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投稿日:2026年10月16日

PPS樹脂の選び方——架橋型とリニア型、ガラス強化グレードのウエルドと方向、耐熱の見方

この記事のポイント(結論先出し)

PPS 樹脂(ポリフェニレンサルファイド)は、製造方法の違いで架橋型とリニア型に分かれ、市場ではガラス繊維などを含んだ状態で流通しているのが一般的とされる[1]。だから「PPS」とだけ書かず、ベースの型、充填材の種類と量、メーカーとグレードまで指定する。耐熱の判断に荷重たわみ温度を使わない。試験方法の規格自身が、使用可能な最高温度を示すものではないとしている[2]。長く熱にさらす部品では、20,000 時間などの所定期間で求める温度指数(TI・RTI)を、どの特性で求めた値かと合わせて確かめる[3]。ガラス強化グレードは、ウエルド(樹脂の合流部)で強さが下がり、方向で収縮が変わることがある(あるメーカーの特殊グレードの代表値では、引張強さ 80→29 MPa)[4]。自分の使うグレードの値を仕入先に出してもらい、ゲートとウエルドの位置、方向ごとの寸法の考え方を、金型を作る前に仕入先と合わせる。

PPS は「架橋型かリニア型か」「何をどれだけ入れたか」で別の材料になる

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PPS 樹脂は、耐熱性や耐薬品性から自動車産業などで需要が高まっており[1]、軽量性と絶縁性を生かしてパワーモジュールのケースなどの電気・電子分野でも使われている(材料メーカーが自社の特殊グレードを紹介した記事による)[4]。茨城県産業技術イノベーションセンターの研究者による成形加工誌の報告(2022 年)は、PPS を結晶性の樹脂とし、製造方法の違いによって大きく 2 種類に分かれると説明している。一つは架橋型で、製造工程の中で酸素雰囲気下で熱処理してポリマーの分子量を必要な水準まで高めたもので、高温領域での機械特性に優れる。もう一つはリニア型で、製造工程に熱処理がないため分子中に架橋構造を含まず、1 次元の直鎖状の構造をもった純度の高い樹脂である[1]。

同じ報告は、一般的に PPS はガラス繊維などが含まれた状態で市場に流通している、とも書いている[1]。図面の材質欄の「PPS」は、架橋型かリニア型か、ガラス繊維だけか、ガラス繊維と無機の充填材を組み合わせたものか、その量はどれだけか、で中身が変わる。同じ報告では、成形のときにリニア型が架橋型に比べて離型性が悪く、ノズル詰まりを起こしたため、樹脂温度を高めにし保圧の条件を緩めた、と書かれており、型によって成形条件も変わることが分かる[1]。

材料の呼び方について、国際規格では PPS の成形用・押出用材料の呼び方の規格 ISO 28078-1(2009 年)が、MFR または溶融粘度、密度、引張弾性率の水準と、用途・加工方法・添加剤・充填材の情報で区分していた。この規格は廃止され、新しい版として ISO 20558-1:2018 がある[5]。呼び方で区分しても、部品に要る性能が決まるわけではないので、重要な部品はメーカーとグレードで固定するのが基本になる。グレードの固定と代替品の承認の進め方は樹脂のグレード指定と代替品の承認で扱った。

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耐熱は、荷重たわみ温度ではなく「使う条件」と温度指数で見る

前述のメーカーの記事(成形加工誌の「製品・技術紹介」、2015 年)は、PPS を融点が約 280 ℃、連続使用温度 200〜240 ℃ の耐熱性をもつ熱可塑性樹脂と紹介し、同じ記事の特性表(特定条件下での測定値の代表例)では、紹介しているグレードの荷重たわみ温度(1.82 MPa)を 260 ℃ 超としている[4]。こうした数字は材料の目安にはなるが、部品の使える温度をそのまま示すものではない。

荷重たわみ温度の試験方法の規格 JIS K 7191-1 は、加熱速度や荷重条件などが実際の使用条件と異なるので、得られた結果は必ずしも使用可能な最高温度を示すものではないとし、データを最終製品の性能予測や、設計解析、高温での耐久性の予測に用いてはならないと明記している。室温で同じくらいの曲げ弾性率をもつ材料どうしでなければ、データを比べることもできないとしている[2]。

さらに、荷重たわみ温度には試験の荷重の違いがある。JIS K 7191-2 は、試験片に加える曲げ応力を A 法 1.80 MPa、B 法 0.45 MPa、C 法 8.00 MPa の 3 通りと定めている[6]。前述の製品紹介の表は、ASTM D648 の方法で 1.82 MPa の値を載せていた[4]。データシートを並べるときは、規格と荷重がそろっているかを先に見る。

長く熱にさらすなら、温度指数(TI・RTI)を確かめる

長期間の熱による劣化を見るには、JIS K 7226(ISO 2578)の考え方が使える。この規格は、所定期間(通常 20,000 時間)における耐熱性の関係から得られる温度を温度指数(TI)、温度指数が分かっている参照材料と同じ劣化・評価の手順で比べて得た温度指数を相対温度指数(RTI)と定義している。終点は調べる特性の初期値に対する百分率で、50% がよく使われる。破壊までの時間を少なくとも 3 つの温度で求め、温度の逆数に対してプロットして TI を求める[3]。

この定義から分かるのは、温度指数はどの特性(引張強さ、衝撃強さ、絶縁破壊の強さなど)で、どの終点で求めたかによって値が変わる、ということである。仕入先から「この材料の RTI は〇〇 ℃」と出てきたら、どの特性・どの厚さで求めた値かを確かめ、部品で効く特性の値かを見る。部品が使われる温度と時間を仕入先に伝え、その条件に合う値で判断する。

耐熱の数字 何を測った値か 発注での使い方
荷重たわみ温度 曲げ応力 1.80/0.45/8.00 MPa で決まったたわみに達する温度[6] 材料どうしの目安。使える温度の上限として使わない[2]
温度指数(TI) 通常 20,000 時間で、特性が終点(よく使うのは初期値の 50%)に達する温度[3] 長期の熱劣化の判断に。どの特性の値かを確かめる
相対温度指数(RTI) 参照材料と同じ手順で比べて求めた温度指数[3] 同上。厚さと特性の区分を確かめる
連続使用温度(カタログ) メーカーの示す目安(例:200〜240 ℃)[4] 根拠となる試験と条件を確かめてから使う

ガラス強化グレードは、ウエルドと方向で性質が変わることがある

ガラス繊維で強化した PPS の部品では、樹脂の流れ方で性質が変わる点を発注前に押さえておく。前述のメーカーの記事の特性表には、ガラス繊維と無機充填材を合わせて 65% 含む特殊グレードの代表値として、ISO 527 の方法による引張強さ 80 MPa に対し、ウエルド部を含む試験片の引張強さは 29 MPa、引張破断伸びは 0.5% に対しウエルドでは 0.2% と載っている。成形収縮率も、樹脂の流れの方向(MD)0.4%、直角の方向(TD)0.7% と、方向で違う値が示されている[4]。

これはあるメーカーの特殊グレードの代表値で、ほかのグレードで同じ割合になるとは限らない。この例から読み取れるのは、ウエルドで強さが下がることがあり、寸法の縮み方が方向で変わることがあるという点である。自分の使うグレードの値(ウエルドを含む試験片の強さ、方向ごとの収縮率)は仕入先に出してもらう。発注側としては、次のことを金型を作る前に仕入先と合わせておく。

1. ゲートとウエルドの位置
力がかかる場所、ねじやボスの根元、薄い部分にウエルドが来ないか。仕入先の流動解析や、試作品での確認の結果を見せてもらう。

2. 方向ごとの寸法
流れの方向と直角の方向で縮みが違うので、反りや寸法の外れが出やすい。公差が厳しい寸法は、どの方向の寸法かを確かめ、金型の修正で合わせるのか、公差を見直すのかを決める。樹脂成形品の寸法をどの状態で測るかは樹脂成形品の寸法公差の指定で扱った。

3. 使うグレードの伸びを確かめること
前述の特殊グレードの代表値では破断伸びが 1% に満たなかった。使うグレードの値を確かめる。スナップフィットや圧入のように変形させて組む構造は、設計の段階で確かめる。

電気部品に使うなら、耐トラッキング性と難燃性を値で指定する

前述の製品紹介は、トラッキング(汚れた絶縁材料の表面に電圧がかかり、火花放電で炭化した導電路ができる現象)について、PPS は難燃性や耐熱性に優れる一方、火花放電で導電性の炭化物を作りやすく、耐トラッキング指数(CTI)は PLC3(175 V 以上 250 V 未満)程度で、PLC0(600 V 以上)の材料に比べて必要な沿面距離が長くなり部品を小さくできない、と書いている。そのうえで、充填材の工夫で PLC0 を満たすグレードを開発したと紹介している[4]。

つまり、CTI はグレードで大きく変わる。電源まわりやパワーモジュールのように沿面距離が設計に効く部品では、「PPS」ではなく、要る CTI の区分と、その試験方法を発注書に書く。難燃性も、同じ表では紹介しているグレードの UL 94 の区分を、厚さ 0.4 mm での V-0 として示していた[4]。使うグレードの区分と、それがどの厚さでの値かは仕入先の認定書類で確かめ、部品の肉厚と照らす。等級の考え方はUL94 V-0 の樹脂選定と肉厚設計で扱っている。

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屋外や光の当たる場所では、紫外線の影響を確かめる

前述の茨城県の報告は、架橋型とリニア型の PPS(ガラス繊維などを含まないもの)に、屋外条件を模した加速試験で紫外線を当て、その変化を調べている。紫外線の照射で、スルホン酸基を含む分解生成物(茶色い液体)が表面に生じたこと、分子鎖の構造の違いによって、紫外線劣化で生じるクラックの伸びる方向に差が出たこと、分子鎖の構造にかかわらず紫外線による劣化で分解生成物やクラックが生じ、その影響が結晶の部分にまで及んでいたことを報告している[1]。

試験は強化材を含まない試験片で行われたもので、ガラス強化の部品にそのまま当てはまるとは限らない。それでも、PPS は熱と薬品に強いから屋外でも大丈夫、とは言えないことは読み取れる。屋外や強い光の当たる場所で使う部品なら、その使い方を仕入先に伝え、耐候性を考えたグレードや、実際の使われ方での確認を相談する。

発注書に書くこと(PPS 樹脂部品)

1. 材料
メーカーとグレード。グレードで固定しない場合は、ベースの型(架橋型・リニア型)、充填材の種類と量、要る性質の値と試験方法。

2. 使う温度と時間
部品が使われる温度、時間、荷重。長期の熱劣化が効く部品は、温度指数(TI・RTI)の値と、それを求めた特性・厚さ[3]。

3. 電気的な要求
CTI の区分と試験方法、UL 94 の区分と、それを確かめる認定書類。

4. 成形の取り決め
ゲートとウエルドの位置、方向ごとの寸法の扱い、試作での確認の方法。

5. 使う環境
触れる薬液、屋外かどうか、紫外線が当たるかどうか。

6. 変更の連絡
材料・充填材・成形条件・生産場所を変える場合は事前に承認を得ること。

7. 成績書の提出
材料のロットの記録と、取り決めた試験項目(寸法・CTI など)の成績書を納入時に出すこと。

受入で確かめること

初回は、注文したグレードで成形されたことを材料のロットの記録で確かめ、ウエルドの位置と外観、寸法を方向に分けて測る。電気部品なら、成績書に取り決めた CTI の区分が書かれているかを見て、難燃性(UL 94)の区分は認定書類で確かめる。量産に入ってからは、寸法と質量のように手早く測れる値をロットごとに記録し、変化に気づけるようにする。量産前に仕入先から何を出してもらうかは量産前に仕入先に何を出させて承認するかで扱った。

よくある質問

荷重たわみ温度 260 ℃ 超なら、200 ℃ で使えますか

その数字だけでは判断できない。荷重たわみ温度は決まった荷重と加熱速度で試験片がたわむ温度で、試験方法の規格が、使用可能な最高温度を示すものではなく製品の性能予測に使ってはならないとしている[2]。長く熱にさらすなら温度指数を、その温度での荷重がかかるならその条件での確認を求める。

ウエルドの強さは、どのグレードでも同じくらい下がりますか

グレードによって違う。今回確かめられたのは、あるメーカーの特殊グレードの代表値で、引張強さ 80 MPa に対してウエルドを含む試験片では 29 MPa だった、という 1 例である[4]。使うグレードのウエルドを含む値を仕入先に出してもらい、部品のどこにウエルドが来るかを先に確かめる。

架橋型とリニア型、どちらを指定すべきですか

架橋型は高温領域での機械特性に優れ、リニア型は架橋構造を含まない純度の高い樹脂とされている[1]。部品に要る性質と、使う環境(温度・薬品・光)を仕入先に伝え、候補のグレードで確かめて決める。型によって成形条件も変わる[1]ので、決めたら変更の承認の対象にする。

まとめ

PPS 樹脂は、架橋型とリニア型があり、ガラス繊維などを含んだ状態で流通するのが一般的なので、ベースの型、充填材の種類と量、メーカーとグレードまで指定する。耐熱の判断に荷重たわみ温度を使わず、使う温度・時間・荷重を伝えて、長期なら温度指数(TI・RTI)を、どの特性で求めた値かと合わせて確かめる。ガラス強化グレードではウエルドで強さが下がり、方向で縮み方が変わることがある(あるメーカーのグレードの例では 80→29 MPa)ので、自分のグレードの値を仕入先に出してもらい、ゲートとウエルドの位置、方向ごとの寸法を金型の前に合わせる。電気部品は CTI の区分を値で指定し、UL 94 の区分は認定書類で厚さとともに確かめ、屋外で使うなら紫外線の影響も確かめる。

同じ束では、さらに高温で使う樹脂をPEEK 部品の発注で、滑りと摩耗に使う樹脂を超高分子量ポリエチレンの選び方で、透明な板をアクリル板の規格と発注で扱う。

出典・参考資料

  1. 宇田裕貴・早乙女秀丸・飯村修志「高次構造に着目した PPS の劣化評価」成形加工 34 巻 2 号(プラスチック成形加工学会/2022 年)
  2. JIS K 7191-1:2015 プラスチック-荷重たわみ温度の求め方-第1部:通則(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2015 年 11 月 20 日改正)
  3. JIS K 7226:1998 プラスチック-長期熱暴露後の時間-温度限界の求め方(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1998 年 11 月 20 日制定)
  4. 内潟昌則「CTI PLC 0 対応 DIC. PPS FZ-356 シリーズの概要」成形加工 27 巻 11 号(製品・技術紹介)(プラスチック成形加工学会/2015 年)
  5. ISO 28078-1:2009 Plastics — Poly(phenylene sulfide) (PPS) moulding and extrusion materials — Part 1: Designation system and basis for specifications(廃止・新版 ISO 20558-1:2018)(国際標準化機構(ISO))
  6. JIS K 7191-2:2015 プラスチック-荷重たわみ温度の求め方-第2部:プラスチック及びエボナイト(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2015 年 11 月 20 日改正)

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