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投稿日:2026年10月26日

ステンレスの溶接焼けの除去を指示するとき——酸洗い・研磨・電解研磨と、ワイヤブラシが効かない理由

この記事のポイント(結論先出し)

ステンレスの溶接焼けは、焼戻し温度域まで熱せられた熱影響部の表面に出る酸化膜の色(テンパカラー)で、JIS の溶接用語では溶接の「不完全部」の一つに数えられている[1]。見た目だけの問題ではなく、溶接スケールがあると耐孔食性が落ちることが確かめられている[3]。除去の方法は効き方が違い、ショットブラストやワイヤブラシで色を消しても防食の対策にはならず、酸洗いか滑らかな面を作る研磨、電解研磨が対策になるとされている[3]。発注では、焼けを残してはいけない面(接液面・外観面)、除去の方法(許す方法と許さない方法)、仕上がりの面の状態、配管の内面のように後から手が届かない面の予防(バックシールド[6])を決めて書く。

この記事は、溶接を含むステンレスの部品・タンク・配管を発注する側の目線で書く。不動態化処理(パシベーション)の方法や、もらい錆の原因は別の記事に任せ、溶接焼けをどこまで、どの方法で取ってもらうかを図面と注文書で決めることに絞る。

溶接焼けは、規格の上でも「不完全部」

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JIS Z 3001-4(溶接用語-第 4 部:溶接不完全部)は、テンパカラーを「焼戻し温度域に加熱された熱影響部表面に現れる酸化膜の色」と定義し、溶接の不完全部の一つとして挙げている。同じ規格には、溶接部の表面が酸化された状態を指す「表面さび」も並んでいる[1]。JIS G 0201(鉄鋼用語(熱処理))も、テンパカラーを、鋼材などが焼戻し相当の温度に加熱されたときに現れる酸化膜の色と定め、熱処理のほか、きず取りのグラインダーの跡などにも現れる場合があるとしている[2]。

つまり溶接焼けは、溶接の熱でできた酸化膜で、グラインダーで削った熱でも同じような色が出る。「溶接焼けを除去すること」とだけ書いた図面では、どの範囲の、どの程度の色を、どの方法で取るのかが決まらない。

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焼けは耐食性を下げる

日本海水学会誌の解説は、ステンレス鋼を溶接すると、熱影響部と溶接金属部に溶接時の熱履歴によりスケールが生成し、このスケールが耐食性に悪影響することが以前から知られている、としている。各種ステンレス鋼の TIG 溶接スケール付き材の孔食電位を比べると、どの鋼種でもスケールの存在で耐孔食性が劣化していた[3]。劣化の主な原因としてはスケール直下のクロム欠乏層が挙げられ、さらに、溶接スケールができる部分のうち高温になった部分ではクロム欠乏層ができて耐孔食性が下がり、より低温の側では鉄系の酸化皮膜ができて、複合サイクル試験で錆びやすいことが明らかにされた、と紹介されている[3]。

解説の結言は、溶接スケールの存在は耐食性を劣化させるので酸洗等による除去が必要である、としている[3]。食品・医薬・化学の装置のように液に触れる面や、屋外・海に近い場所で使う部品では、焼けを残すことが錆と腐食の起点になりうる。

除去の方法で、効き方が違う

同じ解説は、TIG 溶接部のスケールの除去方法と耐孔食性の関係を比べた結果を示し、ショットブラストやワイヤブラシによる除去では、見た目にはスケールが除去されたとしても何ら対策とならず、酸洗による除去あるいは滑らかな表面を与える研磨が防食対策となる、としている。電解研磨は、表面の不働態被膜の中のクロムの濃化と平滑な面が同時に得られるので有効だとしている[3]。

方法 JIS B 0122 の記号 耐食性の回復について文献が述べていること 発注で気を付けること
ワイヤブラシ・ショットブラスト ブラスチング SB など 色が消えても防食の対策にならない[3] 色を消すだけの方法として扱う。耐食性が要る面では不可とする
研磨(滑らかな面にする) 研摩 SP、バフ研摩 SPBF など 滑らかな表面を与える研磨は対策になる[3] 研磨の熱でクロム濃度が下がることがある[9]。研磨後の不動態化の要否、母材との仕上げのそろえ方を決める
酸洗い 酸洗い SCP、電解酸洗い SCEP 酸洗による除去は対策になる[3]。酸洗いは不動態化の役割も兼ねることが多い[4] 酸の種類、処理後の水洗、袋部・すき間の液残り
電解研磨 電解研摩 SPE クロムの濃化と平滑な面が同時に得られる[3] うねりは取れず、表面の欠陥を際立たせることがある[5]

(記号は JIS B 0122(加工方法記号)による[8]。表の右端の列は当方の整理である。)

表から分かる最も大事な点は、「色が消えた」と「耐食性が戻った」は別のことだ、ということである。受入の検査で見た目だけを確かめると、ワイヤブラシで色を消した品物も合格になってしまう。耐食性が要る面では、方法そのものを注文書で決めておく必要がある。

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研磨で取る場合

研磨で取る場合は、母材の仕上げとのそろい方が問題になる。JIS G 4305(冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯)は、表面仕上げとして No.2D、No.2B、BA、HL を定め、HL を「適切な粒度の研磨材で連続した磨き目が付くように研磨して仕上げたもの」としている。研磨仕上げの種類(No.3、No.4、#240、#320、#400)など、この 4 つ以外の表面仕上げは製造業者の方法による、とされている[7]。母材が No.4 や #400 の研磨仕上げなら、規格の記号だけでは磨き目の細かさが一つに決まらないので、焼けを取った部分の仕上げは見本で合わせる。

研磨に使う砥石・ベルト・ブラシを鉄の加工と共用すると、表面に鉄粉が付いてもらい錆の原因になる。工具の共用の禁止はステンレスのもらい錆を防ぐで扱っている。機械研磨で表面のクロム濃度が下がることがあり、硝酸による不動態化で回復させる方法はステンレスの不動態化処理の指定で扱っている(溶接部のテンパーカラーの除去は、工業的には機械研磨で行うことが多いとされている[9])。

酸洗いで取る場合

表面技術誌の解説によれば、溶接などの熱を受けたステンレスの表面にできた酸化物スケールは、そのままでは製品としての性能を満たさないことが多く、酸で洗って表面をきれいにする。この酸洗いは、多くの場合に不動態化の役割も兼ねている[4]。酸の種類の使い分け(混酸が広く使われる理由)はステンレスの不動態化処理の指定にまとめたので、ここでは溶接焼けの除去として発注で決めることに絞る。

決めることは三つある。酸に浸けるのか、焼けた部分だけを局所的に処理するのか。処理の後の水洗と、すき間・袋部・ねじ穴に液が残らないことの確かめ方。そして、硫黄を加えた快削系の鋼種を溶接した部品では、酸洗いで肌あれが起きて耐食性に響く場合があると解説が注意しているので[4]、条件を仕入先と確かめることである。

電解研磨で取る場合

表面技術誌の別の解説は、電解研磨を、研磨する物を陽極にして電解液の中で電解し、溶解作用で表面を平滑にする方法と説明している。化学的な研磨は、機械的な研磨が難しい細い線やパイプの内面などで使われ、得られる面にはクロムが濃縮していることが確認されている。一方で、材質の影響を敏感に受け、うねりのような比較的大きな凹凸は取りにくく、表面の欠陥を際立たせてしまう欠点もあるので注意が必要だとしている[5]。電解研磨を指定するときは、その前の段階で凹凸や傷をどこまで取っておくかを決めておく。

手の届かない面は、焼けを作らないように頼む

配管やタンクの内面、溶接の裏側のように、溶接の後で研磨の工具が届かない面は、取るより作らないほうが確実である。溶接の裏側を不活性なガスで覆って酸化を抑える方法をバックシールドといい、JIS Z 3253(溶接及び熱切断用シールドガス)は、バックシールドに使うシールドガスも規格の対象に含めている。表 1 の主な適用例には、次のガスにバックシールドが挙げられている[6]。

種類の記号 組成(体積分率) 溶接中の反応挙動
I1 アルゴン 100 % 不活性
R1 水素 0.5 % 以上 15 % 以下、残部アルゴン 還元性
R2 水素 15 % を超え 50 % 以下、残部アルゴン 還元性
N1 窒素 100 % 低反応性

(JIS Z 3253 の表 1 のうち、主な適用例の欄にバックシールドが挙がっている分類(I・R・N)から、代表的な種類を抜粋[6]。どれを使うかを規格が決めているわけではない。)

どのガスを使うかは、鋼種と溶接の方法で仕入先が溶接施工要領として決めることが多い。発注側は、内面の焼けを許さない部品であることを伝え、バックシールドの実施と、内面の仕上がりの確かめ方(内視鏡で見る、切断見本で見る、など)を決めておく。溶接の方法とシールドガスの書き方はTIG・MIG の指定で扱っている。

発注書と図面に書くこと

ここからは規格の要求ではなく、発注する側の実務の提案である。

項目 書き方の例
対象の面 接液面(内面)と外観面(A 面)は溶接焼けを残さないこと。その他の面は可
除去の方法 酸洗い(混酸)または研磨で除去。ワイヤブラシ・ブラストだけによる除去は不可
仕上げ 外観面は母材(HL)に合わせて研磨。磨き目は限度見本による
工具 研磨材・ブラシは鉄と共用しないこと
後処理 酸洗い後は水洗し、すき間・袋部に液を残さないこと。研磨後は不動態化処理(方法は別途指定)
内面の予防 内面はバックシールドを行うこと。内面の仕上がりは〇〇で確認
受入の確認 焼けの残りは限度見本と照合。処理の方法と日付を成績書に記載

焼けの色をどこまで許すかは、数値で決めにくい。外観の判定は、照明・距離・時間をそろえて限度見本と照らすのが現実的である。外観の合否基準の決め方は外観の合否基準を仕入先と決めるで扱っている。基準は発注のときに出しておく。

よくある質問

焼けの色が薄い(麦わら色程度)なら残してもよいですか

色の濃さで一律には決められない。解説が紹介する研究では、スケールができる部分のうち比較的低温の側でも、鉄系の酸化皮膜ができて錆びやすいことが示されている[3]。耐食性が要る面では色の濃さで区別せず除去の対象とし、外観だけの面なら限度見本で許す範囲を決める、という分け方が考えられる。

研磨で取ったら、もう処理は要りませんか

滑らかな面を与える研磨は防食の対策になるとされているが[3]、機械研磨は条件によって表面のクロム濃度を下げることがあり、研磨の後に硝酸水溶液中で不動態化処理をして回復させるのが一般的とされている[9]。耐食性が重要な部品では、研磨の後の不動態化までを指定する。

酸洗いの液を嫌って、仕入先がワイヤブラシで仕上げたいと言っています

ワイヤブラシやショットブラストは、見た目にはスケールが取れても防食の対策にならないとされている[3]。耐食性が要らない面なら認めてもよいが、接液面や屋外で使う面では、研磨か電解研磨への変更を求める。

まとめ

溶接焼け(テンパカラー)は熱でできた酸化膜で、JIS では溶接の不完全部に数えられる[1][2]。スケールは耐孔食性を下げ、その主な原因はスケール直下のクロム欠乏層とされる[3]。ワイヤブラシやブラストで色を消しても防食の対策にならず、酸洗い・滑らかな研磨・電解研磨が対策になる[3][4][5]。対象の面、許す方法と許さない方法、仕上げのそろえ方、後処理、内面のバックシールド[6]を、発注のときに書いておく。

同じ束では、溶接ひずみの許容と矯正、調質(焼入焼戻し)の指示、タレットパンチプレス加工品、ウォータージェット切断品についても、図面と注文書に書くことを整理した。

出典・参考資料

  1. JIS Z 3001-4:2013 溶接用語-第 4 部:溶接不完全部(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2013 年 7 月 22 日改正・2023 年 10 月 20 日確認)
  2. JIS G 0201:2023 鉄鋼用語(熱処理)(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2023 年 5 月 22 日改正)
  3. 塩化物溶液中におけるステンレス鋼の腐食・防食(解説)(幸英昭/日本海水学会誌 71 巻 1 号/2017 年)
  4. ステンレス鋼のパッシベーション(滝沢貴久男/表面技術 41 巻 3 号/1990 年)
  5. ステンレス鋼の化学的な研磨法の現状―電解研磨と化学研磨―(金子智・佐藤義和/表面技術 41 巻 3 号/1990 年)
  6. JIS Z 3253:2011 溶接及び熱切断用シールドガス(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2011 年 3 月 22 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  7. JIS G 4305:2021 冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 3 月 22 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  8. JIS B 0122:1978 加工方法記号(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1978 年 2 月 1 日改正・2023 年 10 月 20 日確認)
  9. 機械研磨によるステンレス鋼の耐食性の劣化(Q&A)(材料と環境 44 巻 4 号/1995 年)

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