- お役立ち記事
- 棚卸資産とは|評価方法の選び方と、届け出をしない場合の扱い
棚卸資産とは|評価方法の選び方と、届け出をしない場合の扱い

この記事のポイント(結論先出し)
棚卸資産とは、販売や消費のために保有している資産のことで、製造業では製品・半製品・仕掛品・原材料・貯蔵品が該当する。実務で効いてくるのは定義そのものより評価方法の選び方である。届け出をしていない場合、法人・個人とも最終仕入原価法が適用される。月ごとに総平均法・移動平均法で計算する方法も、通達で正式に認められている。
目次
棚卸資産とは何か
棚卸資産とは、企業が販売または消費する目的で保有している資産を指す。決算期末に数量を数え、金額を確定させる必要があるため「棚卸」の対象になる。
製造業では、次の区分で持っていることが多い。
| 区分 | 中身 | 数えるときの難所 |
|---|---|---|
| 製品 | 完成して出荷を待つもの | 出荷済み・未出荷の線引き |
| 半製品 | そのままでも売れる中間品 | 仕掛品との区別 |
| 仕掛品 | 製造途中のもの | 工程のどこまで原価を乗せるか |
| 原材料 | 加工前の材料 | 支給材・預り品の扱い |
| 貯蔵品 | 消耗工具・治具・梱包材など | 計上するかしないかの基準 |
| 未着品 | 購入したが運送の途中にあるもの | 現物が無いため漏れやすい |
最後の未着品には、税務上の取扱いが定められている。購入した棚卸資産で運送の途中にあるものについて、引取運賃・荷役費その他の付随費用のうち期末までに支出されていないため取得価額に算入されていないものがある場合、その未着品は、種類・品質・型を同じくする棚卸資産があっても、それとは種類等が異なるものとして評価する[1]。手元の在庫と同じ品番でも、別扱いになるということである。
📄 実務で使うなら — 検収・支払・棚卸(全 5 章・無料サンプルあり)
評価方法は届け出るもの——しなければ最終仕入原価法
棚卸資産の金額は、数量に単価を掛けて求める。この単価をどう決めるかが評価方法である。
税務上は、原価法として個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法・売価還元法があり、これらを基礎とした低価法も選べる。どれを使うかは所轄の税務署に届け出る[2]。
そして重要なのは、届け出をしなかった場合に何が適用されるかである。法定の評価方法は最終仕入原価法による原価法になる[7]。多くの中小企業が最終仕入原価法を使っているのは、積極的に選んだ結果ではなく、届け出をしていないためであることが多い。
最終仕入原価法とは
期末に最も近い時期に仕入れた単価を、期末在庫の全数量に掛ける方法である。計算が簡単で、仕入台帳の最後の行を見れば済む。
一方で、期末直前の仕入価格が高騰していれば在庫金額が過大になり、逆も起きる。材料相場の変動が大きい品目では、実態とずれた金額が計上されることになる。
総平均法・移動平均法
総平均法は、期首在庫と期中仕入の合計金額を合計数量で割って単価を出す。移動平均法は、仕入のたびに平均単価を計算し直す。
実務で使いやすいのは、通達が認めている月ごとの計算である。1か月ごとに総平均法または移動平均法で計算した価額を月末の取得価額とみなし、翌月にこれを繰越価額として順次計算する方法は、それぞれ総平均法または移動平均法に該当するとされている[1]。年に一度まとめて計算する必要はない。
個別法を使えるもの
個別法は、一つひとつの取得価額をそのまま使う方法である。適用できるのは限られており、通達では次のように定めている[1]。
商品の取得から販売に至るまでの過程を通じて具体的に個品管理が行われている場合、または製品・半製品・仕掛品の取得から販売・消費までの過程を通じて具体的に個品管理が行われ、かつ個別原価計算が実施されている場合で、その個品管理や個別原価計算に合理性があると認められるときである[1]。あわせて、その性質上もっぱらそれらの製品・半製品の製造等に供されるものとして保有されている原材料も対象になる[1]。
受注生産で製番管理をしている工場は、この条件に当てはまることが多い。
売価還元法
売価に原価率を掛けて評価する方法である。製造業では、原価計算を行わないため半製品・仕掛品について製造工程に応じて製品売価の何%として評価する場合、その評価方法は売価還元法に該当するとされている[1]。工程の進捗率で仕掛品を評価している現場は、これに当たる。
低価法——時価が下がったとき
低価法は、原価と時価を比べて低いほうで評価する方法である。ここでいう時価の定義が、実務では問題になる。
法人税基本通達 5-2-11 は、低価法を適用する場合の「当該事業年度終了の時における価額」を、その時点でその棚卸資産を売却するものとした場合に通常付される価額としている[3]。さらに注として、その算定にあたっては通常、商品または製品として売却するものとした場合の売却可能価額から、見積追加製造原価(未完成品に限る)および見積販売直接経費を控除した正味売却価額による、と示している[3]。
平成 19 年度の税制改正で、この評価額は「取得のために通常要する価額」(いわゆる再調達原価)から「当該事業年度終了の時における価額」へ改められている[3]。買い直したらいくらかではなく売ったらいくらかに変わった、ということである。
所得税でも同じ考え方が示されており、低価の事実の判定は棚卸資産の種類等を同じくするものについて行うが、事業の種類ごとに、かつ棚卸資産の区分ごとに一括して計算することもできるとされている[1]。
会計と税務で考え方が違う点
棚卸資産の評価には、会計上のルールと税務上のルールがある。多くの中小企業は税務基準に寄せて処理しているが、考え方の違いは知っておきたい。
会計では、収益性が低下した場合に帳簿価額を正味売却価額まで切り下げる処理が求められる。税務でも低価法を選定していれば同様の処理ができるが、選定していなければ評価損は原則として損金に算入されない。つまり「会計上は評価を下げたが、税務では認められない」という差が生じうる。
実務では、まず自社が低価法を選定しているかを確認する。していなければ、評価損を計上しても税務上は加算されることになる。棚卸資産の評価方法の届出書を見れば、原価法か低価法かが分かる[2]。
製造業で判断に迷う場面
支給材をどう扱うか
取引先から無償で支給された材料は、自社の棚卸資産ではない。有償支給の場合は自社が購入したことになるため、棚卸資産に含める。ここが曖昧なまま数えると、二重計上か計上漏れが起きる。
有償支給がある取引では、発注時に品名・数量・対価・引渡しの期日・決済期日・決済方法を明示する義務がある[4]。この記録があれば、棚卸のときに「どれが有償支給分か」を追える。発注書の記載事項は発注書に明示しなければならない 12 項目で整理している。
外注先に預けている在庫
加工を委託して先方の工場にある材料や仕掛品は、所有権が自社にあれば自社の棚卸資産である。現物が手元にないため漏れやすい。外注先ごとの預け在庫を、発注データから引き当てられるようにしておく。
期末直前の入出荷
期末日をまたぐ入出荷は、計上のタイミングで金額が変わる。出荷したが相手が受領していないもの、入荷したが検収前のもの。どの時点で自社の在庫から外すかを決め、毎期同じ基準で運用する。受領日と検収日の扱いは納品書・受領書・検収書の違いで扱っている。
評価方法によって利益が変わる
同じ在庫でも、評価方法が違えば期末在庫の金額が変わる。期末在庫は売上原価の計算に入るため、利益額も変わる。
仕組みは単純である。売上原価は「期首在庫 + 当期仕入 - 期末在庫」で求める。期末在庫を高く評価すれば売上原価が小さくなり、利益は大きくなる。逆に低く評価すれば利益は小さくなる。
材料価格が上昇している局面では、方法ごとに次のような傾向が出る。
| 評価方法 | 期末在庫の単価 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 最終仕入原価法 | 直近の仕入価格(上昇局面では高め) | 品目数が多く、単価変動が小さい |
| 先入先出法 | 新しい仕入が残る(上昇局面では高め) | 実際の払出順と一致させたい |
| 総平均法 | 期間全体の平均(振れが小さい) | 単価変動をならしたい |
| 移動平均法 | 直近までの平均 | 期中も在庫金額を把握したい |
| 個別法 | その現物の取得価額 | 受注生産・製番管理 |
どれが有利かではなく、自社の在庫の動き方に合っているかで選ぶ。方法の変更には承認の申請が必要で[5]、毎期都合よく変えることはできない。
数量の精度が先、評価はその次
評価方法をいくら精密にしても、数量が違っていれば金額は合わない。実務でまず効くのは、数える側の精度である。
現物と帳簿がずれる原因
入出庫の記録漏れ、単位の取り違え(本と箱、kg と m)、仕損・不良品の処理漏れ、支給材の混在、外注先への預け分の計上漏れ。いずれも棚卸の当日ではなく、日々の運用で生まれる。
棚卸の当日にできること
数える範囲を決め、担当を割り当て、二重カウントと数え漏れを防ぐ。数えた後に現物を動かさない。動かす必要があるなら、その分を記録する。
差異が出たとき
差異の原因を特定せずに帳簿を現物に合わせると、同じ差異が翌期も出る。金額の大きいものから原因を追い、運用に戻す。
評価方法を変えたいとき
いったん届け出た評価方法を変更するには、承認の申請が必要である[5]。届け出だけで済む新規の選定とは手続が違う。
実務上、変更を検討する理由は「実態と合っていない」ことが多い。材料相場の変動が大きくなり最終仕入原価法では期末在庫が振れる、あるいは製番管理を導入して個別法が使えるようになった、といった場面である。数字が動くため、変更の前に影響額を試算しておきたい。
よくある質問
貯蔵品はどこまで棚卸に入れるか
消耗工具・治具・梱包材・事務用品などをどこまで資産計上するかは、金額と重要性で判断する。少額のものを毎期きっちり数えるより、購入時に費用処理して基準を文書化するほうが実務に合うことが多い。ただし基準は毎期同じにする。期によって扱いを変えると、利益が動く。
仕掛品の評価が難しい
工程の進捗をどう金額にするかが問題になる。原価計算を行っていない場合、製造工程に応じて製品売価の何%として評価する方法が売価還元法に該当する[1]。工程ごとの進捗率を決めておけば、毎期同じ基準で評価できる。
低価法がなくても評価損を計上できる場合
低価法を選定していない場合でも、災害により著しく損傷した、著しく陳腐化した、これらに準ずる特別の事実が生じたときは、損金経理を要件として評価損を損金に算入できる[6][7]。
陳腐化の例としては、季節商品の売れ残りで今後通常の価額では販売できないことが明らかな場合や、型式・性能・品質等が著しく異なる新製品が発売されて通常の方法で販売できなくなった場合が挙げられている[8]。準ずる特別の事実には、破損・型崩れ・たなざらし・品質変化により通常の方法で販売できなくなったことが含まれる[8]。
⚠️ ただし単に物価変動・過剰生産・建値の変更等で時価が下がっただけでは該当しない[8]。相場の下落を理由にする場合は、やはり低価法の選定が要る。
不良品・仕損品はどうするか
売却できる見込みがあるなら、その正味売却価額で評価する[3]。処分するものは在庫から外す。ただし処分の事実(廃棄日・数量・方法)を記録しておかないと、数量が合わなくなる。
期中も在庫金額を把握したい
移動平均法なら仕入のたびに単価が更新されるため、期中の在庫金額を追える。総平均法でも、通達が認める月ごとの計算[1]にすれば月次で把握できる。年に一度しか金額が出ない状態では、期末になって初めて差異に気づくことになる。
在庫を減らせば利益は増えるか
増えない。在庫を減らせば期末在庫が小さくなり、売上原価が大きくなるため、その期の利益はむしろ下がる。在庫削減の効果は利益ではなく、資金繰りと保管コスト、それに陳腐化リスクの低減に出る。
まとめ
棚卸資産の評価で最初に確認すべきは、自社がどの方法で届け出ているかである。届け出をしていなければ最終仕入原価法が適用される[7]。それが実態に合っているかを見る。
製造業では、月ごとの総平均法・移動平均法[1]、製番管理があれば個別法[1]、工程の進捗率で評価しているなら売価還元法[1]と、実務の形に応じた選択肢がある。低価法の時価は「売ったらいくらか」で判断する[3]。
そのうえで、金額の精度は数量の精度に乗る。評価方法を精密にしても、支給材の混在や外注先への預け分が漏れていれば合わない。棚卸を「期末の作業」ではなく、日々の入出庫と発注データの積み上げとして設計するほうが、結果的に手間が減る。
出典・参考資料
- 所得税基本通達 法第47条関係〔棚卸資産の評価の方法(令第99条関係)〕(国税庁)
- C1-25 棚卸資産の評価方法の届出(国税庁)
- 4 棚卸資産の評価の方法(法人税基本通達 5-2-11 時価)(国税庁)
- 中小受託取引適正化法 テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- C1-29 棚卸資産の評価方法等の変更の承認の申請(国税庁)
- 法人税法 第33条(資産の評価損の損金不算入等)(e-Gov 法令検索)
- 法人税法施行令 第31条(法定評価方法)・第68条(資産の評価損の計上ができる事実)(e-Gov 法令検索)
- 法人税基本通達 第9章第1節第2款 棚卸資産の評価損(9-1-4〜9-1-6)(国税庁)
仕入単価と発注の履歴が、品目ごとに残る
Newji one は製造業向けの受発注プラットフォームです。発注・納入の記録が品目ごとにつながるため、いつ・いくらで仕入れたかを後から追えます。棚卸で差が出たときに、金額の大きい品目から原因をたどれます。登録から 14 日間はクレジットカードの登録なしで全機能をお試しいただけます。
この記事の理解を深める
無料ホワイトペーパーをプレゼント
製造業の現場で使える実務資料(PDF)を無料でお届けします。"こんな資料が届きます" ↓ 下のボタンからどうぞ。
PRODUCT — 製造業向け 調達・受発注クラウド
この記事の課題、
Newji one で解決しませんか?
Newji one は、製造業の調達・受発注に特化したクラウド/AIエージェント。見積依頼・発注書作成・進捗管理・承認をひとつの画面に集約し、AIが比較と異常検知を担当。最後の「GO」だけ人が押す仕組みです。
- 見積〜発注〜納期を一元管理。催促・転記のムダをゼロに
- AIが相見積もり比較と異常検知。あなたは判断だけに集中
- 取引先は「招待」で完全無料。自社コストだけで取引先ごとデジタル化
※ 取引先から招待された企業様は完全無料でご利用いただけます
