投稿日:2025年7月11日

FMEAとFTAを活用した信頼性設計プロセスの実務ガイド

はじめに:製造業における信頼性設計の重要性

製造業の現場では、長年にわたる厳しい品質基準の下で、信頼性設計が企業の競争力を左右してきました。
特に昭和から続く日本のものづくりは、現場の知恵や職人技に支えられつつも、グローバル化やデジタル化の波とともに、信頼性設計の体系化がますます求められています。
この中で「FMEA(故障モード影響解析)」と「FTA(故障の木解析)」は、設計や工程管理の現場で長年用いられてきた定番手法ですが、「なぜやるのか?」「やって何が意味があるのか?」と疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。

この記事では、20年以上の製造業現場経験に基づき、FMEAとFTAの本質的な価値から、アナログな現場に根付かせる実務のポイント、新時代の動向まで、実践目線で徹底解説します。
バイヤー志望の方や、サプライヤーの立場からバイヤー心理を知りたい方にも役立つ内容です。

FMEAとFTAの概要と目的

FMEAとは:失敗を体系的に見つけ出す分析手法

FMEA(Failure Mode and Effects Analysis)は、製品やプロセスがどのように故障するか(失敗モード)を洗い出し、それぞれの影響や発生原因、優先順位を評価して、重点的に対策するための手法です。

もともと航空宇宙や自動車業界で発展してきた手法ですが、そのシンプルさと論理性から、あらゆる製造プロセス・設計段階で活用されています。

FMEAの特徴とメリットは以下の通りです。

– 発生頻度・影響度・検出度の3つの軸でリスクを数値化できる
– リスク優先度数(RPN)により「やるべきこと」が明確になる
– プロセスの“暗黙知”や“思い込み”が可視化され、属人性の排除に繋がる

FTAとは:原因を遡っていく論理的な故障解析

FTA(Fault Tree Analysis)は、不具合(いわゆるトップイベント)の発生を前提に、「なぜそれが起きたのか」を論理的に枝分かれさせて根本原因を突き止めていく手法です。

こちらも航空機や原子力産業で発達しましたが、製造業の現場では、

– クレームや異常発生時のトラブルシュート
– 品質・安全設計の抜け漏れ防止

などで多用されています。FTAの主な利点は、

– 因果関係を体系的に整理できる
– 本質的な“なぜなぜ(WHY)”活動になる
– 一つひとつのイベントの物理的根拠を示しやすい

という点です。

FMEAとFTAは「表」と「裏」:現場実践のベストミックス

FMEAとFTAは、それぞれ異なるアプローチですが、現場実務では“組み合わせ”が効果的です。

– FMEAは「失敗を先回りで潰す=プロアクティブ」
– FTAは「失敗から逆算して原因を掘る=リアクティブ」

この両輪を意識すると、「事前の設計(上流)」と「事後のトラブル対応(下流)」が強く連携できるようになります。

昭和的な“勘・コツ・経験”だけに頼る危険性

日本の工場では、いまだ現場リーダーやベテラン技術者の「勘」や「コツ」が重宝されています。しかし、

「〇〇さんがいるから大丈夫」
「前に似たもの作った時こうだった」

という属人的なノウハウだけでは、品質トラブルはいつか必ず起こりますし、国際競争力も維持できません。
FMEA・FTAは、こうした“アナログ現場”に「見える化」「形式知化」の武器を与えてくれるのです。

FMEAとFTAを根付かせる現場プロセスのポイント

ここからは、実践的な「FMEA・FTA現場定着」のステップについて解説します。

1. 必要性・意義を全員が腹落ちする

何より大切なのは、実務メンバーが“作業のための作業”と捉えず、

– 「どんな失敗が起きるのか、なぜ今リスクを減らすのか」
– 「なぜこの工程でチェックが必要で、どこに問題が隠れているか」

を、しっかり理解することです。

形だけ「シート」を埋めても意味がありません。定期的に現場ミーティングを設け、「過去の失敗事例」や「他社の重大事故ニュース」を共有し、常に目的意識を保つことが肝心です。

2. 初動は“現地・現物・現実”主義で進める

昭和からの現場文化では、机上ですべて決めようとする傾向も根強く残っています。

– 実際にライン上や現物サンプルを前にして
– 樹脂の流動や締結部品の緩みなど、リアルな現象を五感で確認する
– パートナー(サプライヤー)も巻き込む

こうした“現場主義”をFMEAやFTAにも貫くことが、現場目線の「使える」手法へ昇華させるカギです。

3. ドキュメントを“生きた価値あるもの”にする

ただExcelに項目を書き並べる形式的な運用では、すぐに陳腐化してしまいます。
FMEA・FTAのドキュメントは「定期的にアップデート」し、「現場の課題やクレームがあった際に必ず見直す」ことを徹底しましょう。

– 小さなヒヤリ・ハットも記録し、失敗を成長の糧にする
– 作業標準やチェックリストと連動させる

この習慣づけにより、FMEA・FTAは現場で本当に役立つ“武器”になります。

4. サプライヤー・購買との連携で品質保証力アップ

現場視点では、FMEAやFTAを「バイヤー(調達・購買)」と「サプライヤー(部品/原材料メーカー)」のコミュニケーションツールとしても活用できます。

– 仕様打ち合わせ時にFMEAのリスク特定を協働する
– クレーム対応でFTAを使い、原因究明・再発防止策を正しく伝達する
– “納入仕様書”や“認定基準”と連動し、リードタイムやコストと品質保証水準のバランスを見直す

この取り組みを通じて「バイヤー心理(なぜここまで対策を求めるのか)」への理解が深まり、サプライヤー側も真のパートナーシップを築けます。

FMEAとFTA最新動向と、これからの現場進化

デジタルトランスフォーメーション(DX)との融合

近年、大手メーカーを中心に、FMEAやFTAの“見える化・自動化”が進んでいます。

– 設計・工程FMEAをPLM/ERP管理システムと連動
– IoTやAIで収集した“実データ”からリアルタイムでリスク判定
– 過去の障害DBと連結し、類似故障や未然防止知見を横展開

紙・Excel運用から“クラウド化”へのシフトも進み、属人的な分析の限界を突破しつつあります。

「やったつもり」にしない、監査・評価の習慣化

ISO9001やIATF16949など、グローバルな品質規格でもFMEAやFTA運用は重視されています。

– 内外部監査での“根拠説明”や“運用状況確認”
– 品質保証体制の抜け漏れ点検

定期的に他部署や第三者によるレビューを実施し、“新たな目線”・“異分野の知恵”を注入することで、マンネリ化を防げます。

“現場力”ד仕組み力”で、強みを最大化する

結局のところ、FMEAやFTAは「現場に根ざす知恵と情熱」に「体系だった手法」「時代に即した仕組み」が組み合わさって、はじめて大きな価値を生むのです。
つまり、「昭和のアナログ力」と「令和のデジタル知見」の融合こそが、今後の製造業を飛躍させます。

まとめ:明日の製造業を支える信頼性設計プロセスへ

FMEAやFTAは「やらされ感」の強い“難解な手続き”と誤解されがちですが、現場力と組み合わされば、品質・コスト・納期すべてを高次元で両立させる武器となります。

– バイヤーを目指す方は、多角的なリスク評価力(FMEA思考)と、問題解決スキル(FTA思考)の習得が必須
– サプライヤー目線では、バイヤーの真意・現場の課題を正しく理解し、一歩先の提案型コミュニケーションへ
– 現場担当者や管理職は、現場のアナログ知恵+仕組み化で、「人」に依存しない持続可能な強い工場を目指しましょう

時代が変わっても、信頼性設計の本質は「現場が輝く“智慧”の体系化」です。
FMEAとFTAを“自分ごと”として確実に運用に落とし込む。その積み重ねが、Made in Japanの尊厳と未来を創ります。

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