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2割特例が終わる仕入先からの値上げの申し入れ——インボイスで課税事業者になった取引先との価格協議

この記事のポイント(結論先出し)
2026 年 10 月にインボイス制度まわりで動いたことのうち、購買の机に届くのは、2 割特例の終了と、課税事業者になった仕入先からの値上げの申し入れである。インボイスの登録を機に課税事業者になった小規模な仕入先が使ってきた 2 割特例は、令和 8 年 9 月 30 日を含む課税期間で終わる[2]。法人の仕入先はその次の課税期間から納める消費税が増えうるので、値上げの申し入れが来る。財務省・公正取引委員会などの Q&A は、免税事業者から課税事業者に転換した仕入先の新たな納税分について、明示的に協議せず価格を据え置くことを問題となりうる行為として挙げている[5]。2 割特例の終了で増える分も、この考え方に照らして協議の対象と考えるのが自然である。買い手側の控除割合(8 割から 7 割)と 1 億円の上限[1]は、インボイスの経過措置は 2026 年 10 月から 7 割へで扱う。発注側は、自社の控除の計算より先に、仕入先側で何が変わるかを把握し、協議の場を自分から設けることになる。
目次
2026 年 10 月 1 日に動いた三つのこと
インボイス制度の経過措置について、令和 8 年度税制改正で見直しが入った。国税庁の特設ページは、免税事業者などインボイス発行事業者以外の者から行った課税仕入れの一定割合を控除できる経過措置について、適用期限を 2 年延長したうえで控除可能割合を見直したと説明している[1]。2026 年 10 月 1 日からの割合は 7 割で、その後 5 割、3 割と下がる[2]。
同じページは、7・5・3 割控除について、一のインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れの合計額(税込み)がその年または事業年度で 1 億円(改正前は 10 億円)を超える場合、その超えた部分に適用できないとし、この上限は令和 8 年 10 月 1 日以後に開始する課税期間から適用されると注記している[1]。課税期間の始まりで決まるので、3 月決算の会社なら 2027 年 4 月に始まる事業年度からになる。
三つ目は、売り手の側の特例である。国税庁の資料は、現行の 2 割特例は令和 8 年 9 月 30 日までの日の属する課税期間で終了すると書き、個人事業者については令和 9 年分と令和 10 年分の申告に 3 割特例を設けたと説明している[2]。法人は 3 割特例の対象外である[2]。
控除割合と上限の計算、帳簿に書く文言、10 月 1 日をまたぐ取引の扱いは、インボイスの経過措置は 2026 年 10 月から 7 割へで扱っている。この記事では繰り返さない。ここで扱うのは、変更が仕入先との取引条件にどう効いてくるかである。
| 変更 | いつから | 影響を受ける側 | 発注側の論点 |
|---|---|---|---|
| 経過措置の控除割合 80%→70% | 2026 年 10 月 1 日以後の課税仕入れ | 発注側(買い手) | 免税事業者との取引価格を見直すか。見直すなら協議の仕方 |
| 上限 10 億円→1 億円 | 令和 8 年 10 月 1 日以後に開始する課税期間 | 発注側(買い手) | 1 社に集中している外注先がないか |
| 2 割特例の終了(法人) | 令和 8 年 9 月 30 日を含む課税期間の次から | 仕入先(売り手) | 納税額が増えた仕入先からの値上げの申し入れ |
| 3 割特例の創設(個人) | 令和 9 年分・令和 10 年分 | 仕入先(個人事業者) | 負担が増える時期が法人と違うことを知っておく |
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仕入先の側で起きること——2 割特例の終わり方
2 割特例は、インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった者が、仕入税額控除の金額を売上税額の 80%とし、結果として納付税額を売上税額の 2 割にできる仕組みである[3]。届出は不要で、申告書に付記するだけで使えた[3]。発注側から見ると、取引先に登録をお願いしたときに、相手の負担をこの特例が抑えていたことになる。
この特例を使える期間は、令和 5 年 10 月 1 日から令和 8 年 9 月 30 日までの日の属する各課税期間である[3]。終わる時期は、仕入先の決算期で違う。国税庁の説明では、3 月決算の法人が令和 5 年 10 月 1 日から登録した場合、適用は「令和 8 年期の申告まで」の計 4 回とされている[3]。2026 年 4 月から始まる事業年度は 9 月 30 日を含むので、まだ 2 割特例が使える。負担が変わるのは、その次の事業年度からになる。12 月決算の法人なら、2026 年 12 月期が最後になる。
個人事業者の仕入先は、令和 8 年分まで 2 割特例、令和 9 年分と令和 10 年分は 3 割特例を使える。3 割特例の主な要件は、インボイス発行事業者の登録を受けた個人事業者であること、登録を機に免税事業者から課税事業者になった者であること、基準期間(2 年前)と特定期間(前年 1〜6 月)の課税売上高がいずれも 1,000 万円以下であること、である[2][6]。ほかにも使えない場合があるので、個々の仕入先が当たるかどうかは国税庁の適用可否フローチャートとインボイス Q&A の問 115-2 で確かめる[6]。法人の仕入先と個人の仕入先とでは、負担が増える時期が違う。
負担はどのくらい増えるか(概算の考え方)
2 割特例をやめた法人は、一般課税か簡易課税で申告することになる。簡易課税のみなし仕入率は、製造業を含む第 3 種事業で 70%である[1]。仮に、税抜の課税売上が年 1,000 万円、消費税率 10%の製造業の仕入先が簡易課税に移ると、売上税額 100 万円に対し、2 割特例では納付 20 万円、みなし仕入率 70%の簡易課税では納付 30 万円になる。差は年 10 万円で、税抜売上の 1%にあたる。
これはあくまで率から逆算した概算である。実際の負担は、その仕入先の事業区分、一般課税か簡易課税か、仕入れの実額によって変わる。発注側が仕入先の税務を判断する立場にはないので、数字は「申し入れが来たときに、根拠を聞く手がかり」として持っておく程度にする。
国税庁は、2 割特例や 3 割特例を使った事業者が、その翌課税期間の確定申告期限までに簡易課税制度選択届出書を出せば、その翌課税期間から簡易課税を使えるという提出期限の特例も設けたと説明している[2]。仕入先がどの方法を選ぶかは仕入先の判断であり、発注側が口を出すことではない。
値上げの申し入れが来たら——協議を避けない
財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省の「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」は、令和 8 年 1 月 30 日に改正され、取適法の名称で書き直されている[5]。この Q&A は、免税事業者であった仕入先が課税事業者に転換した場合、新たに納税が必要となる消費税分について、仕入先と明示的に協議することなく取引価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用または取適法上の買いたたきとして、仕入先から協議の要請があった場合に協議に応じず一方的に据え置くことは、取適法上の協議に応じない一方的な代金決定として、それぞれ問題となるおそれがあると書いている[5]。
さらに同じ Q&A は、仕入先は値上げが本来必要な場合でも取引関係上、価格交渉を申し出ることが難しいことも考えられるとして、課税転換した事業者に対しては発注側から価格交渉を申し出ることを積極的に検討するよう求めている[5]。待っていればよい、という書き方ではない。
Q&A が直接書いているのは、免税事業者から課税事業者に転換したときに新たに生じる納税分である。2 割特例の終了はそれとは別の時点の変化だが、Q&A の考え方に照らすと、課税転換に伴う納税分が特例の終了で増える場面と読める。登録をお願いした仕入先が、2 割特例のおかげで価格を据え置いていたなら、特例が終わった後の価格は改めて話し合う必要がある。申し入れを受けたときの受付・根拠の確認・回答・記録の進め方は、仕入先から値上げの申し入れが来たらにまとめてある。
発注側が先に動くときの手順
実務の提案として、次の順で進めると漏れが少ない。まず、取引先マスタで「登録日が令和 5 年 10 月以降で、それ以前は免税事業者だったとみられる先」を抜き出す。登録番号と登録日は国税庁の公表サイトで確認できる(一括で調べる方法はインボイス登録番号の調べ方)。次に、その先の決算期を聞き、2 割特例がいつ終わるかを把握する。最後に、価格協議の予定を仕入先ごとに立て、協議したこと自体を記録に残す。
同じ時期に、価格交渉促進月間のフォローアップ調査のように発注側の協議の姿勢が問われる場面も続いている(価格交渉促進月間とフォローアップ調査)。最低賃金の引上げを理由にした申し入れと重なる仕入先もあるので、理由ごとに根拠を分けて受け取る(最低賃金の引上げと、仕入先からの値上げ要請)。
協議の場で発注側から聞いてよいのは、増える負担の大きさと、その根拠である。仕入先の申告方法を指定したり、簡易課税を選べば負担は小さいはずだと決めつけたりするのは避ける。結論が据え置きになるなら、その理由を書面や電子メールで返しておく。
免税事業者のままの仕入先との条件見直し
控除割合が 7 割に下がると、免税事業者からの仕入れは発注側にとって割高になる。Q&A は、インボイス制度を踏まえて取引条件を見直すこと自体は直ちに問題とはならないが、設定方法や内容によっては独占禁止法や取適法などにより問題となる可能性があるとし、行為の類型ごとに考え方を示している[5]。
| 行為 | Q&A が示す考え方(要旨) |
|---|---|
| 取引価格の引下げを要請する | 免税事業者の仕入れや諸経費に係る消費税の支払いも考慮し、双方納得の上で設定すれば、結果的に下がっても問題とならない。再交渉が形式的で、消費税額も払えないような価格を設定すれば問題となる |
| 発注時に決めた代金を後から減らす | 取適法の対象なら第 5 条第 1 項第 3 号の減額。仕入先が免税事業者であることは、仕入先の責めに帰すべき理由に当たらない |
| 著しく低い代金を定める | 取適法の対象なら第 5 条第 1 項第 5 号の買いたたき |
| 受領拒否・返品 | 免税事業者であることを理由にした受領拒否・返品は問題となる |
| 据え置く代わりに協賛金などを求める | 負担額や根拠が明確でない場合などは優越的地位の濫用。取適法では不当な経済上の利益の提供要請 |
| 登録するよう求める | 要請すること自体は問題とならない。登録しなければ価格を下げる・取引をやめると一方的に通告することは問題となるおそれ |
表の各行は Q&A の該当箇所を要約したものである[5]。発注後の減額は、相手が免税事業者でも減額に当たる、という点は特に誤解されやすい。条件を変えるなら次の発注の前に協議して決め、すでに出した発注の代金には手を付けない。減額全般の考え方は代金を後から下げる——減額に当たる行為と、当たらない行為で扱っている。
Q&A はもう一つ、見落としやすい事情を挙げている。免税事業者は支払われる総額を念頭に値決めをしていることがあり、見積書や請求書に消費税相当額が書かれていても、総額から逆算した本体価格が形式的に書かれ、通常より低く見積もられた本体価格になっていることがありうる、というものである[5]。税抜の本体価格だけを見て「消費税分を払わなければ同じ」と考えると、仕入先にとっては実質の値下げになる。
また Q&A は、仕入先との条件見直しが適当でない場合には、控除できる額が減る分を免税事業者への支払額を減らすのではなく、原材料費や諸経費などのコストとあわせて販売価格に転嫁できるか、自らの売上先と相談することも考えられるとしている[5]。調達だけで吸収しようとしないことも、選択肢として明記されている。
発注書と取引先マスタで変えること
価格の表示を「税抜」「税込」「消費税相当額の扱い」まで書く
Q&A は、免税事業者である仕入先に対して「税抜」や「税別」として価格を設定する場合には、消費税相当額の支払いの有無について、互いに認識の齟齬がないよう留意するよう求めている[5]。発注書や単価の取り決めに「税抜」とだけ書くと、消費税相当額を上乗せして払うのか払わないのかが読み取れない。免税事業者との取引では、単価の欄に加えて、消費税相当額をどう扱うかを一文で書いておく。
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同じ Q&A の注記は、これまで消費税相当分を上乗せしていなかった免税事業者が課税事業者に転換した場合は、消費税の仕組み上、発注側が支払う取引価格に新たに消費税相当額を上乗せすることが相当と考えられるとしている[5]。登録の切り替わりで表示を変えるのを忘れると、上乗せの漏れが起きる。
取引先マスタに持たせる項目
実務の提案として、取引先マスタには、登録番号、登録日、法人か個人か、決算月、免税事業者からの転換かどうか、の五つを持たせておくとよい。2 割特例がいつ終わるか、3 割特例の対象になりうるか、経過措置の上限を超えていないかは、どれもこの五つから判断がつく。取引先の数が多い会社ほど、担当者の記憶に頼ると漏れる。
少額の仕入れは別の特例で動いている
少額特例は、基準期間の課税売上高が 1 億円以下または特定期間の課税売上高が 5 千万円以下の事業者が、税込 1 万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくても一定の事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除ができるものである[4]。取引先がインボイス発行事業者かどうかは関係がなく、免税事業者でも同様である[4]。
適用対象は令和 5 年 10 月 1 日から令和 11 年 9 月 30 日までの課税仕入れで、課税期間の途中でも令和 11 年 10 月 1 日以後の仕入れは対象外になる[4]。1 万円未満かどうかは 1 回の取引の金額(税込み)で判定し、1 商品ごとの金額ではない[4]。少額の消耗品を免税事業者から買っている会社では、10 月の 7 割への変更の影響を受けない部分がある一方、2029 年 10 月にはこちらの扱いが変わる。社内の規程に、どちらの仕組みで処理しているかを書き分けておく。
請求書をデータで受け取る仕組みに切り替えるなら、登録番号や税率ごとの金額を手で読み取る作業そのものを減らせる。標準仕様の電子請求の受け取り方はデジタルインボイス(Peppol)と受発注・請求の電子化で扱っている。
実務で起きやすい行き違い
一つ目は、経理だけが 10 月の変更に対応し、購買が知らないまま取引条件を据え置くことである。控除の計算は会計の仕事だが、価格の協議は購買の仕事である。経理が 7 割への設定変更をした時点で、購買にも免税事業者の取引先一覧が回る流れを作っておく。
二つ目は、仕入先から「2 割特例が終わるので値上げしたい」と言われ、制度を確認しないまま断ることである。法人の仕入先なら、2 割特例が使えるのは令和 8 年 9 月 30 日を含む課税期間までで[3]、申し入れには根拠がある。申し入れの時期が早すぎるか遅すぎるかは決算期で決まるので、まず決算期を聞く。
三つ目は、一律の値下げ要請である。免税事業者すべてに同じ率の引下げを通知する方法は、個々の仕入先の事情を協議したことにならず、Q&A のいう「再交渉が形式的」に近づく[5]。協議は仕入先ごとに行い、その記録を残す。
よくある質問
経過措置が 7 割になったので、免税事業者の請求額から消費税相当の 3 割分を差し引いてよいか
すでに発注した取引の代金を一方的に差し引くことは、取適法の対象取引なら減額として問題になり、免税事業者であることは仕入先の責めに帰すべき理由に当たらない[5]。今後の取引条件として見直すなら、次の発注の前に協議して決める。
2 割特例が終わる仕入先から値上げを求められた。必ず応じる必要があるか
応じる義務が自動的に生じるわけではない。Q&A は、取適法の対象となる取引で、課税転換した仕入先から協議の要請があったのに応じず一方的に据え置くことは問題となるおそれがあると書いている。対象外の取引でも、明示的に協議せず据え置くことは独占禁止法上の問題となりうる[5]。2 割特例の終了による増分はその延長にあると考え、要請を受けたら協議の場は設ける。協議し、結論と理由を相手に伝え、記録に残すことが欠かせない。
個人事業者の仕入先も、2026 年 10 月から負担が増えるのか
個人事業者は令和 8 年分まで 2 割特例、令和 9 年分と令和 10 年分は要件を満たせば 3 割特例を使える[2]。負担が増えるのは早くても令和 9 年分からである。法人と同じ時期のこととして申し入れを受け止めないようにする。
簡易課税を選んでいる会社にも関係があるか
Q&A は、課税事業者でも簡易課税制度を適用している場合はインボイスを保存しなくても仕入税額控除ができるので、仕入先との関係で留意する必要はないとしている[5]。ただし、仕入先が課税転換した場合の価格協議の話は、自社の申告方法と関係なく残る。
まとめ
2026 年 10 月の変更は、発注側の控除の割合だけの話ではない。7 割への変更と 1 億円の上限は買い手の計算に効き[1]、2 割特例の終了は売り手の納税額に効く[2][3]。後者は、仕入先からの値上げの申し入れとして購買の机に届く。財務省・公正取引委員会などの Q&A は、課税転換した仕入先の新たな納税分について明示的な協議を求め、発注側から交渉を申し出ることも促している[5]。2 割特例の終了で増える分も、その考え方に沿って扱う。取引先マスタに登録日と決算期を持たせ、仕入先ごとに 2 割特例の終わる時期を把握し、協議の場を先に設ける。少額特例のように 2029 年に終わる別の仕組み[4]も含め、どの取引がどの仕組みで動いているかを書き分けておくと、次の切り替わりで慌てずに済む。
出典・参考資料
- インボイス制度特設サイト 令和8年度税制改正特集(国税庁)
- インボイス制度に関する令和8年度税制改正について(国税庁/令和 8 年 4 月・令和 8 年 5 月改訂)
- 2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要(国税庁)
- 少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)の概要(国税庁)
- 免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A(財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省/令和 4 年 1 月 19 日・令和 8 年 1 月 30 日改正)
- 令和8年度税制改正特集 3割特例(適用可否フローチャート)(国税庁)
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