 以上
SUS631-CSP 3/4H 400 以上 規定なし CH で 450 以上
SUS631-CSP H 450 以上 規定なし CH で 530 以上

SUS301-CSP にはこのほか、EH の範囲に含まれ注文者の指定がある場合に適用してもよい SEH(530 HV 以上)がある[1]。析出硬化処理後の硬さは表 6 による[1]。SUS304-CSP など、ほかの種類と調質の値は規格の表で確かめる。

表で押さえておきたいのは次の三点である。

1. 曲げ性は注文者の要求がある場合に適用する
JIS G 4313 は、曲げ性を注文者の要求がある場合に適用し、外側に亀裂を生じてはならない、としている[1]。曲げのある板ばねで材料段階の曲げ性を確かめたいなら、注文時に要求する。さらに、曲げ試験は幅 30 mm 未満または厚さ 1.00 mm を超えるものには行わない[1]。細い帯で曲げ性を前提にするなら、確かめ方を別に決める。

2. 硬い調質ほど曲げの規定がない
SUS301-CSP の H 以上、SUS631-CSP の 3/4H 以上には、曲げ性の規定値がない[1]。小さい R で曲げる形のばねを、強さ欲しさに H や EH で設計すると、成形で割れる危険がある。調質を上げる変更は、曲げ R と合わせて設計に確かめる。

3. 引張試験は、硬さの代わりに要求できる
注文者の要求によって硬さと曲げ性に代えて引張試験を行う場合の値も規定されている。例えば SUS301-CSP の 1/2H は引張強さ 930 N/mm² 以上、H は 1,320 N/mm² 以上で、耐力と伸びは注文者の要求がある場合に適用する[1]。厚さ 0.30 mm 未満のものは引張試験を省略してもよい[1]。

同じ「1/2H」でも、規格で中身が違う

SUS301 の冷間圧延材は、ばね用の JIS G 4313 だけでなく、一般の冷間圧延ステンレス鋼板の JIS G 4305 にもある。JIS G 4305 は、硬化させるための調質圧延を行った SUS301 と SUS301L の耐力・引張強さ・伸びを表 9 に定めていて、SUS301 の 1/2H は引張強さ 1,030 N/mm² 以上、伸びは厚さ 0.30〜0.40 mm 未満で 9% 以上、0.40 mm 以上で 10% 以上である[2]。ばね用の JIS G 4313 の 1/2H の引張強さ 930 N/mm² 以上とは値が違い[1]、JIS G 4305 には 1/4H もある一方で、硬さと曲げ性の規定はない[2]。

図面に「SUS301 1/2H」としか書かれていないと、どちらの規格の 1/2H なのかが決まらない。受入で成績書の規格番号が違っていても、どちらも「1/2H」なので気づきにくい。注文書には「SUS301-CSP-1/2H(JIS G 4313)」のように規格番号まで書く。

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SUS631 は、成形してから析出硬化処理をする

SUS631 は、アルミニウムを 0.75〜1.50% 含む析出硬化系のステンレスである[1]。柔らかい状態や中程度の調質で成形し、そのあと析出硬化処理で硬さを上げる使い方ができる。JIS G 4313 の表 6 は、調質の記号 1/2H・3/4H・H の帯に CH の処理(475 ± 10 ℃で 1 時間保持後空冷)を行った場合の硬さを、表の値のように定めている[1]。調質の記号 O(固溶化熱処理)の帯については、TH1050 と RH950 の処理条件と硬さを示している[1]。

ここで発注側が押さえるべきことがある。表 6 の硬さには「製造業者が性能を確認するために試験片を析出硬化処理した場合に適用する」と書かれている[1]。つまり規格が約束しているのは、材料メーカーが試験片で確かめた値であって、ばねメーカーが部品に成形してから行った熱処理の結果ではない。部品の硬さやばね特性は、図面とばねの仕様書で決め、熱処理の条件と結果の記録をばねメーカーに残してもらう。

同じ析出硬化系でも、銅で硬化する SUS630 は H900 などの記号で指定する。その違いはSUS440C・SUS630 の熱処理と硬さの指定で扱った。

線の SUS631J1 は、熱処理による強さの増加で確かめる

ばね用ステンレス鋼線の JIS G 4314 は、SUS631J1 の C 種(WPC)について線径ごとの引張強さを定め、例えば線径 1.00 mm を超え 1.20 mm 以下では 1,700〜1,950 N/mm² としている[3]。そのうえで、受渡当事者間の協定によって析出硬化処理後の引張強さを評価する場合は、製品から採った試験片に 470 ± 10 ℃で 1 時間加熱後空冷する熱処理を行い、熱処理による引張強さの増加量が 250 N/mm² 以上なければならない、としている[3]。この評価は協定した場合だけなので、要るなら注文時に取り決める。

ばね用ステンレス鋼帯で、ほかに指定できること

1. 厚さの許容差
JIS G 4313 の厚さの許容差には、通常の値のほかに、注文者が指定できる記号 ET と記号 ST の狭い許容差がある[1]。例えば厚さ 0.25 mm 以上 0.40 mm 未満で幅 80 mm 未満なら、通常は ± 0.025 mm、ET は ± 0.015 mm、ST は ± 0.010 mm である[1]。板ばねのばね定数は厚さに強く効くので、設計がどの許容差を前提にしているかを確かめて記号を書く。

2. 平たん度
厚さの許容差記号 ET か ST で幅 250 mm 未満の帯は、注文者の要求によって平たん度の試験を行う[1]。

3. 横曲がり
幅と厚さの比が 10 以上の帯に規定があり、受渡当事者間の協定で表の値の 1/2 まで指定してもよい[1]。

成績書の種類は、現行の記号で指定する

JIS G 4313:2011 の報告の箇条は、検査文書の種類を JIS G 0415 の表 1 の記号 2.3(受渡試験報告書)または記号 3.1.B(検査証明書 3.1.B)としている[1]。これは改正前の JIS G 0415 の記号である。現行の JIS G 0415:2024 は、検査証明書 3.1 は JIS G 0415:1999 の検査証明書 3.1.B であるとし、製品規格に 3.1.B と書かれている場合は現行の検査証明書 3.1 のことを示す、と注記している[6]。受渡試験報告書 2.3 は 1999 年版に記載されていた区分である[6]。

注文書には「検査証明書 3.1(JIS G 0415:2024)」のように現行の記号で書いておくと、仕入先と食い違わない。区分ごとの違いはEN 10204 のミルシート区分にまとめた。

発注書に書くこと

例えば次のように書く。数値は設計が決めた値に置き換える。

「材質:SUS301-CSP-3/4H(JIS G 4313)、厚さ 0.30 mm、幅 25 mm、厚さの許容差 記号 ET。検査証明書 3.1(JIS G 0415:2024)を添付し、硬さ・寸法を記載すること。調質・規格の変更、および SUS304-CSP など他種類への置き換えは事前承認を要する。」

SUS631-CSP なら、調質の記号に加えて、析出硬化処理を誰がいつ行うか(材料のまま受けて部品で行うのか)を書き、部品の硬さやばね特性の要求はばねの仕様書に書く。

受け入れるときに確かめること

JIS G 4313 は、検査に合格した帯に、1 結束(包装)ごとに種類の記号、調質の記号、寸法、許容差の記号(ET・ST の場合)、製造番号または検査番号、製造業者名を表示するとしている[1]。受入では、表示の調質の記号が注文と一致しているかを最後の文字まで見る。3/4H と H、H と EH は一文字の違いである。成績書では、規格番号が G 4313 か、硬さがその調質の値を満たしているか、ET・ST を指定したなら厚さがその範囲にあるかを見る。

磁石は判定に使わない。冷間圧延で強くした SUS301 は磁性を帯びるので[4][5]、磁石につくことで材料違いを疑うと、正しい材料を不合格にしかねない。

よくある質問

ばねの図面に「SUS301 H」とだけ書いてあります

規格番号がないと、ばね用の JIS G 4313 なのか、一般の JIS G 4305 なのかが決まらない。どちらも H の調質があるが、規定の項目と値が違う[1][2]。ばね用途なら JIS G 4313 で受けるかを設計に確かめる。H には曲げ性の規定がないので[1]、曲げのある形なら調質も合わせて確かめる。

SUS631 の材料の成績書に硬さが載っていれば、ばねの硬さも保証されますか

析出硬化処理後の硬さの規定は、製造業者が試験片を処理して確かめる場合の値である[1]。ばねに成形してから行う熱処理の結果は含まれない。部品の硬さやばね特性は、ばねの仕様書で要求し、熱処理と検査の記録を残してもらう。

コイルばねも SUS631 で手配できますか

ばね用ステンレス鋼線の JIS G 4314 の析出硬化系は SUS631J1(WPC)で、成分の範囲が帯の SUS631 と少し違う[3][1]。線で受けるなら記号を SUS631J1 にそろえ、図面の記号との対応を設計に確かめる。

まとめ

ばね用ステンレスの帯は JIS G 4313、線は JIS G 4314 で、帯は SUS301-CSP と SUS631-CSP、線は SUS304 系と SUS631J1 が代表である。帯の強さは調質の記号で決まり、硬い調質ほど曲げ性の規定がなくなる。曲げ性は注文者の要求がある場合に適用する。同じ「1/2H」でも一般の冷間圧延板の JIS G 4305 とは規定が違うので、規格番号まで書く。SUS631 の析出硬化処理後の硬さは試験片で確かめる値で、成形後のばねの結果は仕様書で求める。成績書は現行の検査証明書 3.1 の記号で指定し、受入では調質の記号を最後の文字まで確かめる。

同じ束では、焼入れできるステンレスの SUS420J2(ばね用鋼帯の SUS420J2-CSP を含む)と SUS410、耐熱用途の SUS310S も扱う。

出典・参考資料

  1. JIS G 4313:2011 ばね用ステンレス鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2011 年 2 月 21 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  2. JIS G 4305:2021 冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 3 月 22 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  3. JIS G 4314:2013 ばね用ステンレス鋼線(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2013 年 2 月 20 日改正・2022 年 10 月 20 日確認)
  4. ステンレスの導電率、透磁率、熱膨張率などの物理的性質について(一般社団法人ステンレス協会)
  5. 中曽根祐司「SUS304 鋼平滑材の室温・大気中疲労における変形誘起マルテンサイト変態」ばね論文集 70 号(日本ばね学会/2025 年)
  6. JIS G 0415:2024 鋼及び鋼製品-検査文書(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2024 年 6 月 20 日改正)

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