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投稿日:2026年5月18日

FTIRによる異物分析サンプリングの基礎とスペクトル解析技術実践講座

FTIRによる異物分析は、「何をどう採る(サンプリング)か」と「得たスペクトルをどう読むか(解析)」の2軸で精度が決まる。装置の性能だけに頼って現場で失敗するケースの9割以上は、この2軸のどちらかに手抜きがある。本稿では、JIS K 0117・J-STAGEの学術論文・産総研公式データベースを一次ソースに据えながら、調達購買の品質保証実務で通用するFTIRサンプリング〜スペクトル解析の全工程を体系的に整理する。

FTIRが異物分析の「第一選択」になる理由とその限界

製造現場で異物が発見されたとき、最初に手が伸びる分析装置はSEM-EDSでも液クロでもなく、FTIRであることが多い。
FT-IRは赤外分光法を原理とする分析装置であり、化合物の定性・定量ができる特性から異物分析・品質管理・開発評価などに広く用いられており、金属以外の試料であれば無機物・有機物問わず何らかの特徴的な情報が得られる
。この「金属以外はとにかく反応する」という広域カバレッジが、調達現場での採用理由の筆頭だ。

一方で、FTIRを万能ツールと勘違いすると分析が迷走する。
複数の有機物が混在しているケースや主成分の類縁物質・劣化物が想定されるケースでは解析が困難な場合があり、FT-IRはまず1stステップとして化合物系統の絞り込みを担う位置付けとなる
。つまりFTIRは「ゴールではなく、原因究明の入り口」として設計することが正しい。

当社では累計200社以上のサプライヤー・クライアントの品質トラブル事例を蓄積しているが、FTIR分析を依頼してくる案件の多くは「樹脂・ゴム・繊維・塗料・油脂系の有機物が疑われる」というものだ。金属加工品のバリや無機フィラーが主体の場合は、最初からSEM-EDS+蛍光X線の組み合わせを推奨することが多い。FTIRにかけるかどうかの前段判断——これが調達側に求められる最初のリテラシーである。

FTIRの基本原理:マイケルソン干渉計とフーリエ変換の役割

FTIRの核心はマイケルソン干渉計にある。
フーリエ変換形赤外分光光度計は、光源部・試料部・分光測光部(干渉計・検出器・増幅器・A/D変換器・サンプリング信号発生器)・フーリエ変換部・データ処理部・表示記録部などで構成される
。光源から出た赤外線をビームスプリッタで2分割し、固定ミラーと移動ミラーで反射させ再合成——この干渉縞(インターフェログラム)をフーリエ変換して初めて「波数 vs 吸光度」のスペクトルが得られる。

JIS K 0117:2017「赤外分光分析通則」では、測定対象となる赤外線の波数範囲を4,000 cm−1〜400 cm−1(波長2.5 μm〜25 μm)と規定している
[1]。この中赤外領域が有機物の化学結合(C-H, C=O, O-H, N-H など)の固有振動数をほぼ網羅するため、官能基の同定に最適とされる。

スペクトル上に現れるピークの位置(波数)はその官能基に固有であり、ピークの強度は濃度・量に依存する。
透過率Tは試料厚さ・濃度とは比例しないが、吸光度Aは試料厚さと比例する
ため、定量分析では吸光度モードを使うことが基本だ。この透過率と吸光度の扱いを混同したまま現場で「ピークが高い=量が多い」と誤読するケースが、現場レベルの典型的な落とし穴となっている。

測定法の選択こそが分析品質を左右する:ATR・透過法・顕微法を比較する

FTIRで最も頻繁に判断ミスが起きるのが「測定法選択」のフェーズだ。サンプルの形状・サイズ・硬さ・透明度によって最適手法は異なる。無計画に最寄りのプリズムに押し付けると、後工程のスペクトル解析が根本から崩れる。

ATR法の潜り込み深さは波数やATRクリスタルの材質で異なるが約1 μm前後であり、透過法のような薄片化をせずに測定が可能となる。ただしATR法では透過法と比べ低波数側での吸収が相対的に大きくなり、ピーク形状に歪が生じる場合がある
[2]。この低波数側強調は、ライブラリー検索(多くが透過スペクトルで構成)との不一致を生みやすい。アドバンストATR補正処理を施せばかなり改善できるが、「補正が必要」という事実を知らずに結果を採用するケースが散見される。

顕微ATRは接触できるスペースがあればサンプリングを必要とせず簡単で便利だが、1〜2 μmの表面情報が主体となるため、試料にバルク(厚み)があり大きさが20 μm程度の場合は全情報が得られる透過法を選択するのが無難
。つまり「表面が問題か、内部が問題か」という原点に立ち返ることが手法選択の出発点になる。

比較項目 透過法(ダイヤモンドセル) 1回反射ATR法 顕微ATR法 顕微透過法
情報深さ 試料全体 〜数μm(表面) 〜1〜2μm(表面) 試料全体
前処理の手間 圧延・薄片化が必要 ほぼ不要 ほぼ不要 切片作製が必要
最小分析サイズ 数十μm〜 数mm(接触面積依存) 数十μm 数μm〜
スペクトル歪み 少ない(厚さ適切な場合) 低波数側強調あり 低波数側強調あり 少ない
黒色・カーボン系試料 困難(光吸収が強い) Ge クリスタルで対応可 Ge クリスタルで対応可 困難
液体・ゲル試料 液体セルが必要 1滴で測定可 微量滴下で測定可 固化・乾燥後に対応
ライブラリー適合性 ◎(直接比較可) △(ATR補正が必要) △(ATR補正が必要) ◎(直接比較可)
非破壊性 圧延で変形あり ◎(非破壊) ◎(非破壊) 切片化で一部破壊
適した異物サイズ 10μm〜数mm 1mm以上が目安 10〜数百μm 数μm〜
混合物・多層試料 差スペクトルで分離可 表面成分のみ反映 マッピングで分布把握 断面分析と組み合わせ
推奨シーン バルク同定・バッチ比較 スクリーニング・液体 微小異物・表面付着物 超微小・薄膜・高精度

調達現場で押さえるポイント

サプライヤーから「FTIRで分析しました」という報告書を受け取る際、測定法の記載が「ATR法」だけで補正処理の有無が書いていないケースに注意が必要だ。ATR補正なしのスペクトルをそのままライブラリー検索にかけると、ヒット精度が大きく落ちる。報告書レビュー時には「ATR補正の有無」「使用クリスタルの種類」「波数範囲」の3点を必ず確認することを当社では標準的な受け入れチェック項目としている。

サンプリング実務:異物の「採り方」が分析精度の8割を決める

スペクトル解析の前に立ちはだかる最大の関門がサンプリングだ。装置がどれだけ高性能でも、サンプリングの段階で異物に別物質が混入すれば、その後の解析は根本から誤る。

FTIRでの異物分析では多くの場合、発見された異物をサンプリングした上で測定を行う。サンプリングの際に異物だけを取り出すことができれば測定結果は異物だけの情報となるが、異物とともに他の物質を取り出していればその物質の影響を受ける
[3]。粉末や液体の中から採取した場合、異物表面に母材が付着していたり内部に染み込んでいる可能性があるため、差スペクトルによる影響除去が必要になる。

産総研の樹脂・ゴム材料分析技術情報DBに収録された実事例では、
赤外分光光度計による正常な製品と異物の測定結果をデータベースで検証したところ材質に差は見られなかったが、差スペクトルを取ることで材料に添加されている添加剤成分が検出され、異物は添加剤が凝集したものと判明した
[4]。「差スペクトルを取る」という一手間が、「材質が同じなので問題なし」という誤判定を回避させた典型例だ。

サンプリングのフローは次の順番で進める必要がある:

  1. 関連情報の収集:異物発見場所・製造工程・使用材料・周囲環境を記録する。「どんな物質が候補になりうるか」の仮説がないと、後工程のライブラリー検索の優先順位がつけられない。
  2. 目視・実体顕微鏡観察:色・形状・光沢・弾性・粘着性を確認。
    異物が樹脂っぽいのか、ゴムっぽいのか、粘着性があるのか、ゲル状なのか、粉っぽいのかといった触感情報は、対象範囲の絞り込みに非常に役立つ
    。写真記録も必須。
  3. 異物の単離:金属製ピンセット・タングステン針などで慎重にピックアップ。粘着テープは接着剤がスペクトルに混入するため使用禁止。ろ紙フィルターも同様に注意が必要。
  4. 必要に応じた前処理:油汚れがある場合は揮発性溶媒で軽洗浄。ただし異物自体を溶かす溶媒は使用しない。粉末・ペレット状異物はダイヤモンドセル上で圧延し、透過法での測定に備える。

製造業の調達購買で10年以上の経験から言えば、サプライヤーが提出してくるFTIR分析報告書の中で、このサンプリング工程の詳細が省略されているものは信頼性が低い。「何をどう採取して、どう前処理したか」が明記されていない報告書は再提出を求めることが品質保証上の正しい対応だ。

スペクトル解析の実践:ピーク読み取りからライブラリー検索まで

サンプリングと測定が終わったら、スペクトル解析のフェーズに入る。ここで「ライブラリーに任せれば自動で答えが出る」と考えると、複合材料・劣化物・複数混合物の場合に確実に行き詰まる。

まず確認すべきは「スペクトルが均一か否か」だ。
得られた測定結果のピーク強度やベースラインに違いがあっても、スペクトル形状が同様であれば同一・均一なものと判断してそのまま定性・解析に進めるが、スペクトル形状に違いが見られた場合はサンプリングのミスかサンプル自体が不均一な混合物である可能性が考えられる
。複数箇所の測定を行い、再現性を確認してから定性に進む。

差スペクトルの活用は、混合物・付着物が絡む異物分析では必須の手法だ。
食品中に見つかった繊維状異物を1回反射ATR法で測定した際、繊維状異物の主成分はセルロース系と判明したが1740 cm−1付近などにセルロースにはないピークが確認された。差スペクトル(繊維状異物−油脂)を取ることで油脂による影響が除去され、純粋なセルロースのスペクトルが得られた
。この手順を知らずに「スペクトルが複雑で同定できない」と諦めるケースが現場では少なくない。

主要官能基の波数目安を頭に入れておくと、ライブラリー検索前の仮説立案精度が大きく上がる。たとえばC=O伸縮振動は1,700〜1,800 cm−1周辺に現れるため、このピークがあればエステル・カルボン酸・ケトンなどの官能基候補が絞れる。O-Hは3,200〜3,600 cm−1に幅広いピークが現れるのが目安だ。
それぞれの官能基は特徴的な固有振動数を持ち、それぞれが異なるバンドとしてIRスペクトルに現れる。個々のバンドから、サンプルにどんな官能基が存在しているかを突き止めることができる

ライブラリー検索は最終的な同定作業だが、
ほとんどの市販スペクトルライブラリーやピークテーブルは透過スペクトルで構成されているため、ATRスペクトルのままライブラリーと比較するとスペクトルサーチのヒット率も低く、曖昧な解釈しかできない
。ATR補正処理を施してからライブラリー検索をかけることが正確な同定の前提条件だ[5]

調達現場で押さえるポイント

金属加工・樹脂成形・化学・電気電子・組立完成品の5ジャンル横断で見ると、スペクトル解析で最も見落とされやすいのが「複合材料中の添加剤ピーク」だ。母材(ポリプロピレン等)の強いピークに隠れる形で、酸化防止剤・滑剤・着色剤のピークが埋もれるケースが多い。主成分を差し引いた残差スペクトルで解析するか、PCA(主成分分析)を組み合わせることでこれを可視化できる。報告書にこの処理が含まれているかどうかが、分析品質のチェックポイントとなる。

異物の形態別・サンプリング手法の選択フレームワーク

中国・東南アジアのサプライヤー網で典型的に見られるのは、現場作業者が「大きさに関わらずとにかくATR法で測定する」という一択思考だ。これでは測定できないケースや、見かけ上は結果が出ても精度が低いケースが頻発する。異物の形態に応じた手法選択が現場レベルで実施できていることが、品質水準の高いサプライヤーかどうかの見極め指標になる。

異物の状態別に整理すると以下の判断が基本となる:

  • 繊維状・1mm以上の固体異物:1回反射ATR法(ダイヤモンドプリズム)が最速。
    1mm以下の小さな異物でも複数あれば集めて非破壊で測定することが可能
    。単体での測定が難しい微小繊維は複数本をまとめてATRクリスタルに押し当てる。
  • 数十〜数百μmの粒子状異物:ダイヤモンドセル上に配置して圧延・透過測定。
    ダイヤモンドセル上にピックアップした異物を載せ、2枚のウインドウでサンドイッチして潰す。潰すと試料が広がるので複数箇所の測定を行い単一成分かどうか赤外スペクトルを確認する
  • 数μm以下の超微小異物:顕微FT-IR(透過または反射)が必要。
    一般的なFT-IRの測定範囲は4,000〜400 cm−1付近で、最高波数分解能は0.1 cm−1、最小測定可能サイズは直径数μm
    のものも市販されている。
  • 黒色・カーボン多含有異物
    赤外光吸収が著しい黒色ゴムの分析では、入射角θを大きくするか、ダイヤモンド(n=2.4)よりも屈折率の高いゲルマニウム(n=4.0)を利用することで潜り込み深さをさらに小さくできる
  • 金属表面付着物・薄膜:顕微反射法または反射吸収法(RAS)を適用。ただし薄すぎる場合はATR法のほうがS/Nが良くなるケースもある。
  • 液体・半固体(オイル・グリス等):1滴をATRクリスタルに直接滴下。揮発する前に速やかに測定する。

FTIRだけでは解決できないケースと多角的評価の組み合わせ方

FTIRが得意とするのは「有機物の官能基同定」に集中している。逆に言うと、無機物・金属・炭素系材料が主体の異物では情報が限られる。
異物分析においてよく用いられる補完分析装置には、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDS:電子顕微鏡による観察像と元素情報が得られる)やエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX:元素情報が大気圧下で簡便に得られる)などがある

実際の品質トラブル解析では、FTIRで有機物系統の絞り込みを行い、SEM-EDSで元素情報を補完し、必要に応じてGC-MSやNMRで詳細構造を確定するという多段階アプローチが最も解決率が高い。

顆粒状薬剤中に混入した黒色異物について、顕微FT-IRではケイ酸塩由来・ブタジエン由来・スチレン由来の吸収が確認され、EPMAでは大量の炭素・多量の酸素・少量のアルミニウムやケイ素が検出されたことで、主成分はスチレンブタジエンゴム(SBR)である可能性が特定された
。FTIRと元素分析を組み合わせることで初めて特定できたこの事例は、分析ルートの設計段階からFTIRを「入り口」として位置づける重要性を示している。

調達現場で押さえるポイント

当社では、サプライヤーから提出された異物分析報告書を審査する際、「FTIR単独で同定完了」となっている報告書には特に注意を払っている。異物が明らかに単一の有機高分子(例:PP・PE・ナイロン)である場合は問題ないが、黒色・半透明・無機混合系の場合はFTIR単独での判定に限界がある。「FTIR+補完分析の結果、総合的に判定した」という記述がある報告書のほうが、分析者の技術水準が高い証左と判断できる。

調達購買部門がサプライヤーに求める分析報告書の水準

品質保証部門と調達部門が連携してFTIR分析報告書を活用するうえで、「どの水準の報告書を合格とするか」の基準を持つことが重要だ。以下に、当社が実際に用いているチェック観点を整理する。

最低限含まれるべき情報:

  • 異物の外観写真(実体顕微鏡またはマイクロスコープ像)
  • サンプリング方法の明記(採取器具・前処理内容・洗浄溶媒)
  • 使用装置・測定法・プリズム種類・波数範囲・分解能
  • バックグラウンド測定位置の記載(反射法・顕微法では特に重要)
  • スペクトル画像(生データ+補正済みデータ)
  • ライブラリー検索の上位候補と適合率
  • 同定根拠となる主要ピークの帰属説明
  • 総合判定と推定混入経路

さらに高水準な報告書に含まれる要素:

  • 差スペクトル解析の有無とその結果
  • 複数測定箇所でのスペクトル再現性確認
  • 補完分析(SEM-EDS・蛍光X線等)との総合判定
  • ATR補正処理の実施有無
  • JIS K 0117:2017など適用規格の明記

JIS K 0117:2017「赤外分光分析通則」は、赤外分光光度計を用いて無機物および有機物の定性分析または定量分析を行う場合の通則について規定しており、2017年3月21日発行・2021年10月20日確認の有効規格
[1]。この規格を分析のベースラインとして明記しているサプライヤーは、少なくとも国内の分析標準に準拠する意識を持っているといえる。

製造業調達現場での活用事例と現場判断のポイント

実務上で頻発する2種類のシナリオを整理する。いずれもFTIR分析の結果を調達判断にどう結びつけるかという観点から重要だ。

シナリオA:受入検査での異物検出(サプライヤー側原因の追及)
購買した樹脂部品の表面に目視で確認できる異物が付着していた。サプライヤーにFTIR分析を依頼したところ「シリコーン系化合物」と同定された。
錠剤表面のシミ状異物を顕微FT-IR分析し差スペクトルを求めてデータベース検索した結果、シリコーン系化合物のFT-IRスペクトル例に類似していることが判明した
という事例と同様に、シリコーン系化合物が検出された場合は「成形工程での離型剤の過剰使用」か「設備の摺動部グリス汚染」が主な候補となる。原因工程の特定には、製造工程フローとの照合が必須だ。

シナリオB:自社工程内での異物発生(内部品質管理)
組立ライン上でロット単位の外観不良が頻発。FTIRで異物を分析したところ、
赤外顕微鏡によるATR法を用いて測定したところ異常部と正常部の測定結果はどちらもポリエチレンテレフタレート(PET)のスペクトルを示しており、両者に明確な差異は見られなかった。このため異常部はPETフィルムの一部が微小な粒子となった後フィルム表面に付着した可能性が考えられた
というケースがある。この場合、異物除去より「PETフィルムの破砕を引き起こしているプロセス条件」を改善することが根本対策となる。FTIRの同定結果がそのまま是正指示の根拠になる典型例だ。

日本ゴム協会誌(J-STAGE)掲載の赤外分光分析の基礎と応用事例に関する学術論文では、
ATR・顕微ATRイメージング・PASなどの応用手法が体系的に整理されており
、製造業での実用場面に即した技術知見を提供している[2]

FTIRサンプリング〜解析でよくある失敗と回避策

長年の現場経験と、当社が関与した品質トラブル解析から抽出した「よくある失敗」を列挙する。これらを知っているだけで、分析依頼・報告書審査の精度が格段に上がる。

  1. 粘着テープでの採取:テープ接着剤が異物に付着し、スペクトルにアクリル系またはゴム系接着剤のピークが混入する。採取後に差スペクトルで除去できる場合もあるが、最初から回避するのが鉄則。
  2. バックグラウンド(BKG)測定位置のミス:反射法・顕微法では、BKG測定位置に微量の異物が付着していると、異物のピークが相殺されてスペクトルに現れなくなる。BKG測定位置は異物から十分離れたクリーンな場所を選ぶ。
  3. 積算回数不足:微小異物や薄い表面膜では信号が弱くS/Nが低下する。積算回数を増やす(例:4→64スキャン)か、MCT検出器に切り替えることで改善できる。
  4. 試料の乾燥不足:水分が残っているとO-Hの幅広いピークが他の吸収帯を隠してしまう。特に食品・医療系試料では乾燥処理を先行させる。
  5. ライブラリー検索の過信:適合率(マッチ率)が80%台でも「同定完了」とする判断は危険。ピーク帰属の手動確認を省略しない。
  6. 測定法固定の思考停止:「うちはATR法一択」という組織文化が品質の天井を決める。試料形態に合わせた測定法の切り替えが、分析精度を根本から変える。

まとめ:FTIRを「調達品質の武器」にするための3つの判断軸

FTIRによる異物分析の実力は、装置スペックではなく「サンプリングの設計力」「測定法の選択判断」「スペクトル解釈の深さ」という3つの人的要素に帰着する。これは調達購買の立場から言えば、サプライヤーの分析能力を評価する際に「装置の有無」より「分析プロセスの記録と根拠」を確認すべきであることを意味する。

J-STAGEに収録された日本接着学会誌の論文をはじめとする査読済み学術成果と、
JIS K 0117:2017「赤外分光分析通則」
という国内規格の骨格を理解したうえで、現場判断を重ねることがFTIR活用の本質的なリテラシーだ。調達部門がこの基礎を持つことで、サプライヤーとの技術対話の質が変わり、品質トラブル対応のスピードと精度が同時に上がる。


出典

  1. JIS K 0117:2017 赤外分光分析通則 | 日本規格協会(JSA)
  2. 赤外分光分析の基礎と応用事例 | 日本ゴム協会誌(J-STAGE)
  3. FTIRの基礎と測定手法 | 日本接着学会誌(J-STAGE)
  4. 異物分析(赤外分光光度計による同定)| 産総研 樹脂・ゴム材料分析技術情報DB
  5. 様々なサンプルの分光分析(赤外・ラマン)| 産総研 樹脂・ゴム材料分析技術情報DB
  6. FT-IR分光法による材料解析(表面設計基礎講座 第XXII講)| 色材(J-STAGE)
  7. 赤外分光法(最新機器分析講座 第VI講)| 色材(J-STAGE)
  8. ATR-FTIR法による高分子材料表面の定量分析 | 材料(J-STAGE)
  9. フーリエ変換赤外分光法(FTIR)と炭素 | 炭素(J-STAGE)
  10. フーリエ変換赤外分光を用いた表面分析例の紹介 | 日本分析化学会誌(J-STAGE)

※ 出典リンクは2026年5月18日時点でリンク到達性を確認しています。

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