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棚卸資産の評価方法を計算で比べる|最終仕入原価法・総平均法・移動平均法・先入先出法

この記事のポイント(結論先出し)
同じ仕入データでも、評価方法が違えば期末在庫の金額は変わる。この記事では最終仕入原価法・総平均法・移動平均法・先入先出法の 4 つを、同一の数値例で計算して比べる。手間は最終仕入原価法が最も軽く、移動平均法と先入先出法が重い。ただし選ぶのは自由ではなく、届け出た方法で計算するのが原則である[1]。
目次
共通の数値例
1 品目について、期首在庫ゼロ、期中の仕入が 4 回、出庫が合計 500 個あったとする。期末の在庫は 200 個である。
| 日付 | 区分 | 数量 | 単価 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 4/10 | 仕入 | 100 | 500 | 50,000 |
| 5/20 | 出庫 | 80 | — | — |
| 6/20 | 仕入 | 200 | 550 | 110,000 |
| 7/30 | 出庫 | 150 | — | — |
| 9/15 | 仕入 | 150 | 600 | 90,000 |
| 10/20 | 出庫 | 170 | — | — |
| 12/5 | 仕入 | 250 | 580 | 145,000 |
| 2/10 | 出庫 | 100 | — | — |
仕入合計 700 個・395,000 円/出庫合計 500 個/期末在庫 200 個。この 200 個をいくらで計上するかを、方法ごとに計算する。
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最終仕入原価法
期末に最も近い仕入の単価を、期末在庫の全部に掛ける。
最後の仕入単価 580 円
期末在庫 = 200 × 580 = 116,000 円
計算はこれだけである。受払の履歴が要らず、最後の仕入単価さえ分かればよい。実務で最も採用されている理由がここにある。
一方で、期末近くにたまたま高い(または安い)仕入があると、在庫全体がその単価で評価される。仕入価格の変動が大きい材料では、実態からずれることがある。
総平均法
期間を通じた仕入金額の合計を、数量の合計で割って単価を出す。
平均単価 = 395,000 ÷ 700 = 564.2857… 円
期末在庫 = 200 × 564.2857 = 112,857 円
期中の価格変動がならされるため、単価が安定する。ただし期が終わるまで単価が確定しない——期末になってから全部の仕入を集計して初めて計算できる。月次で在庫金額を出したい場合には向かない。
移動平均法
仕入のたびに平均単価を計算し直す。出庫はその時点の平均単価で行う。
| 日付 | 動き | 残数量 | 残金額 | 平均単価 |
|---|---|---|---|---|
| 4/10 | +100 @500 | 100 | 50,000 | 500.00 |
| 5/20 | −80 | 20 | 10,000 | 500.00 |
| 6/20 | +200 @550 | 220 | 120,000 | 545.45 |
| 7/30 | −150 | 70 | 38,182 | 545.45 |
| 9/15 | +150 @600 | 220 | 128,182 | 582.65 |
| 10/20 | −170 | 50 | 29,132 | 582.65 |
| 12/5 | +250 @580 | 300 | 174,132 | 580.44 |
| 2/10 | −100 | 200 | 116,088 | 580.44 |
期末在庫は 116,088 円。常に最新の平均単価が分かるため、月次でも在庫金額を出せるのが利点である。
一方で、仕入のたびに計算し直すため、手作業では現実的でない。受払の記録が入力の都度残る仕組みが前提になる。エクセルで作る方法は在庫管理をエクセルで作るで扱っている。
先入先出法
先に仕入れたものから先に払い出したとみなす。期末在庫は、新しい仕入から順に残っていると考える。
出庫 500 個の内訳(古い順)
100 個 @500 + 200 個 @550 + 150 個 @600 + 50 個 @580
残る 200 個は 12/5 仕入分(@580)
期末在庫 = 200 × 580 = 116,000 円
期末在庫が直近の仕入単価に近くなるため、時価に最も近い評価になる。ただしロットごとの残数を管理する必要があり、品目数が多いと手間が大きい。
4 つを並べる
| 評価方法 | 期末在庫 | 手間 | 月次で出せるか |
|---|---|---|---|
| 最終仕入原価法 | 116,000 円 | 最も軽い | 出せる |
| 総平均法 | 112,857 円 | 軽い | 期末まで確定しない |
| 移動平均法 | 116,088 円 | 重い | 出せる |
| 先入先出法 | 116,000 円 | 重い | 出せる |
最も高い移動平均法と最も低い総平均法で 3,231 円の差が出た。1 品目 200 個での差なので、品目数が増えれば影響も大きくなる。
この例では単価が 500 円から 600 円の範囲で動いた。仕入価格の変動が大きいほど、方法による差は開く。逆に単価がほとんど動かない品目では、どの方法でもほぼ同じ金額になる。
売上原価と利益への影響
期末在庫の金額が変われば、売上原価も変わる。この例(期首在庫ゼロ・仕入 395,000 円)で計算すると次のようになる。
| 評価方法 | 期末在庫 | 売上原価 |
|---|---|---|
| 最終仕入原価法 | 116,000 | 279,000 |
| 総平均法 | 112,857 | 282,143 |
| 移動平均法 | 116,088 | 278,912 |
| 先入先出法 | 116,000 | 279,000 |
期末在庫が低いほど売上原価は高く、その期の利益は小さくなる。期首在庫 + 当期仕入 - 期末在庫 = 売上原価という関係にあるためである。
ただしこれは期をまたいだ時間差にすぎない。今期に費用として落とさなかった分は、翌期の期首在庫として繰り越され、いずれ売上原価になる。長い目で見れば総額は変わらない。
だからこそ、方法を年ごとに変えると比較ができなくなる。継続して同じ方法で計算することに意味がある。
低価法を選んでいる場合
ここまでは原価法の計算である。低価法を選定している場合は、上の計算で出した原価と、期末の時価とを比べて低い方を採る。
ここでいう時価は、その事業年度終了の時にその棚卸資産を売却するとした場合に通常付される価額を指す。具体的には、売却可能価額から、見積追加製造原価(未完成品に限る)と見積販売直接経費を差し引いた正味売却価額による[4]。仕掛品なら、完成までにかかる費用と販売の直接経費を引いた額になる。
たとえば移動平均法で単価 580.44 円と出たものの、期末時点で市場が下がっていて 500 円でしか売れないなら、時価の方で評価することになる。
⚠️ 単なる時価の下落については、低価法を選定していなければ評価損を損金に算入できないのが原則である。会計上は簿価を切り下げていても、税務では加算される。
ただし例外がある。災害により著しく損傷した、著しく陳腐化した、これらに準ずる特別の事実が生じた場合は、低価法を選定していなくても、損金経理を要件として評価損を損金に算入できる[6][7]。「著しい陳腐化」には、型式・性能・品質等が著しく異なる新製品が発売されて通常の方法で販売できなくなった場合が、「準ずる特別の事実」には破損・型崩れ・たなざらし・品質変化により通常の方法で販売できなくなった場合が挙げられている[8]。
⚠️ 逆に、単に物価変動・過剰生産・建値の変更等で時価が下がっただけでは、この例外には当たらない[8]。相場が下がった材料は、やはり低価法の選定が必要になる。詳しくは棚卸減耗損と棚卸評価損の違いで扱っている。
方法は自由に選べない
ここが実務で最も重要な点である。棚卸資産の評価方法は届け出るもので、届出をしていない場合は、最終仕入原価法による原価法が法定の評価方法になる[1]。
「今期は総平均で出した」「去年は最終仕入原価だった」という運用は成立しない。評価方法を変更するには承認の申請が必要である[3]。
まず自社が何で届け出ているかを確認する。会計ソフトや在庫システムの設定が届出と食い違っていると、決算の数字が根拠を失う。方法ごとの性質と選び方は棚卸資産とは|評価方法の選び方で整理している。
計算する前に確認すること
数量が確定しているか
どの方法で計算しても、数量が違っていれば金額も違う。実地棚卸で数量を確定させるのが先である。差異の扱いは棚卸減耗損と棚卸評価損の違いで扱っている。
区分ごとに計算するか
棚卸資産は、商品または製品、半製品、仕掛品、主要原材料、補助原材料などに区分される[1]。評価方法は区分ごとに選定できるため、どの区分に何を選んだかを把握しておく。
取得価額に何を含めるか
購入した棚卸資産の取得価額には、購入代価のほか、引取運賃・荷役費・運送保険料・購入手数料・関税など、購入のために要した費用が含まれる[1]。単価を仕入代金だけで置いていると、取得価額が過小になる。輸入品では関税と諸費用が無視できない額になることがある。
端数をどう処理するか
平均単価は割り切れないことが多い。切り捨てか四捨五入か、小数点以下何桁で持つかを決め、毎期同じにする。期によって変えると、差の原因が分からなくなる。
4 つの方法をどう使い分けているか
届出で決まるとはいえ、これから選ぶ場合や変更を検討する場合の目安を書いておく。
最終仕入原価法が向く場合
品目数が多く、受払の記録が十分に残っていない現場。計算に必要なのが最後の仕入単価だけなので、記録の整備を待たずに運用できる。ただし期末近くの仕入が特殊な条件だった場合、在庫全体がその単価で評価される点は理解しておく。
総平均法が向く場合
仕入価格が期中で上下する材料。平均されるので単価が安定し、価格の一時的な振れに引きずられない。月次で在庫金額を出す必要がない会社に向く。
移動平均法が向く場合
月次で在庫金額と原価を把握したい会社。常に最新の平均単価が出ているため、期中でも数字が読める。受払の記録が入力の都度残る仕組みが前提になる。
先入先出法が向く場合
ロット管理が必要な材料。もともとロットごとに残数を追っているなら、評価もその延長でできる。期末在庫が直近の仕入単価に近くなるため、時価との差が小さい。
共通して言えること
どの方法でも、数量が合っていなければ意味がない。差異が大きいうちは、評価方法を検討するより実地棚卸の精度を上げる方が先である。手順は棚卸とは|製造業のやり方と手順にまとめた。
評価方法は区分ごとに選べる
棚卸資産は法令上、商品または製品(副産物および作業くずを含む)、半製品、仕掛品(半成工事を含む)、主要原材料、補助原材料、消耗品で貯蔵中のもの、これらに準ずるものに分けられる[1]。
評価方法はこの区分ごとに選定できる。原材料は最終仕入原価法、製品は総平均法、というように分けることも可能である。ただし選んだら届け出る必要があり、変更には承認の申請が要る[2][3]。
選べる方法は 7 つ
原価法として個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法・売価還元法の 6 つ、これに低価法を加えた形が法令に定められている[1]。この記事で比べた 4 つは、実務でよく使われるものである。
個別法は、一つひとつの取得価額をそのまま使う。金型や特注品のように個体が識別できるものに向く。数量が多い汎用材料には使えない。
売価還元法は、期末の売価総額に原価率を掛けて取得価額を出す。品目数が非常に多い小売業で使われる方法で、製造業の材料管理ではあまり使わない。
よくある質問
どの方法がいちばん有利か
仕入価格が上がっている局面では、期首からの仕入をならす総平均法の期末在庫が低くなり、売上原価が大きくなる傾向がある。移動平均法は直近の仕入までを平均するため、期末付近の値動き次第で上下する(この記事の数値例では 4 方法で最も高くなった)。ただし有利不利で選ぶものではなく、届け出た方法で継続して計算するのが原則である[2]。
会計ソフトの設定と届出が違っていた
まず届出の内容を確認する。ソフトの設定を届出に合わせるのが原則である。過年度の申告に影響する場合は、顧問税理士に相談する。
期首在庫がある場合はどう計算するか
期首在庫を最初の「仕入」として扱う。総平均法なら期首在庫の数量と金額を分母・分子に含める。移動平均法なら期首の残数量・残金額から始める。
仕掛品はどう評価するか
材料費に、その工程までの加工費を加える。工程の区切りと加工費の配賦の方法を決め、毎期同じ基準で計算する。基準が変わると、利益が動いた原因が分からなくなる。
値引きや返品があったとき
仕入から控除する。値引き後の金額で平均単価を計算する。返品も同様に、数量と金額の両方を戻す。受払簿では取消の行を足して表現すると、履歴が残る。
単価が同じなら方法を気にしなくてよいか
仕入単価がまったく動かない品目なら、どの方法でも同じ金額になる。ただし引取運賃や関税が仕入ごとに違えば、取得価額は動く[1]。輸入品では単価が同じでも諸費用で差が出る。
期中に評価方法を変えてしまった
評価方法の変更には承認の申請が必要である[3]。申請なしに変えていた場合、届け出た方法で計算し直すことになる。まず届出の内容を確認し、顧問税理士に相談する。
電子で受け取った仕入の記録はどう保存するか
メールや Web でやり取りした請求書などの電子取引データは、電子のまま保存する[5]。取引年月日・取引金額・取引先の 3 項目で検索できることが求められる[5]。単価の根拠を後から示せるかは、この保存にかかっている。
品目数が多くて手計算できない
移動平均法と先入先出法は、記録が入力の都度残る仕組みがないと成立しない。手作業の前提なら、最終仕入原価法か総平均法になる。ただし方法は届出で決まっているので、計算しやすさで選び直すことはできない。
まとめ
同じ仕入データでも、評価方法が違えば期末在庫の金額は変わる。この例では 112,857 円から 116,088 円まで幅が出た。仕入価格の変動が大きい品目ほど、差は開く。
手間は最終仕入原価法が最も軽く、移動平均法と先入先出法が重い。ただし選ぶのは自由ではなく、届け出た方法で計算する[2]。変更には承認の申請が要る[3]。
そして計算の前に、数量が確定していること、取得価額に付随費用を含めていること[1]、端数処理を毎期同じにしていること。この 3 つが揃っていなければ、どの方法で計算しても数字は合わない。
売上原価への影響も、期をまたいだ時間差にすぎない。今期に落とさなかった分は翌期の期首在庫として繰り越される。方法を年ごとに変えると比較ができなくなる——継続して同じ方法で計算することに意味がある。
出典・参考資料
- 法人税法施行令 第10条(棚卸資産の範囲)・第28条(評価の方法)・第31条(法定評価方法)・第32条(取得価額)(e-Gov 法令検索)
- C1-25 棚卸資産の評価方法の届出(国税庁)
- C1-29 棚卸資産の評価方法等の変更の承認の申請(国税庁)
- 4 棚卸資産の評価の方法(法人税基本通達 5-2-11 時価)(国税庁)
- 電子帳簿保存法上の電子データの保存要件(国税庁)
- 法人税法 第33条(資産の評価損の損金不算入等)(e-Gov 法令検索)
- 法人税法施行令 第68条(資産の評価損の計上ができる事実)(e-Gov 法令検索)
- 法人税基本通達 第9章第1節第2款 棚卸資産の評価損(9-1-4〜9-1-6)(国税庁)
仕入単価の履歴が残っていれば、評価はあとから計算できる
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