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EUエコデザイン規則(ESPR)とデジタル製品パスポート

この記事のポイント(結論先出し)
EU のエコデザイン規則(ESPR、規則 (EU) 2024/1781)は 2024 年 7 月 18 日に施行された枠組みの規則で、製品ごとの具体的な要件は、欧州委員会が製品グループごとに定める委任法令で決まる[1][6]。2026 年 10 月時点で実際に効いているのは、2026 年 7 月 19 日に始まった大企業の売れ残り衣料・履物の廃棄禁止と、デジタル製品パスポートの登録簿などの基盤づくりで[1][5]、パスポートは電池から始まり、衣料・鉄鋼・建設製品などが続く見込みとされている[4]。一方、電動機のように旧エコデザイン指令の実施措置で要件がかかっている製品は、移行の仕組みの下でその要件が引き続き適用される[1][3]。部品・材料を買う側が今できるのは、委任法令を待つことではなく、仕入先から材料・含有物質・製造所の情報を受け取れる取り決めと、それを品目に結び付けて持つ仕組みを先に作っておくことである。
目次
ESPR は「枠組み」で、中身は製品ごとの委任法令で決まる
エコデザイン規則は、エネルギー関連製品だけを対象にしていた 2009 年のエコデザイン指令に代わるもので、欧州委員会は、食品・飼料・医薬品など限られた例外を除くほぼすべての物品を対象にできるようになったと説明している[2]。ジェトロも、対象には部品や中間製品も含まれ、食品・飼料・医薬品、他の法令で規制される自動車などには適用されないと整理している[6]。
この規則そのものは、どの製品に何を求めるかを書いていない。欧州委員会が、製品グループごとに性能の要件(耐久性、修理のしやすさ、再生材の含有率など)と情報の要件を「委任法令」で定める作りになっている[1]。そして委任法令の適用開始は、原則としてその発効から 18 か月より前にはならない(第 4 条第 4 項)[1]。つまり、ある製品グループに要件がかかるかどうかは、委任法令の案が公表されてから最短でも 1 年半ほどの準備期間がある、という作りである。
どの製品から手を付けるかは「作業計画」で示される。規則は最初の作業計画で、鉄・鉄鋼、アルミニウム、繊維(特に衣類と履物)、家具、タイヤ、洗剤、塗料、潤滑剤、化学品、エネルギー関連製品、情報通信機器などを優先して検討するよう求めていた(第 18 条第 5 項)[1]。欧州委員会が 2025 年 4 月 16 日に発表した第 1 回の作業計画では、2025〜2030 年に優先して検討するのは、最終製品の繊維(特に衣類)・家具・タイヤ・マットレスと、中間財の鉄・鉄鋼とアルミニウム、それに横断的な要件として修理のしやすさと再生材の含有率とされ、洗剤・塗料・潤滑剤は含まれなかった[7]。
2026 年 10 月時点で、決まっていること・まだ決まっていないこと
欧州委員会の実施状況のページ(2026 年 10 月 1 日閲覧)の年表には、作業計画の採択(2025 年 4 月)、売れ残り消費財の廃棄に関する委任法令・実施法令の採択(2026 年 2 月 9 日)、廃棄禁止の適用開始(2026 年 7 月 19 日)が並んでいる[3]。同じページは、繊維や鉄鋼などの製品については準備作業が始まっていると説明しているが、製品別のエコデザイン要件を定める委任法令の採択は、この年表には載っていない[3]。次の表は、本文の条文と欧州委員会の公表で確かめた範囲を分けて並べたものである。
| 項目 | 2026 年 10 月時点の状態 | 根拠 |
|---|---|---|
| 規則の施行 | 2024 年 7 月 18 日に施行 | 欧州委員会[2] |
| 売れ残り衣料・履物の廃棄禁止 | 大企業は 2026 年 7 月 19 日から。中規模企業は 2030 年 7 月 19 日から。零細・小規模企業は対象外 | 第 25 条[1]・欧州委員会[5] |
| デジタル製品パスポートの登録簿 | 2026 年 7 月 19 日までに設置する定め。固有識別子と、輸入品は商品コードを保存する | 第 13 条[1] |
| パスポートの対象製品 | 一部の電池から始まり、衣料・鉄鋼・建設製品などが続く見込み | 欧州委員会 2026 年 7 月 17 日[4] |
| 優先製品(第 1 回作業計画) | 衣類・家具・タイヤ・マットレス・鉄鋼・アルミニウム、横断要件として修理・再生材 | ジェトロ[7] |
| 製品別の性能要件・情報要件 | 委任法令で決まる。適用は原則として発効から 18 か月以上後 | 第 4 条第 4 項[1] |
ここで「鉄鋼とアルミニウムが優先されたのだから、鋼材や形材にもすぐ要件がかかる」と読むのは早い。何が求められるか(たとえば再生材の割合を示すのか、炭素排出量を示すのか)は委任法令の中身次第で、2026 年 10 月時点では本文から読み取れる情報はない。予定を社内に回すときは、「作業計画の優先製品に入っている」と「要件が決まった」を分けて書くほうがよい。
デジタル製品パスポートで、委任法令が決める項目
デジタル製品パスポートは、製品の情報を電子的に持たせ、データ媒体(QR コードなど)からたどれるようにする仕組みである。欧州委員会は、製品の技術性能、材料とその原産地、修理の記録、リサイクルのしやすさ、ライフサイクルの環境影響などを含みうると説明し[2]、税関が輸入品のパスポートの有無と真正性を自動で確かめられるようにするとしている[2]。
どこまでを持たせるかは、製品グループごとの委任法令で決まる。第 9 条第 2 項は、委任法令が次の点を定めると書いている[1]。
- パスポートに入れるデータ(付属書 III に沿って)
- 使うデータ媒体と、その表示の位置
- パスポートを型式単位・ロット単位・個体単位のどれで作るか
- 購入前の顧客にどう見せるか(通信販売を含む)
- 誰がどのデータにアクセスできるか
- 誰がパスポートを作り、どのデータを入れ・更新できるか
- 入力・更新の具体的な手順
- パスポートを残しておく期間(少なくともその製品の想定寿命)
調達の目線で効いてくるのは 3 番目と 6 番目である。個体単位やロット単位で作ることになれば、仕入先から受け取る情報もロットや製造番号にひも付けて持たなければならない。誰が入力するかが仕入先側に及ぶ設計になれば、取引の条件に入れる必要が出てくる。
登録簿の仕組みもすでに条文にある。欧州委員会は 2026 年 7 月 19 日までに、少なくとも固有識別子を保存する登録簿を設け、EU で自由流通に置く輸入品については商品コードも保存する。製品を上市する経済事業者がデータをアップロードし、登録簿は登録識別子を返すが、それは規則への適合を証明するものではない、と明記されている(第 13 条)[1]。欧州委員会は 2026 年 7 月 17 日にパスポートの案内ページを開き、導入は製品別の法令を通じて段階的に進むと説明している[4]。電池のパスポートについてはEU 電池規則とバッテリーパスポートで扱う。
含有物質の情報と、仕入先に課される協力の義務
エコデザイン規則は、情報の要件として、製品のライフサイクルを通じて懸念物質(含有を追跡する対象の物質)を追えるようにすることを求めている。第 7 条第 5 項は、少なくとも、物質の名称や番号(IUPAC 名、別名、EC 番号、CAS 番号)、製品の中での位置、製品・構成部品・交換部品の単位での濃度(最大濃度や濃度範囲でもよい)、安全な使用の指示、分解やリサイクルに関わる情報を含めると定めている[1]。どの濃度から情報を出させるかの閾値や適用日、技術的に難しい場合の除外は、製品グループごとに委任法令で定める[1]。
部品メーカーや材料メーカーにとって重要なのは第 38 条である。委任法令で定められた場合、サプライチェーンの事業者は、求めに応じて、製造者・通知機関・各国当局に、供給する製品に関する手元の情報を無償で提供すること、情報が無い場合は製造者が評価できるよう関係書類や施設へのアクセスを認めること、当局などが情報の正確さを確かめられるようにすること、が求められる[1]。
つまり、完成品を EU へ出す側は、委任法令が適用された時点で、仕入先にこの協力を求められる立場になる。日本の製造業では含有化学物質の情報を chemSHERPA でやりとりする仕組みがすでに使われているので、まずは今の調査の範囲(どの部品まで、どの物質まで、どの粒度で)を見直し、パスポートで求められうる「位置」や「構成部品単位の濃度」まで答えが返ってくる状態かを確かめておくとよい。仕入先への調査の依頼の仕方は含有化学物質の調査を仕入先に頼むときにまとめている。
売れ残り衣料・履物の廃棄禁止は、ほかの業種にも広がりうる
第 25 条は、2026 年 7 月 19 日から、付属書 VII に掲げる売れ残りの消費財の廃棄を禁じ、零細・小規模企業には適用せず、中規模企業には 2030 年 7 月 19 日から適用すると定めている[1]。欧州委員会は 2026 年 7 月 17 日の告知で、大企業による売れ残りの衣類・衣料付属品・履物の廃棄が 7 月 19 日から禁じられ、販売(値引きや別の市場を含む)、寄付、再使用の準備を優先すること、安全上の問題や損傷、模倣品、寄付の受け手がいない場合などに限って廃棄が認められ、その場合は証拠を示し年次の報告を公表すること、当局の検査のために記録を 5 年間保存することを説明している[5]。
ここでいう「消費財」は、部品や中間製品を除き、主に消費者向けの製品を指す(第 2 条)[1]。部品や材料を買う B2B の調達には直接はかからない。ただし規則は、欧州委員会が委任法令で対象の製品を足せるとしており(第 25 条第 3 項)、作業計画では電気電子機器を含めることを特に検討するよう求めている(第 18 条第 3 項)[1]。消費者向けの完成品を作る会社では、在庫の処分の方法と記録の持ち方を、今の対象外の製品についても点検しておく意味がある。
調達の側で、委任法令を待たずにできること
製品別の要件が出るまで何もしない、というのも一つの判断だが、委任法令の発効から適用まで原則 18 か月という期間[1]は、仕入先の情報を集め直すには長くない。次の準備は、要件の中身がどう決まっても無駄になりにくい。
- 品目と仕入先・製造所の対応を持つ:同じ品番でも製造所が違えば情報が違う。品目マスタで「どの仕入先のどの製造所の品か」を持てるかを確かめる
- 材料の情報の粒度をそろえる:材質、再生材の有無と割合、原産地を、仕入先から同じ書式で受け取る
- 含有物質の調査範囲を見直す:構成部品単位の濃度や位置まで答えが返るか
- ロット・製造番号の追跡:パスポートがロット単位や個体単位になった場合に備え、受入記録とロットを結び付けておく
- 仕入先との取り決めに協力条項を入れる:法令に基づく情報提供の求めに、期限と方法を決めて応じること
- データの受け渡しの形式:紙やメールの添付ではなく、機械で読める形式で受け取れるか
品目マスタにどこまでの仕様を持たせるかは品目マスタにどこまで仕様を持たせるかで扱っている。鉄鋼やアルミニウムの調達では、EU の炭素国境調整措置(CBAM)で排出量のデータを求められる場面がすでにあり、そちらの実務はEU の炭素国境調整措置(CBAM)の本格適用と、輸出・調達の実務で扱う。同じ仕入先に別々の書式で同じようなデータを頼むと回答の負担が重なるので、依頼の窓口と書式をそろえておくとよい。排出量のデータの頼み方そのものは仕入先に CO2 排出量(CFP・Scope3)のデータを頼むときにまとめる。
よくある質問
日本国内だけで売る製品にも関係するか
規則は EU 市場に上市・使用開始される製品にかかる[1]。国内だけで売る製品には直接はかからない。ただし、取引先がその部品を組み込んで EU へ出す場合は、第 38 条に基づく情報提供の求めが、取引先を通じて届くことがある[1]。
エコデザイン指令に基づく今の要件はどうなるのか
欧州委員会は、エコデザイン規則は指令に代わるものだが、2030 年まで続く移行の仕組みがあり、指令に基づく実施措置が引き続き動くと説明している[3]。ジェトロも、指令の下で検討されてきた 35 製品のうち 19 製品は、移行措置として指令の下で 2026 年 12 月末までに実施措置が採択される予定と紹介していた[7]。電動機や溶接機など、指令の時代から要件がかかっている製品は、そちらの改正を引き続き追う。
修理のしやすさの要件は、部品の調達に関係するか
ジェトロの調査レポートは、EU の修理する権利指令が、製品別の EU 法で修理しやすさの要件が定められた製品について製造事業者に修理の義務を課し、エコデザイン規則の委任法令で新たに要件が入れば対象の一覧に加わる仕組みだと説明している[8]。作業計画には横断的な要件として修理のしやすさが入っているので[7]、補修部品の供給期間や価格の取り決めが、仕入先との契約の論点になりうる。
まとめ
エコデザイン規則は枠組みで、製品ごとの要件は委任法令で決まり、適用は原則として発効から 18 か月以上後になる[1]。2026 年 10 月時点で実際に始まっているのは、大企業の売れ残り衣料・履物の廃棄禁止と、パスポートの登録簿などの基盤である[1][5]。パスポートは電池から始まり、衣料・鉄鋼・建設製品などが続く見込みとされる[4]。新しい規則の委任法令を待つ間も、指令の時代に定められた製品別の要件(電動機など)は止まらずに効いているので、そちらの改正も並行して追う[1][3]。調達の側では、要件の中身を予想して動くより、品目と製造所の対応、材料と含有物質の情報の粒度、ロットの追跡、仕入先の協力の取り決めを先に整えておくと、どの製品グループの委任法令が出ても対応しやすい[2][3][6]。
出典・参考資料
- Regulation (EU) 2024/1781 establishing a framework for the setting of ecodesign requirements for sustainable products(エコデザイン規則)(EU 官報/2024 年 6 月 28 日)
- Ecodesign for Sustainable Products Regulation(欧州委員会/2026 年 10 月 1 日閲覧)
- Implementing the Ecodesign for Sustainable Products Regulation(欧州委員会 環境総局 グリーンフォーラム/2026 年 10 月 1 日閲覧)
- New Digital Product Passport (DPP) web page launched(欧州委員会 域内市場・産業・起業・中小企業総局/2026 年 7 月 17 日)
- Ban on destruction of unsold clothes and shoes enters into application(欧州委員会 環境総局/2026 年 7 月 17 日)
- EU のエコデザイン規則、7 月 18 日から施行(日本貿易振興機構 ビジネス短信/2024 年 7 月 16 日)
- 欧州委、エコデザイン規則の作業計画を発表、化学製品は含まれず(日本貿易振興機構 ビジネス短信/2025 年 4 月 24 日)
- EU 循環型経済関連法の最新概要——エコデザイン規則(ESPR)、修理する権利指令(R2R 指令)、包装・包装廃棄物規則(PPWR)案(日本貿易振興機構/2024 年 11 月)
委任法令が出るたびに、何が決まったかを確かめる
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