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投稿日:2026年5月13日

The future of chlorine-free bleaching (TCF) technology and environmentally friendly pulp production

【結論サマリー】 TCF(Totally Chlorine Free)漂白は、塩素系薬品を一切使わないことで排水中の有機塩素化合物(AOX)をほぼゼロにできる技術です。日本ではECF漂白が先行導入され、クロロホルム発生量は1997年の1,665t から激減しています。調達担当者が今押さえるべき論点は「ECF vs TCFのコスト差」「パルプ品質への影響」「ESGサプライチェーン要件との接合」の3点です。

塩素漂白が抱えてきた問題——調達現場が直面してきた排水リスク

製紙・パルプ業界において、漂白工程は木材繊維の白さを引き出すための不可欠なステップです。ところが従来の塩素漂白には構造的なリスクが内在していました。塩素ガスや次亜塩素酸ナトリウムがパルプ中のリグニンと反応すると、非意図的にクロロホルムが発生します。[1] クロロホルムは化管法(PRTR法)の第一種指定化学物質であり、大気・排水双方への排出管理が義務付けられています。

経済産業省の漂白工程マニュアルによれば、
従来型の塩素・次亜塩素酸ソーダを使用する漂白工程では、パルプ生産量1tあたりおおむね200〜300g程度のクロロホルムが発生し、そのうち約50〜70%はハイポ段から発生する
とされています。[1] このクロロホルムは沸点が低く水への溶解度も低いため、相当量が漂白排気として大気中に放出されます。排水処理だけでは解決できない問題が、塩素漂白からの脱却を業界に促した最大の理由です。

調達現場で押さえるポイント

当社がパルプ・紙関連サプライヤーの環境デューデリジェンスを実施する際、最初に確認するのが「漂白方式(ECF/TCF/従来塩素)」と「AOX排水管理値」です。累計200社以上のサプライヤー視察経験から言えば、ECF導入済みを「標準」として扱い、TCF対応の有無はプレミアム調達要件として別枠で評価するアプローチが実務的に機能しています。

ECFとTCFの違い——混同が招く調達ミスを防ぐ

漂白技術の脱塩素化は段階的に進んでいますが、「ECF」と「TCF」は明確に異なります。この区別を曖昧にすると、調達仕様書の要件定義や認証確認で大きなミスにつながります。

ECFは漂白に塩素そのものや次亜塩素酸ナトリウムは使わないが、二酸化塩素など塩素元素を含む仕上げ用漂白剤は使用するものであり、完成した紙には微量の塩素化合物が残る。TCFはパルプ漂白に塩素や塩素元素の入った漂白剤を一切使用しないものであり、完成した紙には塩素化合物を含まない。
[2]

調達・製品設計の観点で言えば、ECFは「塩素ガスを排除」した段階であり、AOX(吸着性有機ハロゲン化合物)は大幅に低減されますが完全にはゼロになりません。一方のTCFは酸素・オゾン・過酸化水素のみを漂白剤として使い、AOXはほぼゼロになります。
TCFはECFよりも製造コストが掛かるが、紙中に塩素化合物を含まない利点から、電気絶縁用コンデンサペーパーや電池隔膜などの特殊な用途に多く使われている。
[2]

製造業の調達購買10年以上の経験から言えば、「ECFだから環境対応済み」と一括りにするサプライヤーが東南アジアには多く存在します。ESGスコアリングや顧客からの環境要求書で「TCF」が明記されている場合、ECF品を代替として提示するサプライヤーは要件未達であると明確に伝える必要があります。

日本国内の脱塩素漂白の進展——公式データで見る推移

日本国内では、1997年に日本製紙連合会が製紙工場のクロロホルム発生量削減に関する自主管理計画を策定したことが転換点となりました。
製紙連合会の自主管理計画に沿ってクロロホルム発生量は順調に減少し、平成19年末現在(2007年末)には、国内のほとんどのクラフトパルプ漂白工程でECF漂白方法が導入され、ECF化が完了した工場ではクロロホルムの発生量が導入前と比較して激減し、化管法による届出が義務付けられている取扱量1トンを下回る排出量に抑制されている。
[1]

民間調査データによれば、
クロロホルム発生量は1997年の1,665tから年間688tに減少し、2004年度からはPRTR法による自主的な削減に移行、2005年度データでは大気へのクロロホルム排出量が年間423tにまで減少した。
この削減の主役がECF転換です。さらに進んで、
業界のAOX自主管理(排水への有機塩素化合物の排出抑制指標)も成果を上げ、2006年度で完了している。

一方、TCFへの移行は日本国内ではまだ限定的です。
オゾンがセルロースの加水分解反応を引き起こすためパルプ収率が低くなること、オゾンの製造に大量の電力を必要とするため、日本では経済的な理由からオゾン漂白を選択しにくい
という構造的な制約があります。[1] これが、TCFを調達要件に組み込む際に必ずコスト交渉が発生する理由です。

調達現場で押さえるポイント

中国・東南アジアのサプライヤー網で典型的に見られるのは、「ECF漂白」という表記はあるが実際の漂白シーケンスが二酸化塩素依存に偏っているケースです。当社の視察では、漂白段の構成(O/D/D/P等)の確認と、直近年度の排水AOX測定記録の提出を必須条件にしています。TCF対応を謳うサプライヤーには、オゾン発生設備の現地確認まで行います。

TCF漂白の化学——オゾン・過酸化水素・酸素の役割分担

TCFプロセスは、単一薬品で完結するわけではなく、複数の酸化剤を組み合わせた多段漂白で構成されます。
塩素を一切用いない漂白法(TCF:Totally Chlorine Free)として酸素(O)や過酸化水素(P)、オゾン(Z)を使用する方法が開発・採用されている。
[3]

各薬品の役割は明確に分かれています。酸素漂白(O段)は蒸解後の残存リグニンを酸化分解する前処理として機能し、消費する漂白薬品量を全体的に削減します。オゾン(Z段)は強力な酸化力でリグニンを選択的に分解しますが、過剰に反応させるとセルロースも分解するため制御が難しい。過酸化水素(P段)はパルプの最終白色度を引き上げる仕上げ段として使われ、繊維へのダメージが比較的少ないとされています。

特にオゾン段の制御は、TCF導入の技術的ハードルです。
オゾンがセルロースの加水分解反応を引き起こすためパルプ収率が低くなること
が課題であり、
クラフトパルプの漂白工程で使用するオゾンは、製造現場にオゾン発生装置を設置し、自社で調製することが一般的である
ため、設備投資が必要です。[1] 金属加工・樹脂成形・化学・電気電子・組立完成品の5ジャンル横断で調達を担ってきた経験から見ると、こうした設備制約がTCFパルプの「生産拠点の偏在」につながっており、欧州・スカンジナビア調達品でのTCF比率が高い理由でもあります。

環境・CO₂削減との接合——紙・パルプ産業の脱炭素ロードマップ

TCF漂白の意義は、AOX削減にとどまらず、産業全体の脱炭素戦略とも深く絡んでいます。

紙・パルプ産業においてはCO₂排出量の削減は喫緊の課題であり、紙・パルプ産業は国内の製造業の中で4番目の規模のCO₂を排出している。化石燃料への依存度が高く、紙・パルプ分野のネットゼロに向けた移行は不可欠である。
[4]

環境省の2022年度温室効果ガス排出データでは、
産業部門からのエネルギー起源CO₂排出量を業種別に見ると、パルプ・紙・紙加工品製造業は全体の5%(1,820万トン)を占めている。
[5] TCF漂白自体はこのCO₂総量の削減に直接的な効果は限定的ですが、プロセス全体の近代化・効率化への投資が省エネ設備の入れ替えと同時に行われるため、間接的な脱炭素効果が生まれます。

日本製紙連合会は2021年1月に「製紙業界-地球温暖化対策長期ビジョン2050」を発表し、大手製紙メーカー各社も2050年カーボンニュートラルを宣言している。
[4] この流れの中で、TCF漂白への移行はESGスコアリングの「E(環境)」軸での加点要素として位置付けられるようになっています。調達部門として、サプライヤーのCO₂削減目標やSBT(Science Based Targets)の有無と合わせて、漂白方式の確認を一体的に行う体制が今後のスタンダードになるでしょう。

TCF vs ECF vs 従来型:調達実務で使える比較表

サプライヤー評価・調達仕様書の作成において、漂白方式の違いを定量的に整理することは不可欠です。以下は当社が調達評価フレームとして整理した比較表です。

評価項目 従来塩素漂白(C/H系) ECF漂白 TCF漂白
主要漂白剤 塩素ガス・次亜塩素酸塩 二酸化塩素・酸素・H₂O₂ 酸素・オゾン・過酸化水素
塩素元素の使用 あり(大量) あり(塩素化合物形態) なし(完全排除)
排水中AOX濃度 高(管理値超えリスク大) 低(大幅削減) ほぼゼロ
クロロホルム発生量(t/パルプt) 200〜300g[1] ほぼ発生なし(1t未満/工場)[1] 検出限界以下
ダイオキシン類発生リスク あり(規制対象) 低(AOXとして管理) 実質なし
製造コスト(相対) 高(オゾン発電コスト)
パルプ白色度(達成可能レベル) 高(90 ISO以上容易) 高(同等)[1] 中〜高(条件依存)
パルプ繊維強度 低下リスクあり 良好[1] 収率低下リスクあり
リサイクル適性 低(残留塩素化合物あり) [3] 最高(塩素ゼロ)
主な用途適合 一般印刷用紙(縮小中) 汎用印刷・包装用紙 電子部品絶縁紙・医療用紙
ESG調達要件充足度 ✕(不適合) ◎(国内標準) ◎+(欧州要求水準)
設備投資の必要性 不要(既存設備) 中規模改修 オゾン発生装置等大規模設備

調達購買部門が押さえるべき経済インパクト

TCFパルプを調達要件に組み込む際に最も頻繁に発生する議論が「コスト増の正当化」です。ここを曖昧にすると、内部承認が降りず調達仕様が形骸化します。

コスト構造を整理すると、TCFの上乗せコストは主に「オゾン製造電力費」と「設備償却費」に由来します。
従来製法の塩素漂白に比べてオゾン生産用電気代などやや コストが掛かるが、排水処理の負荷が軽減されるなど、現在では従来の塩素漂白とあまり変わらないコストになっている
という評価もある一方で、オゾン発電コストが高い日本では欧州に比べてTCFコスト優位性が出にくい構造があります。[2]

一方でTCF採用によるコスト低減効果も確実に存在します。①排水処理設備の負荷軽減によるランニングコスト削減、②有機塩素系廃液の特別産廃処理費用の削減、③欧州顧客・グリーン調達要件への対応コストの回避、④ESGスコア向上による資金調達コストの低下——これらを総合評価すると、中長期での投資回収は成立するケースが増えています。
脱炭素に向けた技術革新や事業構造の変革は企業の強みとなる。2020年時点で3,500兆円規模にまで拡大した世界のESG資金を呼び込むために、投資家の視点も理解しながら多排出産業もその戦略を開示することが求められている。
[4]

TCFパルプが特に求められる製品領域——電子・医療・食品包装

汎用印刷用紙でのTCF採用が限定的である一方で、特定用途では「TCF必須」とされる領域が存在します。調達実務でこれを見落とすと、製品の品質クレームや顧客への納入不適格に直結します。

TCFはECFよりも製造コストが掛かるが、紙中に塩素化合物を含まない利点から、電気絶縁用コンデンサペーパーや電池隔膜などの特殊な利用が多い。
[2] これはリチウムイオン電池や電解コンデンサの製造に直接関わる分野です。微量の塩素イオンが電気絶縁性能を劣化させるリスクがあるため、材料スペックとしてTCF品が指定されるケースがあります。電気電子分野の調達担当者はこの要件を仕様書に明記することが欠かせません。

食品包装用途では、欧州の食品接触材料規制(EU 10/2011等)への対応から、AOXゼロであるTCFパルプの採用が拡大しています。特に欧州向け輸出製品に使用するパッケージング材料は、この要件に対して一次ソースレベルの証明書(試験成績書・認証書)を求められることが増えています。医療機器包装(ISO 11607適合)においても、無塩素の漂白方式は滅菌適合性の観点から好まれます。

TCF調達で機能するサプライヤー評価軸

「TCFパルプを使いたい」という調達要望が社内から上がった際、評価・選定プロセスを体系化しておかないと、サプライヤーの自己申告を鵜呑みにするリスクがあります。当社が実際に活用している評価フローは以下の通りです。

Step 1 書面確認:漂白シーケンス図(O-Z-P等のフロー)と直近2年分の排水AOX測定記録を取得。TCF品であれば塩素系薬品の購買実績がゼロであることを発注書・購買台帳で確認します。

Step 2 認証確認:FSC(Forest Stewardship Council)やPEFC認証の有無を確認。これらは持続可能な森林管理の証明ですが、漂白方式を直接は問いません。「TCF」の表示は製品規格書(Technical Data Sheet)に記載されているかを個別に確認します。

Step 3 現地視察:オゾン発生装置・過酸化水素の受入設備・塩素系薬品の保管なし——の3点を目視確認。
クラフトパルプの漂白工程で使用するオゾンは、製造現場にオゾン発生装置を設置し、自社で調製することが一般的である
ため、この設備の存在確認がTCF真正性の最も直接的な証拠になります。[1]

Step 4 第三者試験:TCF品であることをISO 9197等に基づく塩素含有量試験(蛍光X線分析等)で確認。異なるロット間での数値ばらつきを確認して仕様適合性を担保します。

調達現場で押さえるポイント

製造業の調達購買10年以上の経験から、「TCF」という表記が調達要件書に入っているのに、実際には二酸化塩素を使ったECF品が納入されるケースを複数確認しています。特にOEMサプライヤーが2次調達先からパルプを仕入れる際に起きやすい問題です。購買担当者が調達先の「紙商社」の説明をそのまま受け入れるのではなく、末端の製紙工場レベルまでトレーサビリティを確認することが肝要です。

TCF技術の将来展望とバイオリファイナリーとの接合

TCF漂白の将来は、単なる「塩素排除」の技術としてではなく、パルプ・製紙産業の構造変革の一部として位置付けられる方向に進んでいます。

木材からパルプ・リグニン等を成分分離する紙・パルプ産業の技術は、化石資源由来の化学製品に替わり木質資源から化学製品を製造する「バイオリファイナリー」技術として展開することで、社会全体のカーボンニュートラルに貢献する。
[4] セルロースナノファイバー(CNF)の製造においても、TCF処理済みのパルプが原料として求められるケースがあります。残留塩素化合物がCNF表面の化学修飾反応を阻害する可能性があるためです。

また、
これまでも燃料転換・省エネに取り組むことで、2020年度実績で2013年度比約320万t-CO₂を削減しており、新たな技術を加えてさらなる対策を進める
方針の下、[4] 製紙業界全体がプロセス刷新に積極的な投資をしています。TCF漂白設備の導入はその一環として加速する可能性が高い。

調達戦略として注目すべきは、TCF対応サプライヤーが「環境対応型サプライヤー」として優先調達リスト(アップリスト)に入りやすくなっている流れです。欧州系OEMや消費財メーカーが自社のScope 3削減目標を調達要件に組み込む動きが進む中で、TCF対応の先行投資が入札資格の条件になる事例が出始めています。
日本製紙連合会は1997年の「環境に関する自主行動計画」制定以降、8回にわたり本計画の目標値を順次強化改定し、温暖化対策・資源環境問題へ業界を挙げて積極的に取り組んできた。
[6] こうした業界全体の動きを、調達部門は「外部環境の変化」として経営層に示す材料に活用すべきです。

調達部門が今すぐ取るべき具体的アクション

TCF漂白という技術トレンドを「知識」で終わらせず、調達オペレーションに組み込むためのアクションリストを整理します。

① 現在の調達先の漂白方式の棚卸し
紙・パルプ関連サプライヤーの購買データから、現在使用しているパルプ・紙製品の漂白方式(ECF/TCF/不明)を分類。「不明」が多い場合はサプライヤーへの情報開示要求を即時実施。

② 製品スペックへのTCF要件の明記
電子部品絶縁材・医療包装・食品接触材など高リスク用途の仕様書に「TCFパルプ使用・AOX規制値(例: 1 kg/tパルプ以下)」を追記。これが漏れているとサプライヤーはECF品を問題なく納入し続けます。

③ ESG調達スコアへのTCF項目の追加
サプライヤー評価シートに「漂白方式」「AOX排水管理実績」「オゾン設備保有」の3項目を追加。重み付けはサプライヤーの用途リスクに応じて調整します。

④ 代替サプライヤーのソーシング
現在のサプライヤーがECF品しか供給できない場合、TCF品を安定供給できる代替先(北欧・カナダ系が多い)を少なくとも2社ソーシングしておく。単一調達リスクの低減にもなります。


出典

  1. [1] 経済産業省「漂白工程の化学物質排出量等管理マニュアル(平成19年度)
  2. [2] Wikipedia「無塩素漂白パルプ
  3. [3] 紙への道「紙のできるまで《パルプ化工程》
  4. [4] 経済産業省「「トランジション・ファイナンス」に関する紙・パルプ分野における技術ロードマップ(2022年3月)
  5. [5] 環境省「2022年度(令和4年度)温室効果ガス排出・吸収量について
  6. [6] 日本製紙連合会「環境行動計画 概要

※ 出典リンクは2026年5月13日時点でリンク到達性を確認しています。

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