投稿日:2025年6月20日

トラブル未然防止と失敗しないFMEAFTAの実践講座

はじめに:なぜ今、FMEAとFTAが求められるのか

日本の製造業は、長きにわたり「現場力」で世界をリードしてきました。
しかし、グローバル化とデジタル化の波は、これまでの経験やカンに頼る体質を根本から見直すことを要求しています。

その中で注目を集めているのが「FMEA(故障モード影響解析)」と「FTA(故障の樹解析)」です。
これらは品質トラブルを未然に防ぎ、設計段階からのリスクマネジメントに直結します。
ただし、形式的に行うだけでは真価を発揮できません。

本記事では、現場目線の実践ノウハウを交え、FMEAとFTAを使いこなすコツと業界に根付く課題への処方箋をお伝えします。
現場力×理論で「失敗しない」品質保証の新しい地平線を一緒に切り拓いていきましょう。

FMEA・FTAとは何か?現場のリアル視点で解説

FMEA(Failure Mode and Effect Analysis)の基本概念

FMEAは、日本語で「故障モード影響解析」と呼ばれます。
設計や工程、システムの中に潜む「失敗の芽=故障モード」を徹底的に洗い出し、それが実際に発生した場合の影響度(E)、発生確率(O)、現場での発見可能性(D)を数値化して優先順位を決定する手法です。

現場にありがちな「あれ、どうしてこんなトラブルが…」を未然に潰すため、設計、試作、量産立ち上げ〜日常の工程管理まで、幅広く活用されています。
特に自動車業界や医療機器業界では、「やらなければ納入・認証できない」ほどの必須業務となっています。

FTA(Fault Tree Analysis)の基本概念

FTAは「故障の樹解析」と訳され、その名の通り、ある問題(事故や不具合)が発生したときに、その原因となるイベントや要素を「樹形図」で分解し、論理的に原因を追求する技術です。

FTAは、いわば「なぜなぜ分析」に論理と数学的要素を加え、全体像を見渡しやすく深化させた手法と言えます。
複雑なシステム・工程では、FMEAで発見しきれない因果関係を可視化できるのが強みです。

よくある“形だけFMEA・FTA”の落とし穴と業界的課題

昭和的体質からの脱却が進まない理由

多くの日本の工場や大手メーカーでは、FMEA・FTAを「書類作成業務」「管理部門のノルマ」として捉えがちです。
昭和的な「現場の経験者が全部把握しているから大丈夫」という意識が根強く残っている場合、現場と設計間で情報共有や問題意識のズレが生じやすいです。

結果として、FMEA表が製品仕様や工程から乖離し、いざという時に役に立たない「ハンコ文化の産物」になってしまうケースが後を絶ちません。
また、現場の生産性を重視するあまり、FMEAやFTAの実施自体が後回し、もしくは外注ベンダー任せになる事例も散見されます。

本質を捉えるFMEA・FTAへの進化

こうした課題を解決するためには、「トラブル未然防止」の原理原則に立ち返る視点が欠かせません。
FMEA・FTAを“始業前点検”や“工程パトロール”と同じく「生きた現場改善活動」の一環と捉えるマインドチェンジが求められています。

また、現場・設計・調達購買部門まで「全社横断」の参画体制が重要です。
これが“書類作業”から“現場の守り神”へと質的転換する第一歩となります。

FMEAのプロが語る、失敗しない実践ノウハウ

チーム編成とタイミングの極意

FMEAは、必ず「チーム」で行うのが鉄則です。
課題箇所の設計者や生産技術者、品質管理者、場合によっては調達・購買、現場作業者まで巻き込みます。

この「横断型チーム」を、製品企画や設計初期段階から早めに立ち上げることが重要です。
「不良やトラブルが出てから分析」ではなく「設計の段階から未然に防ぐ」パラダイムシフトがカギです。

深掘りリストアップで“思い込み”を排除

FMEAにとって最も重要なのは、「どれだけ幅広く失敗モードを挙げられるか」です。
経験者の勘や過去トラブルだけに頼らず、異業種・他工場の失敗事例、顧客クレームまで幅広く情報を総ざらいしましょう。

筆者の経験では、「直近の設計変更」や「サプライヤー切り替え時」は特に要注意ポイントです。
また、「誰が見ても分かる単純な工程」こそ、ヒューマンエラーによる落とし穴が多いので見過ごさずにリストアップしましょう。

数字で意思決定−RPNのワナに注意

FMEAでリスク優先度数(RPN)を計算し“数値で優先順位”を決定しますが、「点数で低い=対策不要」と短絡的に考えるのは危険です。

たとえRPNが低くとも、重大事故や法令違反リスクがある場合は別途優先扱いする「危険感度」を持ち込むことがポイントです。
数字はあくまで議論の道具であり、現場目線の「本当に守るべきポイント」に焦点を当てることを忘れてはなりません。

FTAの威力を最大化するための現場流テクニック

FTAは“仮説検証”の強力ツール

FTAはトラブルや事故の「真の根本原因」を論理的に突き止める手段です。
例えば、出荷前検査で不良品が発見された場合、「なぜ発生したか?」を5段階ほど深堀りしていき、因果関係を“木の枝”状に可視化します。

現場で多いのは「単なる事象の列挙」で終わってしまうケースですが、FTAは「なぜ、この順番でこのエラーにつながったのか?」という仮説検証につなげられるのが特長です。

インシデント共有×FTA=再発ゼロの現場を目指して

FTAの良いところは、「似たような分析パターンをコピペできる」点にもあります。
一度発生した事故・トラブルのFTAシナリオを、全社・全工場の共通事例バンクとして蓄積し、横展開することで「未然防止」の質を高めていきましょう。

また、現場担当者だけでなく、ライン長や工場長、自動化エンジニア、調達担当に至るまでFTAを実践に活用できるよう教育と訓練を徹底することもポイントです。

デジタル時代の最前線−FMEA・FTAのDX活用

ITツール導入で“やりっぱなし”から“育てる”FMEAへ

Excel等で運用するFMEA・FTAの限界は、「更新されない」「個人の属人化」「情報の部門間分断」にあります。

最近では専用ソフトウェアや業務システムを活用し、設計変更や量産切替のたびにリアルタイムでデータを更新・共有できる仕組みが広がりつつあります。
これにより、「一度作ったら終わり」から「常に最新のリスク管理リスト」としてFMEA・FTAを成長させることができます。

失敗事例・ノウハウの社内データベース化

FMEA・FTAで得られた“生きた知見”を全社的にデータベース化し、購買部門はサプライヤ選定時、設計部門は部品決定時、現場作業は工程設計・見直しの都度、ボタン一つで類似事例や対策情報を検索できる環境の構築も重要となります。

このようなナレッジの共有は、「過去に何度も同じミスをしている」という悪循環を断ち切る強力な武器となるでしょう。

調達購買・サプライヤーとの連携強化−“壁を超えるFMEA”

バイヤーもFMEA視点で仕入れ先選定を

調達購買に従事されている皆さんには、FMEAの観点でサプライヤーの実力やリスク管理能力を評価することをおすすめします。
単に「コスト」や「納期」だけでなく、「失敗モードにどう対応しているか」「改善サイクルが回っているか」に注目することが肝要です。

バイヤーも「工場の品質はサプライヤーと一心同体」であると意識を持ち、継続的なFMEA分析や共同のFTAワークショップの開催なども積極的に推進することが、品質トラブルの未然防止につながります。

サプライヤーが知るべき“バイヤーの本音”

サプライヤーとしては、「うちの商品に何かあっても、結局バイヤーが最後は何とかしてくれる」などと安易に考えてはいけません。
むしろ、品質トラブルのリスクと「自社がその“根”を握っている」ことの責任を自覚し、積極的にFMEAやFTAの実践と情報開示に踏み込むべきです。

より安全で信頼できるサプライヤー関係を築くため、現場レベルでの活動はもちろん、経営トップ同士の意識共有まで推進し、「失敗しないものづくり」パートナーとしての信頼を高めましょう。

まとめ:業界のパラダイムシフトは、現場から生まれる

FMEA・FTAは、単なる書類作成や不備の指摘ツールではありません。
「失敗しないための設計思想」「事故原因の論理的究明」「ナレッジの全社的横展開」を促進する、現代製造業必携の“未然防止”エンジンです。

昭和的な体質やアナログな文化が根強く残る業界だからこそ、今こそ現場からパラダイムシフトを起こすチャンスです。

設計・調達・生産・品質管理の壁を飛び越え、FMEAとFTAを実践で育て、“強いものづくり”を次世代に紡ぐ一助となれば幸いです。

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