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投稿日:2026年5月14日

EMC指令適合のためのEN 61326-1:2013を元にしたEMC試験と技術文書作成のポイント

この記事のポイント:EU EMC指令(2014/30/EU)の整合規格EN 61326-1:2013は、計測・制御・試験室用機器に課せられるエミッション+イミュニティ両要件を一本で規定する。試験は「テストプラン→EUT構成→試験実施→レポート」の4ステップで進め、技術文書(テクニカルファイル)は出荷後10年間の保管義務がある。日本の製造業が陥りやすい落とし穴は”試験のみ通過・文書が不完全”という構造的な弱点であり、本記事ではその対策を実務視点で掘り下げる。

EMC指令(2014/30/EU)とEN 61326-1:2013の位置づけ

欧州市場に電気・電子機器を投入する製造業者は、CEマーキングを通じてEMC指令への適合を証明しなければならない。[1] EMC指令が求める保護要求事項は大きく2点に集約される。①機器から発生する電磁妨害波が他機器の動作を阻害するレベルを超えないこと(EMI要求)、②機器自身が想定される電磁妨害環境でも意図した動作を維持できるイミュニティレベルを持つこと(EMS要求)。[2]

その具体的な技術要件を定めた整合規格のひとつがEN 61326-1:2013である。国際規格IEC 61326-1:2012をほぼそのまま欧州規格化したもので、[3] 対象製品は「測定・試験・制御・実験室用途向けの電気装置」——すなわち産業計測器、PLCを含む制御機器、ロジックアナライザ、デジタルマルチメータ、トランスデューサなど幅広い製品が該当する。[4]

調達現場で押さえるポイント

当社では欧州向け計測機器・制御機器を調達してきた200社以上の案件を見てきたが、「整合規格として EN 61326-1 を使っていれば大丈夫」と誤解しているメーカーが多い。整合規格の適用は”適合の推定”を与えるだけであり、テクニカルファイルが不備であれば市場監査当局からの是正要求につながる点を必ず共有している。

なお、2021年にEN 61326-1:2021(Ed.3.0)が発行された。[3] 旧版の2013年版(Ed.2.0)は経過措置期間終了後に失効する予定のため、新規開発品については最新版の適用を視野に入れた設計・試験計画が求められる。ただし現在EU官報に掲載されているバージョンと移行期限の確認は、製品投入時点の官報(Official Journal)で必ず確認することが原則である。

EN 61326-1が規定する電磁環境の3分類

本規格の最大の特徴は、使用する電磁環境を3種類に分類し、各環境に応じたイミュニティ要求レベルを切り替える点にある。[5]

  • 基礎電磁環境(住宅・商業・軽工業):CISPR 11 クラスB相当のエミッション限度値、比較的低いイミュニティ要求レベル
  • 工業電磁環境(工業プロセス・工業製造):CISPR 11 クラスA相当、高いイミュニティ要求レベル。産業機器の多くがここに分類
  • 管理された電磁環境(EMCシールド設備内等):専門家のみが使用するシールド室内の測定システム等が対象、緩和されたイミュニティ要求

どの電磁環境に機器を位置づけるかは製造者自身が決定し、その根拠をテストプランおよび技術文書に明記しなければならない。この分類判断を怠って”なんとなく工業環境”と記載するケースが散見されるが、根拠なき分類はテクニカルファイルの審査で指摘される典型例だ。

エミッション要求については、CISPR 11に基づきクラスAまたはクラスBへの適合を求める構造になっており、[5] イミュニティ要求はIEC 61000-4シリーズの各試験規格を引用している。[6]

EN 61326-1:2013に基づく主要イミュニティ試験の全体像

イミュニティ試験では、EUT(被試験装置)に所定の妨害を印加して動作状態を観察し、あらかじめ決めた性能判定基準(Performance Criteria)に従って合否を判定する。[7] 性能判定基準はA・B・Cの3段階に分類される。

EN 61326-1:2013 主要イミュニティ試験項目と性能判定基準の対応表(基礎電磁環境・工業電磁環境)
試験項目 引用規格 基礎電磁環境
試験レベル
工業電磁環境
試験レベル
性能判定
基準
実務上の注意点
静電気放電(ESD) IEC 61000-4-2 接触±2kV / 空気±4kV 接触±4kV / 空気±8kV B EUTの全放電点を事前に洗い出す。樹脂筐体の場合は帯電しやすい箇所に注意
放射電磁界イミュニティ(RS) IEC 61000-4-3 3 V/m(80〜1000 MHz) 10 V/m(80〜1000 MHz) A 電波暗室で実施。EUT動作モードを複数パターンで試験する必要あり
電気的ファストトランジェント(EFT/B) IEC 61000-4-4 ±0.5kV(電源) / ±0.25kV(信号線) ±1kV(電源) / ±0.5kV(信号線) B 接続ケーブルの引き回し方で結果が変化する。実機配線に近い構成が必須
サージイミュニティ IEC 61000-4-5 ±0.5kV(L-N) / ±1kV(L/N-PE) ±1kV(L-N) / ±2kV(L/N-PE) B 接地環境の再現精度が合否を左右。現地設置条件との乖離に注意
伝導イミュニティ(CS) IEC 61000-4-6 3 Vrms 10 Vrms A 全I/Oポートが試験対象。抜け漏れが不適合の主因
電源周波数磁界イミュニティ IEC 61000-4-8 1 A/m 30 A/m A 磁気センサ搭載機器では特に注意。影響は出力変動で現れやすい
電圧ディップ・瞬断 IEC 61000-4-11 0%・40%・70%UT 0%・40%・70%UT B/C 機器のリカバリ動作をテストプランで事前定義することが必須
エミッション(伝導) CISPR 11 クラスB限度値 クラスA限度値 Pass/Fail 0.15〜30 MHzをLISN経由で測定。スイッチング電源が主原因になることが多い
エミッション(放射) CISPR 11 クラスB限度値 クラスA限度値 Pass/Fail 30〜1000 MHzを電波暗室で測定。アンテナ距離・高さの再現が精度のカギ
電圧高調波電流 IEC 61000-3-2 クラス別限度値 クラス別限度値 Pass/Fail 入力電流16A以下の機器に原則適用。AC-DCコンバータの設計が直結
電圧変動・フリッカ IEC 61000-3-3 限度値あり 限度値あり Pass/Fail コンプレッサや大型モータを内蔵する機器で見落としやすい

性能判定基準A・B・Cの意味は端的に言えば「A:試験中も連続動作維持」「B:試験後に正常復帰・データ損失なし」「C:動作機能喪失後も手動リセットで復帰」である。[7] どの試験項目に対してどの基準を適用するかはテストプランで事前に明示し、その内容をユーザーマニュアルにも記載することが規格で要求されている。[7]

テストプラン(第5章)が試験全体を左右する理由

製造業の調達購買10年以上の経験から言えば、EN 61326-1の適合プロセスで最も見落とされやすいのが「テストプランの精度」だ。規格の第5章はテストプランの作成を義務付けており、製品仕様・使用環境・動作モード・許容される性能劣化や機能損失を反映して作成しなければならない。[8]

テストプランが粗いまま試験に臨むと、次の問題が連鎖的に発生する:

  1. EUTの構成が不明確→ケーブル長・接続機器の違いで試験結果が変わり、再現性が確保できない
  2. 動作モードが未定義→最悪動作条件での試験が実施されず、後日現地設置後に不具合が顕在化
  3. 性能判定基準が曖昧→判定者によって合否が変わり、レポートに不整合が生じる
  4. 技術文書との整合がとれない→テクニカルファイル審査で差し戻しを受ける

特に計測・制御機器は製品仕様のバリエーションが多く、オプションボードやファームウェアのバージョン違いで電磁特性が変わる場合がある。テストプランには「この試験はこのハードウェア構成・このファームウェアで実施した」という記録を残すことが、後々の改版管理を含む文書管理の核心になる。

EMC試験を外部試験機関に委託する際の実務的な注意点

産総研(AIST)の技術報告によれば、EMC試験設備(電波暗室や半無響室、LISN等)は精度維持のために定期的な校正・認定が必要であり、ISO/IEC 17025の試験所認定の有無が信頼性の目安となる。[9] 外部機関に委託する場合は認定範囲(スコープ)を確認し、自社が求める試験項目がスコープ内にあるかどうかを発注前に確認することが欠かせない。

中部経済産業局の公式記事でも解説されているとおり、エミッション試験と各種イミュニティ試験では使用する測定設備が根本的に異なる。[10] エミッション試験(伝導・放射)は測定値の精度が施設の環境に強く依存し、特に放射エミッション試験は電波暗室の遮蔽性能が直接計測精度に影響する。

調達現場で押さえるポイント

金属加工・樹脂成形・電気電子・組立完成品の5ジャンル横断で見ると、外部試験機関への委託コストは試験項目数によって大きく変動する。「全試験を一括委託すると費用が高い」という理由で事前評価(プレ試験)を省略するメーカーが多いが、本試験での不合格→再試験のコストは、プレ試験費用の5〜10倍になることも珍しくない。試験前の内部評価投資こそが、トータルコストを下げる最短ルートだ。

技術文書(テクニカルファイル)の作成:何を・どこまで記載するか

EMC指令(2014/30/EU)において製造業者は、機器の適合性を証明するテクニカルファイルを作成・保管する義務を負う。[11] テクニカルファイルには、製品の概要・設計図・回路図・部品一覧・リスクアセスメント・試験報告書・適合宣言書のコピーが含まれる必要がある。[12]

特に押さえるべきは保管期間10年の要件だ。[13] 製造業者は機器を市場に出してから10年間、技術文書とEU適合宣言書を保持しなければならず、市場監査当局からの要請があれば紙または電子データで提出できる状態を維持する必要がある。[13]

JETROの実務ガイドブックが指摘するとおり、CEマーキングは「自己宣言」によって成立するが、これは「第三者機関の審査が不要」という意味にすぎず、技術文書の整備・適合評価の実施・宣言の維持という一連の義務は製造業者が全責任を負う。[14]

テクニカルファイルに含めるべき主要要素をまとめると:

  • 製品の一般的説明(製品名・型番・外形寸法・電源条件)
  • 設計図面・回路図・使用部品リスト
  • EMCリスクアセスメントの記録(使用電磁環境の分類根拠を含む)
  • テストプラン(EN 61326-1 第5章対応)
  • 適用した整合規格のリスト(規格番号・版・発効日)
  • 試験報告書(各試験項目の測定値・判定結果・試験設備の情報)
  • EU適合宣言書(DoC)のコピー
  • ユーザーマニュアル(性能判定基準の情報・使用制限の記載を含む)

EU適合宣言書(DoC)の記載要件と典型的な不備

EU適合宣言書(Declaration of Conformity)には、製造業者名・住所・製品の識別情報(型番・製造番号等)・適用した整合規格一覧・指令名称・署名者の氏名と権限・宣言の日付が含まれなければならない。[12] 製品が複数の指令に該当する場合(例:EMC指令+低電圧指令+RoHS指令)は、1枚のDoCにすべての指令と整合規格を列記するのが一般的なアプローチだ。[15]

調達現場で実際に見てきた不備のパターンを挙げると:

  1. 規格の版が古い:EN 61326-1:2006など失効済み版を記載したまま更新していない
  2. 機器の識別情報が不足:型番のみでシリアル番号の範囲や製造年月日が不明瞭
  3. 複数指令の漏れ:EMC指令だけ記載して低電圧指令の記載が抜けているケース
  4. EU正式代理人(AR)の未記載:EU域外メーカーが正式代理人を設置しているにもかかわらず住所等が不記載
  5. 言語対応の不備:DoCは販売国の言語に翻訳することが求められるが、英語版のみで対応しているケース

これらは試験の合否とは無関係に、書類審査段階で是正要求や上市停止につながるリスクを生む。特に輸入業者が市場に出してから10年間もDoCのコピーを保管する義務を負うことを認識していない日本のメーカーも多い。[16]

EN 61326-1の改版動向とEN 61326-1:2021への移行ポイント

2021年に発行されたEN 61326-1:2021(Ed.3.0)は、IEC 61326-1:2020と同等の内容で構成される。[8] 2013年版からの主な変更点は以下の3点だ。

  1. 印加周波数・印加レベルの変更:一部イミュニティ試験において試験レベルが見直され、より現実の電磁環境に近い条件設定になっている
  2. テストプラン要件の強化:製品仕様・使用環境・動作モード・許容される性能劣化・機能損失をより詳細に反映することが明示的に要求されるようになった[8]
  3. ユーザー情報の提供義務の明確化:製品仕様や使用環境、許容される性能劣化・機能損失の情報をユーザーに提供する義務が明記された[8]

IEC 61326シリーズは国内ではJIS C 61326シリーズとして規格化されており、IEC 61326-1:2012はJIS C 61326-1:2017として制定されている。[17] さらにIEC 61326-2シリーズでは対象製品を機能別に6カテゴリに細分化しており、EMC防護が施されていない高感度試験・測定装置(IEC 61326-2-1)、トランスデューサ(IEC 61326-2-3)、フィールドバス機器(IEC 61326-2-5)など、第1部に上乗せする形で個別要求が定められている。[17]

調達現場で押さえるポイント

中国・東南アジアのサプライヤー網で典型的に見られるのは、EN 61326-1:2013の古い版で認証を取得したまま、改版後も技術文書を更新していないケースだ。EU向け再輸出の際に版管理の不備が発覚し、再試験コストが発生するリスクがある。サプライヤー評価の際には「整合規格の版と発行年」を確認項目に追加することを推奨している。

調達購買部門が押さえるべきEMC適合コスト・スケジュール管理

EMC適合にかかるコストとリードタイムは、製品の複雑さや電磁環境分類によって大きく異なる。製造業の調達購買10年以上の経験から得られた実感値として、試験計画から技術文書完成まで3〜6か月のリードタイムを製品開発スケジュールに組み込んでいないプロジェクトが少なくない。

なお、JETROが2023年10月に公開したCEマーキング適合対策実務ガイドブックは、EMC指令を含む複数指令の適合性評価モジュールと技術文書の整備手順を網羅的に解説しており、[14] 自社で初めてCEマーキング対応を行う担当者にとっての実務的な出発点として活用できる。

経産省が実施する電気用品安全法技術基準調査報告書(令和6年度)では、EU EMC指令のエミッション・イミュニティ要求および整合規格(EN 55032/CISPR 35等)の国際動向も解説されており、[18] 日本の電気用品安全法と欧州EMC指令の整合状況を把握する上でも有用な一次資料となっている。

コスト管理の実務的なチェックポイントを以下に整理する:

  • 設計段階でのEMCシミュレーション・事前評価の実施(再試験コスト抑制の最大手段)
  • 試験機関の選定時にISO/IEC 17025認定スコープを確認[9]
  • テストプランを内製できる体制の構築(外部委託費削減)
  • 技術文書の版管理システム整備(改版追跡コストの低減)
  • 試験不合格時のリードタイム・再試験費用をリスクバッファとしてあらかじめ計上

まとめ:EN 61326-1適合を「製品品質の証拠」として機能させるために

EN 61326-1:2013(またはその後継版)に基づくEMC試験と技術文書作成は、欧州市場への製品投入に不可欠な法的義務であると同時に、電磁環境耐性という製品品質の証拠でもある。規格が要求するテストプランの精度、性能判定基準の事前定義、ユーザー文書への反映、そして10年間の文書保管義務——これらは互いに連鎖しており、どこか一か所が欠けると全体の信頼性が損なわれる。[7]

経産省のEMC国際標準化への取り組みが示すとおり、IEC/TC65を通じた規格改訂の動向は今後も続く。[19] 製造業者としては、整合規格の最新版への追随を維持し、製品設計変更・整合規格改定があれば適切に技術文書と適合宣言書を更新する体制——これがEMC指令が要求する「指令への適合を維持する手順」の本質的な意味だ。


出典

  1. JETRO|CEマーキングの概要:EU(貿易・投資相談Q&A)
  2. 経済産業省|CEマーキング 技術文書の作成の手引き
  3. JETRO|自己宣言のためのCEマーキング適合対策実務ガイドブック(2023年10月)
  4. J-STAGE|電磁波障害問題と規制・規格(IEC 61326シリーズを含むEMC製品規格一覧)
  5. 産業技術総合研究所(AIST)|計量法における型式承認に用いる電磁波障害試験設備の紹介
  6. 産業技術総合研究所(AIST)|NMIJ-G01-NW 型式承認申請のためのEMC試験要求事項(JIS C 61000-4シリーズ適用)
  7. 中部経済産業局|電子機器のEMC評価について
  8. 経済産業省|令和6年度 電気用品安全法技術基準等調査報告書(EMC指令・CISPR規格国際動向含む)
  9. 経済産業省|令和5年度産業標準化事業表彰 EMC国際標準化への取組

※ 出典リンクは2026年5月13日時点でリンク到達性を確認しています。

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