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適正在庫の決め方|発注点と安全在庫を製造業の実績から出す

この記事のポイント(結論先出し)
適正在庫は「いくつ持つか」ではなく「いつ、いくつ発注するか」を決めることで決まる。鍵になるのは発注点(これを切ったら発注する在庫数)で、これはリードタイム中の消費量 + 安全在庫で出る。品目を全部同じやり方で管理しようとすると回らないので、金額と欠品の影響で分けて手をかける先を絞る。
目次
「適正在庫」を数字にする
適正在庫という言葉は曖昧である。「多すぎず少なすぎず」と言っても運用にならない。実務では次の 3 つを決めることに置き換わる。
| 決めること | 中身 | 要る実績 |
|---|---|---|
| 発注点 | 在庫がここまで減ったら発注する | 消費量・リードタイム |
| 発注量 | 1 回にいくつ発注するか | MOQ・単価・保管費 |
| 安全在庫 | ぶれに備えて上乗せする分 | 消費量のばらつき |
この 3 つが決まれば、平均的な在庫量は自動的に決まる。在庫量を目標にするのではなく、発注の条件を決める——これが順序である。
発注点の出し方
発注点は、発注してから届くまでの間に消費する量に、安全在庫を足したものである。
発注点 = 1 日あたりの消費量 × 調達リードタイム(日)+ 安全在庫
数値で見る
1 日あたりの消費量 50 個/リードタイム 10 日/安全在庫 150 個
発注点 = 50 × 10 + 150 = 650 個
在庫が 650 個を切ったら発注する。届くまでの 10 日で 500 個使うので、届いた時点で 150 個(安全在庫)が残っている計算になる。
リードタイムは「約束」ではなく「実績」で取る
ここが実務で最もずれるところである。仕入先が言う納期ではなく、発注日から実際に入庫した日までの実績を使う。発注書を出すまでの社内の時間、検収までの時間も含める。
過去 1 年ぶんの発注と入庫の記録があれば計算できる。無ければ、記録を取り始めるところからになる。
安全在庫をどう決めるか
安全在庫は、消費量とリードタイムがぶれたときに欠品しないための上乗せである。理屈のうえでは統計で出せる。
安全在庫 = 安全係数 × 消費量の標準偏差 × √リードタイム
安全係数は、どの程度の確率で欠品を許すかで決まる。欠品率 5%なら約 1.65、1%なら約 2.33 が使われる。
この式をそのまま使えないことが多い
製造業の材料や部品は、消費が受注に紐づいて動く。統計的なばらつきではなく、受注の有無で決まるため、標準偏差が意味を持たないことがある。
そういう品目では、次のように割り切る方が実態に合う。
- 受注生産の材料——受注が確定してから発注する。安全在庫は持たない
- 共通部品・消耗品——消費が平準化しているので、統計の式が使える
- 納期が長い材料——リードタイムのばらつきが効くので、安全在庫を日数で持つ(「7 日分」など)
まず「何日分」で決める
標準偏差を計算する前に、安全在庫を日数で置いてみるのが現実的である。「リードタイムの 3 割に相当する日数分」といった決め方で始め、欠品と滞留の実績を見て増減させる。
品目を分けて手をかける
全品目に同じ管理をしようとすると、必ず途中で止まる。金額と、欠品したときの影響で分ける。
| 区分 | 性質 | 管理のしかた |
|---|---|---|
| 金額が大きい | 上位 2 割で金額の 8 割を占めることが多い | 発注点を個別に見直す。在庫日数を短くする |
| 欠品の影響が大きい | 止まると生産全体が止まる | 金額が小さくても安全在庫を厚めに |
| 金額が小さく代替がきく | ボルト・消耗品など | 現物を見て発注する方式でよい |
| 納期が長い | 特殊材・海外調達 | 先行して発注枠を押さえる。発注残の管理が要 |
金額の小さい消耗品に統計計算をかけても、得られるものは少ない。手をかける先を決めるのが、在庫管理の最初の仕事である。
発注量をどう決めるか
MOQ に引きずられない
最小発注数量(MOQ)に合わせて多めに買うと、単価は下がるが使い切れないことがある。使い切るまでの月数を出してから判断する。18 か月分になるなら、単価差より滞留のほうが大きい。
まとめ買いの得を数字にする
1 回の発注量を増やすと、単価と発注の手間は下がり、保管費と滞留の危険は上がる。両方を金額にして比べる。感覚で決めると、たいてい多めになる。
仕様変更の可能性を見る
客先の設計変更が見込まれる品目は、まとめ買いをしない。変更が決まってから発注を止めるまでの時間が、そのまま不要在庫になる。発注残が一覧で見えていれば、止められる分を判断できる。
発注残が見えているか
適正在庫の運用でいちばん多い躓きが、これである。在庫表に手元の数しか載っていないと、「発注済みでまだ届いていない分」が見えない。
結果として、発注点を切ったからと二重に発注する。届いてから過剰に気づく。引当可能数(現在庫 - 引当済 + 発注残)で見る形にする。
エクセルで作る方法は在庫管理をエクセルで作るで扱っている。システムを検討する場合の判断材料は在庫管理システムの選び方にまとめた。
発注の記録が制度上も要る
発注そのものは、法令上の明示義務と結びついている。受託事業者に対して製造委託等をする場合、給付の内容・支払うべき代金の額・支払期日・受領する期日など、定められた事項を明示しなければならない[1]。
支払期日は、給付を受領した日から起算して60 日以内のできる限り短い期間内に定めることとされている[1][2]。有償支給の場合は、品名・数量・対価・引渡しの期日・決済期日・決済方法の明示も必要になる[1]。
発注書の記載事項は発注書に明示しなければならない 12 項目で整理している。発注の記録が残る形になっていれば、リードタイムの実績もそこから取れる。
在庫が増える原因は発注の外にもある
発注点と発注量を整えても在庫が減らないなら、原因は別のところにある。よくあるのは次の 4 つである。
受注が減ったのに発注量を変えていない
設定した当時の消費量のままになっている。初期設定を見直さないのが、滞留の最も多い原因である。四半期に一度、上位品目の消費実績と設定値を並べて見る。
まとめ買いの判断が単価だけで行われている
「まとめると 5%安い」で決めてしまい、使い切るまでの期間を見ていない。安くなった額と、余分に持つ期間の保管費・滞留の危険を並べる。
使わなくなった品目が在庫から外れていない
仕様変更や取引終了で使われなくなったものが、そのまま棚に残る。消費のない品目を年 1 回洗い出し、処分か転用かを決める。判断しないと、毎年数え続けることになる。
同じ品目が複数の品番で登録されている
それぞれに発注点が設定され、両方が発注される。品目マスタの重複を潰すのが先である。
仕入先との関係で決まる部分
リードタイムは交渉できることがある
「納期 4 週間」が仕入先の標準であっても、内訳を聞くと材料の手配に 2 週間かかっていることがある。年間の見込み数量を先に伝えておけば、材料を先行手配してもらえる場合がある。この場合、こちらが発注枠を約束することになるので、条件は書面で残す。
分納を頼めるか
MOQ が大きい品目では、発注は一度にして納入を分けてもらう方法がある。単価は数量で決まり、在庫は分納で抑えられる。受託事業者に不当な負担をかける形にならないよう、保管の条件も含めて合意する。
価格の前提を共有する
数量が変われば単価も変わる。年間の見込みを伝えたうえで見積を取れば、条件の変化にも対応しやすい。相見積の取り方は相見積の取り方で扱っている。
⚠️ 注意したいのは、過去の見積単価をそのまま使い続けることである。公正取引委員会は、大量発注を前提に決めた単価を、少量の発注にもそのまま適用するような例を買いたたきの具体例として挙げている[4]。数量が変わったのに単価を据え置くのは、こちらに有利な方向であっても問題になりうる。
また、コスト上昇分を取引価格に反映せず据え置いた場合も買いたたきに該当しうるとして、2022 年 1 月に運用基準が改正されている[6]。在庫を減らすために発注条件を変えるときは、単価の前提も一緒に見直す。
記録として残しておくもの
発注条件を決めたら、その根拠を残す。次に見直すときに、当時どういう前提だったかが分からないと判断できない。
設定値と、その根拠
発注点・発注量・安全在庫の値と、計算に使った消費量・リードタイム・設定日。「誰かが昔決めた数字」になった時点で、見直せなくなる。
やり取りの記録
発注書や見積のやり取りをメールや Web で行っている場合、その電子データは電子のまま保存することとされている[5]。取引年月日・取引金額・取引先の 3 項目で検索できる形にしておく[5]。リードタイムの実績を後から集計するときにも、この記録が元になる。
滞留と評価の判断
長期に動いていない在庫について、処分するのか持ち続けるのかを判断した記録。期末の在庫金額は届け出た評価方法で計算するが[3]、価値が下がったものを評価損として処理できるかは別の要件による。判断の経緯が残っていないと、翌期も同じ議論を繰り返す。
効果をどう測るか
在庫回転日数
在庫金額 ÷ 1 日あたりの出庫金額。品目区分ごとに出す。全体の平均だけを見ると、動きの速い品目に隠れて滞留が見えなくなる。
欠品による特急対応の回数と金額
急送費、割増加工費、代替品の手配。伝票に残るので集計しやすい。発注点を見直したときに最初に動く指標である。
滞留在庫の金額
一定期間動いていない在庫の金額。増え続けているなら、発注量の前提が実態と合っていない。
棚卸差異の金額
そもそも在庫数が合っていなければ、発注点の計算も意味を持たない。差が大きいうちは、発注の最適化より記録の精度が先である。棚卸とは|製造業のやり方と手順で扱っている。
よくある質問
安全在庫を増やせば欠品は減るか
減るが、滞留と評価損の危険が上がる。欠品の原因が消費のばらつきではなく記録の不正確さにある場合、安全在庫を増やしても解決しない。まず差異の量を見る。
発注点方式と定期発注方式のどちらがよいか
発注点方式は、在庫が一定量を切ったら発注する。消費が平準化している品目に向く。定期発注方式は、決まった周期で必要量を発注する。まとめ発注で運賃や事務の手間を下げたい場合や、消費が読める品目に向く。品目区分ごとに使い分けるのが実務である。
リードタイムが安定しない仕入先がある
ばらつきの分を安全在庫で吸収するか、発注を早めるかになる。どちらもコストなので、実績のばらつきを数字にして仕入先と話す材料にする方が根本的である。
季節変動がある品目はどうするか
1 日あたりの消費量を年平均で取ると、繁忙期に欠品する。月ごとの消費量で発注点を切り替えるか、繁忙期の前に安全在庫を積む。前年同月の実績があれば判断できる。
新規の品目は実績がない
類似品目の実績を当てるか、最初の数か月は多めに持って様子を見る。実績が溜まったら必ず見直す。初期設定のまま何年も動かないのが、滞留のよくある原因である。
見直しの頻度は
金額の大きい品目は四半期ごと、それ以外は年 1 回でよい。棚卸のタイミングに合わせると、実績が揃っているので判断しやすい。
まとめ
適正在庫は目標として掲げるものではなく、発注点・発注量・安全在庫を決めた結果として決まる。順序を逆にすると、数字だけが独り歩きする。
発注点は「リードタイム中の消費量 + 安全在庫」で出る。リードタイムは仕入先の約束ではなく、発注から入庫までの実績で取る。ここが実務でいちばんずれる。
そして、全品目に同じ手をかけない。金額と欠品の影響で分け、上位に集中する。加えて発注残が見えているか——ここが見えていないと、どれだけ計算しても二重発注は止まらない。
出典・参考資料
- 中小受託取引適正化法 テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 中小受託取引適正化法・振興法(公正取引委員会)
- 法人税法施行令 第10条(棚卸資産の範囲)・第28条(評価の方法)・第31条(法定評価方法)(e-Gov 法令検索)
- 下請取引適正化の豆情報 その12(買いたたきの具体例)(公正取引委員会 中部事務所)
- 電子帳簿保存法上の電子データの保存要件(国税庁)
- 下請取引適正化の豆情報 その11(コスト上昇分の据置きと買いたたき)(公正取引委員会 中部事務所)
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