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チタンの種類 JIS H 4600・H 4650 の選び方——純チタン 1〜4 種と 64 チタン、発注での指定

この記事のポイント(結論先出し)
チタンの板と条は JIS H 4600、棒は JIS H 4650 で、種類と仕上方法の記号(板なら TP 340 C、棒なら TB 340 H など)で注文する[1][2]。工業用純チタンの 1〜4 種は、酸素や鉄などの不純物の上限が違い、1 種がいちばん軟らかく、4 種の引張強さは 550〜750 MPaになる[1]。純チタンの機械的性質はこうした不純物元素の量に強く支配される、と解説されている[4]。「64 チタン」は Ti-6Al-4V の 60 種で、板・棒とも引張強さ 895 MPa 以上・耐力 825 MPa 以上が規格値である[1][2]。板の 60 種は熱間圧延の板だけで、条は規定されていない[1]。超音波による内部性状の試験は、板では 1〜4 種と 11〜13 種に、棒ではすべての種類について、注文者の要求がある場合に限って適用される[1][2]。試験成績書も求めたときに出るものなので[3]、注文時に求めておけば種類と強度を照らし合わせられる。
目次
チタンは、形状ごとの JIS と「種類+仕上方法」の記号で指定する
図面に「材質:チタン」「Ti」「64 チタン」とだけ書かれていると、どの材料を買えばよいかが決まらない。板と条は JIS H 4600(チタン及びチタン合金-板及び条、2012 年 4 月 20 日改正)、棒は JIS H 4650(チタン及びチタン合金-棒、2016 年 5 月 20 日改正)で規定されている[1][2]。
どちらの規格も、種類と仕上方法の組み合わせで記号を決めている。JIS H 4600 では、工業用純チタン 2 種の板で熱間圧延なら TP 340 H、冷間圧延なら TP 340 C、条なら TR 340 H・TR 340 C である。JIS H 4650 の棒では、2 種の熱間加工が TB 340 H、冷間加工が TB 340 C になる[1][2]。記号の数字は、純チタン系では引張強さの下限値と同じ数になっている(2 種の引張強さは 340〜510 MPa)[1]。
注文書には「JIS H 4600 2 種(TP 340 C)」のように、規格番号・種類・記号を書く。種類だけ、記号だけでは、板か棒か、熱間か冷間かが伝わらないことがある。JIS H 4600 の表示の箇条は、製品に規格番号、種類及び仕上方法またはそれらの記号、寸法、製造番号、製造業者名またはその略号を表示するよう求めている[1]ので、受入では現品の表示と注文書を突き合わせられる。
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純チタン 1〜4 種:不純物の上限が違い、強さと加工性が変わる
工業用純チタンは、合金元素を加えないチタンである。金属材料技術研究所の研究者による解説(1992 年)は、工業用純チタンはチタンの「軽い、強い、耐食性が良い」という特徴のうち耐食性の良さを活用する構造材料で、その機械的性質は酸素・窒素・鉄などの不純物元素の量に強く支配される、と書いている[4]。JIS H 4600 の 1〜4 種も、主にこの不純物の上限で分かれている。
| 種類(板の記号) | O(%) | Fe(%) | 引張強さ MPa | 耐力 MPa | 伸び % | 曲げ(180°)の内側半径 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 種(TP 270) | 0.15 以下 | 0.20 以下 | 270〜410 | 165 以上 | 27 以上 | 厚さの 2 倍 |
| 2 種(TP 340) | 0.20 以下 | 0.25 以下 | 340〜510 | 215 以上 | 23 以上 | 厚さの 2 倍 |
| 3 種(TP 480) | 0.30 以下 | 0.30 以下 | 480〜620 | 345 以上 | 18 以上 | 厚さの 3 倍 |
| 4 種(TP 550) | 0.40 以下 | 0.50 以下 | 550〜750 | 485 以上 | 15 以上 | 厚さの 3 倍 |
| 60 種(TAP 6400) | 0.20 以下 | 0.40 以下 | 895 以上 | 825 以上 | 10 以上 | 105° 曲げで厚さの 5.5 倍または 6 倍 |
表の値は JIS H 4600 の表 2 と表 3 から抜き出したもので、曲げ試験は厚さ 0.5 mm 以上 5 mm 未満の板に適用される[1]。純チタンの棒(JIS H 4650)も、径などが 8 mm 以上なら同じ引張強さ・耐力・伸びの値で、硬さ(1 種 100 HBW 以上など)は注文者の要求がある場合に限って適用される[2]。
選び方の目安は、加工のしやすさと強さの兼ね合いである。成形や絞りが多い部品では伸びが大きく曲げの条件が緩い 1 種・2 種、強度が要る部品では 3 種・4 種を検討する。どの種類にするかは、部品の荷重と加工方法を知っている設計が決める。表面の硬さについては、チタン材の民生用途を扱った解説(2022 年)が、工業用純チタン(JIS 2 種)のビッカース硬さは 120 程度で SUS304 の 170 程度より低いと書き、時計の外装などでは耐傷つき性を上げるために表面に硬化皮膜や硬化層を作って使うのが一般的だとしている[5]。外観部品に純チタンを使うときは、傷のつきやすさを前提に表面の仕様を決める。
耐食チタン合金(11〜23 種)という選択肢
JIS H 4600 には、純チタンにパラジウムやルテニウムなどを少量加えた 11 種〜23 種もある。表 1 の特色及び用途例(参考)では、これらは耐食性に優れ、特に耐隙間腐食性に優れる(または良い)耐食チタン合金で、化学装置、石油精製装置、パルプ製紙工業装置などに用いるとされている[1]。純チタンで隙間腐食が心配な装置の部材なら、これらの種類を候補にする判断がある。種類ごとに成分の範囲と強度の値が違うので、規格の表 2・表 3 で確かめる。
64 チタン(60 種):強さは高いが、作り方で性質が変わる
いわゆる 64 チタンは、アルミニウム約 6%・バナジウム約 4% を含む Ti-6Al-4V で、JIS H 4600 では 60 種(α-β 合金、記号 TAP 6400 H)として規定されている。適用厚さは 0.5 mm 以上 100 mm 以下で、仕上方法は熱間圧延だけであり、条の記号は無い[1]。成分はアルミニウム 5.50〜6.75%、バナジウム 3.50〜4.50% で、引張強さ 895 MPa 以上、耐力 825 MPa 以上、伸び 10% 以上である[1]。棒では JIS H 4650 の 60 種(TAB 6400 H)で、適用寸法は径・厚さ・対辺距離が 8 mm 以上 100 mm 以下、規格値は引張強さ 895 MPa 以上、耐力 825 MPa 以上、伸び 10% 以上、絞り 25% 以上である[2]。
酸素・窒素・水素・鉄の含有量を特に低く抑えた ELI 材は、60E 種(TAP 6400 E H、TAB 6400 E H)として別に規定され、板では適用厚さが 0.5 mm 以上 75 mm 以下、強度の下限は引張強さ 825 MPa・耐力 755 MPa と 60 種より低い。用途例(参考)には、極低温までじん性を保つ構造材として、有人深海調査船の耐圧容器や医療材料などが挙がっている[1]。60 種と 60E 種は同じ「64 チタン」と呼ばれることがあるが、規格の上では別の種類である。
Ti-6Al-4V は、製造条件で組織と性質が大きく変わる
先の解説(1992 年)は、Ti-6Al-4V をチタン合金の中で最も多く用いられ、チタン合金総生産量の約 75% を占める合金としたうえで、この合金の特徴は製造プロセスの条件によって組織が大きく異なり、同時に機械的性質、特に靱性と疲労特性が大きく変動することで、要求される特性に応じて組織を適切に制御することが極めて重要だ、と書いている[4]。
JIS H 4600 と H 4650 の 60 種の規格値は種類ごとに一つで、熱処理の状態による区分は設けられていない(溶体化処理材として規定されているのは 80 種である)[1][2]。疲労や靱性が問題になる部品で、規格値の引張強さだけを受入の根拠にするのは足りない。必要な性質(疲労強度、破壊靱性、組織の形態など)がある場合は、その試験と合否、材料の熱処理の状態を、注文時に仕入先と協定する。これは規格の要求ではなく、解説の内容を踏まえた発注側の指定の提案である。
加工と溶接で起きやすいこと
切削は工具寿命が短くなりやすい
Ti-6Al-4V の穴あけを扱った研究(1992 年)は、チタン合金の被削性は工具寿命から見て非常に悪く、超硬ドリルでも穴あけはかなり困難だとし、その理由として、チタンは化学的な活性が高く親和性が強いこと、熱伝導率が鋼の約 1/5 と非常に小さいことを挙げている。ドリル加工では切りくずが工具に食いつきやすく、切れ刃の温度がきわめて高くなり、工具のすくい面への切りくずの凝着やチッピングが起きやすい、とも書いている[6]。
見積の段階では、同じ形状でもステンレスや鋼より加工時間と工具費がかかる前提で比べる。穴の多い部品や深穴のある部品は、加工方法の提案を仕入先に求めた方がよい。
溶接はシールドの管理がすべて
工業用純チタン板の溶接雰囲気を調べた研究(1962 年)は、チタンとその合金は高温で窒素・酸素・水素ガスと急速に反応してぜい化する性質を持つため、高温加工、とくに溶接時には溶融部と加熱部を不活性ガスで完全にシールドして空気と遮断しなければならず、シールドに使う不活性ガスの純度も溶接部のぜい化の度合を決める重要な因子だ、と書いている[7]。
チタンの溶接を含む部品を発注するときは、溶接方法と、シールドの範囲(裏側を含むか)、使うガスの純度、溶接部の検査を仕入先と決める。溶接を含む部品で何を指定するかの全体は溶接を含む部品の発注で指定することで扱った。
発注のときに書くことと、受け入れるときに確かめること
寸法の許容差は、仕上方法で変わる
JIS H 4600 の板の厚さの許容差は、純チタン系の熱間圧延板では厚さ 3 mm 以上 5 mm 未満で ±0.36 mm、冷間圧延板では 1 mm 以上 1.5 mm 未満で ±0.13 mm などと分かれている。60 種・60E 種・61F 種は別の欄で、熱間圧延の厚さ 1 mm 以上 1.5 mm 未満で ±0.15 mm などである[1]。棒の JIS H 4650 では、径・厚さ・対辺距離が 8 mm 以上 25 mm 未満のとき、熱間加工が ±0.4 mm、冷間加工が ±0.1 mm である[2]。規格の範囲外の寸法(幅 1 000 mm を超える板など)は受渡当事者間の協定になるので、注文書で許容差を決めておく[1]。
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注文者が要求したときだけ適用される項目
板の内部性状(超音波探傷)は 1 種〜4 種と 11 種〜13 種について規定され、注文者の要求がある場合に限って適用し、有害な欠点の判定基準は受渡当事者間の協定による[1]。棒の内部性状も同じく、注文者の要求がある場合に限って適用され、判定基準は協定による[2]。棒の硬さも注文者の要求がある場合に限って適用される[2]。外観の有害な欠点の判定基準と欠点の処置も、両規格とも受渡当事者間の協定による[1][2]。厚肉の削り出し部品で内部の欠陥が心配なら、内部性状の試験と判定基準を注文時に要求する。
試験成績書は、求めたときに出る
両規格とも検査の一般事項は JIS H 0321(非鉄金属材料の検査通則)によるとしている(ただし JIS H 0321 の化学成分の箇条は適用しない)[1][2]。その JIS H 0321 の報告の箇条では、試験の成績や製造番号・製造年月・数量などを書いた明細書の提出は、注文者が要求したときの製造業者の義務になっている[3]。成績書は求めたときに出るものなので、注文時に求めておく。成績書が届いたら、種類と仕上方法の記号、化学成分(酸素・鉄の値が種類の上限に入っているか)、引張試験の値、製造番号を確かめる。検査文書の区分(EN 10204 の 3.1 など)で指定したい場合の考え方はEN 10204 のミルシート区分にまとめた。
海外の仕入先がチタンを別の規格の記号で納める場合は、名前が似ていても成分の範囲や試験の条件が同じとは限らない。承認の手順は同等材の指定と承認で扱った。
注文書の書き方の例
規格の書式ではなく、発注側の書き方の提案として例を挙げる。
「材質:チタン板 JIS H 4600 2 種 冷間圧延(TP 340 C)、厚さ 1.0 mm。試験成績書を添付し、化学成分(O・Fe・N・C・H)と引張強さ・耐力・伸びを記載すること。種類の変更と他規格材への置き換えは事前承認を要する。」
64 チタンの棒なら「JIS H 4650 60 種(TAB 6400 H)、径 40 mm。内部性状(超音波探傷)を要求し、判定基準は別紙による」のように、要求する試験を明記する。
よくある質問
「チタン 2 種」と「TP 340」は同じですか
JIS H 4600 では、2 種の板の記号が TP 340 H(熱間圧延)と TP 340 C(冷間圧延)である[1]。同じ 2 種でも、棒なら JIS H 4650 の TB 340 H・TB 340 C になる[2]。「2 種」だけでは形状と仕上方法が決まらないので、記号まで書く。
64 チタンの薄い条(コイル)は JIS で買えますか
JIS H 4600 の 60 種は熱間圧延の板(TAP 6400 H)だけで、条の記号は無い[1]。条として買うなら、規格外の材料として仕様を協定することになる。
純チタンを 4 種にすれば強い部品になりますか
4 種の引張強さは 550〜750 MPa で 1 種(270〜410 MPa)より高いが、伸びは 15% 以上と小さく、曲げの内側半径の条件も厚さの 3 倍と厳しくなる[1]。強さと成形性の兼ね合いで選ぶ。さらに強さが要るなら 60 種などの合金が候補になるが、加工の難しさとコストも変わる[6]。
まとめ
チタンは、板と条が JIS H 4600、棒が JIS H 4650 で、種類と仕上方法の記号(TP 340 C、TB 340 H など)まで書いて注文する。工業用純チタンの 1〜4 種は酸素や鉄などの不純物の上限が違い、1 種が最も軟らかく伸びが大きく、4 種が最も強い。64 チタンは Ti-6Al-4V の 60 種で、引張強さ 895 MPa 以上・耐力 825 MPa 以上だが、板は熱間圧延だけで条は規定されていない。ELI 材の 60E 種は別の種類である。Ti-6Al-4V は製造条件で組織と疲労・靱性が大きく変わると解説されているので、それらが要る部品では試験と合否を協定する。切削は工具寿命が短くなりやすく、溶接は不活性ガスのシールドの管理が欠かせない。内部性状の試験や棒の硬さは注文者の要求がある場合に限って適用され、成績書も求めたときに出るので、注文時に要求する項目をまとめて書いておく。
同じ束では、もう一つの軽量の高強度材料をA7075(超々ジュラルミン)の指定で、ばね材料をピアノ線とばね鋼の選び方で扱う。耐食材料として比べられることの多いステンレスはステンレスの発注で指定することを参照してほしい。
出典・参考資料
- JIS H 4600:2012 チタン及びチタン合金-板及び条(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2012 年 4 月 20 日改正・2022 年 10 月 20 日確認)
- JIS H 4650:2016 チタン及びチタン合金-棒(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2016 年 5 月 20 日改正・2026 年 6 月 22 日確認)
- JIS H 0321:1973 非鉄金属材料の検査通則(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1973 年 3 月 1 日改正・2024 年 10 月 21 日確認)
- 河部義邦「金属材料の現状と今後の動向 チタン系材料」繊維学会誌 48 巻 9 号(繊維学会/1992 年 9 月)
- 森健一「民生部品へのチタン材の適用」表面技術 73 巻 1 号(表面技術協会/2022 年 1 月)
- 櫻井恵三ほか「Ti-6Al-4V 合金の穴あけ」軽金属 42 巻 7 号(軽金属学会/1992 年 7 月)
- 鈴木春義・橋本達哉・松田福久「工業用純チタン板の溶接雰囲気が溶接結果に及ぼす影響」溶接学会誌 31 巻 4 号(溶接学会/1962 年 4 月)
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