投稿日:2025年6月18日

分かりやすい文章の書き方の基本と伝えたい情報の表現法

はじめに:現場で求められる「分かりやすい文章」とは

製造業の現場において、技術者やバイヤー同士で交わされるメールや報告書、手順書、さらには購買先とのやりとりにおいて、「分かりやすい文章を書く力」は、極めて重要なスキルです。

複雑な現象や手順、要件を「誰にでも伝わる」ように表現できなければ、スムーズな連携も、品質やコストの改善も実現できません。

また、昭和時代から続くアナログなコミュニケーション文化が色濃く残る製造業界だからこそ、形式的な表現や曖昧な言い回しが混乱の原因となるケースも多々見られます。

この記事では、製造現場の知見と20年以上に渡る業界経験を基に、実践的な「分かりやすい文章の書き方」と「伝えたい情報の表現法」を徹底的に解説します。

分かりやすさの本質:「相手に伝える」ことの重要性

なぜ分かりやすい文章が求められるのか

分かりやすい文章が求められる最大の理由は、「誤解」や「伝達ミス」を防ぎ、的確な意思疎通を実現するためです。

たとえば、設備のメンテナンス手順や資材発注に関する指示が曖昧だと、手戻りやトラブル、納期遅延の根本原因となります。

分かりやすい文章は、このようなリスクそのものを未然に防ぎます。

アナログ業界ならではの課題

製造現場ではいまだに紙ベースの書類や口頭伝達が根強く残っている一方、海外サプライヤーや若い人材とのやりとりも増えています。

この「ギャップ」を埋めるには、過度に形式的な言葉を避け、誰もがすぐ理解できる“翻訳可能な日本語”を心掛ける必要があります。

分かりやすい文章の書き方の基本

1. 事実と意見を分ける

まず最初に、書き手の「主観(意見、感想)」と「客観的な事実」を明確に区別することが大切です。

例えば、「A工程は遅れていて非常に困った状態です」という表現では、読者ごとに困った度合いが違い、指示も曖昧です。

「A工程は予定比2時間遅れ。B工程への影響が予想されます」のように、具体的な数値や影響を書きましょう。

2. 結論から書く「PREP法」が最強

製造業の現場では要件や問いに対し、とにかく簡潔に「結論」を知りたい現場リーダーやバイヤーが多いため、最初に結論を書くことが鉄則です。

【PREP法の流れ】

1. Point(結論):最初に主旨を明確に 
2. Reason(理由):理由や根拠を述べる 
3. Example(例):具体例やデータで補強 
4. Point(結論再提示):まとめとして繰り返す

たとえば、発注先への価格交渉文なら、

「〇〇部品の単価について値下げをお願いします。理由は量産化により作業効率が向上したためです。実際、直近3カ月で月産ロットが1000個から2000個に増加しています。ご検討をお願いいたします。」

といった形式が効果的です。

3. 1文1テーマで簡潔に

一つの文に主張を詰め込みすぎないことが大切です。

1文で説明したい内容は1テーマ。接続詞「しかし、また、そして」でどんどん長くならないように注意しましょう。

また、3行以上にわたる長文は分割し、改行を入れるだけで文章の見やすさが格段にアップします。

伝わる説明文に仕上げる具体的テクニック

1. 数字や固有名詞を盛り込む

「多い」「少ない」「早く」「遅れている」といった抽象表現は極力避けてください。

「予定比30%増」「出荷リードタイム2日短縮」など、数字で定量化することで曖昧さがなくなります。

また、設備名称(例:NC旋盤 XYZ200)や製品コード(第三分類-003)などの固有名詞は、そのまま記載することが間違いを防ぐカギになります。

2. 図・表・箇条書きを活用する

文章だけで伝えきれない場合には、積極的に図や表、箇条書きを取り入れましょう。

特に、複数の要点や手順、比較事項を書き出す場合、「・」や「1. 2. 3.」の番号付けによって、視覚的に一目で理解できる形になり、読む側のストレスも軽減します。

3. 専門用語は脚注か注釈でカバー

業界用語・社内略語を多用しすぎると、特に新任バイヤーや仕入先の新人担当が理解できず疑問点が残りやすくなります。

必要に応じて「(※ダイカスト:金属を溶かして型に流し込む成型方法)」のように、簡単な説明を添える心配りを忘れずに。

製造現場・購買部門それぞれの視点で考える「伝え方」

現場リーダー:作業者・管理者双方に向いた文章

現場の作業者には「何を、どうやって、いつまで」の3点セットが必須です。

たとえば、「工程切替手順は別紙マニュアルP10参照。切替完了後、14時までに生産状況を管理システムに登録してください。」といったように、具体的な指示と参照先をセットで伝えます。

現場の管理者には、トラブル時の復旧対策やフォロー内容も、一目で判断できるよう時系列や重要度順にまとめると良いでしょう。

バイヤー:価格・品質・納期の三要素を明確に

バイヤーの社内外交渉においては、情報の粒度と客観性が重要です。

場合によっては、「コストダウン提案への根拠:今期調達実績(添付資料参照)、現行条件、今後の需要見込み」など関連資料・数字を盛り込むことで意思決定の納得感が高まります。

また抜け漏れを防ぐため「次回会議までに要回答・要確認リスト」も脚注で明確化しましょう。

サプライヤー:バイヤーが知りたい“見える化”とは

サプライヤー側からすれば、自社都合や専門的な言い回しはつい多くなってしまいます。

しかし、バイヤーが求めているのは「納期・品質・価格・生産能力」の見える化です。

状況説明では「現在、〇〇工程での製造が滞っています(理由:設備トラブルによる停止、復旧見込は6/21午後)。出荷遅延に伴う追加費用は発生しません。影響範囲:A・B両部品、カスタマーX様納入分」といった形で、バイヤー視点で「何に影響して何がどうなるのか」を一目でまとめましょう。

昭和アナログ思考からの脱却:新たな表現習慣のすすめ

ブラックボックス化を防ぐ「オープン情報」の時代へ

既得権益や責任の所在不明瞭さ、口伝え文化──日本の製造業ではこうした“昭和の負の遺産”が未だ尾を引きます。

今求められているのは、誰もが見れば分かる、プロセスが追跡できる「オープンな情報共有」のスタイルです。

部署や担当を超えた共通言語として、「属人化しない文章力」「隠しごとのない説明力」を養うことが、働き方改革や職場の多様化にも直結します。

業界動向:「見える化」と「透明性」強化の流れ

昨今では、大手メーカーでもサプライズのない事前説明、トレーサビリティの明文化、調達購買プロセスの「見える化」が急速に進んでいます。

文書化や表現ルールの統一化が進むと、社内外コミュニケーションの質は飛躍的に向上します。

自動化・DXの時代だからこそ、人が書く文章の力が引き立つシーンは増えているのです。

まとめ:分かりやすい文章が“信頼”を生む

工場現場でも、バイヤーの交渉現場でも、「分かりやすさ」は信頼構築の土台です。

読んだ相手が迷わない、疑問が残らない文章は、余計なトラブルや再確認の手間を大幅に減らします。

そのためには、誰が見ても内容が一目瞭然となる「結論ファースト」「数値・固有名詞・図表活用」「読み手中心の言い換え」という基本を徹底して磨くことが欠かせません。

製造業はこれからも進化し続けます。

どんな時代になっても「伝わる文章力」を身に付け、業界の発展をともに支えていきましょう。

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