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ブローチ加工の発注——キー溝 JIS B 1301・角形スプライン JIS B 1601 の公差と熱処理の順番

この記事のポイント(結論先出し)
ブローチ加工は、多数の切れ刃を寸法順に並べた専用の工具で、穴の中のキー溝・スプライン・角穴などを一度に作る加工である(JIS B 0122 の記号 BR、工具の用語は JIS B 0175)[1][2]。発注では「ブローチで」と書くより、できあがった溝・穴の寸法と公差、熱処理を後にするかどうか、どのゲージで受け入れるかを書く。角形スプライン(JIS B 1601)の穴の幅の公差は、ブローチ加工後に熱処理しないなら H9、加工後に熱処理するなら H11 と、熱処理の順番で変わる[3]。キー溝の穴側の幅は、はめあいの種類で D10・Js9・P9 から選ぶ[4]。工具は形状ごとの専用品なので、工具の費用と持ち主、変更時の扱いを見積の段階で決めておく。
この記事は、ボスやギヤの穴にキー溝やスプラインを入れる部品を発注する側の目線で書く。ブローチ盤や工具の設計そのものではなく、図面と注文書に何を書き、受け取るときに何を確かめるかを扱う。
目次
ブローチ加工で作るもの
JIS B 0122(加工方法記号)は、ブローチ削りを機械加工の切削の一つとし、記号 BR を割り当てている[1]。工具の側の用語は JIS B 0175(ブローチ用語)にまとまっていて、ブローチを「荒刃と仕上刃とを組み合わせた多数の切れ刃を寸法順に配列し、連続して切込みが行われる工具。主としてブローチ盤に取り付けて使用される」と説明している[2]。
同じ規格は、加工する部品・仕上げる形状で、キー溝ブローチ、丸ブローチ、二面取り丸ブローチ、小判形ブローチ、角形ブローチ、四角ブローチ、スプラインブローチなどを挙げ、穴の内面を仕上げる内面ブローチと、外面を仕上げる外面ブローチ(サーフェスブローチ)を分けている[2]。丸穴とキー溝、丸穴とスプライン溝のように二つ以上の切削部分をもつものはコンビネーションブローチと呼ぶ[2]。発注側から見ると、「穴の中の、丸でない形」を一度に作るときの加工だと考えればよい。
図面に工具を書いてよい場合
JIS B 0001(機械製図)は、穴加工のドリル径やリーマ径、溝加工のブローチサイズなどの指示によって設計要求を満たす場合には、その工具径を指示する、としている[5]。工具の呼びで要求が満たせる場面では、そう書いてもよい。ただしこの書き方は「その工具で削れば合格」という意味になるので、溝の幅や位置を受入で数値で判定したい部品では、寸法と公差で書いたほうが合否がはっきりする。
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キー溝:穴側の幅の公差を選ぶ
キー溝の寸法と公差は JIS B 1301(キー及びキー溝)が定めている。平行キー用のキー溝では、軸側の溝幅 b1 と穴(ハブ)側の溝幅 b2 の許容差が、滑動形・普通形・締込み形の 3 つで分かれている[4]。ブローチで作るのは穴側の b2 である。
| はめあいの種類(JIS B 1301) | 軸側 b1 | 穴側 b2 | b2 の許容差(呼び 6×6 の場合) |
|---|---|---|---|
| 滑動形 | H9 | D10 | +0.078〜+0.030 mm |
| 普通形 | N9 | Js9 | ±0.015 mm |
| 締込み形 | P9 | P9 | -0.012〜-0.042 mm |
表の許容差は JIS B 1301 の付表 4 から、キーの呼び寸法 6×6(溝幅の基準寸法 6 mm)の行を抜き出したものである[4]。ほかの呼びでは値が変わるので、規格の付表で確かめる。図面には「キー溝 普通形(JIS B 1301)」のように種類を書けば、穴側は Js9 になる。種類を書かずに幅の基準寸法だけを書くと、どの公差で削るかが仕入先の判断になってしまう。キーとキー溝の種類の選び方はキーとキー溝の寸法・公差の指定で扱った。
溝の幅だけでなく、穴の中心に対する溝の位置も機能に効く。JIS B 0621 は対称度を、データム軸直線またはデータム中心平面に関して互いに対称であるべき形体の、対称位置からの狂いの大きさとしている[6]。溝が穴の中心から片寄ると、キーの入る向きによって組付けが変わる。必要なら対称度を図面に書く。
スプライン:熱処理の順番で公差が変わる
角形スプライン(小径合わせ)は JIS B 1601 が定めている。呼び方は、溝数 N、小径 d、大径 D をこの順に「×」でつないで表し、例として「6×23×26」が挙がっている[3]。
この規格で発注側がいちばん気を付けたいのは、穴の公差が熱処理の順番で分かれていることだ。表 2 は、穴の公差を「ブローチ加工後無処理」と「ブローチ加工後熱処理」の二つに分けて示している[3]。
| 穴の公差(JIS B 1601 表 2) | 幅 B | 大径 D | 小径 d |
|---|---|---|---|
| ブローチ加工後に熱処理しない | H9 | H10 | H7 |
| ブローチ加工後に熱処理する | H11 | H10 | H7 |
同じ規格は、表 2 の公差は最終仕上がり状態のスプライン(軸及び穴)に関するもので、熱処理無し又は機械加工前に熱処理するスプラインと、機械加工後に熱処理するスプラインとでは工具を変えたほうがよい、としている[3]。つまり、図面に「熱処理あり」と書いてあっても、熱処理をブローチの前にするか後にするかを決めないと、仕入先は工具を選べない。熱処理の順番は図面か工程の取り決めで明示する。熱処理の種類と、図面に書く硬さ・測る位置は熱処理を図面で指定するを参照してほしい。
軸側の公差は、自由・滑動・固定の結合形式で分かれている(表 2)[3]。穴だけを発注するときも、相手の軸がどの結合形式で作られているかを図面で確かめておく。はめあいの考え方ははめあいを仕入先に伝えるときで扱った。
スプライン穴はゲージで受け入れる
JIS B 1601 は、寸法とともにスプラインの管理方法と対応するゲージも規定している[3]。備考では、ゲージの数を少なくするために、ハブ(穴)の寸法の最小許容限界は 1 個の通りスプラインプラグゲージで確かめる(ブローチ加工後に熱処理する、しないに関係なく)としている[3]。受入の方法としては、通りゲージで組付けの可否を見て、必要な寸法は個別の測定で見る、という組み合わせになる。どのゲージを誰が持ち、校正をどうするかを取り決めておく。ゲージの等級と校正の扱いはピンゲージと限界ゲージにまとめた。
形でできないこと、確かめること
JIS B 0175 は、ブローチの部分として、第 1 刃の前で工作物を第 1 刃に案内する前部案内と、最終刃の後で工作物が最終刃を抜けるまで案内する後部案内を定めている[2]。内面ブローチは、工具が穴を通り抜けながら削る作りだということだ。行き止まりの穴の途中で止まる溝や、穴の奥だけにある溝は、一般の内面ブローチでは作りにくい。そうした形が要るなら、別の加工方法(形削り・放電加工など)も含めて、見積の段階で仕入先と相談する。
内面ブローチでは、あらかじめ下穴をあけておく。JIS B 0175 は下穴を「内面ブローチでブローチ加工を行うとき、あらかじめ工作物にあけられた穴」とし、工作物の切込み方向に削られる寸法である切削寸法(スプラインブローチなら、規格の図で大径寸法と下穴寸法の差として示されている)と、加工される部分の全長である切削長を用語として定めている[2]。下穴の寸法と切削長は工具の設計に直結するので、図面の改訂で穴径や板厚(ボスの長さ)を変えると、工具を作り直すことになりうる。
専用工具の費用と持ち主
ブローチは形状ごとの専用工具になることが多い。量産の見積では、工具の費用を部品単価に含めるのか、別に払うのかを決める。別に払うなら、工具の持ち主、保管、摩耗したときの再研削・作り直しの費用負担、取引を終えるときの扱いを書面で決めておく。金型と同じ論点で、考え方は射出成形の金型を発注するときが参考になる。これは規格の要求ではなく、発注側の取り決めの提案である。
工具の状態も、量産の品質に効く。JIS B 0175 は、ブローチの精度に関する用語として曲がり(底面・側面の真直度)と振れを、刃部の損傷としてすじ摩耗・欠損・亀裂・破損などを定めている[2]。工具が摩耗すると溝の幅や面の状態が少しずつ変わるので、量産の前に、仕入先が工具の寿命と再研削の時期をどう管理しているか、再研削した後の初品をどう確かめているかを聞いておく。
受け取るときに確かめること
1. 種類と呼び
キー溝なら JIS B 1301 のどの種類か、スプラインなら N×d×D の呼びが図面と一致しているか。
2. 熱処理の順番
スプラインの公差を「ブローチ加工後無処理」と「加工後熱処理」のどちらで見ているか[3]。熱処理をした場合、硬さの記録があるか。
3. 寸法と対称度
溝の幅、溝底までの寸法、必要なら対称度を、決めた方法で測っているか。
4. ゲージ
通りスプラインプラグゲージなど、取り決めたゲージで確かめているか。ゲージの校正の記録があるか。
注文書の書き方の例
決まった様式は無い。発注側として書いておきたい内容を一例にまとめる。
「スプライン穴 6×23×26(JIS B 1601)、ブローチ加工(JIS B 0122 の BR)の後に高周波焼入れを行う。穴の公差は JIS B 1601 表 2 のブローチ加工後熱処理による。受入は通りスプラインプラグゲージおよび図面指定の寸法測定による。キー溝 普通形(JIS B 1301)、対称度は図面による。ブローチ工具の費用・所有・保管は別紙の取り決めによる。熱処理の順番、工具、加工方法の変更は事前承認を要する。」
よくある質問
キー溝をブローチではなくフライスやスロッタで加工されても問題ありませんか
図面の寸法と公差を満たしていれば、加工方法そのものは仕入先の選択になる。ただし加工方法が変わると、溝の端の形や寸法のばらつき方が変わることがある。JIS B 0001 は、ブローチサイズの指示で設計要求を満たす場合はその工具径を指示するとしているので[5]、加工方法を固定したいなら図面に書き、変更を事前承認にする。
スプライン穴を加工した後に焼入れしても、公差は同じですか
同じではない。JIS B 1601 の表 2 は、穴の幅 B の公差をブローチ加工後に熱処理しない場合は H9、熱処理する場合は H11 としている[3]。どちらの順番で作るのかを図面か工程の取り決めで明示する。
試作の数個だけでもブローチで作れますか
専用工具を作ると、少ない数では工具の費用の比重が大きくなる。試作では別の加工方法で作り、量産でブローチに切り替えることもある。その場合は、試作と量産で加工方法が変わることを前提に、量産の初回品で寸法を確かめ直す。
まとめ
ブローチ加工(JIS B 0122 の BR)は、寸法順に並んだ多数の切れ刃で、穴の中のキー溝やスプラインを一度に作る加工である。発注では、加工方法より、できあがりの寸法と公差、熱処理の順番、受け入れるゲージを書く。キー溝の穴側の幅は JIS B 1301 の種類で D10・Js9・P9 が決まり、角形スプラインの穴の幅は JIS B 1601 でブローチ加工後に熱処理しないなら H9、するなら H11 になる。工具は穴を通り抜けて削るので行き止まりの溝は作りにくく、下穴や切削長を変えると工具が変わりうる。専用工具の費用と持ち主は見積の段階で決める。
同じ束では、内径を仕上げるホーニング、平面を仕上げるラップ加工、ローレット加工、応力除去焼なましの発注も扱う。
出典・参考資料
- JIS B 0122:1978 加工方法記号(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1978 年 2 月 1 日改正・2023 年 10 月 20 日確認)
- JIS B 0175:2021 ブローチ用語(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 3 月 22 日改正)
- JIS B 1601:1996 角形スプライン-小径合わせ-寸法,公差及び検証方法(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1996 年 1 月 1 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
- JIS B 1301:1996 キー及びキー溝(追補 1:2009)(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2009 年 3 月 20 日改正・2023 年 10 月 20 日確認)
- JIS B 0001:2019 機械製図(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2019 年 5 月 20 日改正)
- JIS B 0621:1984 幾何偏差の定義及び表示(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1984 年 2 月 1 日改正・2024 年 6 月 20 日確認)
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