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投稿日:2026年10月1日

フリーランス法と製造業の外注——個人に頼むときの書面と義務

この記事のポイント(結論先出し)

2026 年 10 月時点の整理である。フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は 2024 年 11 月 1 日に施行され、従業員を使わない個人や一人会社に仕事を頼む会社に、頼んだ時点で取引条件を書面か電子で示すことを義務づけている[1][2]。製造業で見落としやすいのは、取適法の対象にならない取引でもこの法律はかかることである。自社で使う治具・設備の製作や、工場の保守・清掃のような自社で使う役務も対象に入る[3]。従業員のいる会社が頼む場合は、受け取った日から 60 日以内の支払期日、1 か月以上の取引での 7 つの禁止行為、6 か月以上の取引を切るときの 30 日前の予告も加わる[1]。2025 年度に公正取引委員会が措置した 1,552 件を違反行為の類型別に数え直した 2,727 件のうち、支払期日の違反と取引条件の明示義務違反が 4 割ずつを占めた(1 件の事件で複数の類型に措置することがあるため、類型別の合計は措置件数より多い)[5]。

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部品の加工や組立を会社に出すことは多いが、個人に頼んでいる仕事も意外に多い。図面を描く CAD オペレーター、治具や専用機の設計者、取扱説明書の翻訳者、工場設備の保守を一人で請け負う技術者、検査の応援、品質や ISO の助言をするコンサルタント、軽貨物の配送。いずれも相手が従業員を使わない個人なら、この法律の対象になりうる。

法律が対象にする「特定受託事業者」は、業務委託の相手方である事業者のうち、①従業員を使用しない個人、②代表者以外に役員がおらず、従業員も使用しない法人のどちらかである[1]。一人で法人化している設計事務所も②に入る。「従業員を使用」とは、週の所定労働時間が 20 時間以上で、継続して 31 日以上雇用される見込みの労働者を雇うことをいい、条件を満たす派遣労働者の受入れも含まれる。同居の親族だけを使っている場合は「従業員を使用」に当たらない[2]。

頼む側は二段階に分かれる。特定受託事業者に業務委託をする事業者はすべて「業務委託事業者」で、取引条件の明示(第 3 条)の義務を負う。そのうち、従業員を使用する個人、または役員が 2 人以上いるか従業員を使用する法人が「特定業務委託事業者」で、支払期日・禁止行為・解除の予告などの義務がさらに加わる[1]。製造業の会社が発注する場合は、ほとんどが特定業務委託事業者に当たる。

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取適法がかからない取引にもかかる

取適法(中小受託取引適正化法)を守っていれば足りる、とは言えない。二つの法律は対象の決め方が違う。

まず、頼む側の規模の条件がない。取適法は資本金や従業員数で対象を決めるが、フリーランス法の明示義務は、頼む側の規模にかかわらずかかる[1]。従業員を使用していない発注者でも、業務委託事業者として明示は必要だと公正取引委員会の Q&A は書いている[3]。

次に、対象になる取引の範囲が広い。Q&A は、取適法では発注者が製造過程で使う製造機械や工具の製造・加工を他の事業者に委託すること(自家製造している場合を除く)は製造委託に含まれないが、フリーランス法では事業のために物品の製造・加工を委託することはすべて対象になると説明している[3]。役務も同じで、取適法の役務提供委託は自社が他者に提供する役務に限られるのに対し、フリーランス法は自社が自ら使う役務の委託も含む[2][3]。自社ラインの治具を個人に作ってもらう、自社工場の設備点検を個人に頼む、といった取引は、取適法の外でもフリーランス法の内側にある。

両方がかかる取引もある。取適法は個人の受託者も対象にしうるので、資本金や従業員数の基準を満たす会社が従業員を使わない個人に部品加工を委託すれば、両方の法律が重なる。自社の取引が取適法の対象かどうかの判定は自社の取引は取適法の対象かで書いた。

頼む仕事の例(相手は従業員を使わない個人) フリーランス法 取適法
販売する製品の部品の加工 対象(物品の製造・加工の委託) 資本金・従業員数の基準を満たせば対象
自社ラインで使う治具・専用機の製作 対象[3] 自社で同じ物を製造していなければ製造委託に含まれない[3]
製品図面・取扱説明書の作成 対象(情報成果物の作成の委託。設計図が例に挙がる)[2] 基準を満たせば対象
自社工場の設備の保守・清掃 対象(自ら用いる役務も含む)[2] 自ら用いる役務は含まれない[2]
既製品をそのまま買う 原則として委託に当たらない(一部でも加工させれば当たる)[3] 原則として対象外

頼んだら「直ちに」示す——3 条通知に書く事項

業務委託事業者は、特定受託事業者に業務委託をした場合、直ちに、給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を書面または電磁的方法で示さなければならない(第 3 条)[1]。公正取引委員会と厚生労働省の「考え方」が挙げる明示事項は、主に次のとおりである[2]。

  • 双方を識別できる名称(氏名や登記上の名称に限らない)
  • 業務委託をした日(業務委託をすることについて合意した日)
  • 給付の内容(品目・数量・規格・仕様など。知的財産権を譲渡・許諾させる場合はその範囲)
  • 給付を受け取る期日(期間)と場所
  • 検査をする場合は、検査を完了する期日
  • 報酬の額と支払期日
  • 手形・電子記録債権など金銭以外の方法で支払う場合は、その方法ごとの事項

報酬は具体的な金額で書くのが原則だが、原材料費が外的な要因で変動しそれに連動して報酬が変わる場合などは、金額が自動的に決まる算定方法を示すことも認められている[2]。内容が決められないことに正当な理由がある事項は、決まった後に直ちに示せばよい[1]。

取適法と両方がかかる取引では、二通りの書面を作る必要はない。Q&A は、同一の書面や電子メールに両法の記載事項を併せて示すことができるとしている[3]。発注書の様式を一つにして、両法の事項を満たす欄を持たせるのが現実的である。取適法の 4 条明示の項目は発注書の 4 条明示 12 項目、電子で送るときの条件は発注はメールで出してよいにまとめた。

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従業員のいる会社が負う義務——60 日・7 つの禁止・30 日前の予告

支払期日は受け取った日から 60 日以内

特定業務委託事業者は、検査をするかどうかを問わず、給付を受け取った日(役務の場合は提供を受けた日)から 60 日以内で、できる限り短い期間で支払期日を定めなければならない。定めなかったときは受領日が、60 日を超えて定めたときは受領日から 60 日を経過する日が支払期日とみなされる(第 4 条)[1]。元の発注者から受けた仕事を個人に再委託する場合は、再委託であることや元委託の支払期日などを示したうえで、元委託の支払期日から 30 日以内とする例外がある[1]。

支払手段にも注意がいる。取適法の対象取引では手形払いが禁じられたが、Q&A は、フリーランス法だけがかかる取引で手形を交付することが直ちに支払遅延になるわけではないとしつつ、取適法で禁止される支払手段がフリーランスとの取引で使われるのは望ましくないとして、手形以外で支払うことが望ましいとしている[3]。振込手数料を報酬から差し引くことは、合意の有無にかかわらず報酬の減額に当たる[3]。

1 か月以上の取引では 7 つの行為が禁止

政令で定める期間(1 か月)以上行う業務委託、または更新により通算 1 か月以上継続する業務委託では、特定業務委託事業者は次の行為をしてはならない[1][2]。第 5 条第 1 項が 5 つ、第 2 項が 2 つの合計 7 つである。

  1. 相手に責任がないのに受領を拒むこと
  2. 相手に責任がないのに報酬を減らすこと
  3. 相手に責任がないのに、受け取った後に引き取らせること(返品)
  4. 通常支払われる対価に比べ著しく低い報酬を不当に定めること(買いたたき)
  5. 正当な理由がないのに、指定する物の購入や役務の利用を強制すること
  6. 自己のために金銭・役務その他の経済上の利益を提供させること
  7. 相手に責任がないのに、給付の内容を変えさせ、または受け取った後にやり直させること

役務の委託では、受領拒否と返品の 2 つは除かれる[1]。1 か月の数え方は、基本契約がある場合は基本契約の期間で判断し、契約の終了日を定めなかった場合は 1 か月以上とみなされる[2]。治具の設計者と「必要なときに頼む」基本契約を結んでいれば、個々の発注が数日で終わる仕事でも、禁止行為の対象になる。

返品できる範囲は狭い。受入検査を自社で行わず相手に検査を任せる場合でも、その委任が書面か電磁的方法によるもので、直ちに発見できない不適合があるときに、受領から 6 か月以内(一般消費者向けの保証がある場合は 1 年以内)に限って返品が認められる。検査を口頭で任せた場合や誰も検査していない場合は、返品は認められない[3]。受入検査の段取りは発注の前に決めておく。

6 か月以上の取引を終えるときは 30 日前に予告

6 か月以上継続する業務委託(継続的業務委託)を解除するとき、または契約期間の満了後に更新しないときは、少なくとも 30 日前までに予告しなければならない。予告の後、相手から理由の開示を求められたら遅滞なく開示する(第 16 条)[1][2]。設備保守を毎年更新で頼んでいる個人の技術者との契約を、年度替わりで打ち切るような場面が当たる。

相手が「特定受託事業者」かを、いつどう確かめるか

Q&A は、業務委託をする時点で相手の従業員の有無を確認し、口頭でもよいが、トラブル防止の観点から電子メールなど記録の残る方法で確認することが望まれるとしている[3]。判断は委託の時点で行い、委託の後に相手が従業員を使わなくなった場合でも、その委託は対象にならない[3]。相手が事実と異なる回答をし、それを信じた結果違反になった場合でも、是正は必要で、指導・助言の対象にはなりうる。ただし勧告や命令を直ちに行うことはしないとされている[3]。

ここからは実務の提案である。仕入先の登録のときに、法人か個人か、役員の数、従業員(週 20 時間以上・31 日以上の見込み)の有無を聞く欄を設け、回答をメールで残す。従業員の有無は変わるので、取引の更新や大きな発注の前に聞き直す。仕入先マスタに「フリーランス法の対象」の区分を持たせておけば、発注書の様式や支払条件を区分ごとに切り替えられる。マスタの項目の決め方は仕入先マスタに持たせる項目で扱っている。

違反の実態——何が多いか

公正取引委員会の 2025 年度の運用状況によると、新規に着手した違反被疑事件は 1,626 件、勧告と指導の措置は 1,552 件(勧告 10 件、指導 1,542 件)だった。措置を違反行為の類型別に数えた 2,727 件のうち、期日における報酬の支払義務違反が 1,135 件(41.6%)、取引条件の明示義務違反が 1,126 件(41.3%)、買いたたきが 250 件(9.2%)で、この 3 つで 9 割を超える[5]。業種別に見た措置件数は、情報通信業 575 件、学術研究・専門・技術サービス業 326 件、運輸業・郵便業 135 件の順だった[5]。

違反の大半は、書面を出していない、支払いが遅い、という基本の部分にある。逆に言えば、発注書の様式と支払条件を整えれば、多くは防げる。

二つの法律が重なったときの扱い

公正取引委員会が 2024 年 5 月に示した考え方は、フリーランス法と当時の下請法のいずれにも違反する行為については、原則としてフリーランス法を優先して適用するとしている[4]。この文書は下請法が取適法に改正される前のもので、取適法施行後の扱いを確かめるときは公正取引委員会の最新の資料にあたる必要がある。実務では、どちらが優先されるかより、両方の要求を満たす様式にしておくほうが確実である。

2026 年 1 月の取適法の施行にあわせて、フリーランス法の公正取引委員会規則と「考え方」も改正され、同日から施行された[5]。古い様式を使い続けている場合は、明示事項が今の規則に合っているかを確かめておく。

よくある質問

一回きりの図面修正を、数日で頼むだけです。それでも書面が要りますか

要る。取引条件の明示(第 3 条)は期間に関係なくかかる[1]。期間で変わるのは、7 つの禁止行為(1 か月以上)と解除の予告(6 か月以上)である[1]。

相手は副業で受けている会社員です

Q&A は、会社に雇われている労働者でも、副業で他の事業者から業務委託を受けている場合は、その業務の範囲で特定受託事業者に当たりうるとしている[3]。

相手が請求書を出してくれないので、払えません

払わなければならない。Q&A は、請求書の提出の有無にかかわらず、受領日から 60 日以内に定めた支払期日までに支払う必要があるとし、請求書が出ないことは「相手の責めに帰すべき事由」に当たらないとしている。当たる例として挙がっているのは、相手が誤った口座番号を伝えていたため、期日までに振り込んだのに受け取れなかった場合である[3]。請求書の提出期限は、支払期日に間に合う日に設定して発注時に伝えておく。支払手段の切り替えについては紙の約束手形の廃止と支払手段の切り替えも参照。

単価を決めるとき、最低賃金の上昇は考えなくてよいですか

個人の受託者の報酬にも、買いたたきの禁止がかかる[1]。仕入先から最低賃金の引上げを理由とした値上げを求められた場合の考え方は最低賃金の引上げと仕入先からの値上げ要請で扱う。

まとめ

フリーランス法は、従業員を使わない個人や一人会社に仕事を頼むすべての事業者に、頼んだ時点での取引条件の明示を求め、従業員のいる発注者には 60 日以内の支払期日、1 か月以上の取引での 7 つの禁止行為、6 か月以上の取引を終えるときの 30 日前の予告を課している[1]。取適法と違い、頼む側の規模を問わず、自社で使う治具の製作や自社工場の保守のような取引も対象に入る[2][3]。2025 年度の措置を違反行為の類型別に数えると(2,727 件)、支払期日と明示義務の違反で 8 割を超えた[5]。個人への外注を洗い出し、仕入先マスタに区分を持たせ、発注書の様式を両法の事項を満たす形にしておくことが、購買部門で手を付けられる部分である。

出典・参考資料

  1. 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和 5 年法律第 25 号)(厚生労働省掲載)
  2. 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(公正取引委員会・厚生労働省/令和 6 年 5 月 31 日、令和 8 年 10 月 1 日改正版)
  3. フリーランス・事業者間取引適正化等法 Q&A(公正取引委員会/2026 年 10 月 1 日閲覧)
  4. 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律と独占禁止法及び下請法との適用関係等の考え方(公正取引委員会/令和 6 年 5 月 31 日)
  5. 令和 7 年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第 2 章の運用状況及びフリーランスに係る取引の適正化に向けた取組(公正取引委員会/令和 8 年 6 月 10 日)

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